気候が夏を迎える準備を始める六月。凪いでいた水面に一石が投じられる。
劇団星ノ尾に、演劇雑誌の取材の依頼が舞い込んだ。公演中の『青い靴』が好評を得て、口コミや個人のSNSに多数取り上げられたのがライターの目に留まったという。2ページの記事とはいえ、発行部数は業界でもトップの雑誌『マチソワ』の依頼だ。集客や知名度のアップには申し分がない。だが、団長は大きく頭を悩ませていた。それは主役を務める、自らの娘でもある海里の存在。私情を挟みたくはなかったが、海里を多人数の好奇の視線に晒したくはなかった。
役者として海里は生きていきたいと言ってはくれたが、元来の性格は人見知りで大人しい性格だ。中学の頃は他人を避けるように過ごしてきて、海里に演劇で役を与えて、ようやく人前に立つ楽しさを知ってくれたところだと思う。今、注目を浴びることが彼女にとっていいことなのかどうか。それが、わからない。
「何を言ってるの、お父さん。」
父親としての想いを海里に伝えたところ、一蹴されてしまった。
「いや、今はあえて団長って呼ぶね。団長は星ノ尾にとってのチャンスを父親としての私情で潰すつもり?」
「だが…。心配なんだよ。」
いつになく不安気な色を滲ませる父親の声に海里は叱咤する。どうやら今日は立場が逆のようだった。
「私は平気。というか、私が星ノ尾の足枷になりたくないんだけど。そこのところの配慮はしてくれているの?」
腕を組み考え込み、そしてゆっくりと瞼を開けて海里を見た。
「…本当に、大丈夫なんだな?」
「うん。」
海里の毅然とした態度に団長は腹をくくったようだ。
「わかった。何かあったら、必ず相談しなさい。」
そう締めくくり、劇団星ノ尾は雑誌のライターにOKの連絡を入れることにしたのだった。
その日のうちに劇団員に雑誌『マチソワ』の取材が入ることが周知された。劇団内部は浮足立ち、歓声が沸く。
「海里ちゃん、インタビューとかされちゃうんじゃない?やだー、有名人じゃん!」
海咲がはしゃぎながら、海里の肩を叩いた。海里は「どうでしょうね」と苦笑する。そして父親兼、団長が手を叩いて劇団員たちの視線を集めた。
「次回の公演で雑誌のカメラマンさんが来る予定です。緊張せず、いつも通りを心がけて取り組みましょう。」
はい、という声が重なって今日は解散となった。
父親と共に自宅に帰り、海里は自らの部屋に行く。部屋着に着替え、携帯電話を手に取った。そしてカチカチとメールを打つ。送信先は時生のスマートホンだ。
『雑誌の取材が劇団に入ることになりました。』
送信すればわりとすぐに返信をくれる時生だったが、今日はいつになく海里の携帯電話が鳴るのが速かった。
『すごいじゃん。』
時生のメールの文章は短い。メッセージアプリならそこから話が広がっていくのだろうが、メールだとそっけなく感じてしまう。時生は面倒に思わずにマメにメールをくれるのが、救いだった。すかさず、二通目のメールが時生から送られてくる。
『おめでとう。雑誌、絶対買うわ。楽しみ。』
雑誌の発売を楽しみにしてくれる時生を待たせたのは、およそ一か月後のことだった。雑誌『マチソワ』の7月号には劇団星ノ尾が見開きで二ページほどの記事になって発売された。
発売日当日に雑誌を購入した時生は、海里と共に放課後の図書室で記事を読むことにした。
「すごい、綺麗に撮ってもらえたね。」
そこには舞い踊る瞬間の海里が記事のメインとして掲載されていた。
「素材が良いので。」
ささやかな胸を張る海里に「はいはい」と時生が笑いながら返すと「はい、は一回」と注意をされてしまう。
「いいなあ。僕も一ノ瀬さんを撮りたかったな。」
「私も写されるなら八尾先輩が良かったですけどね。」
当然ながら劇場内はカメラ、携帯電話等の撮影が禁止だ。特別な許可がない限り許されない。
「お。いいんだ?」
「もう私を一枚撮ってるじゃないですか。今更です。」
なるほど、と頷きつつ、海里にその写真を見せていなかったことに時生は気が付く。今度、見せてあげようと思った。今は雑誌の記事に集中しよう。
「インタビューもされたんだね。主役なら当たり前なのかな。」
時生は自分のことのように嬉しそうに目を細めて笑う。海里はその笑顔を横目で眺めながら、インタビューを受けた時間を思い出していた。
「初めまして、一ノ瀬海里さんですね。『マチソワ』ライターの清水です。今日はよろしくお願いします。」
ライターの清水は落ち着いた雰囲気の女性だった。そのおかげか海里は随分と落ち着いて、対応ができた。
