終焉の歌 ~右腕を失って追放されても、修行をして歌姫の元にメイドとして帰ってきます~

 翌日――。
 今日のアリアのお世話はルーナとベラが担当するらしく、フローラはブレアの魔法具の修理と私の魔法具の開発をしていて、エマは王城の外へと用があるみたい。

 ボースハイト王城の敷地には、どうやら騎士だけが使える訓練所があるらしい。
 私は馴染まない黒いメイド服とカチューシャを纏って、ロランに呼び出されたため、ブレアに案内してもらうことにした。

「何であたいがお前を案内しなくちゃいけないんだよ!?」

「あんたしか暇人いなかったら仕方ないじゃない!!」

「昔と何も変わってねーな、お前!!」

「あんたも生意気なままね!!」

 二人で喧嘩をしながら、訓練所へと向かう。
 ブレアがほとんど成長してないせいか、ブレアだけは五年ぶりに会った気がしない。
 昔からのやりとりだ。

「ほらっ! ここだ、ここ!」

 訓練所は魔法が外に飛び火しないようにか、高く厚い壁で隔たれている。
 中へと入って長い通路を出ると、円形状の景色が広がっていた。

「ちぇっ! 気にいらねぇヤツらがいやがるぜっ!!」

「ほぇ?」

 既に訓練所はどこかの騎士団に使用されており、どうやら行軍の訓練をしているようだ。

「回れー、右!!」

「「「一、二!!」」」

 凄い綺麗に揃ってるや。
 何十人もいるのに一人としてズレを感じない。
 鎧の色も揃ってて、まるで芸術品のような美しさだ。
 けど、あれって――。

「白犬騎士団のバカ共、戦闘に何の意味ねぇことしやがって! あんなのいつ使うんだよ!!」

 だよねー。
 ブレアと意見が同じのは気に入らないけど、私もあれが戦闘の何の役に立つのか分かんないや。

「ぎゃははは! 同感だぜ、ちっこいの!!」

 後ろから燃えるような赤髪を逆立たせた人が、大らかに笑いながら話しかけてきた。

「誰がチビだこら!? って、てめぇは……赤鳥騎士団団長のモルテ!!」

「お、俺のこと知ってんのか? って、げぇ〜。お前らロランの部下のなんたら隊じゃねぇかよ!!」

 なんたら隊って何一つ覚えてないじゃん。
 何か豪快な人だなぁ。

 でも……この人のマナ量、ポワンには遠く及ばないけど、アッシュやカニバルやロランより多い……?

「あの……強いですね」

 マナ量の多さにびっくりした私は、思わず話しかけてしまう。

「ぎゃははは! ったりめーよ!! これでも騎士団の団長だかんな!! あっこにいる白いワン公と一緒にすんじゃねーっての!!」

 白いワン公って号令を出してる、いかにも騎士って感じの頭固そうな髭のおじさんのことかな?
 確かに紫狼騎士団の副団長のフェデルタさんとかよりかは強そうだけど、ロランやモルテさんよりかは大分劣りそう。

「では、今日の訓練はここまでであーる!! 各自復習しておくように!! では、解散!!」

 白いワン公と称された白犬騎士団の団長は訓練を終え、こちらへと向かってくる。
 訓練所に出入りできる通路はここだけだから、帰るつもりなのかな?

「赤鳥の! こんな所で何しておるであるか!? 盗み見とは趣味が悪いであーる!!」

「あぁ? てめぇらのクソほど意味もねー行軍訓練なんか興味もわかねーよ。ロランの野郎に借り返せって言われて、呼び出されただけだっつーの」

「意味もない訓練であるだと!? 突撃の命令しか出せず悪戯に兵を減らす貴様と、某を同じと思うなであーる!! 某は貴様と違って戦争は個の力ではなく、全の力と考えてるであーる!! 行軍の訓練はその力を――」

「あー、はいはい。わかったからとっとと失せろ。こちとらロランの野郎とこれから会わなきゃいけねーってんで機嫌悪ぃんだよ。いつまでもキャンキャン鳴いてっと、ぶっ殺すぞ」

 騎士団長同士出会っていきなり口喧嘩しだしたけど、仲悪過ぎでしょ。
 ぶっ殺すって怖っ!

「まぁまぁ、モルテさんもアールさんも落ち着いて下さいよ」

 私達の背後から遅れてやって来たロランが、モルテさんと白犬騎士団団長のアールさんの仲裁に入った。

「ぬぬっ、ロラン殿」

「あん?」

 二人の間に入り、アールさんの方を向くロラン。

「貴殿のような利口なお方が、モルテさんの相手をすることはありませんよ。個より全の力、僕は素晴らしい考えだと思います」

「ふふ……それもそうであーるな! ロラン殿に感謝するが良い、モルテ!!」

 ロランの言葉に満足気なアールさんは捨て台詞を吐いて、白犬騎士団の人達を引き連れて訓練所を後にしていく。

 この人達……体内のマナ量も大したことないし、一人一人は弱いな。 
 アールさんが連れてきた白犬騎士団の人達は、新人の人達なのかな?

「けっ! 重役から気に入られてるロランにはその態度かよ。忠犬のワン公がよぉ」

「モルテさんこそ狂犬じゃないですか。いっそ騎士団の名称交換してみては?」

「っせぇんだよ、ロラン!! 何でこんな所に俺を呼び出したんだよ!? 借りつっても一年半前くらいのアレだろ!? 逐一覚えてやがって! うぜぇったらねぇや!!」

「あははっ、記憶力良いんですよ。特に貸しのことに関しては忘れることはありません。借りは忘れますけどね」

 騎士団長同士って皆仲悪いの?
 っていうより、モルテさんが喧嘩っ早いのかな?
 にしても、ロランはやっぱり性格悪ぅ。
 人によって態度変えてんだ。

「ここに二人を呼び出したのは、二人に模擬戦をしてもらいたいからです」

「あ?」
「ほぇ?」

 模擬戦って……どういうこと?


*****


 疑問が残るまま、私とモルテさんは訓練所の中央で対峙した。
 ロランとブレアは壁際に立って、見学しようとしている。

 私がどうすればいいのか戸惑っていると、モルテさんが私の顔を覗き込んでくる。

「てめぇってあれだろ? 冥土隊とかいうやつ。見たこともねー顔だけど、新顔か?」

「えっと……ヒメナって言います。まぁ、そういうことになるのかな?」

 昔から皆とは一緒だったけど、冥土隊に入ったのは最近だもんねー。

「……つーこった、もしかして俺はお前の実力を見るために当て馬ってやつにされたってことか?」

「ほぇ?」

 あー、なるほど。
 確かにロランの前で闘ってないから、私の実力ロランはわかんないもんね。
 それにしても、相手が騎士団団長は流石に荷が重いんだけど……。

「俺は赤鳥騎士団団長、モルテ・フェリックス……鳥頭って言われんのは光栄だけどよぉ……当て馬だと!? ふざけんな!! 俺は鳥だって言ってんだろーが!!」

 怒るのそこ!?
 普通は当て馬にされたことを怒らない!?
 ほえぇ〜、何なのこの人!?
「てめぇから来い!! 殺す気で来ねぇと殺しちまうぞ!!」

 両手を広げ、どこからでも来いと誘ってくるような構えをとるモルテさん。
 闘気も纏わず、魔法も使う気配がない……私、舐められてる?

 一年前にフリーエンが私は騎士団副団長クラスの闘気だって言ってたけど、今の私は闘気だけで言えば、もしかしたら騎士団長クラスはあるのかもしれない。

 腕試しの良い機会――殺す気で全力で闘う!!

 私は【瞬歩】で一瞬でモルテさんとの距離を詰める。

「お?」

 何か狙いがあるのか、目の前に突如現れた私に喜んだだけで、動く様子すらない。
 なら――。

【螺旋手】

 私はアッシュと闘った時のように、闘気を集中した一撃必殺の回転させた貫手、【螺旋手】をモルテさんの心臓に向かって打ち込んだ。

 アッシュは【瞬歩】でかわしてきたけど、どういう対応をするんだろう?

