リユニオン攻防戦は王国軍の勝利に終わった。
 でも、アッシュがリユニオンが攻めたのは陽動で、どうやらアリアを攫うのが目的だったみたい。
 それを阻止できたのは本当に良かったや。

 それにしても、アッシュは強かった。
 あのまま戦闘になってたら、十中八九殺されただろう。
 強気で話してはいたけど、それくらいの力の差は感じた。

 リユニオンの広場では、リユニオンを守るために闘っていた紫狼騎士団の人達は無傷の人もアリアの【狂戦士の歌】の反動で動けずにいて、負傷兵はアリアの歌によって治療されている。
 アリアの魔法、何でもできて凄いや。

 ブレアは重症を負ってまだ起きていないみたいで、別の所で治療を受けているみたい。
 まだ顔も合わせてないのに、大丈夫かな……ブレアのバカ……。

「ほぇ?」

 そんな広場に、二人組がが城の方からやってきた。
 どちらも見知ったマナ――ロランとフローラだ。

「フローラ!!」

 私は死ぬほど嫌いなロランを無視して、フローラの元に駆け寄って飛び込んだ。
 その勢いで私達は地面に倒れ込む。

「うぉーい!? 誰かと思いきや、まさかのまさかヒメナ!?」

「そうだよ!!」

 フローラも昔と比べたら大きくなったなー。
 でも顔は全然変わんないや。

「たっはっはー!! 大っきくなったねーっ!! けど、何かヒメナちょっと獣臭いぞーっ!!」

「ほえ!? マジ!?」

 ずっと山で生活してたせいかな……?
 女捨ててるみたいで傷つくんだけど……最悪〜……。
 起き上がって自分の匂いを嗅いでる私を見て、ロランは私のことを思い出したようだ。

「あぁ、君はあの時王都追放した子じゃないか。元気にしてたかい?」

 アッシュより記憶力は良いみたいだけど、やっぱりこの男はひねくれてる。

 自分が私を追放した原因だってわかってるの!?
 分かってて言ってんだろうけとさ!!
 元気にしてたかなんて、アリアを失明させてメラニーを殺したやつに言われたくないし!!
 ホントむっかつく!!

「で、君はこの街に住んでたって訳ではなさそうだけど、僕達に何か用かな?」

「……何か用って……帰ってきたんだけど」

「いや、追放したんだから君に戻る場所なんてないんだけど」

「ほぇ!?」

 そっか、アリア達はロランの傘下の部隊って話だから、ロランを納得させない限りは私はアリアの近くにはいれないんだ。
 忘れちゃってたけど、どうしよう……?

「私を……ルーナ達が所属する冥土隊って部隊に入れてよ! ってか入れろ!!」

「うーん、どうしようかなぁ」

 ロランは頬杖をついて、悩んでる様子もなく楽しそうに笑っている。
 本当にこいつと話してるとイライラしてくるんだけど。

 今すぐこいつを私の気が済むまでぶん殴ってやりたいけど、こいつもアッシュと同じで今の私より強いから、闘っても勝てない。
 だけど、このまま追放されたままって訳にもいかない。
 メラニーを殺して、アリアの目を奪ったこいつの傘下にいるアリア達と、離れたままでいる訳にはいかないんだから。

「ロラン団長」

 どうしたものかと悩んでいた私とロランの間に、誰かが割って入ってくる。

「フローラ、誰この人?」

「フェデルタっ! 紫狼騎士団の副団長だよっ!!」

 私達より一回りほど上のお姉さん……副団長ってことは、この人もロランと同じでアリアや私の敵……ってこと?

「彼女は私と冥土隊を……そして、アリア様を救ってくれました。炎帝アッシュ・フラムを退けられたのも彼女のおかげです」

「それで?」

「彼女が希望するのであれば、冥土隊への加入を進言致します」

 ほぇ!?
 いや、ありがたいけど……どういうこと!?
 
「どういう風の吹き回しだい?」

「今回リユニオンを攻め込むのを囮に歌姫様を攫いに来ました。しかも帝国の四帝が一人、炎帝アッシュ・フラムがです。アリア様を守る冥土隊の戦力の増強は必要かと」

「これからもそういうことは考えられるってことね……分かった、冥土隊に加入していいよ」

 いや、いいんかい!?
 フェデルタって人が言ったら、あっさり要求が通ったなぁ。
 それだけフェデルタって人がロランに信頼されてるってことなのかな?

「なら一緒に行こうか、歌姫様の元へと」

 アリアを失明させ、メラニーを殺したロランの手下になるのは、もちろん複雑な思いではあったけど、ロランに続いて紫狼騎士団のために歌うアリアの元へと私達は向かった――。


*****


 紫狼騎士団の副団長のフェデルタは、ロランがアリアの【狂戦士の歌】を使い、騎士団員を闘わせることに疑問を持っていた。
 騎士団の中には、フリーエンのように自我を失い狂戦士になることを恐れている者もいるからだ。

 そんな中、帝国軍四帝の一人であるアッシュを退ける程の強さを持ったヒメナの出現は、フェデルタにとっては希望に見えた。

 仲間を殺された過去を持ち、仲間を利用されている今、ヒメナは必ずロランにいつか牙を剥くだろう。
 その時こそが、フェデルタにとってロランを陥れるチャンスだからだ。

「利用してるようで、心は傷むけど……」

 それでもロランが騎士団の団長でいるべきでないと考えるフェデルタは、誰にも聞こえぬ声で呟いた――。


 一方、ロランはフェデルタの考えを全て見透かしていた。
 その上で、ヒメナを冥土隊へと引き入れたのである。

 ロランはヒメナを一眼見て、所作から只者ではないと感じていた。
 隻腕で今はまだ自らに及ばないとは言えど、いずれ自身の脅威になり得る存在になるかもしれないと。

 ――では、何故そんな存在を身近に置いたのか?

 単純に面白そうだからである。
 ロランは幼少期から何度も人間の醜さを見たり、命のやりとりを経験しており、その影響かスリルを求める人間となった。

 アリアを炎帝が狙いに来た、そしてヒメナがそれを退けた。
 今のアリアを取り巻く環境はスリルに満ち溢れている。

「痺れるなぁ」

 これから面白くなりそうな予感を感じ、ロランは無邪気に微笑むのであった。