「えーと、一ノ瀬さんは今回が初めての主役だとか。やっぱり緊張しました?」
「はい。でも…緊張を解してくれる人がいたので。」
海里の答えに清水は何かに気が付いたように、ややあと頷いた。
「それは―…、もしかして恋人とか?あ、嫌だったらここはオフレコにするから安心して。」
「ぜひ、オフレコでお願いします。」
素直に頭を下げる海里を清水は微笑ましく見つめながら、まるで友人のように楽しそうに話を促した。
「それでそれで?その緊張を解してくれた方って言うのはどんな人なの?」
「恋人ではないのですが、高校の先輩で。いつも妙に私を構ってくるというか…。」
思い出すのは時生と出会ってからの日々。海里の目色は優しく和らいで、春の陽だまりのような温度を保った。柔らかくなる雰囲気に清水は、ふふふ、と朗らかに微笑んだ。
「その人は、劇『青い靴』には影響した?」
「しましたね。私にとっての夫役は彼でしたから。」
「―…主役を務める一ノ瀬の瞳には劇に対する愛の色が滲む。今、注目を浴びる期待の若手女優だ。だって。すごいね。」
時生は声に出して海里のインタビュー記事を読んだ。海里は恥ずかしさに思わず、図書室の周囲を伺った。二人以外の人影はなく、ほっとする。
図書室は、埃がシェルパウダーを散らしたかのように空中を散らして窓の光に透けた。無数の書物がしんとして呼吸をし、自らを開き物語を紡いでくれる手を待っている。きらりと光るスポットライトを浴び、この静かな観客に囲まれて、まるで時生と海里の二人舞台のようだ。
「知人が雑誌の取材を受けるって初めてだよ。」
時生は自らのことのように嬉しそうに、雑誌の記事を眺め、指の腹でページを撫でる。
「あの…ありがとう、ございました。」
「ん?」
突然の海里の礼に、時生は何が?と首を傾げた。
「…『青い靴』の劇の成功には、八尾先輩も関わっているので。」
「そうかな。何かした記憶はないんだけど。」
海里は掌を使って、蝶々を作る。そのひらひらとした優雅な動きに時生は、ああ、と頷いた。
「蝶々。あれでリラックスしました。」
「それはよかった。」
今も持っている、と呟いて、海里は鞄から標本を取りだした。愛しそうに指でなぞり、掌で包む。
「もっと丁寧に作ればよかったな。ここ、傷がついている。」
時生も椅子を動かして向き合う。海里の掌を覗き込み、ふと息を吐いた。見れば、制作にあたってついてしまった小さな擦り傷が、バースマークのように刻まれていた。
「これがいいじゃないですか。この傷、掌によく馴染みます。」
その時の海里の表情には母性が溢れ、まるで聖母マリアのようだった。
「…なら、いいんだけど。」
垣間見た彼女の女性性に、時生は心臓が妙に高く脈打って困惑する。それからドギマギとしてしまって、うまく会話を続けられなくなってしまった。だが、海里は気にせずマイペースに雑誌を眺めていた。まるでアルバムを眺めているような気安い雰囲気だった。
最終の下校チャイムが鳴るまで図書室で過ごし、司書の先生に促されて昇降口に向かって廊下を歩いた。かつんかつん、と二人分の靴音が響く。七月のコンクリートの校舎は熱が籠って、外の方が若干涼しく感じられた。
「風が気持ちいいですねえ。」
海里は黒いサマードレス風のワンピースの裾を翻しながら、先を歩いた。
「うん。そうだね。」
とん、と飛び跳ねるような動きで、海里は歩いている。「どうしたの」と時生が問うと、「影しか歩いちゃいけないルールです」との答えが返ってきた。しばらく木の影や、ベンチの影。高校設立者の銅像など点々と影が続いたものの、校門をくぐれば視界は開けて影が少なくなって難易度が上がる。
「…。」
海里は難しい顔をして、どう攻略するかを悩んでいるようだった。時生は、くくく、と笑って自らの影の内側に手招きをする。
「一ノ瀬さん、こっちこっち。」
「…何ですか。甘やかすつもりですか。影以外はマグマですよ。」
えらく壮大な設定のようだ。
「いや、甘やかすって言うか…。ほら、ラッキーゾーン的な。」
「!」
しばらく海里は考え込み、地を蹴って時生の影を踏んだ。
「…お世話になります。」
「はい。どうぞ。」
影を踏む駅までの途中、コンビニに寄ってそれぞれ好みのアイスクリームを買い求める。
「チョコミントってめっちゃ歯磨き粉の味じゃないですか?」
時生が選んだチョコミントのアイスクリームを彩る青を眺めながら、海里は問う。
「よく言われるけど、それって単にミント感が強いものを食べただけだと思うよ。」
「全部、同じじゃないんですか。」
ふうん、と海里は感心する。