 その先を考え打ち込んだが――。

「ほぇ……?」

 結果は予想外のものだった。


「ごふっ……」


 私の左手はモルテさんの胸を貫き、返り血を浴びる。


「え……嘘……?」

 こんなに簡単に貫いてしまうとは思わなかった。
 相手は騎士団団長――こっちからしたら、試し打ちのつもりだったのに……まさか、殺しちゃうことになるなんて……。

 思わず、フラッシュバックのように思い出した。
 ルグレの胸を貫き、殺した――あの時を。

 私が震えながら貫手をモルテさんから抜くと、気づけば私の首の横にモルテさんの手刀が置いてあった。

「てめぇの負けだな。戦場だったら首刎ねてんぞ」

 ……ほぇ?
 気付けばモルテさんの胸の傷が完全に元通りとなってる……。
 私が【螺旋手】で貫いたはずなのに、どういうこと!?

「ぎゃははは!! 素っ頓狂な顔しやがって! 俺の魔法は【不死】! 俺が死ぬことはねぇ!! 安心して殺しやがれ!!」

 【不死】って……死なないってこと!?
 そんなの反則じゃん!!

「だから言ったろーが、殺す気で来いってよぉ!!」

 完治したモルテさんは闘気を纏い、戦闘は再開された――。


*****


「ふーん……なるほどね」

 ヒメナとモルテの一進一退の攻防を、ロランは興味深そうに眺める。
 隣にいるブレアは、ヒメナがモルテと同等に闘えていることに驚きつつも、模擬戦をさせているロランの思惑がわからなかった。

「おい、こりゃどういうつもりだよ?」

「君には関係のないことだよ」

 モルテにヒメナの模擬戦の相手をさせたのは、先のリユニオン攻防戦の際にヒメナの実力を目にしてなかったからだ。

 ヒメナの自然と足音を殺した歩き方などを見て、只者ではないと思ってはいたが、騎士団長を相手にどの程度通用するのか見てみたかったからである。

「一朝一夕では身に付かない洗練された闘技だ。魔法は使わないのかな? それとも、鳥頭みたいなタイプの魔法なのかな? ねぇ、何か知ってる?」

「……さぁ、知らねぇな!!」

「ふーん」

 ブレアはヒメナが魔法を持ってないことを知っているが、わざわざロランに弱みを握らせる訳はなく、嘘をつく。
 しかし、モルテが素手とはいえ同等に闘え、自身よりはるかに強いロランに興味を持たれるヒメナに、強さへのこだわりが強いブレアは――。

「あたいだって……!!」

 どこか嫉妬心を抱き始めていた。


*****


 私とモルテさんは素手による、殴り合いを繰り広げていた。

 もう三回は殺したはずだけど……何度怪我をさせても回復して、殺しても蘇るなんてアリ!?

 闘気の力強さ自体は同等に近いけど、闘技の差で僅かに力量は私が上回っているも、不死鳥のように蘇るモルテさんの闘い方に四苦八苦して苦戦をしいられていた。

 【不死】であるが故に死を恐れないし、【不死】を利用して反撃してくる。
 こんな魔法……闘い方があるんだ……!!

「おらおら、どうしたぁ!?」

 変わらず殴りに来るモルテさんは、自信があるのか弱みを見せない。
 だけど、私は【不死】の弱点を見つけていた。

 傷が回復したり蘇るたびに、モルテさんは体内のマナを消費している。
 つまり、蘇るといっても回数に制限があるはずだ。

 その回数分モルテさんを殺せば、モルテさんを倒せるということだろう……けど、かなりのマナを持っているため、おそらく数十回は殺さないとモルテさんは死なない。

「モルテさんの魔法……反則じゃない!?」

「ぎゃははは!! 良く言われんぜ!!」

 私は【断絶脚】でモルテさんの左腕を刎ねるも、蹴りをお腹に受けて吹き飛ばされる。

「……っ……!!」

 吹き飛ばされ、体制をととのえた私の喉物には、闘気を纏ったモルテさんの手刀があった。

「うっ……」

 戦場なら私は二回モルテさんに殺されてる。
 一度目は油断で、二度目は魔法があるかなしかの差で……。

「はい、そこまで」

 私とモルテさんの模擬戦を見ていたロランが拍手をしながら、戦闘を止めるために近づいて来た。

「おい、ロラン!! 何だこいつは!?」

 模擬戦を終えて、モルテさんは私を指差して怒り出す。
 私が……不甲斐なかったのかな?
 でも、全力で闘ったんだけど……。

「こんな面白いヤツ、どこで見っけたんだ!? 闘気も俺クラスで、色んな闘技をこんな器用に使えるヤツなんて王国にゃいねぇぞ!? 赤鳥騎士団によこせ!!」

「それは出来ませんね。モルテさんに借りはあっても貸しはありませんし」

 ほぇ?
 これって……モルテさんに褒められてる?
 ロランと私の取り合いしてら。

「それでモルテさんには借りを返して欲しいのですが、モルテさんが暇な時にこの子……ヒメナちゃんと模擬戦をして、鍛えてあげてくれませんか? 死なないモルテさん相手ならこの子も全力を出せるでしょうし」

「ロランてめぇ言ったな!? それで貸し借りなしだぞ!! むしろ俺にとってもありがてぇや! ウチには副団長のシャルジュ以外骨のあるヤツいやしねぇしな!! ぎゃははは!!」

 私の肩をバシバシと叩くモルテさんは、良い訓練相手が見つかったからか実に嬉しそうだ。

 私も騎士団団長のモルテさんに強さを認められて、これからも模擬戦ができるのは嬉しいけど……これはロランの提案だ、きっと何か狙いがあるんだろう。
 だけど、どうせ私に拒否権はないんだろうな。


*****


 訓練所を出ようとするロランを待ち受けていたブレア。

「おい、ロラン。ヒメナを鍛えようとるなんて何が狙いだ?」

 ブレアは迷うということが少ない。
 故に悩みそうな事案はすぐに解決しようとする。
 今回も例外ではなかった。

「さて、何でだろうねぇ」

「ちぇっ!! これだからお前の話すのは嫌いなんだ!!」

 思わしげなことを言うだけ言って、横を通り過ぎて去って行くロランに、ブレアは捨て台詞を吐いた。


 アリアを取り巻く環境下でヒメナが騎士団長に迫る程の強さを手に入れることは、ロランにとってメリットもデメリットもある。

 メリットは帝国側にアリアを殺されたり、奪われにくくなること。
 デメリットはアリアを連れて冥土隊と共に逃げられること。

「ヒメナちゃん。せいぜい頑張っておくれよ」

 しかし、そう呟いたロランにとってはデメリットというリスクは個人的な楽しみの一つなだけであった。
 私が王都に戻り、王城に住んでから一か月が経った。

 ブレアが壊した魔法具を直し終えたフローラが、私の義手の製作に取り掛かってくれている。
 フローラ曰く、もっと早く出来る予定だったらしかったけど、何だか変な機能を付けたいらしく時間がかかってるみたい。

 私の右手をどんなのにする気……?
 普通の義手で良かったのに……。

 かく言う私は、戦争の前線が少し落ち着いていて暇を持て余すモルテさんに、毎日のように訓練所に拉致されている。
 アリアと一緒にいたいから、アリアのお世話とかもしたいのにぃ〜。

「おらおらぁ!!」

「はああぁぁ!!」

 という訳で、絶賛訓練中。
 最近はモルテさんを十回位は殺せるようにはなった。
 それでも結局モルテさんのマナ量が多過ぎて倒すには程遠いんだけどね。


 ――模擬戦を終え、モルテさんと一息つく。

「ぎゃははは!! 今日もまた俺の勝ちだな!!」

 今日も結局モルテさんを倒しきれないで負けてしまった。
 うーん、どうやったらモルテさんを倒せるんだろう。

「にしても、お前ほど骨のあるやつは久しぶりだわ。お前、正式に赤鳥騎士団に来いや」

「ほぇ?」

 私が悩んでいると、モルテさんが勧誘してきた。
 そんなに、私のこと気に入ってくれたんだ。
 この人は裏表がないから、私も好きだ。
 もちろん、恋愛感情は皆無だけど。

「赤鳥騎士団に来たらいいぞぉ〜。なんせ、俺は突撃の命令以外出さねぇからな!! ロランみたいにまどろっこしくねぇ!!」

「ほぇ!?」

 赤鳥騎士団は前線に行かされることが多くて死傷者が尋常じゃないって聞いたけど、この人のせいじゃないのかな!?

