「そんな……レンレンが……無期限の活動休止……っ!?」
俺は雑誌ごと、寝っ転がってたソファーから転がり落ちた。股の間に挟んでたクッションまで落ちた。
しかし今はクッションじゃないいぃぃっ!!
俺の推し……レンレン~~~~っ!!
レンレンはピアニストだ。それも超イケメン・ド・タイプなイケメン――――っ!
ピアニストとしても天才的、さらにはそのルックスも注目されて、最近ではテレビや雑誌に載ることも増えてきた……!
その……矢先の話であった。
「俺のレンレンがぁ~~っ」
何で何で……っ!?どうしてこうなったんだ……うぅ……レンレン……っ。
その時だった。
家のインターホンが鳴った……?
「……誰かな……?」
今は海外ツアー中の両親の客かな……?それとも兄さん……いや、兄さんは一人暮らししてるから違うだろうし。
大学の友だち……?でも遊ぶ予定なんてないはずだ。
「はいはい、どなたですかー?」
インターホンカメラをつければ誰……?
カメラには帽子を目深にかぶり、グラサン、マスクの恐らく男……が立っている……?
まさか……変装した兄さん……っ!?
いやいや、待って。兄さんなら家の鍵持ってんでしょ~~っ!さすがにインターホンは押さんて……!
――――となれば……母さんか兄さんのファン……?でもうちの住所知ってるわけないよな……?兄さんなんてそもそも住所違うし。
しかしカメラの向こうの男がほんのりマスクをずらして口元を見せた途端……気が付いた……!
あれは……!
俺は急いで玄関に飛び込み、そして家のドアを開けた……!
「れ……レンレン……?」
俺が恐る恐る口を開けば。
目の前の男……いや、レンレンがサングラスを取れば、あらわになったちょっと青みがかった黒の瞳に、色素の薄い前髪……!レンレンには北欧系の血が入っているので、透明感ありすぎな純白さなのである……!
さらにマスクを外せば、この輝かしく整った顔立ち……!しかも俺のドタイプ~~っ!
まさにこれは……レンレン!
本名……漣 蓮喜!レンレンと言うのはその愛称である……!
「でも、何でここにレンレンが……?あ、騒ぎになったら困るから、入って?」
まさか……兄さんを訪ねて……?でもこっち実家だし……。
そんな時だった。
「ばぶ」
「……?」
幻聴……かな?
レンレンを家の中に招き、ちゃんと施錠もするが……変な意味じゃないよ!?今親いないし……だから変な意味じゃないって……!
その、レンレンは大スターなんだから……!安全のためである……!
そうこれは、推しのレンレンを守るための正当な行為です……!
それにうちなら一応兄さんの実家だし……何か言われたら兄さんの名前出してやる……っ!てへっ!
「ところでレンレン……あ、本人の前では失礼、だよね」
「ばぶばーぶ」
ん?
「れ……いや、さ、漣さん」
「ばぶっ!?」
何かショック受けてる!?何で……っ!
つーか何で『ばぶばぶ』言ってんの……!?レンレン!やっぱり聞き間違いじゃなかったーっ!?
「ばぶ……まみー、ばぶば……」
え?今度は……まみーっ!?
まみーって……お母さん……?レンレンの……確か世界的な歌姫だって、母さんが言ってたな。つーか本格的北欧美人である。母さんから何度かCDもらったから知ってる。しかも……本人のサイン入り。
「あの……スサンナさんのこと……?」
「ばぶばーぶ」
ふるふると首を横に振るばぶばぶレンレン。
やだ……っ!レンレンのレア仕草しかもナマ……!!激萌え――――――っ!
「じゃぁ何でまみー?」
「まみー、ばぶーっ」
はい?レンレンが俺を見つめながら『まみー』って呼んでくるんだけど!?
何それ何ルール!?
まさか兄さんが仕込んだ悪戯……いやんなわけないよな!?
「まぁ、いいけど。レンレンのまみーなら……うん、レンレンだもの」
推しの言うことは、何だって尊い。
「ばぶー!」
うん、推しのばぶばぶもかわいい。
「えっと……事情は分からないけど……上がって?」
よく分からんが。
俺に続いて……レンレンがとたとたと付いてくる。
あーんっ!推しかわいい!ばぶちゃんモードなレンレンかわいすぎぃ――――――っ!!