「じゃあ、今度、八尾先輩がおすすめのチョコミントを教えてください。」
「了解。」
柔らかく温い空気が二人を包む、夏の七月の放課後のことだった。
海里が雑誌『マチソワ』に載ったことは、どこからか周知の内となり高校でも話題に上がることが多くなった。生徒たちは海里とのすれ違いざまに好奇の視線を注いだ。
『―…あのゴスロリの子でしょ。結局、目立ちたがり屋なんだね。』
『対して可愛いわけでもないのに、女優気取りとか。笑える。』
クスクスと笑われることもあれば、今まで喋ったこともない演劇部の同級生に入部を勧められたりと人の反応それぞれだった。海里はその都度、冷静に対応していた。心無い言葉は基本、無視。演劇部の勧誘は丁寧に断ったつもりだった。だが、ちょっとした諍いが起こってしまった。
ある日の放課後。二年生と三年生の上級生に呼び止められた。彼女らは演劇部の上級生だと名乗った。「ちょっとついてきて」と言われ、嫌だったが従わないとより面倒なことになることを理解して、海里は後をついていった。そして連れてこられたのは、誰もいない視聴覚室だった。
「一ノ瀬海里さんだっけ。多分、うちの一年が入部について話に行ったと思うんだけど。」
海里は同級生の顔を思い出そうとして、思い出せなかった。所詮、それぐらいの関係だ。
「その件はお断りしたはずですが。」
冷淡ともいえるほどの口調と答えに、上級生はわざとらしく大きなため息を吐く。
「一ノ瀬さんさあ。ちょっと調子に乗ってない?正直、一ノ瀬さんみたいな人がいると演劇部の士気が下がるんだよね。」
「部員でもない人間が『マチソワ』で取材受けるとか…演劇部としては結構、やる気が削がれるのよ。」
仲間に引き込むことで、海里が得たさささやかな名声すら自分たちのものだと勘違いしようという浅はかな考えが手に取るようにわかってしまった。面倒だな、と思う。視線を逸らすという、海里の現実逃避をするときの悪い癖が出てしまう。それに気が付いた上級生は火に油を注がれたかのように怒りをあらわにした。
「ちょっと、ちゃんと聞いてるの!?」
「話を聞けば、あんたが所属してる劇団の団長って父親らしいじゃん?七光り?えこひいき?それなのに、自分には才能があるとか思っちゃったんじゃない。」
キャンキャンと鳴く小型犬みたいだな、と思った。まだ犬の方がその容姿で可愛げがあると言うものだ。どちらにしろ、そろそろしつけが必要な頃合いだろう。
「親の七光り、えこひいき、上等です。演劇をしているのなら、運のめぐり合わせがいくらか必要なのは先輩方も承知の上ではないのでしょうか。」
舞台の上でスポットライトを当たるためには、いくつもの偶然が必要だ。役柄と役者の一致。その者の演技力。俳優としての華の有無。そして名もなき新人に以外にも力を発揮するのが、自らの出自。芸能界では二世タレントなどというジャンルすらある。生まれたその瞬間からある程度の知名度がある状態は武器だ。
「演劇部員ではない私が役者として雑誌に取材を受けたぐらいで下がるモチベーションなんて、必要ですか?」
海里は小首を傾げて微笑んで見せる。
「随分とくだらない矜持をお持ちのようですね。」
その笑みは自分の国を守る女王であり、最前線を行く騎士のようでもあった。
「何、こいつ…っ!」
激昂した一人の上級生が平手を振り上げた。ひゅっと空気を切る音が統べって、海里は来る衝撃に構えた。パンッと小気味よい乾いた音が響く。が、一向に痛覚が現れない。反射的に閉じた瞼をゆっくりと持ち上げると、そこには時生が盾になって毅然としていた。
「…手を上げるのはどうかと思うけど。」
時生の頬は叩かれた衝撃で紅く腫れている。それでも静かに相手の怒気を下げるように、時生は言葉を発する。それでも上級生、時生から見れば同級生と後輩の彼女らは声を荒げた。
「いきなり首突っ込んでこないで!」
「いきなりでもないんだけどね。最初から会話を聞いていたし。」
気付かなかったのはそっちでしょ、と時生は呟く。
「とにかく、言い争いならまだしも暴力沙汰はまずいよ。」
「そっちが悪いんじゃない。私たちをバカにして。」
尚、海里を睨む彼女たちの視線を遮るように時生は前に出た。
「バカにされたと思わせたなら、ごめん。恋人の不祥事は僕が謝るからここは許してくれないかな。」
時生の海里との恋人宣言に、双方から声が上がった。
「え。」
「はあ!?」
困惑の声を聞きながら、時生は頭を下げる。
「海里のことは放っておいてくれ。その方がお互いの精神衛生上に良いと思う。」
「意味わかんないし!気持ち悪…。」
