王都の端にある大教会。
 教会内に避難する国民達を白犬騎士団が警護する形で守っている。

 王城は多くの兵士達が守備していたので安全ではあったが、アリアは国民達が心配でルーナと共に大教会へ赴いていた。

「良かった……白犬騎士団が国民を守ってくれてるようね。これならさっきの大きい黒竜さえ攻めて来なければ安全だわ」

「なら私達も戦場に行こう、ルーナ。私を連れて行って。ヒメナ達のために歌いたいの」

「駄目よ。魔物がこれだけ統率されているだけでも異常事態……それに相手の狙いはアリアよ。王城からここまで移動するのもヒヤヒヤしたのに、前線なんて考えられないわ」

 ルーナの案を聞き、確かに自分が戦場に行くことで戦況が混乱するかも知れないとアリアは考えるも、ここにただいることはもどかしく思っていた。

「ここでも、アリアなら出来ることがきっとあるわ」

 ルーナが視線を送った先を見ると、王都に住む民達は避難して少しの安心感を得たせいか、混乱から騒ぎ始めていた。

「ママァ! 怖いよう!」
「どうなってるのよ、一体!?」
「俺の家……壊されちまったんだぞ!! これからどうすりゃいいんだよ!?」
「家が何だ!? 私は妻が……妻が殺されたんだぞ!!」

