私達の皇帝ズィークを倒すという作戦は、失敗に終わった。
 四帝も一人も倒せていない。

 シュラハト城が崩壊し、アンゴワス公国の大公様はどうなったのかと思ったけど、無事だったみたい。

 城が崩壊した際に護衛の騎士が何とか守ったんだって。
 せっかく帝国との仲裁役をしてくれたのに、死んじゃったりしてたら申し訳なさすぎるもんね。

「大公が死んでくれてたら、アンゴワス公国を確実に戦争に巻き込めたのになぁ」

 ロランからしたら共に打倒帝国を目指すためのきっかけとして、大公様には死んでもらってアンゴワス公国を巻き込みたかったみたい。

 確かにアンゴワス公国の力も借りれたら、私達にとってはありがたいんだけど、もっと戦火を広げることになる。
 私はそんなの、反対だ。

 そんなことを考えながら、王都に帰るために王国軍……私達冥土隊は馬車に乗っていた。

「ルーナ……指、大丈夫?」

 カニバルに両手の指を折られたルーナは、両手に包帯を巻いている。

「公国に優秀な治癒魔法を使える人がいて助かったわ。一週間くらい安静にすれば大丈夫みたい。ヒメナの背中はどう?」

「私もその人のおかげで痛みはもうないよ。お互い私の右手みたいにならなくて良かったね!」

 あーあ……。
 だけど、また背中に大きい傷跡が残っちゃったなぁ……。
 もうお嫁には行けないや。
 こんな体じゃさ。

「……ヒメナ……あの……そのよ……」

 馬車の中でブレアが私に何か言いたたいのか、水色の三つ編みの髪を弄りながら、モジモジとしていた。

「ほぇ? どしたの、ブレア?」
 
「……っ……! 何でもねーよ、バーカ!!」

「誰がバカよ、誰が!? あんたのこと庇ってやったのにさ!!」

 きっと謝りたかったんだろう。
 だけどバカ呼ばわりされて、背中に火傷の傷跡が残った私は、思わずそう言ってしまった。

「……ちぇっ!」

 ブレアはそこから拳を握りしめて、俯いて無言になった。
 私の足を引っ張ったと思ったのかな?
 元気ないブレアはらしくないや。

 それにしても、これからどうなるんだろう?
 宰相さんは死んじゃったし、王様に至っては遺体も見つからなかった。

 ロランは王様を守らなくて良いとか言ってたけど、全然大丈夫じゃなかったじゃない……。
 国のトップの人が亡くなって、これからどうすんのよ……。


*****


 二週間が経ち――帰国した私達は今、

「して、休戦協定はどうなった?」

 謁見の間で王様の前で跪いている。

 何で無傷で生きてるの!?
 ってか何で私達より先に帰って、玉座に当たり前のように座ってるの!?
 一体どんな魔法よ!?

「休戦協定は帝国によって反故されました。戦闘となり宰相殿もその際に死に、拳帝の介入によって皇帝は連れてきた四帝と共に帝国へと帰って行きました」

 ロランの報告を聞き、周りの文官や騎士達はざわつく。
 皆……休戦協定に期待してたんだろうな……。

「……聞いたか、皆の者」

 王様が玉座から立ち上がったことで、ざわついていた皆が黙って注目する。

「休戦協定を反故するどころか、アンゴワス公国内で戦闘をしかけてくる! それが帝国のやり方よ!!」

 そんなこと言って……王様は分かってたくせに……。
 むしろ、こちらから仕掛ける気だったくせに……。

「皆の者、剣を取れ! もはや休戦の余地はない!! 徹底抗戦だ!!」

 陰で皆を騙すために、役者を演じてるんだ。

「「「うおおぉぉ!!」」」

 もう後はない。
 王様の文字通りの演説によって、そう告げられた謁見の間にいた者達は鼓舞される。

 王様とロランは予想してたのに、私達冥土隊以外には誰にも伝えていなかった。
 伝えないどころか、休戦協定が認められないことをわかってて、それを利用した。

 ロランだけじゃない、王様も皆そうだ。
 人から大切なものを奪ったり、利用したり……。
 エミリー先生以外の大人って……ほとんど汚いんだ。

 私は鼓舞される皆を見て、そう思ったんだ。