帝国に潜入して数日後の夜。
 私達はソリテュードへとこれといったトラブルもなく辿り着き、遠い丘の木陰から望遠鏡でソリテュードを覗いていた。

 ソリテュードの周囲は城壁と明りで囲われていて、簡単には入れそうにない。
 当然見張りや門番が数多くおり、潜入するのは難しそうだ。

「どうする気? 真正面から乗り込むの?」

「いや、迎えが来るよ。慌てない慌てない」

 ロランに諫められていると、赤色の髪をしたアホ毛を揺らす帝国兵の男性が近づいて来た。

「ロラン様、お待たせしたッス!」

「うん。待ったから借り一つね」

「そんなぁ〜、ひどいッスよ~」

 実際はそんなに待ってないのに、何て言い草……。
 びっくりしてアホ毛がピンと立ってるじゃん。
 可哀相に……。

「彼はセンデン・エムファンゲン。僕が帝国に放った諜報員だよ」

「冥土隊の皆様、よろしくッス!」

 明るくビシッと敬礼してくるセンデンさん。
 私達はそんなに偉い訳じゃないから、そんなことしなくていいのにさ。

「これが帝国軍の軍服ッス! 着替えて下さいッス!」

 私達は潜入するために、それぞれ木陰でメイド服から帝国軍の軍服に着替えた。
 うーん、あんまり似合わないなぁ。

「馬子にも衣装だね」

「うっさいわね!」

 悔しいことにロランは様になっている。
 いちいち私を弄ってくるのが、むかつく。

「あの〜……胸の辺りが少し苦しいんですけど……」

「あちゃ~、何とか我慢してほしいッス!」

 ルーナの巨乳で制服がぴちぴちになっていた。
 ロランが私の胸を見てくる。
 悪かったわね!
 私は丁度良いサイズよ!

「ごめんなさぁい。入らないわぁ」

「な、何とかしてくださいッス……」

 ベラに至っては制服のボタンを開けないと、着ることすらできない。
 ロランが私の胸を見てくる。
 悪かったわね!!
 私は丁度良いサイズよ!!

 私達はメイド服を荷物に纏めて、帝国兵を装う。
 ソリテュードは帝国兵か研究者しか主にいないため、装うなら帝国兵の方が動きやすいみたいだ。

「では行くッス! これで門から堂々と通るッスよ!」

 私達は荷物を木陰に置き、街道へと入りソリテュードに向けて歩き始める。
 この人大分元気だけど、諜報員に向いてるのかなぁ……諜報員ってもっと隠密に長けてる人の方がいいような。

「いよーッス!」

 門まで辿り着くと、門番にこちらから挨拶をするセンデンさん。
 ほぇ!?
 本当にこの人に任せて大丈夫なの!?

「よっ、リューゲ。そいつら誰だ? 新入りか?」

「そうッス!」

「案内頑張ってなー。嬢ちゃん達も兵士は立ち入り禁止区域とかあっから気をつけな」

 あっさりと通れた。
 逆にこれだけ明るくてコミュニケーション能力が高そうな人の方が、疑われ辛いのかな。
 凄いや。

 それからしばらくセンデンさんが、ソリテュード内を案内してくれた。
 所々にある電灯と呼ばれる物や、何のためにあるのかも分からない巨大な風車。
 明らかにこの街だけ科学が発展していて、目新しいモノばかりだ。

「センデン。君はここまででいいよ。僕らがバレた時、君が近くにいれば今後に支障が出る」

「うぃッス! これがオイラお手製のソリテュードの分かってる範囲の地図ッス! 書かれてない所は兵士が立ち入り禁止の区域ッスよ!」

 えっへんと、腰に手を当て胸を張るセンデンさん。
 地図を受け取ったロランが苦々しい顔をしたので、思わず私達も地図を覗き込む。

 ……何だこりゃ?
 汚過ぎて誰も読めない。
 とてもじゃないけど地図と呼べるモノではなかった。
 ただの落書きだ。

「センデン、バイバイ」

 ロランは受け取った地図を破り捨てる。
 センデンさんは時間を割いて作ったのだろう。
 凄くショックを受けている。

「ひどいッスよおぉぉ!」

 お手製の地図を破られたセンデンさんは、泣きながら去って行った。
 きっといいことあるよ……センデンさん。
 あの人諜報員ってことがバレて、殺されなきゃいいけど。

「さて、まずはアリアちゃんの居場所だけど、兵士が立ち入り禁止の生体研究所にいるのは間違いないだろうね。近くに行ってヒメナちゃんの【探魔】で歌姫を探す」

 私達は立ち入り禁止の区域ギリギリまで研究所の方へと歩いた。
 研究所を守るためなのか、兵士達が常駐する駐屯所が隣接されている。

「さて……ヒメナちゃん、分かるかい?」

 私に【探魔】を使うこと促すロラン。
 本当に、こんな所にアリアがいるのかな……?

 ロランの指示に従うのは不服だったけど、使わないとどうしようもないので【探魔】を使っているアリアを探す。

 ――いた!!

「多分そこの一階……アリアはそこにいる。でも……アッシュとカニバルと……ブレアがあっちの大っきい駐屯所にいる。それに……このマナは……?」

「「!!」」

 私と……ベラとルーナは驚く。
 だけど、ロランは全く驚いた様子がない。

 本当にブレアは……エマを殺してアリアを帝国に売ったんだ。

「ブレアちゃんはともかく、炎帝と震帝……それにここは死帝の庭。一筋縄じゃ行かなさそうだね」

 動揺する私達をよそにロランは、アリアをどう奪取するか考える――。