「さぁ、今日はぐっすり眠れそう――――……」
久々に飲んで食ったもんねー。あ、もちろん歯磨きもした。予備の歯ブラシがあったのでレンレンばぶちゃんも。
推しさまを虫歯にするわけにはいかないもの。

「寝室はこっちだよー」
「ばぶー!」
レンレンばぶちゃんもとことこと付いてくる。つか、何でこんなにかわいいのかなぁ、俺の推しさまぁー。正解はねー、俺の推しさまだからでっす……!!
※酔ってます

「ばぶ……?」
ん……?レンレンばぶちゃんがハッとして立ち止まる。そこは……。

「あぁ……ピアノ」
レッスンルームか……。
あそこは普段は母さんが使ってる。兄さんも帰ってきたら使ってて……俺は、大学のピアノの講義がある時に……たまにだけど。

「弾きたいの?いいけど」
夜でも防音ルームだから問題ない。

「ばぶっ!」
おや……これは弾きたい気分らしいな。……ってことは活動休止はピアノが弾けなくなったってわけじゃなくて……。

「ばぶばぶばー 」
部屋の照明をつければ、とたとたとピアノに向かっていくレンレンばぶちゃん。

――――やっぱ原因はそのばぶばぶ化かな……っ!?

部屋の扉をきっちり閉める。別に監禁とかそう言うことじゃないから……!断じて……っ!!これは、その。閉めないとご近所に迷惑だからね……!

ポロン

「レンレンばぶちゃん?」
おっと、レンレンばぶちゃんが鍵盤のカバーを開いて、鍵盤を叩いてる。

ハッ……っ。

まさかナマ演奏!?ナマリサイタル……っ!?そりゃぁ何度もリサイタルのチケットとって、行きましたけど――――っ!?え、まさかの、俺ひとりでレンレン堪能し放題……!?いや、まっさかぁ……!

ポロンポロン、ポロロロロンっ!!

「ばっぶー、ばぶばっぶーっ!」
うえええぇぇぇっ!?まさかのピアノの腕が……腕までばぶちゃんレベル――――――っ!マジでめちゃくちゃに弾いてるんだけど――――っ!?まさか、レンレンばぶちゃんまで酔ってるぅ――――――っ!?

しかしレンレンばぶちゃん、俺がピアノの脇に着けば、そっと椅子の高さを調節し……うん、調節大事だよね。今母さんは海外だから、こないだ練習した俺の高さに合わせてある。

そして鍵盤の上に優雅に両手の指を乗せた瞬間。

ふあぁぁぁぁぁ――――――――っ!推しのナマ演奏やっべぇすげぇ心に響き渡る本気の弾き――――――――――っ!

