私達が飛竜が去った王都から帰って来るも、街は恐慌状態となっていた。
戦々恐々としており、怪我人を運ぶ人や死体の前で泣く人で溢れている。
白犬騎士団や紫狼騎士団や王国軍の兵達は事態の鎮静化を図っていたが、それでも国民をまとめきれていない。
「エマ、ベラ!!」
そんな状況の中、黒竜を撃墜し王都へと戻って来た私達は、呆然と王都を眺めるエマとベラを見つけた。
「まったく、飛竜が去ってもこの面倒だよ。やってらんないね」
「あらあら、まぁまぁ」
溢れる怪我人や死体。
その前で、何も出来ずに泣き叫ぶ国民。
飛竜が去ったのは一時的なモノではないかと考える者達もいる。
天気が晴れても、王都はその天気とは裏腹に混乱状態にあった。
それだけ飛竜達が残した傷跡は大きい。
私達を含めた全ての人が混乱、または呆然としている中――王都の大広場に一台の豪勢な馬車が止まり、その場に集まる者の全ての目を惹きつける。
馬車から出てきたのはロラン、ルーナ、そして綺麗な黄色のドレスを纏ったアリアの三人だ。
その様は、まるで演出されたかのようだった。
「では、歌姫様。お願い致します」
ロランらしからぬ丁寧な合図を皮切りにアリアは大きく息を吸い――。
【快癒の歌】
大気からマナを取り込んだアリアは歌い始める。
混乱と恐慌が鎮まり、皆アリアの歌に聞き入った。
あの大気からマナを吸いこむの――アリアは子供の頃からやってたけど、私にもできた。
一体あれは……何なんだろう……。
「凄い……傷が癒えていく……!」
「おぉ……歌姫様……」
考えにふけっていると、歌声が響く範囲内の傷を負った人たちの傷が癒えていく。
アリア、私が右腕無くした時は一晩中歌ってたって言ってたけど、子供の頃より魔法の効果が上がってる。
凄いや。
傷が癒えていき落ち着きを取り戻したのか、王都の広場にいる人達はアリアに注目し始めた。
それを耳で感じたアリアは民や兵、騎士達に訴えかける。
「皆様方、この大広場に怪我人をお集め下さい! 私の歌で治せる範囲の怪我は治します!! どうか、ご協力下さい!!」
落ち着いた民や兵、騎士達は大広場から出て、怪我人を運んできた。
そして、アリアは怪我人を癒す為に歌い続ける。
その姿はまるで、神に遣わされた天使のようだ。
「……まるで、天使の歌声……」
「おぉ、神よ……」
多くの人がアリアに祈りを捧げるように、両手を組んで屈み始めた。
アリアは構わず歌う。
自分の助けられる人を、大切なモノの一つを守るために。
怪我人の多くが大事を逃れアリアが歌うのを止めた時、子供を抱いた母親がアリアの元へと歩を進めた。
「歌姫様……どうかこの子を……この子をお助け下さい!!」
あの人は……私が王都の街で助けた母子の母親だ。
抱いている子供の体は、飛竜の爪で胸を貫かれ――明らかに死んでいた。
助けたはずなのに……あの後、また別の飛竜に襲われたんだ……。
救えたと思ったのに……救えなかったんだ……。
「……っ……申し訳ありません……その子はもう亡くなっていて……私にはどうしようもありません」
アリアが申し訳なさそうにそう告げると、母親は子供の死体を強く抱きしめ、泣き崩れた。
「……そんな……そんなあぁぁ!!」
「…………」
アリアは下唇を噛み締めた後、再度歌い始める。
これは、ララが死んだ時に歌ったのと同じ歌……死者に捧げる鎮魂歌だ。
私はその歌を聴きながら、飛竜に破壊された王都や動かないままの死体を見渡し、天を仰いだ。
救えたモノもあったけど、救えなかったモノもたくさんあった。
私達は皆、アリアの鎮魂歌を聞きながら死んでしまった人達に祈りを捧げ、雨上がりの虹を見上げることしかできなかったんだ――。
*****
それから一ヶ月が経ち、白犬騎士団と赤鳥騎士団が前線の戦場へと駆り出される中、紫狼騎士団の面々は王都の防衛と復興に力を割いていた。
まずは外壁の修理にあたり、後に王城や王都の修繕に国民と共に当たっており皆必死に働く中、私はアリアのお世話と称し二人でお茶を飲んで、談笑していた。
モルテさんから前線にいったことで、訓練から解放されたんだ。
良い人だし、気に入ってくれたのは嬉しいけど、本当に毎日模擬戦に連れ出されてたもんなぁ。
「ヒメナ、義手の調子はどう?」
「うん、指先が尖がってること以外は凄く良いよっ! もう慣れて物も壊さなくなったし、こうやってカップも持てるしね!」
