私達冥土隊にはモルデン砦で部屋を振り分けられ、待機することになった。
援軍などを要請された場合、帝国軍がまた攻めて来る可能性があるからだ。
私は夜更けにアリアの部屋へと訪れた。
悩み相談というか、話を聞いて貰いたかったんだ。
ついでにベッドの上で膝枕してもらってるんだけどね。
ふひひひひ。
「私さ、アッシュが私達にしたことは……エミリー先生を殺したことは絶対に許さないって思ってたんだ」
「うん、わかるよ」
「でも……だったら私達がしてることって何なのかなって。戦争して……闘ってさ、誰かの大切なモノを奪ってるんじゃないのかなって」
「……うん、そうだね」
アリアは相槌をうちながらちゃんと聞いてくれる。
思わず私は、モヤモヤする気持ちを愚痴のように吐き出していた。
「私分かんなくなっちゃった。何が正しくて、何が間違ってるんだろうってさ」
「……多分、誰も間違ってないんじゃないかな」
アリアの答えは意外なモノだった。
誰も間違ってない……?
どういうことだろう。
「世界には沢山の人がいて、それぞれ生きてきた過程や信念も違う。だから、多分間違いなんてないから喧嘩が起きちゃったり、戦争が起きちゃったりするんじゃないかな……分からないけどね」
アリアの言うことが正しいのかもしんない。
この世界には沢山の人がいる。
私にとって良い人も、悪い人も。
でも、私にとって良い人も他の人から見たら悪い人かもしれないし、その逆も言えることだ。
アッシュも間違ってないし、私も間違ってない。
だから、ぶつかりざるを得ないんだ。
アッシュも私も悪くないんだとしたら……私は……本当にアッシュを倒したいの?
倒せたとしても、殺せるの?
エミリー先生を殺したことは許せない。
だけど、アッシュを殺したってエミリー先生は生き返らないんだ。
「……聞いてくれてありがと、アリア」
「ううん、話してくれてありがとう、ヒメナ」
答えは出ない。
だけど、アリアに話してモヤモヤは少し晴れた。
愚痴っちゃってごめんね、アリア。
「じゃあ、私自分の部屋に戻るよ。おやすみ」
「おやすみ」
アリアの部屋を出る。
アリアの部屋の前には例の如く、紫狼騎士団の騎士が二人立っていた。
軽く会釈し、私は自分の部屋へと戻って寝ることにした。
この時もう少しアリアの側にいれば、この後起こることも何か変わったのかもしれないと、私は後悔することになるんだ――。
*****
ヒメナが去った後、アリアは部屋に取り残される。
眠る直前でベットに腰かけつつも、ヒメナと話したことを考えていた。
「何が正しくて、何が間違っているのか……か。ヒメナには誰も間違ってないって言ったけど、それは誰も正しくもないってことかもしれない……」
アリアは【狂戦士の歌】を歌う度、苦悩していた。
自分が【狂戦士の歌】を歌うことは正しいのか、それとも間違っているのか。
それが分からずとも、冥土隊の皆がロランに何もされない為にも歌うしかない。
ヒメナが今抱いている悩みは自身が悩んでいることと近い。
アリアもその答えは分からずにいた。
アリアがそんな考えにふけっていると、部屋の外から大きな物音が聞こえた。
「何?」
視力がないアリアは慣れていない場所では、下手に動けない。
何かが起きたのだろうと警戒しつつも、その場から動かずにいた。
物音がし、しばらくするとドアが開かれる。
そこからは冷たい冷気が入ってきた。
「……もしかして、ブレア? 何をしたの?」
ブレアの魔法は【氷結】。
当然アリアもその能力は知っていた。
ドアが開いたと共に冷気が入ってきたため、ブレアが表の騎士達に何かをしたのではないかと想像する。
