私はルグレの死体をアフェクシーの慰霊碑まで運び、墓を掘り返して埋めた。

 きっとこの方がルグレも寂しくないよね。
 あの世で……ジャンティや皆と仲良くするんだよ。

 そして、事前に外していたルグレの両腕の手甲を、右手の分はジャンティからもらったネックレスと共に慰霊碑に捧げ、手甲の左手の分は私が受け継いで装備した。

「ルグレ……借りるね」

 既に旅支度を終えている私は、漆黒のローブを纏い、布袋を担いで歩を進める。
 アリア達がいる、王都へ向けて――。


*****


「うわああぁぁ!!」

「ほぇ?」

 王国に入って数日間、王都へ向けて山道を歩いていると前方から野太い悲鳴が聞こえてきた。
 私は闘気を纏って、悲鳴が聞こえた方へ向けて走り始める。 

「何でこんな目に!! ちくしょおぉ!!」

 悲鳴の主は見た目から商人に見えた。
 何かに追われているのか、こちらに向けて馬車を爆走させている。
 追っているのは……猪の魔物?

「そこの黒い人、どいてくれ……いや、逃げろぉぉ!! 魔物だあぁぁ!!」

 商人は私の姿を確認したのか、危険を訴えかけてくる。

 けど、私は止まらない。
 大地を蹴り、宙を舞って、空中で商人が乗る馬車とすれ違った。

「……飛んだぁ!?」

 大した闘気も纏ってない魔物……この程度なら一撃で仕留められるだろう。
 そう判断した私は中空で回転し――。

「闘技【断絶脚】」

 闘技【断絶脚】で、猪の魔物を悲鳴を上げる暇も与えずに、右脚の踵落としで一刀両断に切り裂いた。
 その勢いで、被っていたローブのフードが脱げる。

「女の子……があんな魔物を……これは……夢……か?」

 馬車を止めた商人が、魔物を一撃で倒した私が女の子だったことに、ただただ驚いていた――。


*****


 助けた商人はどうやらゴルドのように裕福ではなく、護衛を雇う金銭をケチってたみたい。

「いやはや、助かったよ。何かお礼をしたいんだけど、あいにく積み荷は食べ物しかないんだが……」

「本当!?」

 積荷は果物で一杯だ。
 新鮮で美味しそう!

「これくらい貰ってもいい!?」

 私は左手一杯に果物を抱え、商人のおじさんは頷き、了承をしてくれた。
 タダで貰えるなんてラッキー!!

「命を助けてもらったんだ、それくらいお安い御用さ」

「ありがとう、おじさん!! じゃあね!!」

 貰った果物を布の袋に入れて抱えた私は、商人のおじさんに手を振り別れを告げる。
 そんな私をおじさんは引き留めて来た。

「待った嬢ちゃん!! リユニオンの方は危ないから行かないようにね!!」

「ほぇ? 何で?」

 リユニオンってどこだろ?
 アフェクシーで拝借した地図は持ってるけど、地理とか全然わかんないや。

「今リユニオンまで帝国軍が侵攻して、戦闘が行われてるんだ。歌姫様や紫狼騎士団の冥土隊も参戦してるって話だから、激戦なのは間違いない。近づかない方が良いよ。俺も遠回りしてきてこのざまだけどね」

「歌姫様って、もしかしてアリアのこと!?」

 アリアって今、歌姫様とか呼ばれてるの!?
 冥土隊……って言うのは、まさかルーナ達のことかな?

「確かそんな名前だった気はするが……あ、もしかして憧れてるのかい? 王国で凄い人気だからねぇ。両目が見えないにも関わらず、戦場の兵士のために歌う可憐な歌姫。俺も一度は拝みたいもんだよ」

 アリア……生きてて良かった。
 小さい頃も可愛かったから、もっと可愛くなってるんだろうな。
 早く……逢いたいな。

「リユニオンってどっちの方角? ここから遠い?」

「リユニオンはあっちで馬車で三日くらいの距離だけど……って、お嬢ちゃん?」

 商人のおじさんが指した方角を向くと、私が何をするか察したのかおじさんは手を差し伸べてくる。

「心配しなくても大丈夫だよ、色々教えてくれてありがとう」

 そんなおじさんのことはお構いなしに、私は闘気を纏った。

「うわぁ!?」

 おじさんはどうやら私程の闘気を今まで見たことないのだろう。
 私の闘気の圧に気圧されている。

「私はそれなりに強いし、世界一強くなろうとしてるから」

 闘気を纏った私は走り出す。
 リユニオンへ……アリアの元へと――。