演劇部の三年生と二年生は、「もう行こう」と言い捨て、ばたばたと視聴覚室から駆けて出ていった。扉が勢いよく閉まって、静寂が訪れる。
「ええと…、」
海里が額に手を当て、天を仰ぐ。そして時生を見やった。
「どこから突っ込めばいいのかわからないのですか。まず…いつからここにいたんですか。」
「いや、だから、最初からかな。一ノ瀬さんがあのおっかない人たちに連れてこられる途中に見かけて。後を追ってきた。」
扉の影で止めるタイミングを見計らっていた、と時生は言う。
「所在の件は承知しました。じゃあ、次。何故、私を庇ったんですか。」
「え、人が殴られそうになったら止めるでしょ。」
時生は、当然のことだとばかりに目を丸くする。人がいいとは思っていたがこれほどとは、と海里は小さく溜息を吐いた。
「質問はこれで最後にします。『恋人』ってなんです?」
「愛し、愛される人?」
そうじゃなくて、と海里は首を横に振った。
「いつから私たちは恋人同士になったのか、って意味です。」
「ああ。話に臨場感があった方が、あの人たちは言うことを聞いてくれるかと思って。」
あなたには関係ない、という常套句対策に思わず口を吐いた。
「俺の彼女に手を出すなって言ってもよかったけど、それだと話が長くなりそうだったから謝ってみた。」
「…そんなことを言ったら私とセットで嫌われると思いますけど。」
海里が顎に手を当て、考えて指摘をする。
「一ノ瀬さんと一緒なら、別にいいよ。」
一緒に落ちてもいいだなんて。とんでもない殺し文句だと、海里は思った。今更ながら、時生の頬の紅い腫れが愛おしく見えてきた。
「…。」
「一ノ瀬さん?」
海里は気付くと、無意識に時生の頬に手を伸ばしていた。そっと触れた頬は熱を持ったようにじわりと温かい。時生の肌は少し乾燥していて、さらりとしていた。
「…ごめんなさい。痛い、ですよね。」
何故、狙いを定めて相手を痛めつけようとしないのか。時生の頬を張った上級生が憎かった。
「いいや?驚きの方が勝ってたのか、そんなに痛みは感じなかった。」
「これ、後々に腫れますよ?」
そう?と時生は首を傾げるように、海里の掌にすりと頬をこすりつける。そして自らの手を、海里の手に重ねた。
「一ノ瀬さんの手、冷たくて気持ちがいいね。」
猫が匂いをマーキングするような仕草に、海里の母性がくすぐられる。
「…なんで、名字…。」
「ん?」
時生が閉じていた瞼を開けて、海里を見る。その瞳に映る海里は恥ずかしそうにしていた。
「さっきは海里って呼んでくれたのに、何故、今は名字呼びなんですか…。」
「…嫌、かなあって。さっきは思わず、だったけど。」
どうでもいい人間には、何だって言えるのに。時生にわがままを言う勇気が出なくて海里は唇を噛んで、視線を逸らす。頬に触れていた手を引っ込めようとすると、時生に握られて制止された。
「海里。」
「!」
名を呼ばれてはっとして顔を上げると、いつになく柔らかく目を細めた時生が乖離を見ていた。
「海里って呼んでも良い?」
家族や劇団員の他に久しぶりに呼ばれた自分の名前は、ひどく甘く、中毒性を孕んだ響きに聞こえた。掴まれたように胸が痛く、きゅっと下腹部に力が籠もる。
「良、いです…。」
声が擦れて、震えてしまった。自分の痴態を晒してしまったかのような羞恥心に晒されて、海里は再び顔を伏せる。その様子を見て時生はふと笑って、そして提案する。
「じゃあ、僕も名前で呼んでくれる?」
「え!?」
思えば当然のような時生の提案にすら、海里は困惑で声を上ずらせる。
「時生。言って?」
「…。」
言い淀み、海里は酸欠の金魚のように口を開閉する。
「時生。」
時生は海里の反応を見て楽しそうに笑って、繰り返した。
「…時、生…?」
思わず、疑問形になってしまった。
「うん。何?」
それでもぽとんと海里の口から発せられた自らの名前に、時生は破顔した。
「も、もういいでしょ!?手を離してください!」
「はい。どうぞ。」
時生がぱっと掌を開いて解放すると、海里は天敵のヘビを見た猫のように飛び上がって後ずさった。その様子が可愛らしくて、時生はいよいよ腹に手を当てくの字になって笑った。
「わ、笑い過ぎです!」
「ごめん。ごめんね、海里。」。
全くもう、と海里は頬を膨らませた。
「八尾せんぱ…、時生、は意地が悪いです。」
「さっきの人たちよりはましでしょ?」
当たり前のことを言って、時生と海里は共に視聴覚室を出たのだった。
その日を境に演劇部から噂は流されて、二人は告白すらしていないものの先走って学校中公認の関係となった。
