サイレンが鳴り響き、侵入がバレたヒメナ達一行。
 ヒメナが研究所内に潜入する中、ロラン、ルーナ、ベラはそれぞれ散開し、陽動を行っている。

 ベラは研究所近くの道路で兵士と闘っていた。
 目的はヒメナがアリアを助けるまでの時間稼ぎ。
 兵士を大鎌で掻き分けて移動しながら、時間を稼ぐ。

 その最中――。

「ベラァ!!」

 見知った声で名を呼ばれ、振り返る。
 声の主は、ブレアだ。
 ブレアの姿を確認したベラの表情は、いつも微笑んでいる顔とは違い、険しいモノとなる。

「あらあら、まぁまぁ。まだメイド服を着ているのぉ? 裏切ったあなたにそれを着る資格なんてあるのかしらぁ?」

「うっせぇよ、バーカ。着替えが無かったんだよ。服なんざ飾りだろ、飾り。んなことより、お前が来てるってことはヒメナも来てるってことか」

 嘲笑うかのようなブレアを見て、ブレアがエマを殺したことを確信するベラ。
 ベラの目は射抜くような目付きへと変わった。

「……何のためにエマを殺したのぉ?」

「あぁ? お前に関係ねーだろ」

 ベラの目付きに臆さず――。

「今からあたいにぶっ殺されんだからよ!!」

 ブレアは金槌を構え、闘気を纏ってベラに向けて突貫した。
 ベラは地面を見て影を探す。

 ベラにとっての影が少ない夜が弱点。
 しかし、幸いこのソリテュードは数多く電灯があり、夜も影が出来る。
 ここでは光源が多いため、弱点は無くなったに等しい。

 ブレアと自分の影が重なった時、ベラは影に潜り込んでブレアの攻撃をかわした。
 そして、影を伝ってブレアの背後へと現れる。

「それが答えと言う事ねぇ。冥土へお逝きなさいなぁ」

 ベラの再三敵を冥土へ送った必殺の股下からの、大鎌での一撃。
 ブレアは金槌で攻撃した反動を生かして回転し、それを躱した。

「お互いに手の内を知り尽くしているからやり辛いわねぇ」

「お互い? もう以前のあたいとは違うんだよ」

 ブレアが手をかざし、生み出したのは雪の結晶のような白氷の雪花。

「魔技【アイスフィールド】」

 それを地面へと注ぐと、ブレアを中心に辺り一面が白く凍る。

「……っ……!?」

 エマを殺し、冥土隊を裏切り、そこまでしてヒメナより強いと証明しようとしたブレアは、自身の魔法を昇華させた。
 その凍てつく白氷は、以前までの力を遥かに上回り、ベラや帝国兵達を驚愕させる。

「もう、後には引けねーからな」

 自分の有利な状況を一瞬で作り出したブレアは、そう言って氷上を滑り始めた――。


*****


「痺れないなぁ」

 ベラが闘う中、ロランは退屈している。
 電気で焦がした帝国兵の死体の山の上に足を組んで座り、頬杖をついて欠伸をしていた。

「だから、君が相手してくれないかな? 炎帝アッシュ・フラムさん」

 まるでロランに答えるかのように、路地裏から現れたのは炎帝であるアッシュだ。

「トネール第一皇子……否、今は王国軍紫狼騎士団団長のロラン・エレクトリシテと名乗っておりましたかな?」

「いいよいいよ、敬語なんて。僕の方が年下だし、今は敵だしさ」

「帝国に戻る気はあられないと?」

 アッシュの問いに悩ましげな顔をするロラン。

「痺れるなら戻るよ? けど、今は王国にいる方が痺れるからさ。拳帝が帝国にいること以外はね。アレだけはどうしようもないからさ」

「その理屈……分かりませぬな」

「君も同等の敵と命のやり取りをしたら痺れないかい? いつ死ぬか分からないギリギリの闘いとかさ。残念ながら王国には僕より強い者はいない。だから、帝国になびくことはない。ま、逆になれば分からないけどね」

「理解出来ませぬ。我は元剣帝エミリーとグロリアス国王を殺し……そして、皇帝のために王国滅ぼせれば良い故」

 ロランはレイピアを抜き、切先をアッシュへと向ける。

「それは僕を殺さないと叶わない願いだ」

 アッシュもフランベルジュを抜き、切先をロランへと向けた。

「ならば、押し通らせて頂きましょう」

 そして、二人の剣は激しく交差する。

「さぁ、痺れさせておくれ」

 ロランの笑顔を皮切りに、戦闘は開始された。
 互いに【瞬歩】を使った激しい打ち合い。

「魔技【インフェルノ】」

 アッシュの剣を持たない手による、地獄の黒炎による、火炎放射。
 それをロランの周囲にまき散らす。

 ロランは一時離脱するため、【瞬歩】で距離を取る。

「もしかして、マナをも燃すのかい?」

 感覚的に察したロラン。
 戦闘経験の豊富さ故に、アッシュの魔法の性能に気付いたのだろう。

「これは、痺れそうだ」

「我は痺れたくはありませぬがね」

 闘いたいロランと、陽動作戦にうっすら気付き本命を追いたいアッシュ。
 しかし、ロランがスリルを味わえそうなアッシュを逃がすはずがなかった――。


*****


 ルーナは大剣で帝国兵達を切断していた。
 敵を薙ぎ払う姿は、正に戦場に死をもたらす戦乙女であった。

「何だコイツ!?」
「迂闊に近づくな!! ぶった斬られるぞ!!」

 ルーナの魔法【切断】を恐れた、帝国兵達は間合いに入って来なくなった。

「この様子ならしばらくは持ちそうね」

 膠着状態となるルーナと帝国兵達。
 それは時間稼ぎが目的のルーナからしたら、好都合であった。

「ダメダメ、君達。ルーナちゃんはおじさんのものなんだから」

 しかし、現れる。

「震帝……カニバル・クエイク!!」

 圧倒的強者である、宿敵カニバルが。
 ルーナにとっては三度合いまみえることとなった。

「……今度こそ……倒す!!」

 ルーナの鋭い目付きを見て、カニバルは思わず鼻で笑う。

「ふふふっ、良い目だね。でもおじさん、二度あることは三度あると思うよ」

「制限解除」

 ルーナの大剣の柄頭に埋め込まれた魔石が光り輝き、大剣の握る部分を残し、柄から切り離される。
 ルーナの切り札『マナブレード』。

 ここは敵地の中。
 以前の戦闘とは違い、ルーナは躊躇いなく切り札を切る。

「私は三度目の正直だと思うわ」

 ルーナのマナによって作られた、見えない伸縮自由な剣。
 それをカニバルに向けて、あらゆる角度から振るった。

「強力な攻撃も、おじさんに当てれなければ意味がないねぇ。残念でした」

 だが、カニバルにはあっさりとかわされる。
 アンゴワス公国で闘った時と同じ状況。

「必ず届かせる……届いてみせる!!」

 ルーナは四帝に匹敵する強さを手に入れるため、手にした力。
 それは――。

「二刀流……それはおじさんでもやっかいだね」

 二本目のマナブレード。
 モルデン砦にフローラが牢屋に入っている間に制作した物だ。

 流石の震帝カニバルも、二本目の伸縮自由かつ不可視の一撃必殺の剣を見て、真顔になる。

「はああぁぁ!!」

 ルーナは二本の見えない刃を振るい始めた――。