私達は街道沿って王都へ向かうために、森の中で方角に気を付けながら街道を探していると、何やら良い匂いがしてきた。

「ご飯だ! 料理の匂いだ!!」

 鍋で何かを煮ているのかな?
 すっごい良い匂い……。

「お腹、空いた」

 ララがそう言うと、皆もお腹が空いてたのか、全員が同時にお腹を鳴らす。

 お腹空くよね……私も空いたよぉ……。

 今は孤児院にあった保存食と道中で採った山菜や木の実で何とか食べ繋いでいるけど、王都の距離も分からない中食べきるわけにはいかない。
 だから皆、毎食ちょっとづつ食べてるんだ。

 私達の足取りが自然と匂いの方へと誘われると、やがて森の中で開けた草原が見えて来た。
 そこでは紳士的な服装をし、ハットを被っている太ったおじさんが、一人で大鍋を煮込んでいる。

「子供? 君達どうしたんだい?」

 あぁ……鍋……。
 お肉も入ってる……何のお肉だろう……?
 お、美味しそう……。

「す、凄い涎だねぇ。お腹空いているならおじさんの鍋食べる?」

「ほぇ!? いいの!? 頂きまーす!!」

 ラッキー!
 見ず知らずの私達にご飯を恵んでくれるなんて、このおじさんとっても良い人みたい。

 おじさんからお皿を受け取り、孤児院の修正が残っているのか、私達は急いで列を作る。
 私とアリアが一番最初に並んでたのに、隣からブレアが割って入って来た。

「ブレア!! 私が先に並んでたんだよ!?」

「うっせ、バーカ!! 孤児院のルール持ち出してんじゃねーや!!」

「おじさん、喧嘩されると困っちゃうなぁ。その鍋食べれるだけ食べて良いから皆にきちんと行き渡るよ」

 オタマをブレアに奪われて喧嘩になりそうになるも、優しいおじさんに諭されブレアがお皿に入れるのを待つ。

 ジュルリ……鍋の中、お肉がいっぱいだ……。
 確かに私達全員で食べても余りそう……。
 こんなにたくさんのお肉入ってる鍋見るの、初めてだ……!!

 全員がワイワイと鍋を囲む中、ルーナはそこには参加せずにおじさんの隣に座った。

「それにしても、こんな所に女の子だけで何をしてるんだい?」

「……私達は――」

 ルーナはおじさんに今までの経緯を説明していた。
 アンファングが帝国軍に燃やされたこと。
 エミリー先生が殺されたこと。
 孤児院を捨てて逃げたこと。
 王都へ向かっていること。

「それは大変だったねぇ。確かに王都なら王国の戦力が集まるだろうし、戦争になってもしばらくは安全かもしれないねぇ」

「……だと良いのですが……」

 おじさんは深刻な現状を話すことに夢中のルーナに、手を出していない自分のお皿を差し出す。

「食べなさい。お腹一杯になれば、元気になる。元気になれば、きっと前向きになれる。おじさん、そう思うよ」

「……ありがとう……ございます……」

 ルーナは大人の優しさに触れて安心したのか、頬を伝った涙を一粒おじさんから受け取ったお皿に垂らす。
 そして、私達に涙を隠すようにぐっと皿を口元にあげ、お皿の中身を一気に口の中へと運んだ。

 きっとルーナが一番不安だったんだ……。
 エミリー先生が死んで、私達をまとめて冒険に出ないと行けなかったんだから……。

「おじさん、これって何のお肉!? とっても美味しい!!」

「そう? おじさんはあんまり好きじゃないんだけどなぁ……美味しいならおかわりしていいよ」

「やったぁ!! アリア!! お鍋からよそうの手伝って!!」

「うんっ」

 私はルーナが泣いているのが皆にバレないように、出来るだけ騒いで鍋へと走る。
 泣いている所、ルーナは多分見られたくないもんね。

 アリアにお皿を持ってもらい、オタマで鍋の中の具を探す。
 利き腕がないと、ご飯を食べるのも一苦労だなぁ……。
 アリアにも迷惑かけちゃってるし……。

 そんなことを考えていると、メラニーとベラとエマの三人が少し離れた所で何やらコソコソと話している。
 何話してるんだろう?

「……何か……おかしい……気がする……」

「おかしいって、何がぁ?」

「鍋の量さ。一人で食べるには異常な量っしょ」

「あらあら。そう言われればそうねぇ。まるで私達が来るのを知ってたみたい」

 会話が聞こえたけど、何言っているのか良く分からない。
 おじさんが良い人だから、ご飯を分けてもらえた。
 それでいいじゃん!

「おっさん、何でこのお肉好きじゃないの!? こんなに美味しいのにさっ!!」

「フローラ!! おっさんは失礼でしょ!!」

 真面目なルーナじゃなくても、突っ込みたくなる。
 確かに失礼だ……フローラは誰にでもこんなだから凄いや。

「その人さぁ。この近くの城郭都市の領主なんだけど、民想いだって有名だったんだ。だから領主が愛する街人を一人残らず殺したら、きっとおじさんのことを憎んでくれるかなって思って皆殺しにしたんだけど、最期まで想っているのは民や家族のことだったよ。そんな男、美味しくないでしょ?」

 ……ほぇ……?
 今何て言った?

「おじさんが好きなお肉はさ、おじさんを憎んで憎んで殺したい。そんなお肉なんだ。おじさんのことを想って想って止まないね。その想いが長ければ長いほど、強ければ強いほど、熟成させた濃厚な味となる。そうは思わないかい?」

「……えと……これって結局……何のお肉……?」

 私はオタマにかなりの重みを感じ、おそるおそるとオタマを鍋から引き上げると――。

「人間のお肉だよ」

 オタマの上には、人間の首から上が乗っていた。
 私とアリアは思わず固まり、皆の視線もオタマの上の頭に集中した。

 まさか……私達が食べたお肉って……嘘……。
 人……間……!?

「「「うぉえぇぇ!!」」」

 私達はあまりの不快感から、一斉に吐いた。

「皆人間の肉だとわかると、そうやって吐くんだよねぇ。君たちは喜んで食べてくれていたのに、おじさん残念だよ」

 気持ち悪い……信じられない……!!
 人間の肉を食べるなんて……食べさせるなんて……!!
 このおじさん……何考えてるの……!?

「げほっ……うぇっ……」

「あ。そういえばおじさん、自己紹介をしていなかったね」

 胃の中を戻す私達を見ても、おじさんは平常運転で自分の手元にあったノコギリを手に取って、その場を立った。
 そして、私達へ向けて紳士的な一礼をして来る。

「おじさんは帝国軍所属四帝の一人、震帝カニバル・クエイクと言うんだ。よろしくね」

「……四帝……?」

 エミリー先生を殺した炎帝アッシュ・フラム。
 おじさんは、あの男と肩を並べる四帝の一人だった――。