ボースハイト王国とアルプトラウム帝国の戦争が開戦され五年半以上が経過した。
当初は帝国の圧勝が予想されたが、歌姫アリアの存在と他国からの物資の支援もあり、王国は長い間持ち堪えている。
リユニオンは城郭都市で高い壁に覆われており、帝国に最も近い都市で、王国にとっては重要拠点の一つである。
そこは夜である今、帝国軍に強襲を受けていた。
「わ、私は大丈夫なのかね!? もう敵は街の中まで侵攻しているんだろう!?」
「大丈夫ですよ、宰相様。僕達紫狼騎士団には他の騎士団とは違って歌姫がいるのでね」
リユニオン城内で、王国の宰相はロランとの服の袖を引っ張り、縋りつく。
他の文官達も自身の身を案じているようだ。
ロランとロランに連れて来られたフローラは、そんな宰相達を子供をあやす様になだめるのが任務である。
「とは言え、どうなるかは分からないじゃないか!? ロラン、君は私の護衛として側にいるんだ!!」
「……はいはい」
「たっはっはー! 皆我が身大事なんだねーっ! ロランも大変だーっ!」
フローラは楽しそうに笑っているが、城にいるのはロランの本懐ではなかった。
今すぐ戦場に行き、痺れそうな敵がいれば闘いたいという想いでいたが、王国で国王の次に地位の高い宰相の命令ならば仕方がない。
「さてはて、真面目なフェデルタは上手くやれるかな?」
ロラン不在の前線は、副団長のフェデルタが指揮を執っている。
そんなフェデルタがどうするのか、今のロランにとって唯一の楽しみであった。
*****
人数で勝る帝国軍は既に門を破壊し、リユニオンの街の中までなだれ込んできていた。
リユニオンの民は襲い掛かって来る帝国軍人から逃げ惑うも惨殺されていく。
「いやああぁぁ!!」
「助けてええぇぇ!!」
捕食者が帝国軍であれば、被捕食者はリユニオンの民達。
被捕食者達の悲鳴が轟く中、戦場に似つかわない妖艶な歌声が流れてきた。
そして――。
「「「うがああぁぁ!!」」」
捕食者を捕食する者達が現れる。
悲鳴を超える怒号と共に、どこからともなく現れた狂戦士達は、捕食者である帝国軍を殲滅していく。
精神を闘争心のみに変え、圧倒的な闘気を纏った狂戦士達は、白い軍服に紫狼のワッペンを付けていた。
リユニオン内に入って来た帝国軍人を紫狼騎士団の騎士達が圧倒していくのを、高い建物の屋根からアリアは【狂戦士の歌】で援護する。
そのそばには【冥土隊】であるルーナ、ブレア、ベラ、エマの四人と、戦場の指揮を執る副団長のフェデルタが立っていた。
「おい、フェデルタ!! あたい達は見てるだけかよ!!」
戦況を盛り返してはいるものの、帝国軍と闘えないでもどかしくなっているブレアは指揮を務める副団長のフェデルタに噛み付く。
「あなた達は待機していて下さい。別働隊がいないとは限りません。歌姫様を守ることが最優先事項なのですから」
そう答えたフェデルタに、自身の魔法具である金槌を突きつけた。
「偉そうに命令してるけどよ、お前分ってんのかよ? 今こっちは四人、お前は一人。あたいらがお前をぶっ殺して、アリアを連れて逃げることだって出来んだぜ」
ロランに脅されて、使われる冥土隊はロランの部下である紫狼騎士団を良く思ってはいない。
当然フェデルタに関しても、そうである。
ブレアは、ロランが近くにおらず混乱した戦況である今、アリアを脱出させる最大のチャンスと考えていた。
「やめなさい、ブレア」
「バーカ!! 副団長と言えど、あたいら四人でかかりゃ余裕だろうが!?」
ルーナが何故止めるか理解できずに、フェデルタに対して金槌を構えるブレア。
フェデルタさえ倒してしまえば、ロランの元から逃げるのを止める者は誰一人いないからである。
「馬鹿はあんただよ。それを予測してロランは戦闘能力が低いフローラだけを一緒に連れて行ったんだ。仮にウチらがアリアを連れて逃げようもんなら、フローラが人質になるって寸法さ」
「ホント抜け目ないわよねぇ、ロランのやつぅ」
ルーナ、エマ、ベラはロランの考えを見抜いていた。
否――ロランがあえて、見抜かせていた。
ロランは自分がアリアの近くにいない時のために、フローラを抑止力として利用したのだ。
「ちぇっ! くそったれが!!」
滅多にないチャンスすら掴めない自分の不甲斐無さから、ブレアは屋根に金槌を叩きつけるのであった――。
*****
フェデルタが警戒していた別動隊――確かにそこにいた。
帝国軍がこじ開けた門を悠々とくぐり、戦場へと入る。
「これが噂の王国の歌姫の魔法というやつか。確かに脅威」
紫狼騎士団が帝国軍を圧倒しているのをみて、感心する男。
その男の名は――。
「歌声に導かれれば辿り着けよう。他には構うな、我らの任務は歌姫の捕獲……それが叶わぬようなら斬り捨てて構わぬ」
炎帝アッシュ・フラム。
帝国四帝――帝国軍最強と謡われる四人の一角であり、元剣帝と称されたエミリーに片目を奪われはしたが、エミリーを亡き者にした張本人。
「行くぞ。我に続け」
「御意!!」
炎帝アッシュ・フラムは部下三人を連れ、アリアを捕えるために参戦するのであった――。
