孤児院に戻り、アリアと二人で寝ている皆を起こす。
ブレア以外の皆はすぐ起きたけど、ブレアだけはいつまでもぐーすかとイビキをかいていた。
「ブレア!! 起きて!!」
「うっせーな……後五分……」
「起きろって言ってんでしょ!!」
「あべっ!?」
エミリー先生の拳骨のマネをして、ブレアの頭に拳骨をお見舞いする。
一度やってみたかったんだ、ししし。
「いってーな!! 何しやがんだ!?」
「うっさい!! 早く身支度して逃げるの!!」
ブレアは周りを見て異常事態を察したのか、いつものように私と喧嘩はせず、何が起きているのか分からず頭にクエスチョンマークを浮かべながらもすぐに着替え始める。
「ヒメナ、皆準備できたみたい!! 行こう!!」
ブレアだけはズボンを履いている最中だけど、私達は孤児院を出て王都の方角へと向かった。
「アリア、皆と一緒に先行ってて!!」
「ヒメナ!?」
エミリー先生……大丈夫なのかな?
私が行ったって何も出来ないのは分かってる。
皆と一緒に逃げたほうが良いって分かってる。
だけどアッシュっておじさんの燃え盛るような憎しみのマナが、私をエミリー先生の元へと走らせた――。
私がアリアとのお気に入りの場所に行くと、もう私が知ってる丘ではなかった。
闘いで地形が変わり、お花畑は炎で燃え、大地には剣で斬られた跡がいくつも残っている。
「……何……これ……」
二人の攻防は、凄まじい程のぶつかり合い。
アッシュっておじさんは炎の魔法と剣を操り、エミリー先生は闘気を纏って大剣を振るう。
二人の動きがあまりにも速過ぎて残像が微かに見えるくらいだけど、攻撃の一つ一つが相手を殺すため……二人のマナと闘気から明らかな殺意を感じた。
互いの力は拮抗――。
「ちぃっ……!!」
していなかった。
エミリー先生が受けることに精一杯で攻撃できず、均衡が崩れ始めている。
「噴っ!!」
アッシュっておじさんが魔法で、自身の剣に炎を纏わせ振るったその一撃は――。
「がああぁぁ!!」
受け止めようとした先生の大剣を両断し、先生の胸にまで届く。
切り傷から発火した炎は先生の上半身で燃え盛り、先生は斬られた痛みと炎の熱さから、地面でのたうち回った。
「エミリー先生!!」
アッシュは叫んだ私をチラリと流し目で見てきたけど、まるで虫ケラを見るような目……。
私にはまるで興味が湧かなかったのか、直ぐにのたうち回る先生を見据え直し、歩いて距離を詰めっていった。
「フハハハ。老いましたなぁ、元剣帝様。かつては四帝の一人として皇帝陛下に寵愛され、軍の全権を握っていた貴女が……今や逃亡兵となり、このザマ」
倒れている先生に剣を向けてる……。
このままじゃ……先生が殺されちゃう!!
そんなの……そんなの嫌だよ……!!
「我が覇道!! 最初の礎となれ!!」
「やめろおおぉぉ!!」
――咄嗟だった。
先生が剣で突き刺されると思ったら、気付けばマナを体に巡らせていた。
闘気を纏った私の体は飛躍的に身体能力が上がり、アッシュを止めるために拳を振り上げ、跳ぶ。
ブレアがいつも使っていたマナの流れを見ていたこともあってか、初めて闘気を纏った体に違和感はなくスムーズに動いた。
「先生から離れろおぉぉ!!」
「!!」
でも、振り回した右の拳はアッシュに躱されて空を切る。
瞬間、熱いマナが目の前で走った。
私に分かったのは燃えるように熱いマナが、一瞬通り過ぎたということだけだった。
殴れなかった……!!
くそぅ……!!
私は跳んだ勢いそのままに地面を転がり倒れ込むと、私の目の前に燃えた何かがボトンと落ちてくる。
何これ……腕……?
誰……の――!?
「ぎゃああああぁぁ!!」
私の目の前に落ちてきた腕――それは、私自身の右腕。
私は燃える自分の肘から先の腕の前に跪き、痛みと熱さを紛らわすために泣き叫ぶ。
さっきの一瞬走ったマナは、アッシュの炎を纏った剣……!?
