「俺、これからメシだけど、レンレンばぶちゃんも一緒に食べる?」
「ばぶっ!」
コクンと頷くレンレンばぶちゃん。あうぅ、やっぱかわいい~~っ!

「はーい、今日の晩御飯だよ」
多めに作っておいて良かった~~。

「ばぶ?まみー、ばぶは?」
「んー?俺の手作りだよ。両親は仕事柄家空けること多いしさ」
さすがに小さい頃はお手伝いさんがいたけど、最近は俺が家事をするからね。特段才能もない平々凡々な大学生だしさ。

「ばぶ~~っ!」
しかしめっちゃ喜んでくれてる。推しが喜んでる。俺……それだけでいい。

推しのかわいい『ばぶばぶ』を聞きながらの夕飯は箸が進むなぁ~~!

「ばぶ、ばぶ、まみー!」
レンレンばぶちゃんが空になったお茶碗を向けてくる。

「うん、いいよー。ちょっと待っててね」
ご飯をよそって戻れば。

「まみー、まみー、ちゅーちゅ」
え?ちゅーちゅって……何……?

「イイコ、イイコ」
なでなで。
「ばぶー、まみー、ばぶー」
お茶碗受け取って満足げにしてるから……いっか。

――――そして晩御飯を済ましてお皿を洗ってリビングに戻れば……。

「ぎゃーっ!?ばぶちゃん!?」
「ばぶ!?まみー、ばぶばっ!?」
あ、レンレンばぶちゃんびっくりしちゃった!?でもその雑誌には……!雑誌にはレンレンばぶちゃんの活動休止速報が載ってるのだ……!無造作に置きっぱにした俺のせいでもあるのだけど……!

「ばぶー……」
そしてレンレンばぶちゃんが見てるページはまさに……っ!

「そう言えばばぶちゃん……その、活動休止って……」

「ばぶ、ばぶばぶばーぶっ」
ばぶばぶ過ぎて……まるで分からない……っ!

――――しかし……。

「まさかばぶばぶしか言えなくなっちゃったから?」
「ばぶー!」
え、何かすっごく頷いてるけどこれ、マジなの!?
いや、ほんと、何でばぶちゃんやねん……っ!

「ここにいても……いいの?」
頭とか……診てもらわなくて大丈夫?いや……心療内科かな。この謎のばぶ化シンドローム。

「ばぶぅ!まみー、ばぶ!」
ほんと幸せ真っ盛りな表情で頷くなぁ。

「その、お家に帰らなくて……いいの?」
やって来たのはレンレンばぶちゃんの方だけど。

「ばぶ……まみー……ばぶぅ……」
また悲しそうなばぶばぶ。
帰りたく……ないの?まぁいざとなれば両親……は、海外だから兄さんにづてにレンレンばぶちゃんのお家に連絡する……?

「分かったよ。両親はまだまだ海外だから、好きなだけここにいてもいいけど」
「ばぶー!まみー、ばぶぅ――――っ!」
あ、めっちゃ喜んでる。ばぶちゃん化してるし、家出みたいなもの……なのかな?

「お家に連絡は?」
「ばぶっ!」
レンレンばぶちゃんがスマホの画面を見せてくる。

「えーと、何何?」

【まみーのお家でばぶケーションしてくる】
ば……ばぶ……?バケーションのもじりかな……?そのまみーってのは俺のことらしい。

「まぁお家に連絡してるならいいよ」
活動休止に加えて、失踪なんてことになったら確実に大騒動になる。

「そうそう、お風呂入ってくる?タオルとパジャマ貸すし」
「ばぶー、まみー、ばぶっ!」
ん……?俺……?
「あ、でも俺のだと小さいかな?多分兄さんのパジャマもいくつか置いてあるはずだからそっちの方が……」
「ばぶーつ!?ばぶぶ……ばぶぶぶ……っ!!!」
え、めっちゃ高速で首横に振ってるんだけど!?嫌なの!?そんなに嫌……!?
あー……同業だから?いやでも俺が兄さんの弟ってそもそもレンレンばぶちゃん知ってるのか?てか……何でうちに来たんだろう?情報源として考えられるのは確実に兄さんなんだけどなぁ……?

「まぁ、いいや。ちょっと小さいかもだけど。もしもの時は父さんの出すよ」
「ばぶばーぶ」
――――え?
レンレンばぶちゃんが俺からパジャマを受け取り、ゆっくりと首を振る。
やっぱりお父さんのは……嫌なんだろうか……?