当初は帝国の圧勝が予想されたが、歌姫アリアの存在と他国からの物資の支援もあり、王国は長い間持ち堪えている。
リユニオンは城郭都市で高い壁に覆われており、帝国に最も近い都市で、王国にとっては重要拠点の一つである。
そこは夜である今、帝国軍に強襲を受けていた。
「わ、私は大丈夫なのかね!? もう敵は街の中まで侵攻しているんだろう!?」
「大丈夫ですよ、宰相様。僕達紫狼騎士団には他の騎士団とは違って歌姫がいるのでね」
リユニオン城内で、王国の宰相はロランとの服の袖を引っ張り、縋りつく。
他の文官達も自身の身を案じているようだ。
ロランとロランに連れて来られたフローラは、そんな宰相達を子供をあやす様になだめるのが任務である。
「とは言え、どうなるかは分からないじゃないか!? ロラン、君は私の護衛として側にいるんだ!!」
「……はいはい」
「たっはっはー! 皆我が身大事なんだねーっ! ロランも大変だーっ!」
フローラは楽しそうに笑っているが、城にいるのはロランの本懐ではなかった。
今すぐ戦場に行き、痺れそうな敵がいれば闘いたいという想いでいたが、王国で国王の次に地位の高い宰相の命令ならば仕方がない。
「さてはて、真面目なフェデルタは上手くやれるかな?」
ロラン不在の前線は、副団長のフェデルタが指揮を執っている。
そんなフェデルタがどうするのか、今のロランにとって唯一の楽しみであった。
*****
人数で勝る帝国軍は既に門を破壊し、リユニオンの街の中までなだれ込んできていた。
リユニオンの民は襲い掛かって来る帝国軍人から逃げ惑うも惨殺されていく。
「いやああぁぁ!!」
「助けてええぇぇ!!」
捕食者が帝国軍であれば、被捕食者はリユニオンの民達。
被捕食者達の悲鳴が轟く中、戦場に似つかわない妖艶な歌声が流れてきた。
そして――。
「「「うがああぁぁ!!」」」
捕食者を捕食する者達が現れる。
悲鳴を超える怒号と共に、どこからともなく現れた狂戦士達は、捕食者である帝国軍を殲滅していく。
精神を闘争心のみに変え、圧倒的な闘気を纏った狂戦士達は、白い軍服に紫狼のワッペンを付けていた。
リユニオン内に入って来た帝国軍人を紫狼騎士団の騎士達が圧倒していくのを、高い建物の屋根からアリアは【狂戦士の歌】で援護する。
そのそばには【冥土隊】であるルーナ、ブレア、ベラ、エマの四人と、戦場の指揮を執る副団長のフェデルタが立っていた。
「おい、フェデルタ!! あたい達は見てるだけかよ!!」
戦況を盛り返してはいるものの、帝国軍と闘えないでもどかしくなっているブレアは指揮を務める副団長のフェデルタに噛み付く。
「あなた達は待機していて下さい。別働隊がいないとは限りません。歌姫様を守ることが最優先事項なのですから」
そう答えたフェデルタに、自身の魔法具である金槌を突きつけた。
「偉そうに命令してるけどよ、お前分ってんのかよ? 今こっちは四人、お前は一人。あたいらがお前をぶっ殺して、アリアを連れて逃げることだって出来んだぜ」
ロランに脅されて、使われる冥土隊はロランの部下である紫狼騎士団を良く思ってはいない。
当然フェデルタに関しても、そうである。
ブレアは、ロランが近くにおらず混乱した戦況である今、アリアを脱出させる最大のチャンスと考えていた。
「やめなさい、ブレア」
「バーカ!! 副団長と言えど、あたいら四人でかかりゃ余裕だろうが!?」
ルーナが何故止めるか理解できずに、フェデルタに対して金槌を構えるブレア。
フェデルタさえ倒してしまえば、ロランの元から逃げるのを止める者は誰一人いないからである。
「馬鹿はあんただよ。それを予測してロランは戦闘能力が低いフローラだけを一緒に連れて行ったんだ。仮にウチらがアリアを連れて逃げようもんなら、フローラが人質になるって寸法さ」
「ホント抜け目ないわよねぇ、ロランのやつぅ」
ルーナ、エマ、ベラはロランの考えを見抜いていた。
否――ロランがあえて、見抜かせていた。
ロランは自分がアリアの近くにいない時のために、フローラを抑止力として利用したのだ。
「ちぇっ! くそったれが!!」
滅多にないチャンスすら掴めない自分の不甲斐無さから、ブレアは屋根に金槌を叩きつけるのであった――。
*****
フェデルタが警戒していた別動隊――確かにそこにいた。
帝国軍がこじ開けた門を悠々とくぐり、戦場へと入る。
「これが噂の王国の歌姫の魔法というやつか。確かに脅威」
紫狼騎士団が帝国軍を圧倒しているのをみて、感心する男。
その男の名は――。
「歌声に導かれれば辿り着けよう。他には構うな、我らの任務は歌姫の捕獲……それが叶わぬようなら斬り捨てて構わぬ」
炎帝アッシュ・フラム。
帝国四帝――帝国軍最強と謡われる四人の一角であり、元剣帝と称されたエミリーに片目を奪われはしたが、エミリーを亡き者にした張本人。
「行くぞ。我に続け」
「御意!!」
炎帝アッシュ・フラムは部下三人を連れ、アリアを捕えるために参戦するのであった――。