「どうだ? お前もあんな腹黒野郎に着いてくのは嫌だろ!?」

 それはもちろん嫌だしモルテさんのことは好きだけど……赤鳥騎士団にはなくて、紫狼騎士団にはあるモノがあるから。

「私、アリア……歌姫とは親友なんです。だから……ごめんなさい」

「……ったく、振られちまったかーっ。お前ならシャルジュみたいに簡単にゃ死なないと思ったのによーっ。皆死にやがるから今赤鳥騎士団、正式にゃ三人だぜ、三人。後は傭兵と兵士で補填してるだけだから、雑魚しかいやしねぇ」

 か……簡単に死ぬような命令出さないようにしたらいいんじゃないかな?
 逆に赤鳥騎士団が闘う所を見てみたくなって来るよ。

「まぁお前が決めてんだったら、しゃーねぇか。気が変わったらいつでも言えや!」

 そういって私の背中をバシバシと叩いて来るモルテさん。
 本当に豪快で面白い人だなぁ。

「モルテ団長ーっ!!」

「あぁ?」
「ほぇ?」

 私達が談笑していると、甲高い女性の叫び声が聞こえてくる。
 眼鏡をかけ、紫色のカールした髪の女性が巨乳を揺らしながら走ってきていた。
 いや、走ってるけど……遅っ!!

「ぶぇ!?」

 そして何もない所で転んだ。
 おでこを打ったのかおでこを抑えてうずくまっている。
 私達が近付いた方が早そうなので、うずくまってるナーエさんの元へとモルテさんと私は歩いた。

「おい、ナーラ。大丈夫か?」

「ナーラじゃない! ナーエです、ナーエ!! 何回言ったら覚えるんですか!? 鳥頭団長!!」

 ズレた眼鏡を直し、こけた際についた砂埃を払うナーエさん。
 しっかりしているように装っているけど、多分この人……天然だ。

「ぎゃははは!! まぁ、何でもいーじゃねーか。名前なんてよ。んで、どうした?」

「はっ! そうでした!! これを見て下さい!!」

 ナーエはモルテさんと私に、持っている本を見せる。

「「何だこりゃ?」」

 ナーエさんの本に書かれていた内容はこうだった。


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 ななな、何てことよー!?

 王都に突然魔物の大群が攻めてくるなんて!!
 それも飛竜ばっかり!!

 やっぱり赤鳥騎士団みたいな馬鹿の集団に入らないで、実家に帰るべきだったんだ!!
 王都はみんな焼かれちゃうし、人は大勢死んでるし、私ももう殺されちゃうよー!!


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 妄想日記かよ……。
 
「おい。妄想働かすくらいなら闘気くらい扱えるようにしろっつーの」

「何回説明すれば良いんですか!?私の魔法は【予知】だって言ったでしょ!? もうすぐ起こるんですよ!! ここに書かれたことが!!」

 もうすぐここに書かれたことが起こる?
 ってことは――これは妄想じゃなくて現実に起こるってこと!?

「【予知】ってことは……王都が魔物の群れに襲われる!?」

「だから、さっきからそう言ってるじゃないですか!?」

「ぎゃははは!! だったら最高じゃねーか!! 飛竜の大群か、ワクワクすんぜ!!」

 戦闘馬鹿のモルテさんは笑ってるけど、冗談じゃ済まないよ!?

「ナーエさん、ちょっと飛ばすよ!!」

「へ? ええええ!?」

 私はナーエさんを左手で抱え、急いで嫌いなロランの元へと向かった――。


*****


 王城の廊下でロランを見つけた私は、ナーエさんの【予知】の魔法の話をした。
 いの一番にロランに話をしたのは、ロランなら状況を理解するのも早く、迅速に行動すると思ったからだ。
 大大大っ大嫌いだけど!

「【予知】ねぇ……どれくらい確かな情報なんだい? これは」

「えっと……魔法を使うと私の身に起こる一時間以内の出来事を自動書記します」

「で、これを書いたのはいつだい?」

「多分、一時間くらい前です。そこからモルテ団長を探してて……」

 ほぇ? 一時間前ってことは……もう……。
 嫌な予感がよぎった私が、ふと窓から外を見ると――飛んだ飛竜が大口を開けていた。
 飛竜という魔物は――マナに満ちた場所でトカゲなどの爬虫類が魔族化してなるとポワンに聞いたことがある。

 成長した飛竜は、人くらいの大きさでも人を遥かに超える力を持ち、皮膚は鋼鉄より硬く、空も飛び、魔法も扱うモノもいる。
 マナが満ちた場所で大きくなり、数百年生きた飛竜なんかはとんでもない強さを誇るらしい。

 そんな私達より体の大きい茶色の飛竜は大きな口を開け、その口内から私達に向け炎のブレスが放出されようとしていた。

「!!」

 今正にブレスが放出されようとした時、私は回避するためにナーエさんを庇う形で、闘気を纏って王城の廊下の床に向かって伏せる。

 ――だけど、ロランは違った。
 【瞬歩】を使い、窓を割って飛んでいる飛竜の頭に飛び乗り、いつの間にか抜いていたレイピアを、飛竜の炎を吐こうとしている口を閉じるかの様に突き刺していた。

 飛竜の口である炎の出口が閉じられたため、飛竜の炎は体内で暴発し、爆発する。

 煙を吐き、地へと堕ちていく飛竜。
 共に落ちていくロランは既に刺したレイピアを抜き、次の攻撃の準備に入っていた。

「魔技【雷突】」

 紫の電気をまとった刺突は鋼鉄より硬い飛竜の体ごと心臓を貫き、既に虫の息ほどだった息の根を止める。
 立ち上がって窓から覗くと、電撃を受けて焦げた飛竜の死体の上でロランは空を見上げていた。

 ロランのヤツ……やっぱり強い……。
 戦闘力だけじゃなくて、判断力も早い……。
 ナーエさんを庇って避ける判断をした私と違い、被害を出さずに飛竜を瞬殺した。

 ロランが上空を嬉しそうに見上げているため、釣られて私も空を見上げると――。

「何……これ?」

 王都の雲行きが怪しく、今にも雨が降りそうな空には、飛竜の群れが我が物顔で飛んでいた。

 数は数十……?
 いや、ゆうに百は超えてる……!!
 飛竜……魔物があんな数も集まるなんて、あり得ない!!

「だから言ったじゃないですかあぁ!!」

 そう叫んだナーエさんは逃げるかのように、どこかへと走って行った。
 でも……遅っ!
 しかもまたこけてるし!

「ヒメナちゃん、君は歌姫の所へ行っておいで。紫狼騎士団は全員迎撃に入る。【狂戦士の歌】は飛んでいる飛竜相手には効果は薄そうだし必要ないから、君達冥土隊で歌姫を守るんだ」

 ロランに声を掛けられ、ナーエさんの運動音痴ぶりを夢中に見ていた私は我に返る。

「……そうだ、アリア!!」

 アリアは失明している、ナーエさんに教えてもらった私と違って状況も分かってない可能性も高い。
 アッシュはアリアを奪おうとしてた……今回も例外じゃないかもしれない……!!

 私は闘気を纏って急いでアリアの部屋へと向かった――。


 アリアの部屋の前では警備兼監視役の紫狼騎士団の騎士が二人おり、先の飛竜とロランとの戦闘音を聞いて、二人でどうするか相談している様だった。
 つまり、まだアリアの部屋に異変はないと予想できる。

 もしかしたら、アッシュみたいにアリアを攫いに来たんじゃないかって思ったけど、良かった……間に合って。

 そう安心した時――アリアの部屋から窓が割れる音が鳴り響いた。

「どいてっ!!」

 私は走ったままの勢いで騎士の二人をどかし、勢いよくドアを開ける。

「!!」

 広い部屋の窓は破られ、そこからは黒い特大の飛竜がアリアと顔を見合わせており、アリアを庇う様に脇にはルーナとベラが武器を抜いて構えていた。

 飛竜っていうより……神話とかに出てくるドラゴンじゃん!
 マナ量もポワンよりは下だけど……四帝級だ!!