「じゃ、シャンプーリンスは俺の使っていいから」
「ばぶ――――っ!」
あ、何かめっちゃ喜んだ?よく分からんけど……まぁレンレンばぶちゃんが喜ぶととてつもなく胸が満たされるような気がするんだ。
――――やっぱり推しは……尊いんだな。うんうん。


――――そして。

「ばぶー!」
お風呂から上がり、俺のパジャマを着こなすレンレンばぶちゃん。

見事に足首つんつるてーんだけど……靴下も貸してあげた方がいいだろうか……?

「あ、そだ。ばぶちゃん。俺明日、大学休みだし、おつまみ作ったんだ」
何があったが知らんが……こう言う時はリラックスした方がいいよね。
おつまみとお酒、お酒~~。

「……ん?いや、ばぶちゃんにお酒はいいのか!?」
「ばぶ?」
「あぁ、うん、ばぶちゃん自体は22歳だけども!」
ちゃんと成人してますよ~~っ!

「でもばぶちゃんだから!」
「まみー、ばぶばーぶ」
「……問題ない?」
「ばぶ」
コクン、と頷くレンレンばぶちゃん。そ……それなら。

「白と赤どっち飲む?」
「ばぶ」

「赤?オットナ~~」
まぁ単なる俺のイメージで、科学的ワイン学的根拠はないのだ……!

「俺は白……」
「ばぶっ!?」
驚いたように俺を見るレンレンばぶちゃん。え?まさか一緒が良かったとか……?

「ロゼにしようかと」
このロゼのファンキーな味が、若い俺には心地よい。
※ワイン学的な根拠は一切ありません。
※ロゼワインのモノにもよります。

「ばぶ――――――っ!?」
ふふふ、意表を突いたのが功を奏したか。

「レンレンばぶちゃんも飲みたければこっちでも……あ。ホットも出せるけど」
「ばぶ……っ」

「赤ワインのホット好きなの?」
「ばぶぶ……っ」
これ、当たった?当たっちゃった……?

「いいよ、レンレンばぶちゃん。俺、レンレンに……尽くしたい……っ」
推しに尽くす……それがファンの喜び……っ!

「ばぶ……、まみー!」
「うん、じゃ、ホットワインにしてくるね。おつまみ食べてていいよ」
「ばぶっ!」

※※※

「じゃーん、お待たせっ!」
赤ワインのホットに加え、ロゼも作りました~~!レンレンばぶちゃんにもマグカップを渡して……。

ふぅふぅ……
ふぅふぅ……

何かレンレンばぶちゃんの顔めっちゃ近……っ。
めっちゃ近いんだけど……っ!?

こくん。ん、おいしくできたかも。

「ばぶ?」
「俺のはロゼのホット。味見する?」
「ばぶ……っ、ばぶばぶ、まみーっ!ばぶばぶっ!」
え?何でレンレンばぶちゃんハッスルしてんの?

「ほら」
俺のマグを差し出せば、レンレンばぶちゃんが赤ワインのホットをテーブルに置き、俺のマグを受け取り口をつける。

ごくん。

「ばぶ~~っ」
おいしくできたからかな。レンレンばぶちゃんめっちゃまったりしてる。

「ね、俺もレンレンばぶちゃんの味見していい?」
「ばぶっ!」
コクンと頷いたばぶちゃんはまずひとくち飲んで……。やっぱ最初は自分でいっときたい派……?

「ばぶっ!」
「わぁーい、ありがと」
レンレンばぶちゃんからマグを受け取り、こくん。

「んっ、やっぱりクるっ」
何かは分からないが……うん、ひとくちだけなら飲めるので。

後は飲めるひとにあ~ずけてっと。

「ばぶー、ばぶばー」
「ん、おつまみもおいしくできた」
「ばぶばーぶ」
「うん、レンレンばぶちゃんも気に入った?」
「ばぶ~~っ」
あぁ、やっぱりばぶちゃんかわいすぎだなぁ。

テレビを見ながら今日はゆっくり……

ぽちっ。

~~♪

「ぎゃーっ!?ばぶちゃんのリサイタルDVD――――――っ!」
そういや……見てたんだったぁ~~っ!

「ばぶ?まみー、ばぶ~~っ!」
「あ、あはは……」
でもま、推しさまは喜んでるみたいだから……いいかな……?すぐにお笑い番組に変えたけど。

でも……。

「ばっぶぶぶ――――――っ!」
笑い声まで『ばぶばぶ』なら……マジでばぶばぶモードなの?演技じゃなくてモノホンのばぶばぶモードなのぉっ!?