劇団星ノ尾に、演劇雑誌の取材の依頼が舞い込んだ。公演中の『青い靴』が好評を得て、口コミや個人のSNSに多数取り上げられたのがライターの目に留まったという。2ページの記事とはいえ、発行部数は業界でもトップの雑誌『マチソワ』の依頼だ。集客や知名度のアップには申し分がない。だが、団長は大きく頭を悩ませていた。それは主役を務める、自らの娘でもある海里の存在。私情を挟みたくはなかったが、海里を多人数の好奇の視線に晒したくはなかった。
役者として海里は生きていきたいと言ってはくれたが、元来の性格は人見知りで大人しい性格だ。中学の頃は他人を避けるように過ごしてきて、海里に演劇で役を与えて、ようやく人前に立つ楽しさを知ってくれたところだと思う。今、注目を浴びることが彼女にとっていいことなのかどうか。それが、わからない。
「何を言ってるの、お父さん。」
父親としての想いを海里に伝えたところ、一蹴されてしまった。
「いや、今はあえて団長って呼ぶね。団長は星ノ尾にとってのチャンスを父親としての私情で潰すつもり?」
「だが…。心配なんだよ。」
いつになく不安気な色を滲ませる父親の声に海里は叱咤する。どうやら今日は立場が逆のようだった。
「私は平気。というか、私が星ノ尾の足枷になりたくないんだけど。そこのところの配慮はしてくれているの?」
腕を組み考え込み、そしてゆっくりと瞼を開けて海里を見た。
「…本当に、大丈夫なんだな?」
「うん。」
海里の毅然とした態度に団長は腹をくくったようだ。
「わかった。何かあったら、必ず相談しなさい。」
そう締めくくり、劇団星ノ尾は雑誌のライターにOKの連絡を入れることにしたのだった。
その日のうちに劇団員に雑誌『マチソワ』の取材が入ることが周知された。劇団内部は浮足立ち、歓声が沸く。
「海里ちゃん、インタビューとかされちゃうんじゃない?やだー、有名人じゃん!」
海咲がはしゃぎながら、海里の肩を叩いた。海里は「どうでしょうね」と苦笑する。そして父親兼、団長が手を叩いて劇団員たちの視線を集めた。
「次回の公演で雑誌のカメラマンさんが来る予定です。緊張せず、いつも通りを心がけて取り組みましょう。」
はい、という声が重なって今日は解散となった。
父親と共に自宅に帰り、海里は自らの部屋に行く。部屋着に着替え、携帯電話を手に取った。そしてカチカチとメールを打つ。送信先は時生のスマートホンだ。
『雑誌の取材が劇団に入ることになりました。』
送信すればわりとすぐに返信をくれる時生だったが、今日はいつになく海里の携帯電話が鳴るのが速かった。
『すごいじゃん。』
時生のメールの文章は短い。メッセージアプリならそこから話が広がっていくのだろうが、メールだとそっけなく感じてしまう。時生は面倒に思わずにマメにメールをくれるのが、救いだった。すかさず、二通目のメールが時生から送られてくる。
『おめでとう。雑誌、絶対買うわ。楽しみ。』
雑誌の発売を楽しみにしてくれる時生を待たせたのは、およそ一か月後のことだった。雑誌『マチソワ』の7月号には劇団星ノ尾が見開きで二ページほどの記事になって発売された。
発売日当日に雑誌を購入した時生は、海里と共に放課後の図書室で記事を読むことにした。
「すごい、綺麗に撮ってもらえたね。」
そこには舞い踊る瞬間の海里が記事のメインとして掲載されていた。
「素材が良いので。」
ささやかな胸を張る海里に「はいはい」と時生が笑いながら返すと「はい、は一回」と注意をされてしまう。
「いいなあ。僕も一ノ瀬さんを撮りたかったな。」
「私も写されるなら八尾先輩が良かったですけどね。」
当然ながら劇場内はカメラ、携帯電話等の撮影が禁止だ。特別な許可がない限り許されない。
「お。いいんだ?」
「もう私を一枚撮ってるじゃないですか。今更です。」
なるほど、と頷きつつ、海里にその写真を見せていなかったことに時生は気が付く。今度、見せてあげようと思った。今は雑誌の記事に集中しよう。
「インタビューもされたんだね。主役なら当たり前なのかな。」
時生は自分のことのように嬉しそうに目を細めて笑う。海里はその笑顔を横目で眺めながら、インタビューを受けた時間を思い出していた。
「初めまして、一ノ瀬海里さんですね。『マチソワ』ライターの清水です。今日はよろしくお願いします。」
ライターの清水は落ち着いた雰囲気の女性だった。そのおかげか海里は随分と落ち着いて、対応ができた。
「えーと、一ノ瀬さんは今回が初めての主役だとか。やっぱり緊張しました?」