 そんな巨大な黒竜の頭の上には、杖を持ったおじいさんが乗っている。

「ふぉっふぉっ。ワシは死帝ルシェルシュ・オキュルト様の直属の部下、レイン・パペッターじゃ」

 死帝ってことは……四帝の一人の……!?
 四帝の一人が来てるの!?
 でも、このレインってお爺ちゃんはマナ量は私よりも低く、とても強くは見えないけど……。

「歌姫様をどうかこの老いぼれに譲ってくれんかの? 其方らの命は保証するぞい」

「冗談じゃないわ、アリアは渡さない」

「ふぉっふぉっ。さようか、残念じゃわい」

 ルーナがそう答えると、レインが杖でコツンと黒竜の頭を叩く。
 黒竜はアリアの部屋に突っ込んだ顔を引き抜き――。

「尊い若者の命を散らすことになるのはの」

 巨大な腕をアリアを掴むために振りかぶった。

「ヒメナ、ベラ!! アリアを!!」

 ルーナがそう叫んだ瞬間、私は【瞬歩】でアリアの元へと跳び、庇う形で前に出ると、【瞬歩】を使えないベラも遅れてアリアの前へと出てきた。

 一方指示を出したルーナは、アリアを捕えようと腕を突っ込もうとする黒竜に向けて飛び込み、黒竜の腕と交差する形となる。
 ルーナは眼下にある、黒竜の腕に対して大剣を振りがぶった。

 ルーナの闘気じゃ……あの黒竜の体は斬れない!!
 そう考えた私がアリアを抱きかかえ、黒竜の腕から逃れることに専念しようとしていると――。

「魔技【一文字】」

 ルーナは黒竜の腕を切断した。

「グォアアァァ!!」

「「!!」」

 左腕を切断された痛みから、黒竜は大声を上げて鳴き叫ぶ。
 巨体の黒竜の腕をルーナが斬り落とせると思っていなかった、私と敵のレインは驚きを隠せなかった。
 そんな中、切り落とした左腕を利用して、ルーナは私達の元へと跳んで戻ってくる。

 そういえば、ルーナの魔法は【切断】って言ってた……あの黒竜の体がいくら硬かろうが関係ないんだ。

「ぬぅ……!! 手に入らないのであれば、殺すのみじゃ!! やれぃ、セイブルよ!!」

 セイブルと呼ばれた黒竜は巨大な口を開け、ブレスを吐こうと喉元に黒い何かを溜めた。

 私は先のロランと飛竜の闘いを思い出す。
 このまま避けるだけでは、駄目だ……攻める!!

 【瞬歩】を使い、巨体のセイブルのアゴ下へと高速移動した私は、今正にブレスを吐こうとしている黒竜の顎を上に向かい、闘気を纏って全力で蹴り飛ばす。

「ぬぉ!?」

 私の蹴りで首を上と曲げた黒竜セイブル。
 レインはセイブルの頭に乗っていたため、振り落とされそうになり声を上げてしがみつく。

 首を上へと曲げたセイブルは上空に向けて黒い光線のようなブレスを吐き出した。
 強烈なブレスは上空を飛んでいた飛竜を二体程巻き込んで消滅させ、雲を貫き天までの昇る。

 何て威力……!?
 もしあれが私達の方に向けられてたら……。
 王都に撃たれたりなんかしたら……。

 黒竜セイブルの巨体の足元に着地した私とルーナを見て、レインはうろたえていた。

「相性が悪い! 一度引くぞい、セイブル!!」

 私達を脅威と感じたのか、レインはセイブルと共に上空へ飛んで退いていく。

 引いてくれたのはこちらとしても助かるけど……飛ばれたら手が出せない。

「ヒメナ、ベラ。アリアは私が守るから二人は王都の上に飛ぶ飛竜を何とかして。おそらく既に王都には被害が出てるわ」

「ほぇ!? レインの狙いはアリアなんだよ!? それに何でか魔物の飛竜を操ってるし……行けないよ!!」

 確かにルーナの魔法は飛竜と相性が良さそうだけど、一人で守り切れるの?

「私の魔法ならアリアを守りきれると思う。【切断】は飛竜の体もブレスも切れるはずだから」

 でも……それでも、やっぱり心配だよ。
 護衛がルーナ一人だなんて……。

「ヒメナ、ベラ行って」

 話を聞いていたアリアが、私達を促す。

「でも……」

「王都は……戦場から帰ってきた時、いつも暖かく迎えてくれるの。私達スラム街に住んで盗みとか働いてたのに……そんな優しい人達に死んでほしくない」

 アリアは昔と変わらない。
 いつだって優しくて、他人想い。

「お願い、ヒメナ」

 アリアを守るってことは……ただ、アリアを守ればいいのかな?

『強くなれ、ヒメナ。アリアだけは何に代えても守るんだ』

 エミリー先生はそういう意味で言ったんだろうけど、私は違う。

「わかった。ルーナ、アリアをお願い」

「任せて」

「アリア、私行くよ。アリアの守りたいもの守ってくる」

 アリアの想いごと、全部守りたいんだ。

「ヒメナ……ありがとう」

 私とベラはアリアの想いを背に、街に向かって駆け出した――。
 巨体の黒竜セイブルに乗ってヒメナ達から退いたレインは、王都の上空を飛ぶ飛竜の上に乗るルシェルシュの元へと戻っていた。

「申し訳ありませぬ……ルシェルシュ様。歌姫の捕獲に失敗してしまい――」

 ルシェルシュはレインが謝罪する前に、自身が乗る飛竜からセイブルの背に飛び移り、レインの首を強く絞める。

「……ぉぼ……何……を……」

「捕獲に失敗してしまい? それでなーに? ブレスで殺そうとしてたでしょー? 僕は無傷で捕獲しろって言ったよねー?」

「……皇帝陛下……の命で……」

「君は僕の部下でしょー? 僕の言うことを聞かないとー」

「……申し訳……ありませぬ……」

 ようやく首から手を離した、ルシェルシュは倒れ込んで咳き込むレインに言い放つ。

「別に君が生きてたって死んでたって僕にとってはどっちでもいいんだよー? ただ、歌姫は僕のもので絶対殺しちゃダメってだけ、わかるー?」

 レインははるか年下のルシェルシュに自身の頭を、まるで子供を諭すように撫でられ、ただただ怯え――。

「御意……!!」

 逆らう訳にはいかないと悟った。


*****


 私達だけが例外ではなく、城郭都市で高い壁に囲まれているはずの王都全体が百を超える飛竜に襲われていた。
 国民が飛竜から悲痛の叫びを上げて逃げる中――白犬騎士団、およそ百人は王都の最も広い広場で隊列をなし、王都を襲う飛竜と対峙していた。

「遠距離部隊、攻撃の準備をするのであーる!!」

 隊列後方の遠距離魔法を得意とする部隊は、飛竜に向け様々な武器を構える。

「放つのであーる!!」

 アールの指示と同時に、まるで虹のように様々な色の魔法が上空へ向けて飛んでいった。
 あまりの魔法の数に数匹の飛龍は躱しきれずに直撃を受け、地へと落下する。

「近距離部隊、墜ちた飛竜に攻撃するのであーる!!」

 アールの指示通りに、闘気も纏った前衛部隊が地面に落ちた飛竜に飛び付き、とどめを刺していった。

「ぬはははは!! やはり、戦場は個より全の力!! 分かったか、赤鳥の!?」

「へーへー、マジでうるせぇワン公だな」

 モルテの魔法は【不死】。故にマナが尽きない限りは死なない体ではあるが、ヒメナと同じく闘気や闘技で闘うしかなく、遠距離攻撃を持たない。

「ったくよー、飛んでんのがウザったらしくてしゃあねぇや。今日は模擬戦でヒメナに十回は殺されたから、いつもよりかは死ねねぇしよ。ヒメナも相当闘技連発してたけど大丈夫か、あいつ」

 無防備に建物の屋根に乗っているモルテに気付いた飛竜が、ヒメナを心配していたモルテの頭から齧り付いて下半身だけを残して丸呑みにする。

 モルテを丸呑みにした飛竜は次なる獲物を探そうとした時――。

「臭ぇ!!」

 下半身を既に飛竜の体内で再生させていたモルテは、よだれや胃液でべとべとになりながら飛竜の腹を剣で無理矢理こじ開けて出てきた。
 腹を裂かれ、内臓を巻き散らして絶命した飛竜はモルテと共に地面へと落下して着地する。

「飛んでるのがしゃら臭ぇ! 自分餌にして殺るしかねぇじゃねぇか!!」

「臭いとしゃら臭い、団長もナーメに釣られてギャグセンス上がりましたね」

 モルテの元にやって来たのは赤鳥騎士団副団長のシャルジュ。
 その巨体は返り血を浴びており、飛竜を何体か討伐したことが予想される。

「シャルジュ、何体やったよ?」

 シャルジュは少し考え、手を広げて指を一つ二つとゆっくり折り曲げる。
 モルテとシャルジュは手足の指の数までしか、数字を数えられないためだ。

「二体だけですね」

「くっそ、負けてるじゃねぇか。ったくよー、クソめんどくせぇ敵だよ。人間だったら楽なのによ」

「ですね」

 悪態をつく二人の前に、突如一匹の飛竜が降り立つ。

「ウガアアァァ!!」

 牽制するかの様に二人に向けて吠える飛竜を見て、モルテはニヤつく。

「こうやって向こうから来てくれたら楽なんだけどよ」

「確かに」

 シャルジュもポーカーフェイスのため無表情だが、内心喜んでいるようにも見えた。


*****


 私とベラが王都の街に出ると、王都の人達が阿鼻叫喚と飛竜から逃げるために走っており、街はいたる所が破壊されていた。

「いやああぁぁ!!」

 目の前で母子が飛竜に襲われ、悲鳴をあげる。
 まずい……あのままじゃ!!

