私は闘気を纏って駆ける。
 アリアの元に走るも、迷路のように通路が入り組んでて中々辿り着けない。
 割と近くまできてるのに……!!

「あー、もうっ!!」

 あまりのもどかしさに私は、壁を殴って破った。
 直線的にアリアの元へと向かうため、邪魔する物を次々と破壊していく。
 敵にバレるのは覚悟の上。
 だけどアリアの元に早く向かいたいから、陽動する皆が敵を引き付けてくれてると信じるしかない。

 【探魔】で感じたアリアの元へとひたすら強引に突き進んでいくと、開けた大部屋へと出た。

「何……これ!?」

 そこには円柱状の水槽みたいなものに、さまざまな生物が入っていた。
 動物から魔物、人間まで。
 現実離れした空間に、思わず私はアリアのことを忘れて固まってしまう。

「侵入者は君だったかー。これは思いもしない幸運だねー。ようこそー」

 白衣を纏った寝ぐせだらけの黄緑色の頭をした男の人が、両手を広げて近付いて来た。
 敵対心はまったく感じない。
 まるで……私のことを待ってたかのようだ。

「僕は死帝ルシェルシュ・オキュルトだよー。君とずっと会いたかったよー」

 そうだ……アリアは!?

 私はルシェルシュと名乗った男を無視して、アリアのマナを感じる方を見る。

「!?」

 緑色の液体が入った大きい水槽の中にいた。
 全裸で丹田には何か管の様な物が刺さっている。

「アリアァァ!!」

 私は水槽を叩き割って、刺さっていた管を抜き、アリアを抱いて帝国の軍服の上着を羽織らせる。

「アリア!? 大丈夫!?」

「……ヒメ……ナ……」

 意識はまだ少し朦朧としてるみたいだけど、怪我はない。
 アリアが何をされたのかは分からないけど、絶対良くないことだ。

「ちょっと、あんた!! ヒメナに何したのよ!?」

 ルシェルシュに問う。
 私の大切なアリアをあんな訳わかんない物に入れて……許せない!!

「魔技【終焉の歌】の楽譜を彼女の丹田に入れただーけ。他は何もしていないから安心してよー」

「【終焉の歌】……?」

 何その物騒そうな歌……?
 魔技をアリアの丹田に入れた……?

「ヒメナ……私……人間じゃないんだって……」

「え?」

 何言ってるの……アリア……。

「私は……私の歌は……ここで作られたモノだったんだって……!」

 緑色の液体に混じり、涙を流すアリア。
 作られたって……どういう意味……?

「そーだよー。君達は生体兵器。【終焉の歌】の為に僕が産まれさせたねー」

「君……達……? それは一体どういう……?」

 アリアは困惑しているようだ。
 私からしたら何の話か訳が分からない。


「送信器がいれば、受信器がいるのは当然のことでしょー。君達は死んだ妊婦から取り出した、二卵性双生児の双子だよー」


「……アリアと私が……双子の姉妹!?」

「どっちがお姉さんかは分からないけどねー。残念でしたー」

 どういうこと……?
 アリアと私は双子で……ルシェルシュの手によって改造されて産まれて来たってこと……!?

 そう考えたら腑に落ちることが幾つかあった。
 私は魔法を持たず、マナの感受性が異様に高いこと。
 アリアは強力無比な歌魔法を持つこと。
 そして、アリアと私は大気からマナが吸えるということ。

 あまりにも普通の人とは違う部分が多すぎる。
 作られた存在だったとしたら……私が魔法を持たないことも不思議じゃないのかもしれない。

「私達の父は……!? 一体どなたなのですか!? 生きているのでしょう!?」

 アリアの言う通りだ。
 無から作り出された訳じゃないんだったら……お母さんは死んだってことだけど、お父さんは生きてるかもしれないんだ……!!


「炎帝アッシュ・フラムだよー。本人も子供の君達が生きているなんて知らないけどねー」


 ……ほぇ……?
 アッシュ……?
 エミリー先生を殺して、孤児院から私達を追い出したあいつが……私とアリアの父親……?

「嘘よ!! 私達を動揺させるつもりなんでしょ!?」

 そうに決まってる……私が……私達が双子だったとしても、あんなヤツが父親のはずがない……!!

「本当だよー。アッシュ・フラムの妻だったコレールとかいう首無しの死体を埋葬する前に取り出した、かろうじで生きていた胎児だもーん。たまたま双子で【終焉の歌】には都合の良かった存在だったからねー」

「嘘だ!!」

「だーかーらー、本当だってばー。しつこいなー」

 ルシェルシュは嘘と認めるつもりはなさそうだ。
 だったら――。

「ぶん殴ってでも……嘘だって言わせてやる!!」

 私は全力で闘気を纏う。
 死帝を名乗ってはいるけど、感じるマナ量からルシェルシュは強くない。
 私なら、一撃で倒せる。

「僕が死帝と呼ばれる所以を見せてあげるよー」

 ルシェルシュが指を鳴らす。
 それが合図と言わんばかりに、近くの水槽みたいなのが割れた。

「……っ……!?」

 一言で言い表せば、異形の人型。
 血色は悪いけど、体格の良い女性の体に以前に見た黒竜セイブルが同化している。
 右手には大剣を持ち、左半身は黒竜の鱗で覆われていて、左の背にだけ翼が生え、左手は黒竜の顔となっており、尾も生えていた。

「このマナ……!?」

 異形の人型から感じる見知った懐かしいマナ。
 ありえない……だって……。

「まさか……エミリー先生……?」

「大正解ー。さすが【終焉の歌】の受信器ー。マナを感じる力は抜群だねー」

 でも……ほぇ……?
 エミリー先生は死んで……何で……?

「僕の魔法は【死霊】だよー。死んだ生物の体の一部でもあれば、生きる屍として蘇生させて使役することができるんだー。元剣帝の体の一部はアフェクシーで回収してたしねー」

 エミリー先生は確かに老体じゃない。
 ゾンビみたいだけど、若くなってる……。

「さらに、培養槽で黒竜セイブルの死体と合成させたんだー。君達程では無いけど、一応は傑作だよねー」

 傑作……?
 傑作って何よ……!?
 こいつエミリー先生を……エミリー先生の死体を弄んで……絶対に許せない!!

 ルシェルシュは培養槽と呼んだ水槽を指差す。
 そこには、また別の異形の生物が入っていた。

「レイン。そこの合成獣は君にあげるよー」

「御意!! 操作致しまする!!」 

 どこからともなく現れた、王都を襲撃してきたお爺さんのレイン。
 レインが杖を掲げると、昏睡状態だった異形の生物は息を吹き返したかのように目覚め、培養槽を叩き割って出てくる。

 体は熊のより巨大で、コウモリのような翼を生やし、尾は蛇となっていた。
 頭は三つあり、真ん中にはライオン、右には鳥、左には猪の頭。
 四足歩行でゆっくりと私の方に近づいて来る。

「さー、始めようかー。【終焉の歌】を……僕の最高傑作を見せておくれー」

 操られた異形のエミリー先生と、異形の合成獣。
 それぞれが私に向けて襲いかかって来た――。