あぁ……っ、推しのナマ演奏独り占めとか……。

「ああぁううぅぅ~~~~っ!」

~~~♪

俺のああぁううぅぅ~~~~に即興で伴奏つけんといて……っ!?

「ばぶっ」
でも推しさまが尊いから……いっか。うん、そだよね。むしろ伴奏つけてくれた光栄の極み……っ!!

「まみー、ばぶ!」
「え?俺?」
「ばーぶっ!」
レンレンばぶちゃんが俺の左手を取り……鍵盤に乗せてくる……っ!?

まさか……弾いてって……?
ひ……左手でか……っ!左手の方弾けってかぁっ!!そっち難しい方……!
※右手の方が難しいこともあります

「ばぶ……!まみー!」
でも……ばぶちゃんの訴えるような眼差しには……何だか断れないんだよなぁ。

「……うん、いいよ。でも俺、そんなすごいの弾けないよ?」
「ばーぶ」
それでも構わないとばかりにレンレンばぶちゃんが頷き、さらに……。

サッと立ち上がると椅子を先程の俺用の高さにサッと直した~~っ!?何でそれ俺の座高だって知ってるの!?気付いてるの!?スパダリかあぁぁっ!?

――――いや、俺の推しさまがスパダリじゃないわけ……ない……っ!
※ある意味酔ってます

「……」
しかし、久々だな。

ボロンボロン、ボローン……っ!

左手で弾くと……メロディーないから一瞬何の曲だと分からないよね。分かるのもあるけど。

「ばぶ!?まみー、ばぶ!?」
「え?違うの?左手だったから」
「ばぶ――――っ!?」
するとレンレンばぶちゃんが俺の右側に回り込み、右手もサッと鍵盤の上に乗せる。

右手さんもー……いらっしゃーい。

そして。

大学の講義の課題曲……幼稚園児向けお歌用の曲を弾いて差し上げた。ハッハッハ~~っ!今の俺に弾けるのはこんなのと後はアニソン(※ただし右手だけ……)である……!

「ばぶーっ!まみー、ばぶっ!」
すると、パチパチと拍手を贈ってくれるレンレンばぶちゃん。……ってか、俺天才ピアニストの隣で何つーもん弾いてんのぉ――――――っ!
いや……しかし喜んでくれるのは……ばぶちゃんモードだからだろうか。

はい、アニソン。

「ばぶー」

あ、これでも喜んでくれた。

「……俺さ、昔はちゃんと習ってたんだけど」
適当に鍵盤に指を滑らせれば、レンレンばぶちゃんも隣に座ってきて……。

ポロンポロン。

レンレンばぶちゃんも鍵盤で遊ぶことあるんだ。いや、あるか。

「レンレンばぶちゃんも知ってる?小鳥遊(たかなし)寿灯(かずひ)。いや……知ってるか。同じピアニストだしさ。あれ俺の兄なんだけど」
「ばぶっ」
何かグッドサイン見せてくるレンレンばぶちゃん。やっぱ知ってたの?マジでそうなの?この突然のレンレン襲来は兄さんも絡んでんの!?いや、確実にそうだよね!?

でも何でばぶばぶ言ってるのかは……謎である。

「小さい頃は、兄さんがピアノやってたし、自ずと俺も一緒に習ってるうちにさ……気が付いちゃったんだよね。兄さんってめちゃくちゃ才能溢れてて……高校生の時には既にプロ。そこまで待ってたのは、親が心配症だったから。でも高校生でプロになって、あっという間にてっぺんとっちゃってさぁ……。俺、何のためにピアノやってるか、分かんなくなっちゃったんだ」
「ばぶぅ?」

「ん、いいんだ、別にさ。だから俺はピアノやめて……高校も普通の高校進んで、大学も4年制の文系だったんたけど……俺の大学、附属短大や幼稚園もあってさ……サークルだと短大の子も一緒でね。仲良くなるに従って……ピアノ教えてって言われて……教えてるうちに俺も興味湧いて……」
「ばぶ?」

「ん……だからかな。色々と考えて、短大の方に移ったんだ。今は幼児保育科に転科してんだ」
「ばぶー」

「結構楽しいよ。ピアノの講義もあるし、心理学の講義なんかもあるんだ。附属幼稚園があるから、学食に遊びに来たちびっ子と一緒にご飯食べたりとか」
「ばぶばーぶっ」
え?レンレンばぶちゃん、幼稚園児に嫉妬してる?いや、まさかね。

そしてポロンポロン弾いてるとレンレンばぶちゃんもポロンポロン弾いてくれる。
何この幸せすぎるコラボわぁっ!!
推しさま尊い時折肩や腕が触れてドキドキするのぉぉっ!
――――しかし……。

「ふぅ……何だか眠くなってきたかも……寝る?」
「ばぶ~~」
レンレンばぶちゃんもおねむになってきたみたい。

「それじゃぁ、寝室は兄さんのとこ使いなよ」
一応部屋は帰ってきた時用に残してあるのだ。こっち、とレンレンばぶちゃんに兄さんの部屋を示してみれば。

「ばぶーっ、ばぶぶぶ……っ!!」
何かまた激しく抵抗してる――――っ!?仲……悪いわけじゃないよね……?
俺がレンレンばぶちゃんにしれっとファンレター出した時は激しくブラコン発揮してたけど……。
そう言えば俺のファンレター……いやいや、忘れてるって!今さら恥ずかしいもん。

「まみー、ばぶ、ばぶぅーっ!」
「もしかして……一緒に寝たいの……?」
寂しがりや……?
ひとりで寝られないとか……?

「ばぶぅ」
こくこくと頷くレンレンばぶちゃん。

まぁ……ばぶちゃんだし、仕方がないか。男同士だし、ちょっと大きめのベッドだから寝られるだろ。

「ほら、俺の部屋こっち」
「ばぶーっ!」
ぱあぁっと顔を輝かせる推しさまばぶちゃん。あぁ……ありがたやー、ありがたや。

今夜はゆっくり寝て……明日になったらレンレンばぶちゃんも……元に戻ってるといいなぁ……。

――――あ。あと兄さんには……お怒りスタンプ送っとこ。