 私は闘気を纏い、宙へと舞う。
 地に着く飛竜の上まで飛んだ私は、空中を前回りに回転しながら飛竜の首を目掛けて【闘技】を放った。

【断絶脚】

 飛竜の首を目掛けて放ったかかと落としは、飛竜の首を断ち切り、はね飛ばした。

「大丈夫!?」 

 私が母子の方を振り向くと、母子はどちらも怯えて震えているが、無傷そうだ。

「は……はい……助かりました……」

 母親が呆然としながら反応していると、子供が私のメイド服の裾を引っ張って来た。

「ありがとう、お姉ちゃん」

 死んだララと同じ年齢くらいだろうか。
 笑顔で心から感謝しているように見える。
 良かった……助けられて……。

「二人共、早く避難して!!」

「ここはぁ、戦場になるわよぉ」

 私とベラが退避するよう促すと、母子は一礼してその場から去って行った。

「助けれて良かったわねぇ、ヒメナぁ」

「うんっ!!」

 そんな混乱する王都の街中を走っていると、紫狼騎士団やブレアとエマが飛竜と交戦しているのを見つける。

「おらぁ!! 魔技【アイススパイク】!!」

 ブレアは【氷結】の魔法で自身の周りに氷を四つほど空中に浮かし、魔法具の金槌で空を飛ぶ飛竜に向けて氷を打ち込んだ。
 打ち込まれた氷はつららの形状となり、飛竜の翼を貫く。

「よっしゃ! ようやく落としたぜ!!」

 ブレアが翼を貫き落とした飛竜に向け突貫していくと、横から赤色のメイド服を翻したエマが飛竜の口内に向けて槍を突き刺し――飛竜の頭を内側から爆発させた。

「エマ! お前あたいの獲物を奪ってんじゃねーよ!!」

「別に手柄取り合ってる訳じゃ無いんだからさ。ウチは空中への遠距離攻撃を持ってないから、ブレアに撃ち落としてもらってウチが止めを刺したほうが効率が良いっしょ?」

 ブレアのやつ、絶命させた飛竜の傍らにいるエマに、獲物を取られて怒ってら。

「エマ、ブレア!!」

 私はそんな二人に声をかけ、どうするか話し合い始める。
 アリアにはルーナが付いていること、アリアの想いを守るために私とベラが駆けつけたことをまずは話した。

「王都ってどこか国民の人達を避難させれる場所ってないの!? これじゃ色んな人達を巻き込んじゃってまともに闘えないよ!」

「放っとけ、別に仲間でもねぇ国民なんか! 自分の身も守れねぇ程弱いのが悪ぃんだ!!」

 ブレアは本当に自分が仲間と思っている人間以外には薄情だ。
 昔から変わらないなぁ……。
 だけどアリアの願いを無下にする訳にはいかない。

「確かに……今のままだと闘う時に迂闊な動きをすれば、それだけ被害が出かねないさね。王都の人達をどこかにまとめて守る必要がある」

「あらあら、まぁまぁ。どうしましょう。皆混乱してるから大変そうよぉ」

 私の判断にエマは同意してくれたけど、ベラの言う通りだ。
 
 これだけ飛散している人達をひとつにまとめて守るなんて、それなりの強さを持った人が多く必要だ。
 私達四人だけじゃ絶対にできないよ……。
 そう思った、そんな時――。

「その任、我々が承るであーる!!」

「ほぇ?」

 私が振り返ると、背後には白犬騎士団団長のアールさんが偉そうに立っていた。
 いや、マナでこっそり壁に隠れてたのは気付いてたけど、声をかけてくるなんて思ってなかったや。

「白犬騎士団団長、アール様。任を承ると言うのはどういった意味でしょう?」

 エマも私と同じ気持ちだったのか、代表してアールさんに問う。

「某の白犬騎士団が国民を保護し、守ると言っているのであーる! ロラン殿の命で其方達、冥土隊は守ろうとしているのであーるだろう!?」

 ……なるほど、アールさんは途中から盗み聞きしてたんだな。

 途中からだから、ロランより上の立場の人が国民を保護するようにロランに頼んで、ロランの命令で私達が国民を守ろうとしているって勘違いしてるんだ。
 そして、自分の点数上げのためにそれを代わってやるってことね。
 モルテさんにワン公って言われる理由が何となく分かってきたや。

 私が不満そうにエマを見ると、エマはにっこりと笑ってアールさんに答える。

「上からの命令で国民達を避難させて守ろうとしているのですが、我々冥土隊は人数が少なくて困っていたんですよ。その任、お任せしてもよろしいでしょうか?」

「うむっ! 某達、白犬騎士団がその任承ったであーる!! 其方達は飛竜を討伐するのであーる!」

 エマに騙され、アールは王都の民達を避難させるために白犬騎士団が待つであろう場所に走り去っていく。

「ほぇ!? ロランからは何も言われてないよ!? アリアから言われたんだってさっき説明したでしょ!?」

「私達はアリアの従者だ。上からの命令には違いないさ」

 ペラペラと嘘をついたエマに私が驚いていると、エマは悪そうな顔でにやりと笑った。
 エマ……恐ろしい子……!!

 だけど、連携力が高く百人近い白犬騎士団は私達の予想より早く、迅速に国民を避難場所と決めた大教会へと導いていく。
 私達がやったらこうはいかないから、エマのしたことは正しかったんだ。

「ちんたらしやがって! あたいはもう行くぞ!!」

 ブレアは近くを飛んでいる飛竜の元に駆けていく。

「じゃぁ、私達もぉ」

「面倒だけどね」

「うん!!」

 ベラとエマと私は、飛竜の元へ駆けて行ったブレアの後ろに続いた――。
 王都の端にある大教会。
 教会内に避難する国民達を白犬騎士団が警護する形で守っている。

 王城は多くの兵士達が守備していたので安全ではあったが、アリアは国民達が心配でルーナと共に大教会へ赴いていた。

「良かった……白犬騎士団が国民を守ってくれてるようね。これならさっきの大きい黒竜さえ攻めて来なければ安全だわ」

「なら私達も戦場に行こう、ルーナ。私を連れて行って。ヒメナ達のために歌いたいの」

「駄目よ。魔物がこれだけ統率されているだけでも異常事態……それに相手の狙いはアリアよ。王城からここまで移動するのもヒヤヒヤしたのに、前線なんて考えられないわ」

 ルーナの案を聞き、確かに自分が戦場に行くことで戦況が混乱するかも知れないとアリアは考えるも、ここにただいることはもどかしく思っていた。

「ここでも、アリアなら出来ることがきっとあるわ」

 ルーナが視線を送った先を見ると、王都に住む民達は避難して少しの安心感を得たせいか、混乱から騒ぎ始めていた。

「ママァ! 怖いよう!」
「どうなってるのよ、一体!?」
「俺の家……壊されちまったんだぞ!! これからどうすりゃいいんだよ!?」
「家が何だ!? 私は妻が……妻が殺されたんだぞ!!」