「はい。でも…緊張を解してくれる人がいたので。」
海里の答えに清水は何かに気が付いたように、ややあと頷いた。
「それは―…、もしかして恋人とか?あ、嫌だったらここはオフレコにするから安心して。」
「ぜひ、オフレコでお願いします。」
素直に頭を下げる海里を清水は微笑ましく見つめながら、まるで友人のように楽しそうに話を促した。
「それでそれで?その緊張を解してくれた方って言うのはどんな人なの?」
「恋人ではないのですが、高校の先輩で。いつも妙に私を構ってくるというか…。」
思い出すのは時生と出会ってからの日々。海里の目色は優しく和らいで、春の陽だまりのような温度を保った。柔らかくなる雰囲気に清水は、ふふふ、と朗らかに微笑んだ。
「その人は、劇『青い靴』には影響した?」
「しましたね。私にとっての夫役は彼でしたから。」
「―…主役を務める一ノ瀬の瞳には劇に対する愛の色が滲む。今、注目を浴びる期待の若手女優だ。だって。すごいね。」
時生は声に出して海里のインタビュー記事を読んだ。海里は恥ずかしさに思わず、図書室の周囲を伺った。二人以外の人影はなく、ほっとする。
図書室は、埃がシェルパウダーを散らしたかのように空中を散らして窓の光に透けた。無数の書物がしんとして呼吸をし、自らを開き物語を紡いでくれる手を待っている。きらりと光るスポットライトを浴び、この静かな観客に囲まれて、まるで時生と海里の二人舞台のようだ。
「知人が雑誌の取材を受けるって初めてだよ。」
時生は自らのことのように嬉しそうに、雑誌の記事を眺め、指の腹でページを撫でる。
「あの…ありがとう、ございました。」
「ん?」
突然の海里の礼に、時生は何が?と首を傾げた。
「…『青い靴』の劇の成功には、八尾先輩も関わっているので。」
「そうかな。何かした記憶はないんだけど。」
海里は掌を使って、蝶々を作る。そのひらひらとした優雅な動きに時生は、ああ、と頷いた。
「蝶々。あれでリラックスしました。」
「それはよかった。」
今も持っている、と呟いて、海里は鞄から標本を取りだした。愛しそうに指でなぞり、掌で包む。
「もっと丁寧に作ればよかったな。ここ、傷がついている。」
時生も椅子を動かして向き合う。海里の掌を覗き込み、ふと息を吐いた。見れば、制作にあたってついてしまった小さな擦り傷が、バースマークのように刻まれていた。
「これがいいじゃないですか。この傷、掌によく馴染みます。」
その時の海里の表情には母性が溢れ、まるで聖母マリアのようだった。
「…なら、いいんだけど。」
垣間見た彼女の女性性に、時生は心臓が妙に高く脈打って困惑する。それからドギマギとしてしまって、うまく会話を続けられなくなってしまった。だが、海里は気にせずマイペースに雑誌を眺めていた。まるでアルバムを眺めているような気安い雰囲気だった。
最終の下校チャイムが鳴るまで図書室で過ごし、司書の先生に促されて昇降口に向かって廊下を歩いた。かつんかつん、と二人分の靴音が響く。七月のコンクリートの校舎は熱が籠って、外の方が若干涼しく感じられた。
「風が気持ちいいですねえ。」
海里は黒いサマードレス風のワンピースの裾を翻しながら、先を歩いた。
「うん。そうだね。」
とん、と飛び跳ねるような動きで、海里は歩いている。「どうしたの」と時生が問うと、「影しか歩いちゃいけないルールです」との答えが返ってきた。しばらく木の影や、ベンチの影。高校設立者の銅像など点々と影が続いたものの、校門をくぐれば視界は開けて影が少なくなって難易度が上がる。
「…。」
海里は難しい顔をして、どう攻略するかを悩んでいるようだった。時生は、くくく、と笑って自らの影の内側に手招きをする。
「一ノ瀬さん、こっちこっち。」
「…何ですか。甘やかすつもりですか。影以外はマグマですよ。」
えらく壮大な設定のようだ。
「いや、甘やかすって言うか…。ほら、ラッキーゾーン的な。」
「!」
しばらく海里は考え込み、地を蹴って時生の影を踏んだ。
「…お世話になります。」
「はい。どうぞ。」
影を踏む駅までの途中、コンビニに寄ってそれぞれ好みのアイスクリームを買い求める。
「チョコミントってめっちゃ歯磨き粉の味じゃないですか?」
時生が選んだチョコミントのアイスクリームを彩る青を眺めながら、海里は問う。
「よく言われるけど、それって単にミント感が強いものを食べただけだと思うよ。」
「全部、同じじゃないんですか。」
ふうん、と海里は感心する。
「じゃあ、今度、八尾先輩がおすすめのチョコミントを教えてください。」