私の右手……斬り落とされたんだ……!!
「ヒメナァ!!」
自身の上半身を燃やす炎を消し切れていない先生が私の元に駆け付けるも、私はあまりの痛みから気を失いかけていた。
「……痛いよぅ……熱いよぅ……エミリー先生……どうしよう……私の右手……無くなっちゃった……」
泣いている内に、斬り落とされた私の右腕はアッシュの炎で消し炭に近くなっており、今にも燃えて尽きてしまいそうだ。
「エミリー先生……ごめんなさい……私……ただ……先生を助けようと思って……」
「喋るな、ヒメナ!! あんたは良くやった!!」
私の先の無い右腕を燃やす魔法の炎を消すために、先生は両手で包み込み、必死に自身のマナで相殺しようとしていた。
自分を燃やす炎も消し終えてないのに……私のために……。
「その年齢で闘気を扱えるとは。その才気、帝国軍で鍛えれば……とも思ったが、右腕が無ければ――な」
そんなに先生より強いことが……私の右腕を斬ったことが可笑しいのだろうか、アッシュは不敵に笑う。
私を燃やそうとしていた炎を消し終えた先生は、半分ほどの長さになってしまった大剣を握った。
「……アッシュ……よくもこんな優しくて可愛い子を……コレールが死んで……本当にあんたは壊れちまったようだなぁ……」
「コレールが死んで……だと? 貴様も関与しているだろうが!!」
何故かアッシュから責められた先生の顔はとても寂しくも悲しそうで、遠い昔を見ている感じがした。
こんなエミリー先生……初めて見た。
コレールって誰……?
昔に……アッシュと何かあったの……?
「先生……そんな折れた大剣じゃ……あいつは倒せないよ……」
エミリー先生の大剣は両断されており、体内に残ったマナも少なく感じる……体だってとてもあいつと闘える状態じゃない。
「ヒメナ……良く聞け。これから王国と帝国で戦争が起き、辛い時代になる」
ほぇ……戦争……?
帝国と王国で……?
「あんたは優しいからな……これから先、きっと辛いことや悲しいこと……誰かを恨むこともたくさんあるだろう……だけど、忘れちゃいけない。あんたの優しくて、強いその心を」
「先生……?」
「強くなれ、ヒメナ。アリアだけは何に代えても守るんだ」
「エミリー先生……何言ってるか分かんないよ……」
「頼んだぞ。あんたになら任せられる」
いつも孤児の私達を子供扱いする先生は、明らかに今だけは私を子供扱いしてなかった。
一人の大人――ううん、それ以上の存在として話してる――そんな気がする。
「返事は?」
「……ぅん……」
私が先生の話を理解できないまま相槌を打つと、エミリー先生はいつものように私に優しく微笑みかけてくれた。
先生は立ち上がり、両断されて短くなった大剣を自分のお腹に向けて構える。
大剣に残ったマナを集めて……先生……何するの……!?
「破っ!!」
先生はマナを込めた大剣を、自分の腹部に力一杯刺し込んだ。
「「!?」」
先生が刺した部分から、マナが膨れ上がって先生の中の体に入っていき、先生の体内のマナが普段の何倍もの大きさになっていく。
こんなマナの大きさ……感じたことない……。
「剣帝流、魔技【不退転】。私の生命力をマナに変える、その名の通り命と引き換えの奥義だ」
それって……エミリー先生が……死ぬってこと……?