「ば……ばぶちゃん」
ついつい漏らしてしまい、ハッとしてレンレンを見る。さすがにそれは……まずかったかな?兄さんに苦情行かないよね、コレ……っ!?
「ばぶーっ!!!」
え……?レンレン、めっちゃ喜んでる!?ばぶちゃん喜んでる!?まさかのばぶちゃん呼び大感激……!?
「ば……ばぶちゃん?」
「ばぶー!」
コクコクと頷くレンレン。
「ばぶちゃーん」
「ばぶぶ~~っ!!」
やっぱり喜んでる!何で……っ!?
「ばぶちゃんイイコでしゅね~~!」
いや、さすがにこれは遊び過ぎか!?天下の天才イケメン激マブ推しピアニストに対して~~っ!?
――――しかし。
「ばぶー!ばぶばー!ばぶぅっ!」
いや、両腕バタバタさせながら大感激~~~~っ!?何で――――――っ!!?
でも……。
推しは……何したって、尊い。
「ばぶちゃん呼びがいいの?」
「ばぶ」
コクリ。
まぁかわいいからいっか。心なしか……何か愛で可愛がりたい欲求まで出て……いやいやダメダメ。抑えろ……抑えろ、俺……!
「ばぶばぶ……ばぶ」
あれ?レンレンばぶちゃん、何か立ち止まってもじもじしてる。
「ばぶ、ばぶ……まみー?」
えっと……めっちゃ訴えるような目で見つめられてるんだけど――――っ!?いや、何これ、推しの知られざるかわいい仕草のオンパレードに俺、頭飽和しそうだわ――――っ!
いや、しかし。かわいすぎる眼差しである。
「よしよし」
なでなで。かわいいなぁ――――……って。
「何してんの俺えぇぇっ!」
天下の推しさまに何で頭なでなでしてんの――――っ!?
「あ、ごめ……っ」
「ばぶ――――――っ!」
え?めっちゃ目ぇ輝かせてるのレンレンばぶちゃん!?
は……っ、まさか……っ!
なでなで待ってたのぉ――――――っ!?さっきイイコでしゅね~~って言ったから、待ってたのぉ――――――っ!?
いや、マジかよ、マジなんかいレンレンばぶちゃん。
「……」
あぁ……
俺の推しがかっわえええぇぇええぇぇ~~~~~~尊死いいいいいぃぃぃ――――――っ!
ぐはっ。
「ばぶ?まみー?」
そして崩れ落ちた俺を心配して駆け寄ってきてくれるレンレンばぶちゃ……、
がはぁっ!!
推しのご尊顔がぁ――――――っ!ちっかああぁぁぁぁ――――――――いっ!!!
もうクリティカルヒット100連発くらいキテるよまさに今ドンドコドンドコ押し寄せてるんですけどぉ~~~~っ!!
「と……とにかく……リビング、リビングに……行こ……」
「ばぶ~~っ!」
あぁ、推しばぶちゃんがかっわえ~~~~ぇっ!!!
※※※
「ばぶ、ばぶ、まみー!」
あぁ……レンレンばぶちゃんが尊すぎる。さっき俺が寝っ転がってたソファーにちょこんと座って、さっき俺が股の間に挟んでたクッション抱き締めてくんくんしてるぅ――――――っ!
あぁ……かわいい。尊い、推しばぶちゃんにハートビートガンガンドンドコ鳴り響きまくり。
……いや、ちょ……待って……?
推しに……さっきまで股に挟んでたクッション持たせてえぇんかい、俺ぇ――――――っ!!?
「あ、そのクッション俺が使い古してるやつだから、こっちのを」
ちゃんと形の整ったクッションを差し出したのだが。
「ばぶばーぶ、まみー、ばぶぅっ!」
俺が股に挟んでた……俺の股に挟んでた、そう俺の股に挟んでたクッションを抱き締めながらこれがいいとばかりに口を尖らす俺の推しいぃぃっ!
あうぅ……推しに気に入ってもらえたなら……別のクッション股に挟んどくんだった。
――――でもやっぱり……。
「ばぶばーぶっ♪」
何でばぶちゃんやねんっ!!