 一つの混乱は次第に広がっていき、教会内全体が大騒ぎとなって行く。

 そんな狂乱の中、自分に出来ることを考えたアリアは大きく息を吸い込み――。

【安らぎの歌】

 歌い始めた。

 人が多く集まる礼拝堂の祭壇から歌が聞こえてきた。
 人々の心に安らぎを与える、天使のような歌声。

 幼い頃にヒメナと一緒にいる時に歌っていた歌は久しぶりに歌うにも関わらず、可憐で洗練されている。
 教会内はアリアのマナで満ちていった。

「おぉ……歌姫様……」
「心が洗われるようじゃ……」
「まるで……天使……」

 アリアの歌を聴いて酔いそれた王都民は騒ぐのを止め、大教会内の混乱は収まりつつある。
 ひとしきり歌い、国民が落ち着いた時、アリアは民に説きはじめた。

「皆様ご安心下さい。王都は戦地となっておりますが、皆様のことは白犬騎士団が守って下さります」

 皆、黙ってアリアの演説を静聴する。
 アリアが不可思議な力を持っていることは身をもって体験し、聞く耳を立てているからだ。

「私の友である冥土隊、そして紫狼騎士団や兵士の方々も今王都で闘っております。皆様の大切なモノ……全てを守れるとは言えませんが、皆様の大切なモノを守るために」

 アリアが祈るように両手を組むと、王都民も導かれるように両手を組み始めた。

「私達は祈りましょう。王都のために闘う人々の為に」

 そして全員で祈りを捧げる。
 命を賭けて闘う戦士達のために――。


*****


 王都は未だ飛竜達の攻撃を受け、破壊されていた。
 私達は自由に空を舞う飛竜に苦戦している。
 遂に降って来た雨もあって、闘いにくい戦場となっていた。

「魔技【アイススパイク】!!」

 ブレアが金槌から打ち込んだ【氷結】のつららを飛竜達は華麗に躱していく。

「うっぜー!! ひらひら飛びやがってよ!! 地面に降りてこい、こんにゃろーめ!!」

 そんな中、ベラはブレアの【アイススパイク】を躱した飛竜の地面に映る影を追っていた。

「魔技【影切】」

 太陽が地面に映す飛竜の影を、マナを込めた大鎌で切り裂くベラ。
 私がベラ何をやっているのか分からずにいると――。
 
「ウガァ!?」

 ベラが斬った影の主、上空を飛んでいた飛竜が翼に突然怪我を負って、よろめいて落ちてくる。

「今よぉ」

「はいよっと!」

 そんな飛竜の口内に、空中で槍を突っ込んだエマは、槍の穂先を体内で【爆発】させた。
 体内で内臓を爆破された飛竜は絶命し、飛竜は地に落ち、エマは着地する。

「面倒かけてすまないね」

「いいわよぉ、持ちつ持たれつつて言うでしょぉ?」

 ベラとエマは正に阿吽の呼吸。
 二人で一つになって飛竜の討伐に当たっている。

「ちきしょーが! またあたいの獲物奪いやがって!! 魔技【アイススパイク】!!」

 一方ブレアの魔技は、スイスイと躱されるだけだった。
 飛竜が器用なのか、ブレアが不器用なのかどっちなんだろう。

「ちょっと、ブレア! 何とか当ててよ!! 私は遠距離攻撃なんて無いんだから何にも出来ないじゃん!!」

「っせーよ、バーカ!! 右手も魔法も無いヤツが偉そうに言ってんじゃねーや!!」

「……うっ……」
 
 ド正論で返されて、口喧嘩に負けてしまう。

 だったら、どうしろってのよ。
 【瞬歩】でも届かない距離だし、普通に跳んで攻撃しても躱されるだけだし……。
 この状況で魔法が無い私に出来ることなんてないんだもん……。

「おーい、ヒメナよーいっ!!」

 私が肩を落としていると、後ろから甲高い声が聞こえて来る。
 振り返ると、紫狼騎士団の副団長であるフェデルタさんと、両手で何かを抱えたフローラが駆け寄って来て、黒い何かを渡してきた。

「出来たぞーいっ!!」

 その黒い何かとは――。

「これって……まさか義手!?」

 禍々しくも見える漆黒の義手。

 右腕の義手の甲には魔石が埋め込まれており、手の平には何故か穴が開いていた。
 指先は尖っており、日常生活ではなく戦闘に特化したような作りになっていることが窺える。

「たっはっはー、時間かかっちってごめんねーっ! でもボク史上最高の出来の魔法具だよーっ!! そのまま右腕につけてごらんよっ!! ヒメナのマナで自由に動くから!!」

 私はフローラに言われた通り、右腕の先を取り戻すかのように装着する。
 装着した時、埋め込まれた魔石が光って私の体の一部となった。

 マナを通せば握ったり、開いたりできてる……。
 手首も指の一本一本まで綺麗に動く……。
 まるで今までついてたかのようにすら感じた。

「うんっ、ちゃんと稼働してるねっ! 問題なさそうだーっ!!」

「フローラ……」

 二度と……もう二度と手に入らないと思っていたのに……。
 ちょっと厳つ過ぎるけど……私の……右手だ!!

「ありがとう!!」

 私は半泣きでフローラへと抱きついた。
 アッシュに斬り落とされてから、もうずっと無くて二度と手に入らないと思っていたモノ……。
 それをフローラが作ってくれたんだ。

「おいおーいっ! 泣くのはまだ早いぞ、ヒメナっ!!」

「ほぇ?」

 フローラは私の肩を掴み、私を引き剥がす。

「その右手の平を飛んでる飛竜に向けて闘気を込めてみなー」

「こう?」

 私はフローラが作ってくれた右手の平を飛んでいる一体の飛竜に向け、闘技を使う要領でマナ操作で右手へとマナを集め、闘気へと変えた。

 すると――右手の平に作られた穴から、私の闘気が光線となって飛竜へと放たれる。

「ガアアァァ!?」

 闘気の光線をまともに受けた飛竜は悲鳴を上げて、塵も残さず消滅した。
 これには流石にエマもベラもブレアもフェデルタさんも、そして当の本人である私も思わず唖然とする。

「……ほえぇ!? この右手どうなってんの!?」

「たっはっはー! その魔法具の義手の必殺技、名付けて【闘気砲】!! すごいだろーっ、えっへん!!」

 いや、女の子としては普通の義手で良かったのに……とは思ったけど、自慢気に胸を張るフローラに何も言えないや……。

「あなたのお友達……天才ね……」

 フェデルタさんはフローラの作った魔法具の義手を見て、唖然と呟くのであった――。