「何でもねぇよ。気にすんな」
その想像通り、扉の前にいた騎士達は凍らされているが、目の見えないアリアは真相には気付かない。
「冥土隊の他の皆とも話したんだけどよ……ロランから逃げるには王都より、ここのが丁度良いんじゃないかってな。だから、あたいがお前を引っ張りに来てやったぜ」
「……え?」
王都にいた頃、ブレアを中心にロランから逃げようとしたことは何度かある。
いずれも失敗し、その度冥土隊のアリア以外は数日間牢に入れられるなどの懲罰を受けてきたが。
今回もブレアが主張し出したならあり得る話だが、先程までヒメナといたにも関わらず、ヒメナが逃げる話を全くしてなかったことがアリアに違和感を感じさせる。
「でも……」
「四の五の言ってねーで、とっとと行くぞ!!」
アリアの疑問を晴らす前に、ブレアはアリアを引っ張り無理矢理連れて行く。
そのままアリアを抱え、二階の窓から飛び出した。
そして、闘気を纏って全力でモルデン砦を出るために駆ける。
広い砦内をブレアは事前に調べていた人の少ないルートを選び、砦を囲う壁を跳び登って外へと出ようとする。
しかし――。
「ブレア。アリアを連れ出して、どういうつもりだい?」
そんなブレアを、まだ折られた左腕が完治していないエマが砦の外で待ち伏せをしていた。
ブレアは無言でエマを睨む。
「戦闘が終わってからのあんた、いつもと違って気になってたんだよね」
「エマ……? ブレア、これはどういうこと? 聞いてた話と違うよ?」
アリアは違和感が正しかったことに気付き、ブレアを問いただす。
しかし、ブレアは黙ったままだ。
「アリアを連れてどこへ行く気だい? 戦闘後から様子がおかしかったけどさ」
「……どけ、エマ」
「嫌だね」
ようやく口を開いたブレア。
しかし、その言葉とは裏腹にエマが立ち塞がる。
「どけっつってんだろうが!!」
ブレアはアリアを放って、闘気を纏いながらエマに突撃した――。
援軍などを要請された場合、帝国軍がまた攻めて来る可能性があるからだ。
私は夜更けにアリアの部屋へと訪れた。
悩み相談というか、話を聞いて貰いたかったんだ。
ついでにベッドの上で膝枕してもらってるんだけどね。
ふひひひひ。
「私さ、アッシュが私達にしたことは……エミリー先生を殺したことは絶対に許さないって思ってたんだ」
「うん、わかるよ」
「でも……だったら私達がしてることって何なのかなって。戦争して……闘ってさ、誰かの大切なモノを奪ってるんじゃないのかなって」
「……うん、そうだね」
アリアは相槌をうちながらちゃんと聞いてくれる。
思わず私は、モヤモヤする気持ちを愚痴のように吐き出していた。
「私分かんなくなっちゃった。何が正しくて、何が間違ってるんだろうってさ」
「……多分、誰も間違ってないんじゃないかな」
アリアの答えは意外なモノだった。
誰も間違ってない……?
どういうことだろう。
「世界には沢山の人がいて、それぞれ生きてきた過程や信念も違う。だから、多分間違いなんてないから喧嘩が起きちゃったり、戦争が起きちゃったりするんじゃないかな……分からないけどね」
アリアの言うことが正しいのかもしんない。
この世界には沢山の人がいる。
私にとって良い人も、悪い人も。
でも、私にとって良い人も他の人から見たら悪い人かもしれないし、その逆も言えることだ。
アッシュも間違ってないし、私も間違ってない。
だから、ぶつかりざるを得ないんだ。
アッシュも私も悪くないんだとしたら……私は……本当にアッシュを倒したいの?
倒せたとしても、殺せるの?