 一つの混乱は次第に広がっていき、教会内全体が大騒ぎとなって行く。

 そんな狂乱の中、自分に出来ることを考えたアリアは大きく息を吸い込み――。

【安らぎの歌】

 歌い始めた。

 人が多く集まる礼拝堂の祭壇から歌が聞こえてきた。
 人々の心に安らぎを与える、天使のような歌声。

 幼い頃にヒメナと一緒にいる時に歌っていた歌は久しぶりに歌うにも関わらず、可憐で洗練されている。
 教会内はアリアのマナで満ちていった。

「おぉ……歌姫様……」
「心が洗われるようじゃ……」
「まるで……天使……」

 アリアの歌を聴いて酔いそれた王都民は騒ぐのを止め、大教会内の混乱は収まりつつある。
 ひとしきり歌い、国民が落ち着いた時、アリアは民に説きはじめた。

「皆様ご安心下さい。王都は戦地となっておりますが、皆様のことは白犬騎士団が守って下さります」

 皆、黙ってアリアの演説を静聴する。
 アリアが不可思議な力を持っていることは身をもって体験し、聞く耳を立てているからだ。

「私の友である冥土隊、そして紫狼騎士団や兵士の方々も今王都で闘っております。皆様の大切なモノ……全てを守れるとは言えませんが、皆様の大切なモノを守るために」

 アリアが祈るように両手を組むと、王都民も導かれるように両手を組み始めた。

「私達は祈りましょう。王都のために闘う人々の為に」

 そして全員で祈りを捧げる。
 命を賭けて闘う戦士達のために――。


*****


 王都は未だ飛竜達の攻撃を受け、破壊されていた。
 私達は自由に空を舞う飛竜に苦戦している。
 遂に降って来た雨もあって、闘いにくい戦場となっていた。

「魔技【アイススパイク】!!」

 ブレアが金槌から打ち込んだ【氷結】のつららを飛竜達は華麗に躱していく。

「うっぜー!! ひらひら飛びやがってよ!! 地面に降りてこい、こんにゃろーめ!!」

 そんな中、ベラはブレアの【アイススパイク】を躱した飛竜の地面に映る影を追っていた。

「魔技【影切】」

 太陽が地面に映す飛竜の影を、マナを込めた大鎌で切り裂くベラ。
 私がベラ何をやっているのか分からずにいると――。
 
「ウガァ!?」

 ベラが斬った影の主、上空を飛んでいた飛竜が翼に突然怪我を負って、よろめいて落ちてくる。

「今よぉ」

「はいよっと!」

 そんな飛竜の口内に、空中で槍を突っ込んだエマは、槍の穂先を体内で【爆発】させた。
 体内で内臓を爆破された飛竜は絶命し、飛竜は地に落ち、エマは着地する。

「面倒かけてすまないね」

「いいわよぉ、持ちつ持たれつつて言うでしょぉ?」

 ベラとエマは正に阿吽の呼吸。
 二人で一つになって飛竜の討伐に当たっている。

「ちきしょーが! またあたいの獲物奪いやがって!! 魔技【アイススパイク】!!」

 一方ブレアの魔技は、スイスイと躱されるだけだった。
 飛竜が器用なのか、ブレアが不器用なのかどっちなんだろう。

「ちょっと、ブレア! 何とか当ててよ!! 私は遠距離攻撃なんて無いんだから何にも出来ないじゃん!!」

「っせーよ、バーカ!! 右手も魔法も無いヤツが偉そうに言ってんじゃねーや!!」

「……うっ……」
 
 ド正論で返されて、口喧嘩に負けてしまう。

 だったら、どうしろってのよ。
 【瞬歩】でも届かない距離だし、普通に跳んで攻撃しても躱されるだけだし……。
 この状況で魔法が無い私に出来ることなんてないんだもん……。

「おーい、ヒメナよーいっ!!」

 私が肩を落としていると、後ろから甲高い声が聞こえて来る。
 振り返ると、紫狼騎士団の副団長であるフェデルタさんと、両手で何かを抱えたフローラが駆け寄って来て、黒い何かを渡してきた。

「出来たぞーいっ!!」

 その黒い何かとは――。

「これって……まさか義手!?」

 禍々しくも見える漆黒の義手。

 右腕の義手の甲には魔石が埋め込まれており、手の平には何故か穴が開いていた。
 指先は尖っており、日常生活ではなく戦闘に特化したような作りになっていることが窺える。

「たっはっはー、時間かかっちってごめんねーっ! でもボク史上最高の出来の魔法具だよーっ!! そのまま右腕につけてごらんよっ!! ヒメナのマナで自由に動くから!!」

 私はフローラに言われた通り、右腕の先を取り戻すかのように装着する。
 装着した時、埋め込まれた魔石が光って私の体の一部となった。

 マナを通せば握ったり、開いたりできてる……。
 手首も指の一本一本まで綺麗に動く……。
 まるで今までついてたかのようにすら感じた。

「うんっ、ちゃんと稼働してるねっ! 問題なさそうだーっ!!」

「フローラ……」

 二度と……もう二度と手に入らないと思っていたのに……。
 ちょっと厳つ過ぎるけど……私の……右手だ!!

「ありがとう!!」

 私は半泣きでフローラへと抱きついた。
 アッシュに斬り落とされてから、もうずっと無くて二度と手に入らないと思っていたモノ……。
 それをフローラが作ってくれたんだ。

「おいおーいっ! 泣くのはまだ早いぞ、ヒメナっ!!」

「ほぇ?」

 フローラは私の肩を掴み、私を引き剥がす。

「その右手の平を飛んでる飛竜に向けて闘気を込めてみなー」

「こう?」

 私はフローラが作ってくれた右手の平を飛んでいる一体の飛竜に向け、闘技を使う要領でマナ操作で右手へとマナを集め、闘気へと変えた。

 すると――右手の平に作られた穴から、私の闘気が光線となって飛竜へと放たれる。

「ガアアァァ!?」

 闘気の光線をまともに受けた飛竜は悲鳴を上げて、塵も残さず消滅した。
 これには流石にエマもベラもブレアもフェデルタさんも、そして当の本人である私も思わず唖然とする。

「……ほえぇ!? この右手どうなってんの!?」

「たっはっはー! その魔法具の義手の必殺技、名付けて【闘気砲】!! すごいだろーっ、えっへん!!」

 いや、女の子としては普通の義手で良かったのに……とは思ったけど、自慢気に胸を張るフローラに何も言えないや……。

「あなたのお友達……天才ね……」

 フェデルタさんはフローラの作った魔法具の義手を見て、唖然と呟くのであった――。
 王都の上空を黒い飛竜のセイブルの巨体に乗り、雨に打たれながらも戦況を眺めるレインとルシェルシュ。
 ヒメナが放った光線も当然見ていた。

「ルシェルシュ様……!! 今のは!?」

「さーてねー、何かの魔法じゃなーい? それよりさー、飛竜の数は減りつつあるねー。その代わり王都は壊せまくれてるけどねー」

 王都を襲う飛竜の数は倒され、百匹を切っている。
 しかし、肝心のアリアが出て来ない。

「もっと飛竜達を精密に操作できないのー? 例えば、歌姫を探して攫うとかさー」

「ワシの魔法【操作】は一体まで有効……操っているこのセイブルには可能ですじゃ。しかし、他の飛竜はリーダーであるセイブルに着いて来てるだけ故、単調なことしか命令できませぬ」

「ふーん、不便だねー。僕は他の四帝と違って、戦うのは専門外だからどうしたらいいかよく分からないしねー」

 ルシェルシュはアリアが捕えられなさそうな現状に面倒臭くなってきたのか、伸びをする。
 そして、そのままどこかを指差した。

「さっき一杯人があそこに移動してたから、とりあえずセイブルにあそこにブレス吐かせちゃおうよー。王城は歌姫がいるだろうから壊したくないし、王様もさすがにどっかに逃げちゃってるでしょー。王都をもっとめちゃくちゃにすれば、歌姫も自然と出てくるかもしれないしねー」

 ルシェルシュが指差した先は、本人の望みとは不本意なアリアとルーナがいる大教会。

「御意!!」

 黒竜のセイブルは大きく息を吸い込み体内のマナを練り上げ、黒いブレスを上空から大教会へと吐いた――。


 王都の端にある大教会。
 そこには巨大な黒い光線のようなブレスが放たれた。

「ぬおぉ!? 何であーるか、あれは!? 何か近づいて来るであーる!!」

 いち早く気付いたのは、大教会を飛竜から守っていた白犬騎士団長のアールだ。

「アリア! ここでじっとしてて!!」

 アールの動揺した声を聞いて窓から黒いブレスを確認したルーナは、アリアの元を離れて教会の外へと闘気を纏って急いで向かう。

「防御隊前に出るのであーる!!」

 近付いて来るブレスに対応するため防御隊を前に出そうと指示を出したアール。
 ルーナはそんなアールの肩を踏み、巨大な黒いブレスへと向かい――。

「魔技【一文字】」

 抜いた大剣でブレスを真っ二つに縦に両断した。
 二つに分かれたブレスは大教会を逸れて大地を削り、王都を囲う外壁を貫通していく。

「なんじゃとぉ!?」
「わーお」

 ブレスを両断され、驚くレインとルシェルシュ。
 ルーナの魔法【切断】に切れないモノはない。
 戦闘系の魔法において、強力無比であることは間違いなく、そういう意味ではルーナは天賦の才に恵まれたのだろう。