フローラが作ってくれた右腕の漆黒の義手は私のマナによって動いている。
だから、動かす時にマナを込め過ぎると思ってたより力が入って、加減が難しいんだ。
マナ制御を得意とする私でも、慣れるのに時間がかかっちゃった。
「あ、そういえばマナと言えば……アリアに聞きたいことがあったんだ!」
「ん? どうしたの?」
「あのさ、アリアって大気からマナ吸ってるじゃんか? 歌ってる時。だからずっと歌魔法使い続けれるんだよね? あれってどうやってるの?」
「どうって……良く分からないや。私は誰かのために歌ってるだけだから」
「そっかぁ……何で私もアリアと同じようなことが出来たんだろう」
黒竜を倒した時、私はアリアがいつもしているように大気からマナを吸えた。
そのことをフローラを始めとした皆に話しても、そんなこと出来る訳ないって信用されなかった。
確かにあれ以来出来てないから無理もないけどさ。
「うーん、ちょっと私にも良く分からないや。ごめんね、ヒメナ。力になれなくて」
「ううん、ありがと。アリア」
大気からマナを取り込める人間なんていないってフローラは言ってたけど、実際マナが見える私にはアリアがマナを吸い込んでるのが見えるし、私も実際吸い込んだ。
そんなこと出来るのは私達二人しか見たことない。
もしかして、私達二人は何か特別な力を持ってるのかなぁ?
私は……魔法がないけど、その力をアリアみたいに自由に使えれば、もっと強くなれるのに。
「……あのヒメナ……悪いんだけど、少しお花が摘みたくて……」
恥ずかしそうに告げるアリア、可愛いなぁ。
あぁ、抱いてしまいたいほど愛おしい。
はぁ……はぁ……ここで抱いてしまおうか。
そんな興奮を死ぬ気で抑え、アリアをトイレへと連れて行く。
お手洗いを済ませた私達は、再びアリアの部屋へと戻るために、アリアと腕を組んで廊下を歩いていると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたんだろう。マナの感じベラと複数人がいるみたいだけど……何かのトラブルかな?」
「行ってみよう、ヒメナ。ここは王城……ベラに不都合があってはいけないから」
私とアリアは喧騒が聞こえる方へと、足を運んだ――。
戦々恐々としており、怪我人を運ぶ人や死体の前で泣く人で溢れている。
白犬騎士団や紫狼騎士団や王国軍の兵達は事態の鎮静化を図っていたが、それでも国民をまとめきれていない。
「エマ、ベラ!!」
そんな状況の中、黒竜を撃墜し王都へと戻って来た私達は、呆然と王都を眺めるエマとベラを見つけた。
「まったく、飛竜が去ってもこの面倒だよ。やってらんないね」
「あらあら、まぁまぁ」
溢れる怪我人や死体。
その前で、何も出来ずに泣き叫ぶ国民。
飛竜が去ったのは一時的なモノではないかと考える者達もいる。
天気が晴れても、王都はその天気とは裏腹に混乱状態にあった。
それだけ飛竜達が残した傷跡は大きい。
私達を含めた全ての人が混乱、または呆然としている中――王都の大広場に一台の豪勢な馬車が止まり、その場に集まる者の全ての目を惹きつける。
馬車から出てきたのはロラン、ルーナ、そして綺麗な黄色のドレスを纏ったアリアの三人だ。
その様は、まるで演出されたかのようだった。
「では、歌姫様。お願い致します」
ロランらしからぬ丁寧な合図を皮切りにアリアは大きく息を吸い――。
【快癒の歌】
大気からマナを取り込んだアリアは歌い始める。
混乱と恐慌が鎮まり、皆アリアの歌に聞き入った。
あの大気からマナを吸いこむの――アリアは子供の頃からやってたけど、私にもできた。
一体あれは……何なんだろう……。
「凄い……傷が癒えていく……!」
「おぉ……歌姫様……」
考えにふけっていると、歌声が響く範囲内の傷を負った人たちの傷が癒えていく。
アリア、私が右腕無くした時は一晩中歌ってたって言ってたけど、子供の頃より魔法の効果が上がってる。
凄いや。
傷が癒えていき落ち着きを取り戻したのか、王都の広場にいる人達はアリアに注目し始めた。
それを耳で感じたアリアは民や兵、騎士達に訴えかける。
「皆様方、この大広場に怪我人をお集め下さい! 私の歌で治せる範囲の怪我は治します!! どうか、ご協力下さい!!」
落ち着いた民や兵、騎士達は大広場から出て、怪我人を運んできた。
そして、アリアは怪我人を癒す為に歌い続ける。
その姿はまるで、神に遣わされた天使のようだ。
