ルシェルシュを【闘気砲】で抹消した私は、力を失う。

「ほぇ……」

 体に力が入らない……景色がグルグル回ってら。

 目標となる敵を討ったからか、アリアが歌う【終焉の歌】が止んで正気に戻るも、体は思う通りに動かない。
 【終焉の歌】の反動なのか、私はその場に仰向けに倒れ込む。

 まずい……アリアを連れてかなきゃいけないのに……意識が遠くなる……。
 これが……【終焉の歌】の力の代償……?

「ごめん、ヒメナ……!! 私にも途中で止めることができなかったの……!! 【終焉の歌】を……!!」

「アリ……ア……」

 アリアが何か言ってるけど……何て言ってるんだろ……。
 駄目だ……気持ち悪いし……眠いや……。
 誰でもいい……私は良いから……。
 ……アリアだけは、逃して……。

 私は敵地のド真ん中で、そのまま気を失ってしまった――。


*****


 目が見えないアリアには、倒れたヒメナの場所が分からない。
 分かったとしても、ヒメナが倒れた以上ここから逃げられるはずがないのだが。

「ヒメナ!! どこにいるの!? 返事して!!」

 アリアは手を伸ばし、手探りで先程ヒメナの声が聞こえた方向へと歩む。
 しかし瓦礫につまづいた、その時――。


「ったくよー。俺の職場ぶっ壊しやがってーな。仕方ねーヤツだーわ」


 ヴェデレが現れ、つまづいたアリアを受け止めた。

「貴方は……?」

 ヴェデレを知らないアリアは、また敵が現れたのかと強張る。

「嬢ちゃん、目が見えないようだけどーよ。俺の裾引っ張って付いてこれるーか?」

「連れて行って……どうするおつもりですか?」

 ヴェデレの手を弾き、距離を置くアリア。
 ここは敵地なのだから、当然警戒心は強い。

「俺はヒメナとの旧友だーわ。助けてやろうってのに、その態度はねーんじゃねーか?」

 ヴェデレはヒメナをお姫様抱っこし、アリアの元へと向かった。

「時間が経つほど面倒臭ぇことになるわーな。騙されたと思って、とっとと着いてこーい」

「…………」

 悩んだ末、アリアはヴェデレの白衣を掴み、ヒメナから渡された帝国兵の上着を羽織っただけのほぼ裸のまま、ヴェデレに付いていくのであった――。


*****


 ソリテュードから退避したロラン、ベラ、ルーナは待ち合わせ場所に待つも、二日経っても一向にヒメナとアリアは来なかった。
 ここは帝国領内、いつまでも行方が分からないヒメナ達を待つ訳にはいかない中、ロランは決断を下す。

「これ以上、生死不明の二人を待てないね。先に帰ろうか」

「ヒメナとアリアを放って帰るぅ? ありえないわぁ」

「そうよ。ヒメナとアリアは必ず帰って来るわ。あなたもあの闘気、感じたでしょう? あれだけの力があるヒメナが脱出出来ないはずがない。それにあなたにとって、アリアは最重要人物でしょう? アリアを助けるためにここに来たんだから」

「勿論とっても重要だよ。だけど、今は最重要ではないね」

 ベラとルーナは、ロランの思わぬ答えに驚く。

「どういう意味ぃ?」

「そのままの意味だよ。兵士達の士気を上げるという意味では最重要だけど、戦略的には二番目だ。超級闘気砲があるからね」

「まさか……!!」

 ロランの言いたいことが分かったルーナ。

「今の僕……いや、王国にとって最重要人物はフローラちゃんさ」

「フローラを……どうするつもり!?」

 ルーナの返答を無視したロランは、石で近くの目立つ木に文字を掘る。

『先に戻っている。戻ってこなければどうなるか、わかるよね?』

 他の者が読んでも何を意味するのかは分からないが、ヒメナには充分伝わる脅しのメッセージ。
 アリアが帰ってくることにこしたことはない。

 しかし今最も王国にとって重要なのは、フローラの超級闘気砲を帝国の領地に撃ち込める程に精度を上げ、量産化することである。
 それさえ出来れば戦争を根本から変えられる。
 幸いフローラが帝国を倒し、戦争を終わらせたがっていることも功を奏していた。

 それに二人が戻って来たとしても、【終焉の歌】で強化されたヒメナの闘気の力強さを肌で感じたロランは、自分の力や頭脳でもヒメナを今後飼い殺せるのか疑問に思っていた。
 明らかな不安要素を抱えることになる。

 ならば一度、アリアとヒメナのことは放置するべきだとロランは判断した。
 生きていたとしても、帝国に恨みがある二人が帝国側に懐柔される可能性は低いと考えたからだ。
 勿論、超級闘気砲の調整がどれ程進んでいるのか、確認したいのもあるが。

「まぁ彼女達なら大丈夫さ。行くよ」

 ベラとルーナは二人を当然待ちたい。
 二人がメイド服を纏っているのは、アリアを守るという決意の元だからだ。

 しかし、これ以上敵地にいるのも危険なのは理解しており、自分達が命令に逆らえば今度はフローラがどうされるか分からない。

「……何でいつも私達には選択の余地がないのよ……」

「……さあねぇ」

 ベラは右足を負傷しているルーナを背負い、二人は王国へと戻るロランの後を追いかけるしかなかったのであった――。