エミリー先生を殺したことは許せない。
だけど、アッシュを殺したってエミリー先生は生き返らないんだ。
「……聞いてくれてありがと、アリア」
「ううん、話してくれてありがとう、ヒメナ」
答えは出ない。
だけど、アリアに話してモヤモヤは少し晴れた。
愚痴っちゃってごめんね、アリア。
「じゃあ、私自分の部屋に戻るよ。おやすみ」
「おやすみ」
アリアの部屋を出る。
アリアの部屋の前には例の如く、紫狼騎士団の騎士が二人立っていた。
軽く会釈し、私は自分の部屋へと戻って寝ることにした。
この時もう少しアリアの側にいれば、この後起こることも何か変わったのかもしれないと、私は後悔することになるんだ――。
*****
ヒメナが去った後、アリアは部屋に取り残される。
眠る直前でベットに腰かけつつも、ヒメナと話したことを考えていた。
「何が正しくて、何が間違っているのか……か。ヒメナには誰も間違ってないって言ったけど、それは誰も正しくもないってことかもしれない……」
アリアは【狂戦士の歌】を歌う度、苦悩していた。
自分が【狂戦士の歌】を歌うことは正しいのか、それとも間違っているのか。
それが分からずとも、冥土隊の皆がロランに何もされない為にも歌うしかない。
ヒメナが今抱いている悩みは自身が悩んでいることと近い。
アリアもその答えは分からずにいた。
アリアがそんな考えにふけっていると、部屋の外から大きな物音が聞こえた。
「何?」
視力がないアリアは慣れていない場所では、下手に動けない。
何かが起きたのだろうと警戒しつつも、その場から動かずにいた。
物音がし、しばらくするとドアが開かれる。
そこからは冷たい冷気が入ってきた。
「……もしかして、ブレア? 何をしたの?」
ブレアの魔法は【氷結】。
当然アリアもその能力は知っていた。
ドアが開いたと共に冷気が入ってきたため、ブレアが表の騎士達に何かをしたのではないかと想像する。
「何でもねぇよ。気にすんな」
その想像通り、扉の前にいた騎士達は凍らされているが、目の見えないアリアは真相には気付かない。
「冥土隊の他の皆とも話したんだけどよ……ロランから逃げるには王都より、ここのが丁度良いんじゃないかってな。だから、あたいがお前を引っ張りに来てやったぜ」
「……え?」
王都にいた頃、ブレアを中心にロランから逃げようとしたことは何度かある。
いずれも失敗し、その度冥土隊のアリア以外は数日間牢に入れられるなどの懲罰を受けてきたが。
今回もブレアが主張し出したならあり得る話だが、先程までヒメナといたにも関わらず、ヒメナが逃げる話を全くしてなかったことがアリアに違和感を感じさせる。
「でも……」
「四の五の言ってねーで、とっとと行くぞ!!」
アリアの疑問を晴らす前に、ブレアはアリアを引っ張り無理矢理連れて行く。
そのままアリアを抱え、二階の窓から飛び出した。
そして、闘気を纏って全力でモルデン砦を出るために駆ける。
広い砦内をブレアは事前に調べていた人の少ないルートを選び、砦を囲う壁を跳び登って外へと出ようとする。
しかし――。
「ブレア。アリアを連れ出して、どういうつもりだい?」
そんなブレアを、まだ折られた左腕が完治していないエマが砦の外で待ち伏せをしていた。
ブレアは無言でエマを睨む。
「戦闘が終わってからのあんた、いつもと違って気になってたんだよね」
「エマ……? ブレア、これはどういうこと? 聞いてた話と違うよ?」
アリアは違和感が正しかったことに気付き、ブレアを問いただす。
しかし、ブレアは黙ったままだ。
「アリアを連れてどこへ行く気だい? 戦闘後から様子がおかしかったけどさ」
「……どけ、エマ」
「嫌だね」
ようやく口を開いたブレア。
しかし、その言葉とは裏腹にエマが立ち塞がる。
「どけっつってんだろうが!!」
ブレアはアリアを放って、闘気を纏いながらエマに突撃した――。