「ぬああぁぁ!!」
先生は膨大なマナを闘気に変える。
そこら中に落ちる小石や葉を浮かし、大気を揺るがすほどの凄まじい闘気。
その闘気にアッシュも共鳴するかのようにマナを闘気へと変え、二人は互いに自らの間合いに敵を入れるため、一瞬で距離を詰めた。
「剣帝流、闘技【斬魔剣】!!」
「炎帝流、魔技【スピキュール】!!」
二人の斬撃はぶつかり合い、閃光のように光る。
私は二人から離れていたのにも関わらず、余りの衝撃に吹き飛び、大きな岩石に叩きつけられ――。
「……先……生……」
気を失った。
ブレア以外の皆はすぐ起きたけど、ブレアだけはいつまでもぐーすかとイビキをかいていた。
「ブレア!! 起きて!!」
「うっせーな……後五分……」
「起きろって言ってんでしょ!!」
「あべっ!?」
エミリー先生の拳骨のマネをして、ブレアの頭に拳骨をお見舞いする。
一度やってみたかったんだ、ししし。
「いってーな!! 何しやがんだ!?」
「うっさい!! 早く身支度して逃げるの!!」
ブレアは周りを見て異常事態を察したのか、いつものように私と喧嘩はせず、何が起きているのか分からず頭にクエスチョンマークを浮かべながらもすぐに着替え始める。
「ヒメナ、皆準備できたみたい!! 行こう!!」
ブレアだけはズボンを履いている最中だけど、私達は孤児院を出て王都の方角へと向かった。
「アリア、皆と一緒に先行ってて!!」
「ヒメナ!?」
エミリー先生……大丈夫なのかな?
私が行ったって何も出来ないのは分かってる。
皆と一緒に逃げたほうが良いって分かってる。
だけどアッシュっておじさんの燃え盛るような憎しみのマナが、私をエミリー先生の元へと走らせた――。
私がアリアとのお気に入りの場所に行くと、もう私が知ってる丘ではなかった。
闘いで地形が変わり、お花畑は炎で燃え、大地には剣で斬られた跡がいくつも残っている。
「……何……これ……」
二人の攻防は、凄まじい程のぶつかり合い。
アッシュっておじさんは炎の魔法と剣を操り、エミリー先生は闘気を纏って大剣を振るう。
二人の動きがあまりにも速過ぎて残像が微かに見えるくらいだけど、攻撃の一つ一つが相手を殺すため……二人のマナと闘気から明らかな殺意を感じた。
互いの力は拮抗――。
「ちぃっ……!!」
していなかった。
エミリー先生が受けることに精一杯で攻撃できず、均衡が崩れ始めている。
「噴っ!!」
アッシュっておじさんが魔法で、自身の剣に炎を纏わせ振るったその一撃は――。
「がああぁぁ!!」
受け止めようとした先生の大剣を両断し、先生の胸にまで届く。
切り傷から発火した炎は先生の上半身で燃え盛り、先生は斬られた痛みと炎の熱さから、地面でのたうち回った。
「エミリー先生!!」
アッシュは叫んだ私をチラリと流し目で見てきたけど、まるで虫ケラを見るような目……。
私にはまるで興味が湧かなかったのか、直ぐにのたうち回る先生を見据え直し、歩いて距離を詰めっていった。
「フハハハ。老いましたなぁ、元剣帝様。かつては四帝の一人として皇帝陛下に寵愛され、軍の全権を握っていた貴女が……今や逃亡兵となり、このザマ」
倒れている先生に剣を向けてる……。
このままじゃ……先生が殺されちゃう!!
そんなの……そんなの嫌だよ……!!
「我が覇道!! 最初の礎となれ!!」
「やめろおおぉぉ!!」
――咄嗟だった。
先生が剣で突き刺されると思ったら、気付けばマナを体に巡らせていた。
闘気を纏った私の体は飛躍的に身体能力が上がり、アッシュを止めるために拳を振り上げ、跳ぶ。
ブレアがいつも使っていたマナの流れを見ていたこともあってか、初めて闘気を纏った体に違和感はなくスムーズに動いた。
「先生から離れろおぉぉ!!」
「!!」
でも、振り回した右の拳はアッシュに躱されて空を切る。
瞬間、熱いマナが目の前で走った。
私に分かったのは燃えるように熱いマナが、一瞬通り過ぎたということだけだった。
殴れなかった……!!
くそぅ……!!
私は跳んだ勢いそのままに地面を転がり倒れ込むと、私の目の前に燃えた何かがボトンと落ちてくる。
何これ……腕……?
誰……の――!?
「ぎゃああああぁぁ!!」
私の目の前に落ちてきた腕――それは、私自身の右腕。
私は燃える自分の肘から先の腕の前に跪き、痛みと熱さを紛らわすために泣き叫ぶ。
さっきの一瞬走ったマナは、アッシュの炎を纏った剣……!?
