宿敵アッシュと対面した私は、復讐心があっても冷静だった。

「随分と厳つい右腕だな」

「相手があんたで嬉しいよ。炎帝アッシュ・フラム」

 ううん、戦闘に昂ぶる気持ちをもう一人の自分が制しているという方が、正しいのかな。

 実戦経験の少ない私がそれを出来たのは、ポワンから教わり、モルテさんとの模擬戦でそれを感覚的に落とし込めたおかげだ。

「魔技【ファイアボール】」

 先制してきたのはアッシュ。
 空中に複数の黒炎の球を生み出したアッシュは、私に向けて順々に飛ばしてくる。

 その黒炎の球を避けながら、近距離戦に持ち込むために私は接近した。
 フランベルジュを抜いて、迎撃しようとするアッシュに対して、私はフェイントを入れながらも義手の右手でジャブを放っていく。
 この義手なら、斬られない!

「ちっ!」

 義手で攻撃したため剣で切られることを恐れず、防御を掻い潜った私の拳はアッシュの頬を掠める。
 一瞬怯んだアッシュの空いていた右肩に、私は左手を当てた。

「闘技【衝波】」

 怯んだ隙を逃さず【衝波】を打ち込みアッシュを吹き飛ばした私は、アッシュとの距離を離さぬようにさらに踏み込む。

 吹き飛ばされまいと堪えるも、体制を大きく崩したままのアッシュに、私が次なる闘技を叩き込もうとした時――。

「魔技【ファイアウォール】」

 アッシュが地面を私と隔てるように剣で地面をなぞると、地面から黒炎が壁の如く高く噴出した、

「……っ……!?」

 突然黒炎の壁が目の前に現れ、思わずたじろいでしまう。

「魔技【インフェルノ】」

 アッシュはたじろぐ私に向け、黒炎の壁ごしに手から新たな黒炎を放射させてくる。

「熱っ……!!」

 かろうじの所で躱すも黒炎に左肩が掠る。
 熱さと熱さ以外の異常を私は感じ取った。
 この黒炎……普通の炎とは違う……!

「……まさか!!」

 私が感じ取った異常。
 それは――。

「いかにも。我の黒炎はマナをも燃やす」

 アッシュの黒炎は体だけでなく、大気や体内のマナをも燃やすということ。
 つまり、全身や丹田を焼かれたりすれば、マナを燃やされて……死ぬ。

「魔法は我には通じんぞ。全て燃やし尽くしてくれよう」

 アッシュは私が魔法を持たないことを知らない。
 魔法は通じないという精神的動揺を誘おうとしたが、私には関係ない。
 何故ならそもそも魔法を持たないからだ。

「なら、闘技だけで勝てばいいんでしょ!?」

 こうして、私達の闘いは激化していく。


*****


 ブレアとハールは金槌と髪の毛で激しい打ち合いをする。
 しかし、手数の多いハールの方が次第にブレアを押していった。

「ちぇっ!」

 ブレアは思わず捌ききれなかったハールの髪の毛の束を躱し、後ろに下がる。
 ブレアにとっては武器を持たない相手に後ろに下がったのは不本意なことである。

「逃がさないわよ」

 ハールは何故か髪の毛を地面へと突き刺した。

「あ? 何してんだ、お前?」

 ブレアが問うた、その瞬間――。

「魔技【土髪天】」

 ブレアの足元から、ハールが地面へと突き刺した髪の毛が襲い掛かって来た。

「ぎっ……!!」

 ハールの予想外の魔技【土髪天】をまともに受けたブレアは、数々の髪の束に体を貫かれる。
 致命傷は避けたが、ダメージは大きい。

「魔技【包髪】」

 ブレアの体を貫通した毛髪は、そのままブレアを卵のように球体状に包み込み、空中へと持ち上げる。

 毛髪による、脱出不能の牢。
 捕えたブレアを煮るも焼くもハール次第だ。

「さーて、どうしてくれようかし……ら!?」

「魔技【フローズン】」

 ハールがどうブレアを殺すか考えていた時――ブレアを包んでいた髪がみるみる内に凍っていく。

「ちょっと……待ちなさいよ!!」

 ブレアを包んでいた髪は全て凍り、それを伝ってハールの毛髪を凍らせていく。
 ハールは全ての髪をブレアを捕らえるために使い、髪を切断して凍らされていくのを止める手段はなかった。

「わ、私の……美しい……髪……が……」

 手段があったとしても、自身の紫色の髪を愛すハールが髪を切断するか否かは、今となっては分からないことではあるが、ハールの髪を伝い体をも凍らせたブレアは、自身を包む凍らせた髪を闘気で破壊し、ハールにゆっくり近づく。

 そして――。

「冥土に逝きやがれ」

 凍ったハールに全力で金槌を叩きつけ、全身をバラバラに破壊した。


「こんな雑魚に用はねぇ……四帝は……アッシュはどこだ!?」

 ハールを殺したブレアは、所々血で濡らした水色のメイド服を翻し、次なる獲物を探す。


*****


 ベラと相対したのはブルートと名乗った顔色の悪い男。
 ブルートは口を大きくあんぐりと開け、

「はぁ?」

 何を思ったのか自らの手首を噛み切った。

 噛み切った手首からは血液が流れ、地面に滴る。
 良く見れば同様の傷跡が幾つも見えた。
 いつもの事なのだろう。

「魔技……【血弾】」

 ブルートは腕を大きく振り、自身の血液をベラに向かって飛ばした。
 飛ばされた血液は凝固し、矢のように尖る。

「!?」

 ベラは自身が持つ大鎌を回転させて、それらを全て打ち落とす。
 打ち落とした凝固した血液は、液体へと戻っていた。

 ベラがそれを確認した後に見上げると、自身の固形化させた血液を槍のように伸ばし、今にもベラを刺そうとしている所だった。
 ベラは何とかその突きを回避し、一呼吸着く。

「あらあらぁ」

「俺の魔法……【血液】……血を……操る……」

「まぁまぁ」

 貧血気味なのかフラフラするブルート。
 そんなに辛いなら、魔法を使わなければ良いのにと思うベラであった――。