「……まるで、天使の歌声……」
「おぉ、神よ……」
多くの人がアリアに祈りを捧げるように、両手を組んで屈み始めた。
アリアは構わず歌う。
自分の助けられる人を、大切なモノの一つを守るために。
怪我人の多くが大事を逃れアリアが歌うのを止めた時、子供を抱いた母親がアリアの元へと歩を進めた。
「歌姫様……どうかこの子を……この子をお助け下さい!!」
あの人は……私が王都の街で助けた母子の母親だ。
抱いている子供の体は、飛竜の爪で胸を貫かれ――明らかに死んでいた。
助けたはずなのに……あの後、また別の飛竜に襲われたんだ……。
救えたと思ったのに……救えなかったんだ……。
「……っ……申し訳ありません……その子はもう亡くなっていて……私にはどうしようもありません」
アリアが申し訳なさそうにそう告げると、母親は子供の死体を強く抱きしめ、泣き崩れた。
「……そんな……そんなあぁぁ!!」
「…………」
アリアは下唇を噛み締めた後、再度歌い始める。
これは、ララが死んだ時に歌ったのと同じ歌……死者に捧げる鎮魂歌だ。
私はその歌を聴きながら、飛竜に破壊された王都や動かないままの死体を見渡し、天を仰いだ。
救えたモノもあったけど、救えなかったモノもたくさんあった。
私達は皆、アリアの鎮魂歌を聞きながら死んでしまった人達に祈りを捧げ、雨上がりの虹を見上げることしかできなかったんだ――。
*****
それから一ヶ月が経ち、白犬騎士団と赤鳥騎士団が前線の戦場へと駆り出される中、紫狼騎士団の面々は王都の防衛と復興に力を割いていた。
まずは外壁の修理にあたり、後に王城や王都の修繕に国民と共に当たっており皆必死に働く中、私はアリアのお世話と称し二人でお茶を飲んで、談笑していた。
モルテさんから前線にいったことで、訓練から解放されたんだ。
良い人だし、気に入ってくれたのは嬉しいけど、本当に毎日模擬戦に連れ出されてたもんなぁ。
「ヒメナ、義手の調子はどう?」
「うん、指先が尖がってること以外は凄く良いよっ! もう慣れて物も壊さなくなったし、こうやってカップも持てるしね!」
フローラが作ってくれた右腕の漆黒の義手は私のマナによって動いている。
だから、動かす時にマナを込め過ぎると思ってたより力が入って、加減が難しいんだ。
マナ制御を得意とする私でも、慣れるのに時間がかかっちゃった。
「あ、そういえばマナと言えば……アリアに聞きたいことがあったんだ!」
「ん? どうしたの?」
「あのさ、アリアって大気からマナ吸ってるじゃんか? 歌ってる時。だからずっと歌魔法使い続けれるんだよね? あれってどうやってるの?」
「どうって……良く分からないや。私は誰かのために歌ってるだけだから」
「そっかぁ……何で私もアリアと同じようなことが出来たんだろう」
黒竜を倒した時、私はアリアがいつもしているように大気からマナを吸えた。
そのことをフローラを始めとした皆に話しても、そんなこと出来る訳ないって信用されなかった。
確かにあれ以来出来てないから無理もないけどさ。
「うーん、ちょっと私にも良く分からないや。ごめんね、ヒメナ。力になれなくて」
「ううん、ありがと。アリア」
大気からマナを取り込める人間なんていないってフローラは言ってたけど、実際マナが見える私にはアリアがマナを吸い込んでるのが見えるし、私も実際吸い込んだ。
そんなこと出来るのは私達二人しか見たことない。
もしかして、私達二人は何か特別な力を持ってるのかなぁ?
私は……魔法がないけど、その力をアリアみたいに自由に使えれば、もっと強くなれるのに。
「……あのヒメナ……悪いんだけど、少しお花が摘みたくて……」
恥ずかしそうに告げるアリア、可愛いなぁ。
あぁ、抱いてしまいたいほど愛おしい。
はぁ……はぁ……ここで抱いてしまおうか。
そんな興奮を死ぬ気で抑え、アリアをトイレへと連れて行く。
お手洗いを済ませた私達は、再びアリアの部屋へと戻るために、アリアと腕を組んで廊下を歩いていると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「どうしたんだろう。マナの感じベラと複数人がいるみたいだけど……何かのトラブルかな?」
「行ってみよう、ヒメナ。ここは王城……ベラに不都合があってはいけないから」
私とアリアは喧騒が聞こえる方へと、足を運んだ――。