「そこの、白い従者!! 何するのであーる……って何であーるか、これは!?」

 自身の肩を踏み台にして跳んだルーナをアールが叱責しようするも、綺麗に教会を避けたように二つに分かれたブレスに抉られた地面と外壁を見て驚く。

「失礼しました、白犬騎士団長アール様。私は紫狼騎士団所属、冥土隊の隊長を務めるルーナと申します。緊急事態だったので、つい。申し訳ありません」

 大剣を地面に刺し、アールに敬意を称すように白いメイド服のスカートの裾を持ち上げ、一礼するルーナ。

「紫狼騎士団っ……!? いや、致し方あるまいのであーる! 其方のおかげで避難している国民達が助かったのであーる!!」

 あえてルーナが紫狼騎士団の名を出したのは、アールの性格を把握した上だ。
 予想通り、アールと揉めるという面倒は起きずに済んだ。

「……次も守りきれるとは限らないわね」

 次またあのブレスが大教会に向けられ、自分が少しでもミスを犯せば……いや、王都のどこに吐かれたとしても被害は甚大だ。
 まだ避難しきれていない国民だっている。

 黒竜セイブルからアリアと国民達を守るために動けずにいるルーナは、打倒セイブルを冥土隊の他の面々に頼るしかなかった――。


*****


 私達は上空から大教会に放たれたブレスを見て、戦慄していた。

 ポワン程とまではいかないけど、圧倒的な暴力。
 何故途中から二つに分かれたのかは分からないけど、強固な外壁も簡単に崩すようなとんでもない威力だった。

「たっはっはー! とんでもない威力だねーっ!!」

「あの黒竜をまず止めないと……またあのブレスが撃たれたら……」

 もっと王都に被害が出る。
 これ以上被害は出すわけにはいかないよ。
 どうにか……どうにかしないと……!!

「飛竜が群れをなしてるってこと自体が異常事態だから、とりあえず状況整理してみっかーっ!!」

【解析】

 フローラは自身の魔法具でありマナ銃を構え、アリアを襲った黒竜とそこらじゅうに跳んでいる飛竜の一匹に向けて、マナを放つ。
 黒竜も飛竜も害の無いモノと判断したのか、あっさりフローラのマナに当たった。

「どぉ? 何かわかったぁ?」

「あの黒竜は誰かに操作されてるみたいだねっ! んで、あの黒竜以外は操作はされてないみたいっ!!」

「つまりぃ……どういうことぉ?」

 ベラの問いにフローラ答えてくれたけど、良く分かんないや。

「他の飛竜は何かに操作されてるって訳じゃなくて、黒竜をリーダーと認識して着いてきてるって感じ! だから、リーダーの黒竜さえ倒せば帰ってくれるかもねっ!!」

 ほぇ~、なるほど。
 きっと黒竜を操作しているのは、レインとか名乗ったお爺ちゃんだ。
 王都を襲うために黒竜を操って、他の野良の魔物の飛竜も引き連れて来たってことか。

 だったら、あの黒竜さえ倒せば――この状況は打開できる!!

【闘気砲】

 そう思った私は、義手から【闘気砲】をルーナが左腕を切り落とした黒竜へと放つ。
 でも放った闘気の光線は、巨体とは言えど遠い上空にいる黒竜にはあっさりと躱された。

「ほえぇ……あんなに離れてたら当たらないよ……何とかあいつの足を止めるか近づけないと……」

 私の言葉に何かエマが思い付いたのか、フェデルタさんの方も向く。

「フェデルタさん、あんたの魔法【注目】だったよね? 確かさ」

 エマがフェデルタさんの魔法について話し出した。
 けど、何でまた急に……?

「ええ、そうですが」

「それって例えばだけどさ、フェデルタさんやウチらの方にあの黒竜を誘き寄せるってことは可能かい?」

「それは可能ですが、向こうに直接攻撃の意志が無い限りはこちらに誘き寄せられません。例えば、あの黒竜がブレスを吐くならブレスだけがこちらに放たれますし、爪などで直接攻撃する意志があればこちらに接近してくれるでしょう」

「全く……直接攻撃してくる様子はないし、面倒さね。あの飛ぶ黒竜を何とかしないと王都が全部破壊されちまうよ」

 フェデルタさんの魔法の話?
 【注目】って要は、こっちに攻撃をさせるってことかな……?

 ロランといた時の飛竜もあの黒竜も、ブレスを吐く時は無防備だった――だったら……。

「……あのさ、私に良い考えがあるんだけど」


 私はフェデルタさんに、思い付いた作戦を伝える――。


「……っ……そんなことをすればあなたと私は……!!」

「私を信じて、フェデルタさん。【闘気砲】の威力は見たでしょ? あの黒竜を倒して王都を守るにはその方法しかないよっ!」

 フェデルタさんは私の無謀とも言える作戦を聞き、思い悩む。
 当然だ。もし失敗したら私とフェデルタさんは死んじゃうんだから。

 だけど、こうして悩んでる間も王都にまたあのブレスを吐かれるかもしれないんだ。

「失敗したら……恨みますよ」

「よし、行こう! フェデルタさん!!」

「おい、どこ行くんだ!? お前ら!! あたいも連れてけ!!」

 作戦を了承したフェデルタさんと共に飛竜の群れを無視して、降りしきる雨の中王都の外に出るため走った――。
 何でかブレアも付いて来たけど。
 私とフェデルタさんと何故か付いてきたブレアは、王都を出て街道近くの草原へと出る。
 ここならブレスを吐かれたとしても被害は出ない。絶好の場所だ。

「おい、ヒメナ! フェデルタ連れ出して、何する気だ!?」

「いや、ブレアこそ何でついて来るの!?」

「っせーよ、バーカ! お前らがコソコソしてっからじゃねぇか!!」

 もう……仕方ないなぁ……。
 作戦内容を話せば、流石にブレアも引いてくれるでしょ。

「次に黒竜がブレスを王都に向けて放とうとした時、フェデルタさんに【注目】の魔法を使ってもらうの。王都への被害を防ぐためにね」

「んなことしたら、フェデルタが死ぬじゃねーか。まぁ別にいいけどよ。なら何でヒメナがここにいんだ?」

「フローラに作ってもらった魔法具の義手の【闘気砲】で……フェデルタさんを狙う黒竜のブレスと真正面から撃ち合う」

「あぁ!? バーカ!! あんな強烈なブレスに勝てる訳ねぇだろ!! 止めろ止めろ!!」

 ブレアは信じられないといった様子で、私に怒鳴り出す。
 私もブレアが同じことをしようとすれば、きっと止めるだろう。

「大丈夫だよ。何とかなるっていうか、何とかするから」

 ただの虚勢だ。

 モルテさんとの模擬戦の後に戦闘もした。
 消費した私の体内のマナは、もう残り少ない。
 さっき義手から放った闘気から考えても、残り一回しか【闘気砲】は撃てないだろうな……。

 【闘気砲】であのブレスに撃ち勝てる保証なんて全然ないけど……私はアリアが大切にしようとしてるモノを守りたいんだ。

「……だったら、あたいもここに残んぜ」

「ブレア!?」

「要は正面から撃ち合ってあのブレスに勝ちゃいんだろ? あたいがやってやんぜ!!」

 ブレアは鼻息をふんっと吐きながら、今いる場所に金槌を地につけて仁王立ちする。
 どうあっても動かなさそう。

「もう……どうなっても知らないよ」

 一度決めたことは頑として譲らないブレアと論じても無駄だ。
 絶対に折れないもん。

「私だけ囮にすることは考えなかったのですか?」

「ほぇ?」

 ブレアに呆れてる私に、フェデルタさんは話しかけてきた。

「私がここで【注目】でブレスを引きつけている間に、ヒメナさんが別の所から【闘気砲】を撃つということです。そうすれば、あなたは死ぬかもしれないリスクを背負うことはないし、黒竜を倒せる確率も上がります」

 確かにそれも思い付きはしたんだけど……。

「そんなことしてフェデルタさんが死んじゃったら、私は私を許せなくなっちゃうもん」

 フェデルタさんは驚いたような顔をする。
 何でだろ?
 私変なこと言ったかな?