私の右手……斬り落とされたんだ……!!
「ヒメナァ!!」
自身の上半身を燃やす炎を消し切れていない先生が私の元に駆け付けるも、私はあまりの痛みから気を失いかけていた。
「……痛いよぅ……熱いよぅ……エミリー先生……どうしよう……私の右手……無くなっちゃった……」
泣いている内に、斬り落とされた私の右腕はアッシュの炎で消し炭に近くなっており、今にも燃えて尽きてしまいそうだ。
「エミリー先生……ごめんなさい……私……ただ……先生を助けようと思って……」
「喋るな、ヒメナ!! あんたは良くやった!!」
私の先の無い右腕を燃やす魔法の炎を消すために、先生は両手で包み込み、必死に自身のマナで相殺しようとしていた。
自分を燃やす炎も消し終えてないのに……私のために……。
「その年齢で闘気を扱えるとは。その才気、帝国軍で鍛えれば……とも思ったが、右腕が無ければ――な」
そんなに先生より強いことが……私の右腕を斬ったことが可笑しいのだろうか、アッシュは不敵に笑う。
私を燃やそうとしていた炎を消し終えた先生は、半分ほどの長さになってしまった大剣を握った。
「……アッシュ……よくもこんな優しくて可愛い子を……コレールが死んで……本当にあんたは壊れちまったようだなぁ……」
「コレールが死んで……だと? 貴様も関与しているだろうが!!」
何故かアッシュから責められた先生の顔はとても寂しくも悲しそうで、遠い昔を見ている感じがした。
こんなエミリー先生……初めて見た。
コレールって誰……?
昔に……アッシュと何かあったの……?
「先生……そんな折れた大剣じゃ……あいつは倒せないよ……」
エミリー先生の大剣は両断されており、体内に残ったマナも少なく感じる……体だってとてもあいつと闘える状態じゃない。
「ヒメナ……良く聞け。これから王国と帝国で戦争が起き、辛い時代になる」
ほぇ……戦争……?
帝国と王国で……?
「あんたは優しいからな……これから先、きっと辛いことや悲しいこと……誰かを恨むこともたくさんあるだろう……だけど、忘れちゃいけない。あんたの優しくて、強いその心を」
「先生……?」
「強くなれ、ヒメナ。アリアだけは何に代えても守るんだ」
「エミリー先生……何言ってるか分かんないよ……」
「頼んだぞ。あんたになら任せられる」
いつも孤児の私達を子供扱いする先生は、明らかに今だけは私を子供扱いしてなかった。
一人の大人――ううん、それ以上の存在として話してる――そんな気がする。
「返事は?」
「……ぅん……」
私が先生の話を理解できないまま相槌を打つと、エミリー先生はいつものように私に優しく微笑みかけてくれた。
先生は立ち上がり、両断されて短くなった大剣を自分のお腹に向けて構える。
大剣に残ったマナを集めて……先生……何するの……!?
「破っ!!」
先生はマナを込めた大剣を、自分の腹部に力一杯刺し込んだ。
「「!?」」
先生が刺した部分から、マナが膨れ上がって先生の中の体に入っていき、先生の体内のマナが普段の何倍もの大きさになっていく。
こんなマナの大きさ……感じたことない……。
「剣帝流、魔技【不退転】。私の生命力をマナに変える、その名の通り命と引き換えの奥義だ」
それって……エミリー先生が……死ぬってこと……?
「ぬああぁぁ!!」
先生は膨大なマナを闘気に変える。
そこら中に落ちる小石や葉を浮かし、大気を揺るがすほどの凄まじい闘気。
その闘気にアッシュも共鳴するかのようにマナを闘気へと変え、二人は互いに自らの間合いに敵を入れるため、一瞬で距離を詰めた。
「剣帝流、闘技【斬魔剣】!!」
「炎帝流、魔技【スピキュール】!!」
二人の斬撃はぶつかり合い、閃光のように光る。
私は二人から離れていたのにも関わらず、余りの衝撃に吹き飛び、大きな岩石に叩きつけられ――。
「……先……生……」
気を失った。