「了解。」
柔らかく温い空気が二人を包む、夏の七月の放課後のことだった。
海里が雑誌『マチソワ』に載ったことは、どこからか周知の内となり高校でも話題に上がることが多くなった。生徒たちは海里とのすれ違いざまに好奇の視線を注いだ。
『―…あのゴスロリの子でしょ。結局、目立ちたがり屋なんだね。』
『対して可愛いわけでもないのに、女優気取りとか。笑える。』
クスクスと笑われることもあれば、今まで喋ったこともない演劇部の同級生に入部を勧められたりと人の反応それぞれだった。海里はその都度、冷静に対応していた。心無い言葉は基本、無視。演劇部の勧誘は丁寧に断ったつもりだった。だが、ちょっとした諍いが起こってしまった。
ある日の放課後。二年生と三年生の上級生に呼び止められた。彼女らは演劇部の上級生だと名乗った。「ちょっとついてきて」と言われ、嫌だったが従わないとより面倒なことになることを理解して、海里は後をついていった。そして連れてこられたのは、誰もいない視聴覚室だった。
「一ノ瀬海里さんだっけ。多分、うちの一年が入部について話に行ったと思うんだけど。」
海里は同級生の顔を思い出そうとして、思い出せなかった。所詮、それぐらいの関係だ。
「その件はお断りしたはずですが。」
冷淡ともいえるほどの口調と答えに、上級生はわざとらしく大きなため息を吐く。
「一ノ瀬さんさあ。ちょっと調子に乗ってない?正直、一ノ瀬さんみたいな人がいると演劇部の士気が下がるんだよね。」
「部員でもない人間が『マチソワ』で取材受けるとか…演劇部としては結構、やる気が削がれるのよ。」
仲間に引き込むことで、海里が得たさささやかな名声すら自分たちのものだと勘違いしようという浅はかな考えが手に取るようにわかってしまった。面倒だな、と思う。視線を逸らすという、海里の現実逃避をするときの悪い癖が出てしまう。それに気が付いた上級生は火に油を注がれたかのように怒りをあらわにした。
「ちょっと、ちゃんと聞いてるの!?」
「話を聞けば、あんたが所属してる劇団の団長って父親らしいじゃん?七光り?えこひいき?それなのに、自分には才能があるとか思っちゃったんじゃない。」
キャンキャンと鳴く小型犬みたいだな、と思った。まだ犬の方がその容姿で可愛げがあると言うものだ。どちらにしろ、そろそろしつけが必要な頃合いだろう。
「親の七光り、えこひいき、上等です。演劇をしているのなら、運のめぐり合わせがいくらか必要なのは先輩方も承知の上ではないのでしょうか。」
舞台の上でスポットライトを当たるためには、いくつもの偶然が必要だ。役柄と役者の一致。その者の演技力。俳優としての華の有無。そして名もなき新人に以外にも力を発揮するのが、自らの出自。芸能界では二世タレントなどというジャンルすらある。生まれたその瞬間からある程度の知名度がある状態は武器だ。
「演劇部員ではない私が役者として雑誌に取材を受けたぐらいで下がるモチベーションなんて、必要ですか?」
海里は小首を傾げて微笑んで見せる。
「随分とくだらない矜持をお持ちのようですね。」
その笑みは自分の国を守る女王であり、最前線を行く騎士のようでもあった。
「何、こいつ…っ!」
激昂した一人の上級生が平手を振り上げた。ひゅっと空気を切る音が統べって、海里は来る衝撃に構えた。パンッと小気味よい乾いた音が響く。が、一向に痛覚が現れない。反射的に閉じた瞼をゆっくりと持ち上げると、そこには時生が盾になって毅然としていた。
「…手を上げるのはどうかと思うけど。」
時生の頬は叩かれた衝撃で紅く腫れている。それでも静かに相手の怒気を下げるように、時生は言葉を発する。それでも上級生、時生から見れば同級生と後輩の彼女らは声を荒げた。
「いきなり首突っ込んでこないで!」
「いきなりでもないんだけどね。最初から会話を聞いていたし。」
気付かなかったのはそっちでしょ、と時生は呟く。
「とにかく、言い争いならまだしも暴力沙汰はまずいよ。」
「そっちが悪いんじゃない。私たちをバカにして。」
尚、海里を睨む彼女たちの視線を遮るように時生は前に出た。
「バカにされたと思わせたなら、ごめん。恋人の不祥事は僕が謝るからここは許してくれないかな。」
時生の海里との恋人宣言に、双方から声が上がった。
「え。」
「はあ!?」
困惑の声を聞きながら、時生は頭を下げる。
「海里のことは放っておいてくれ。その方がお互いの精神衛生上に良いと思う。」
「意味わかんないし!気持ち悪…。」