「ありがとうございます。やる気が出ました」

 フェデルタは自身のタワーシールドを構え、黒竜がいつブレスを吐いてもいいように、黒竜から視線を離さなくなった。


*****


 相も変わらず、上空から黒竜セイブルに乗って、上空から戦況を眺めるルシェルシュとレイン。

「あーもー、セイブルの左腕は切られちゃうしー、ブレスは何か変な感じになるしー、貴重な飛竜の数も減ってきたしー、歌姫は捕まらないしー、変な光線は飛んでくるしー、雨は降ってるしー」

「ルシェルシュ様……っ! 老体故、何卒お許しを……」

 目の前に座るレインの背中を蹴り続けるルシェルシュ。
 自分の思い通りにならないのが気に入らないのだろう。

「もう、王都の中心部にバーンとブレスを撃って終わらせちゃおうよー。歌姫が出てきたらセイブルで捕らえて、出てこなかったら退散ねー。これだけ成果上げたら、皇帝陛下も納得するでしょー。歌姫を最初に君が捕獲してたら何の憂いもなかったんだけどねー。またの機会でいいやー」

「も、申し訳ありませぬ……やるのじゃ、セイブル!」

 黒竜セイブルはブレスを王都の中心部に吐くため、大きく息を吸い込んだ――。


*****


 黒竜が大きく息を吸い込んだ瞬間を、注意深く観察していたフェデルタさんは見逃していなかった。

「来ます!!」

 フェデルタさんがそう叫んだと同時に、私とブレアはブレスを迎撃する準備を始める。

【注目】

 フェデルタさんは自身の魔法に反応した黒竜のセイブルは体をこちら側に向け、そして強烈な黒い光線を吐き出した。

「おらああぁぁ!!」

 そのブレスに対抗するためブレアは等身大程の氷を作り出し、自身の魔法具である金槌の頭の片側の口を変形させ、射出口が放つ火力を利用しコマのように回転し――。

「【ド級アイススパイク】!!」

 等身大程の氷をとてつもない威力で打ち飛ばす。
 大きな氷は飛びながらつららの形と変形し、黒竜のブレスへと向け加速していく。

 が、黒竜のブレスに何の影響も与えず、一瞬でつららは消滅した。

「ちっきしょぉが!!」

 ブレアが叫ぶ一方――私は集中していた。
 ブレスとのぶつかり合いに勝てなければ、私達三人は死ぬ。
 余力なんて残していられない……絶対に打ち勝つ!!

 丹田から義手の右手へとマナを集め、一気に闘気へと変える。

【闘気砲】

 私の闘気はフローラが作ってくれた義手から、光り輝く光線へと変わり、放たれた。

 光の光線と黒いブレスは次第に近付き、ぶつかる。
 その瞬間、私は反動で構えていた足が後ろへと引きずられた。
 雨で濡れた地面も相まって滑るため、私自身も闘気を纏って堪える。

 まるで、腕相撲をするかのような力比べ。

 私も……多分相手の黒竜セイブルも思っただろう。
 この力比べに負ければ、死ぬと。

 しかし、相手は神話に出てくるドラゴンのような黒竜。
 マナ量で言えば私ははるかに劣る。
 当然の結果なのか、私の光線は黒い光線に徐々に押されつつあった。

「くそおぉぉ!!」

 私はマナが枯渇しかける程、闘気を纏って踏ん張る力を作り、更に【闘気砲】の出力を上げる。
 しかし、それでも均衡を保つには至らない。

 このままじゃ……負けちゃう!
 私だけじゃなくて、ブレアもフェデルタさんも死んじゃう!!
 そしたらもう……王都を守る術はきっとない!
 アリアの大切なモノを……守れなくないなんて嫌だ!!

 絶対に負けられない……!!

「負けてたまるかあぁぁ!!」

 アリアの大切なモノを絶対に守る。
 私のその想いに応じるかのように――私の体に変化が起きた。
「!?」

 私は【闘気砲】を放ちながら、自分の体の変化に気付く。

 私の体に起きた変化――それは呼吸をすると私の体内のマナが増えたことだった。

 何これ……?
 私、もしかして大気のマナを自分のモノにしてるの……?

 私はアリアに王都から追放され、ポワンとルグレの元に休みなく闘気を纏って走った時のことをふいに思い出した。
 あの時は無我夢中で気付かなかったけど、私は大気からマナを取り入れていた気がする。

 私は大きく息を吸い、大気のマナを吸いこんだ。
 体内のマナが溢れる程満ちた私は、そのマナを闘気へと全て変換する。

 力が……マナが大気から溢れるように入って来る……!
 これなら……!!


「破ああぁぁ!!」


 私の【闘気砲】の威力は増す。
 そして、やがて黒竜のブレスを押し返し始め――。

「一体、何がああぁぁ!?」

 レインの悲鳴と共にブレスを押し返し、闘気の閃光が黒竜セイブルを包みこんだ。

 地上から空を射抜くような光。
 雲を貫き、遥か天まで昇っていく。
 雨雲を無理やり押しのけて、さっきまで降っていた雨が嘘のように、快晴へと変わる。


 闘気の光線が消えた先では――黒竜は消滅していた。


「やった……の……?」

 実感はないけど、黒竜はもういない。
 残っているのは、煙を吹く義手から伝わる熱だけ。

 黒竜セイブルがいなくなり、王都を攻め込んでいた飛竜達は目的を失ったのか、どこかへと帰るように飛散していく。

 フローラの言う通り、飛竜がどっかに飛んでいっちゃった……。
 ってことは、やっぱり私が……あのブレスに撃ち勝ったんだ。


 ずっと弱くて、奪われてばかりだった私が――守れたんだ。


「やった……やったよ!! ブレア、フェデルタさん!! 勝ったよ、私達!!」

 二人は本当に私が撃ち勝つと思っていなかったのか、唖然としてびしょ濡れの私を見ていた。

「ほぇ……?」

 二人は全然喜んでないや。
 王都を救ったんだよ、私達。

「そう……ですね……あなた……一体何者ですか……?」

「何者って……ヒメナですけど?」

「そうじゃなくって……!!」

 フェデルタさんに何故か責められてるけど何で?

 私はこの時フェデルタさんと話していて、気付かなかった。

「あたいが……ヒメナより劣ってるってのか……?」

 ブレアのそんな呟きと、黒竜から飛び降りていた二つの影に――。


*****


「いやー、困った困ったー。他の四帝と違って戦闘は苦手なんだよねー。やっぱり僕は研究施設で実験してる方が向いてるやー。闘気を纏うのもしんどいしさー」

「ルシェルシュ様……申し訳ありませぬ……」

 黒竜から闘気を纏って飛び降りた影の正体は、レインを抱えたルシェルシュであった。
 ヒメナの【闘気砲】に黒竜セイブルが撃ち負けると分かった瞬間、セイブルの鱗を一枚剥がし、レインの首根っこを掴んで王都の外へと飛び降りたのだ。

「戦闘が苦手なのは痺れないね。これだけの規模の攻撃なら四帝の誰かが来てるんだろうと思ったけど、外れを引いちゃったかな?」

 そんなルシェルシュの前に現れたのはロランだ。
 ロランは王都を守らず、王都襲撃の件に四帝が関わってると読んで、探していたのだ。

「……あらら、見つかっちゃったー。このまま見逃してくれたりしないー?」

「僕はそれでもいいんだけどさ、四帝の一人を殺したとなれば僕の地位はより安泰となるからね。どうしようかな?」

「そっかー……なら、仕方ないねー」

 ロランにはるかに戦闘能力が劣るルシェルシュは諦める様子はなく、自身が手に持つセイブルの鱗を地面へと付けた。

「魔技【リヴァイブ】」

 地面にセイブルの鱗を付けた部分から、まるで何かが生まれるかのように生えてくる。

「!?」

 その正体に、ロランは驚きを隠せなかった。
 それもそうだろう。

 先程、ヒメナと【闘気砲】によって消滅したはずのセイブルが、ゾンビと化して蘇ったのだから。

「じゃーねー」

「失礼するのじゃ」

 そう言って一枚の鱗からセイブルを蘇らしたルシェルシュは、レインと共にその背に乗り飛び立っていく。
 ロランはただただ、その姿を目で追うことしかできなかった。

「黒竜が相手なら少しは痺れそうだったのになぁ。向こうにやる気がなきゃ……つまらないや」

 そう残念そうに呟いたロランは、王都へと戻るのであった――。


 一方、ゾンビ化した黒竜のセイブルに乗るルシェルシュは疲れたかのようにため息を吐く。

「歌姫は捕らえられなかったけど、とっても大きい収穫はあったからいいやー」

 アリアを捕えることが本来の目的であり、それは失敗に終わった。
 しかし、ルシェルシュは実に満足そうに笑っている。
 これが意味するのは一体何なのだろうか――それはルシェルシュ以外誰も知る由がなかった。