私とアッシュは互いに【瞬歩】を使い打ち合っていた。
 距離をひたすら詰めるために様々な手を使って前進するも、アッシュはそれを退けようと剣と黒炎を振るってくる。

 私達の動きは、もはや普通の人間では捉えられない域にあった。
 そんな中――私の集中力はかつてない程高く、私は戦闘の中で成長しているような気がした。

「噴っ!!」

 アッシュの黒炎を纏った剣を、先読みしたかのように私はあっさり避ける。
 一度限りのまぐれじゃない。
 この戦闘中で既に何度もあったことだ。

「――見える」

 そのカラクリは、私がマナを見えることにある。
 アッシュの体の動きと共に、体の中で流れるマナの動きを見る事で、次の行動を読んでいたのだ。

 戦闘力においてアッシュの方がはるかに上。
 しかしアッシュは、自分より弱い私を仕留めきれずいる奇妙な状況に、動揺しているようにも闘気から感じた。

「何だ貴様……珍妙なっ!!」

 私に張り付かれるのを嫌がったのか、視界を塞ぐのと距離を取るために、アッシュは【ファイアウォール】を使う。

 黒炎の壁が隔たり、アッシュの姿は視界から消える――けど、私はアッシュのマナからアッシュの位置を探知していた。
 逃がさない……狙い撃つ!!

「【闘気砲】」

 私が持つ唯一の中、遠距離技。
 それを黒炎の壁越しにアッシュに向けて放った。

「くっ!?」

 予想だにしなかった初見の攻撃は、漆黒の鎧を纏っていたアッシュの左肩を貫通する。
 深手とは言わずとも、かなりの傷。

 手応えあり……!!
 アッシュを倒せる千載一遇のチャンスだ!!
 絶対に逃さない!!
 
 そう思った私の集中力は更に増していく。


 故に――気づかなかった。


「あたいを置いて殺り合ってんじゃねーぞ! バーカ!!」


 突如、横から目の前に現れたブレアの存在に。


 アッシュは邪魔だと言わんばかりに、ブレアに向けて魔技【インフェルノ】を放つ。

 マナをも燃やす黒炎。
 躱す以外に防ぐ手段はない。

 しかし、猪突猛進を絵に描いたようなブレアは真っ向から魔技を放とうとしていた。

「ブレア!!」

 全力で闘気を纏った私はブレアを庇う形で抱きかかえ、黒炎に背中を向けた――。


*****


 背中合わせのエマとベラに襲いかかる、ファルシュとブルート。
 ファルシュは髪でエマに、ブルートは血で作られた槍をベラに向けて。

「ベラ、今さね!」

「はいはぁい」

 二人は背中を合わせたまま反転する。
 エマはブルートと、ベラはファルシュと、闘う相手を即座に入れ替えた。

「魔技【潜影】」

 ベラは髪が自らに刺さる直前、自らの影の中へと潜り込む。
 影の中で自らの影と繋がっている髪の影を伝い――ファルシュの影まで辿り着く。

 そしてファルシュの背後から影の中から現れ、

「え?」

 素っ頓狂な声を上げたファルシュの股下から闘気を込めた大鎌を振り上げて、その体を真っ二つに両断した。

「冥土へお逝きなさいなぁ」

 ファルシュの体が逆八文字に裂かれて倒れようとしている時――突然闘う相手が代わり、動揺するブルートの血の槍をかわし、口の中に槍を差し込み、

「冥土へ逝きな」

 魔法で爆発させた。
 口内から頭ごと吹き飛ばされたブルートは、絶命する。

 戦闘に勝ったのは、エマとベラ――。
 しかし二人に感傷などはなく、既に次を見ていた。

「ヒメナ達が心配だ」

「行きましょぉ」

 ファルシュとブルートを倒したエマとベラは、違う場所で闘う仲間の元へ向かうために走り始める。


*****


 ルーナとカニバルの戦闘は傍目から見れば、ヒメナ以外は何をしているかハッキリとは分からないだろう。
 ルーナがマナブレードでひたすら攻め続けるも、見えていないはずの刀身は何故かカニバルに躱されていた。

「何で……当たらないの!?」

 ルーナはカニバルはマナが見えるんではないかと疑心暗鬼に陥りそうになる。
 それ程までに攻撃は当たらない。

「さて、何でだろうねぇ」

 カニバルは自身のハットを抑えながら、ルーナの攻撃を躱し続けた。

 そこにはカラクリも何もない。
 カニバルはルーナのマナは当然見えない。
 なら、何を見ているのか。

 ルーナが持つマナブレードのグリップだ。

 見えない刀身の握りの部分、グリップを見ることで刀身がどこにあるか予想していたのである。
 単純に戦闘経験の豊富さ、持ちうる天性の戦闘センスだけでそれを行っていた。

 次第にルーナは距離を詰められて、最後は【瞬歩】でカニバルの攻撃範囲に入られてしまう。

「うわあぁぁ!!」

 ルーナは距離を詰められただけではなく、気持ちも追い詰められ、焦りからか大振りとなった。
 カニバルはその隙を見逃さない。

「魔技【ブレイク】」

 ルーナのグリップを持つ両手を掴み、魔技で震動を加えた。
 カニバルに掴まれたルーナの両手の指は震動でへし折られる。

「……あぅっ……!?」

 両手の指全てを折られたルーナはグリップを落とし、痛みから無防備となる。
 そんなルーナのみぞおちにカニバルは闘気を込めた蹴りを叩き込んだ。

「がっ!!」

 ルーナは吹き飛び、城の瓦礫の柱に衝突する。
 衝突した勢いで舞い上がった砂塵が去った先には、ルーナが今にも意識を失いそうな状態で倒れていた。

 そんなルーナに、カニバルは悩んだ表情を浮かべながら、ノコギリ手に歩いて近づいて来る。
 このままではルーナはララと同じように、切り刻まれて食されてしまうだろう。

「うーん。君はもう十分美味しそうなお肉だけど、ここで食べてしまうか……それとも……」


「「ルーナ!!」」

 そんなルーナの危機に助けに入ったのはエマとベラだ。
 瓦礫の山の高い位置からカニバルとルーナを見下ろす。

「もっと熟成させた方がいいか。おじさん、悩んじゃうね」

 現れたエマとベラを見て、カニバルは邪悪に笑みを浮かべた――。