演劇部の三年生と二年生は、「もう行こう」と言い捨て、ばたばたと視聴覚室から駆けて出ていった。扉が勢いよく閉まって、静寂が訪れる。
「ええと…、」
海里が額に手を当て、天を仰ぐ。そして時生を見やった。
「どこから突っ込めばいいのかわからないのですか。まず…いつからここにいたんですか。」
「いや、だから、最初からかな。一ノ瀬さんがあのおっかない人たちに連れてこられる途中に見かけて。後を追ってきた。」
扉の影で止めるタイミングを見計らっていた、と時生は言う。
「所在の件は承知しました。じゃあ、次。何故、私を庇ったんですか。」
「え、人が殴られそうになったら止めるでしょ。」
時生は、当然のことだとばかりに目を丸くする。人がいいとは思っていたがこれほどとは、と海里は小さく溜息を吐いた。
「質問はこれで最後にします。『恋人』ってなんです?」
「愛し、愛される人?」
そうじゃなくて、と海里は首を横に振った。
「いつから私たちは恋人同士になったのか、って意味です。」
「ああ。話に臨場感があった方が、あの人たちは言うことを聞いてくれるかと思って。」
あなたには関係ない、という常套句対策に思わず口を吐いた。
「俺の彼女に手を出すなって言ってもよかったけど、それだと話が長くなりそうだったから謝ってみた。」
「…そんなことを言ったら私とセットで嫌われると思いますけど。」
海里が顎に手を当て、考えて指摘をする。
「一ノ瀬さんと一緒なら、別にいいよ。」
一緒に落ちてもいいだなんて。とんでもない殺し文句だと、海里は思った。今更ながら、時生の頬の紅い腫れが愛おしく見えてきた。
「…。」
「一ノ瀬さん?」
海里は気付くと、無意識に時生の頬に手を伸ばしていた。そっと触れた頬は熱を持ったようにじわりと温かい。時生の肌は少し乾燥していて、さらりとしていた。
「…ごめんなさい。痛い、ですよね。」
何故、狙いを定めて相手を痛めつけようとしないのか。時生の頬を張った上級生が憎かった。
「いいや?驚きの方が勝ってたのか、そんなに痛みは感じなかった。」
「これ、後々に腫れますよ?」
そう?と時生は首を傾げるように、海里の掌にすりと頬をこすりつける。そして自らの手を、海里の手に重ねた。
「一ノ瀬さんの手、冷たくて気持ちがいいね。」
猫が匂いをマーキングするような仕草に、海里の母性がくすぐられる。
「…なんで、名字…。」
「ん?」
時生が閉じていた瞼を開けて、海里を見る。その瞳に映る海里は恥ずかしそうにしていた。
「さっきは海里って呼んでくれたのに、何故、今は名字呼びなんですか…。」
「…嫌、かなあって。さっきは思わず、だったけど。」
どうでもいい人間には、何だって言えるのに。時生にわがままを言う勇気が出なくて海里は唇を噛んで、視線を逸らす。頬に触れていた手を引っ込めようとすると、時生に握られて制止された。
「海里。」
「!」
名を呼ばれてはっとして顔を上げると、いつになく柔らかく目を細めた時生が乖離を見ていた。
「海里って呼んでも良い?」
家族や劇団員の他に久しぶりに呼ばれた自分の名前は、ひどく甘く、中毒性を孕んだ響きに聞こえた。掴まれたように胸が痛く、きゅっと下腹部に力が籠もる。
「良、いです…。」
声が擦れて、震えてしまった。自分の痴態を晒してしまったかのような羞恥心に晒されて、海里は再び顔を伏せる。その様子を見て時生はふと笑って、そして提案する。
「じゃあ、僕も名前で呼んでくれる?」
「え!?」
思えば当然のような時生の提案にすら、海里は困惑で声を上ずらせる。
「時生。言って?」
「…。」
言い淀み、海里は酸欠の金魚のように口を開閉する。
「時生。」
時生は海里の反応を見て楽しそうに笑って、繰り返した。
「…時、生…?」
思わず、疑問形になってしまった。
「うん。何?」
それでもぽとんと海里の口から発せられた自らの名前に、時生は破顔した。
「も、もういいでしょ!?手を離してください!」
「はい。どうぞ。」
時生がぱっと掌を開いて解放すると、海里は天敵のヘビを見た猫のように飛び上がって後ずさった。その様子が可愛らしくて、時生はいよいよ腹に手を当てくの字になって笑った。
「わ、笑い過ぎです!」
「ごめん。ごめんね、海里。」。
全くもう、と海里は頬を膨らませた。
「八尾せんぱ…、時生、は意地が悪いです。」
「さっきの人たちよりはましでしょ?」
当たり前のことを言って、時生と海里は共に視聴覚室を出たのだった。
その日を境に演劇部から噂は流されて、二人は告白すらしていないものの先走って学校中公認の関係となった。