夜――。
ベッドに入り、眠りにつこうとする私達。
落ち着きがないブレアが、いつまでもベッドに入らないでウロウロとしていた。
「こぉら、ブレア!! とっとと寝ろって言ってんだろ!!」
「うびぃ!? ごべんなざいーっ!!」
エミリー先生に見つかり、拳骨を頭に喰らうブレア。
ブレアはあまりの痛さに、泣きながらベッドへと潜り込んだ。
ブレアじゃなかったら死んでるかもしんない。
だって、タンコブで掛け布団が盛り上がっちゃってるもん。
「しししっ、ざまぁ」
「人の不幸を笑っちゃダメだよ、ヒメナ」
私がブレアが痛い目を見たことに笑うと、同じ掛け布団に仲良くくるまっているアリアに怒られる。
明日のご飯は何だろう?
また固いパンと具がないシチューだろうな。
明日はブレアにアリアのパン取られないようにしないと。
そんなことを考えながら私は眠りについた――。
*****
エミリーは孤児院の子供達が眠りについたことを確認すると、自室の椅子に座り買い出しに行った時に聞いた風の噂を思い出す。
「帝国との戦争が、遂に始まる……か」
ボースハイト王国の端に位置し、アルプトラオム帝国と近い街は、その噂で持ちきりであった。
中には王都へと逃げるため、荷を纏めている者もいた。
「やはり帝国は……十年前と変わらないままか……」
溜息をつきながら、自室の窓から満月を見上げるエミリー。
満月を見て、月明かりを遮る何かに気付いた。
「あれは……? まさか!?」
満月の光を遮っていたのは、煙。
天まで上り、月を隠すほど煙が上がるということは、それ程大きい火元とエミリーは予想した。
エミリーは現役時代から使っていた、自身の巨体をも超える大剣を手に取り、闘気で自身の身体を強化し駆け出す。
その速度は、馬をも優に超えていた。
エミリーは乱雑な音を孤児院に一瞬響かせた後、火元を確認するため孤児院を出て行くのであった――。
*****
一瞬だけ聞こえた巨体が動いたかのような足音で、私は目覚めた。
他の皆は気付いてなくて、グッスリ寝てる。
「……ほぇ? 何……?」
「……ん? ヒメナどうしたの……?」
私が体を起こしたことで、同じ掛け布団にくるまっていた、アリアを起こしちゃった。
「マナの流れ……これってエミリー先生の……? 外に行ったのかな?」
「マナの流れ……? よくそんなのわかるね。私全然わかんないや」
何となく感じたり、目を凝らしたらちょっと見えるだけだけどね。
でも、こんな夜更けに外に何の用だろう?
「行ってみよ!」
「ダメだよ、ヒメナ! 寝ないと怒られちゃうよ!?」
私がベッドから飛び降りると、アリアも私を止めるためにベッドから降りて、走る私に付いて来る。
トコトコ走るアリアは可愛いなぁ。
孤児院から出て外を見渡すと、大きな煙が空まで上がっていた。
「何あれ……?」
「街の方角……?」
私達は異変を感じて、アンファング全体を見渡せるいつものお気に入りのお花畑へと向かう。
走っている内に、大剣を担ぐエミリー先生が立っているのが見えてきた。
何で先生は剣なんて持ってるんだろう?
「エミリー先生!! 何か煙が上がってるよ!?」
私達はエミリー先生の隣に並ぶ。
街が見渡せる私とアリアのお気に入りの場所――。
「アンファングの街が……燃えてる?」
そこから見える景色はいつもの綺麗な景色とは違い、街全体が燃えていて赤く光ってる。
ここまで色々なモノが焼ける、焦げ臭い匂いが漂ってきた。
アンファングから沢山の人のマナが見える……。
街の人達が、喧嘩してるの……?
「ヒメナ、アリア。急いで孤児院に戻って皆を連れて逃げろ。アンファングはもう駄目だ」
「え? 逃げるって何から? どこに行けば良いの?」
街がもう駄目って……燃えてるから?
エミリー先生は何言ってるんだろう?
「どこだっていい!! 安全な街……王都へ向かえ!! 間違っても帝国領には行くなよ!!」
「王都って……遠いんでしょ!? 何でそんな所行くの!?」
「それは――」
アリアの質問にエミリー先生が答えようとした時、燃えるようなマナを背後に感じて、私の体が恐怖で石のように固まった。
触れるモノ全てを焼き尽くす――そう感じさせる程の禍々しいマナ……怖い……。
そのマナを体内に宿した人物は、エミリー先生に向けて飛びかかり、剣を振りかぶっていた。
「ちぃっ!!」
突如剣を振われた先生も、大剣で応戦する。
「ほぇっ!?」
「きゃっ!?」
私とアリアが何が起きているのか理解できない中、交錯した互いの剣は火花を散らし、辺り一面を照らす。
「破っ!!」
襲い掛かって来た人を力づくで吹き飛ばした先生は、私達を庇うように前に立った。
燃えるようなマナの主が受け身を取って立ち上がったことで、ようやく私はその人を観察できた。
オールバックにした長い白髪をなびかせたおじさんは、剣で斬られた傷跡が残る顔から四十歳ぐらい。
帝国の騎士なのだろうか、帝国の紋章が刻まれた漆黒の鎧を身に纏い、漆黒の炎の様に波打ったフランベルジュという剣を持っていた。
「お久しぶりですな。元帝国軍、剣帝エミリー・シュヴェールト様」
「アッシュ……!!」
先生とアッシュっておじさんは知り合いなのか、挨拶を交わした……けど、二人の体内を巡るマナの流れから、二人は喧嘩腰に見える。
どっちも体から溢れそうな位大きいマナ……。
それにアッシュっておじさんのマナは、沸々と燃えてて何だか熱い……。
「先生……この人は……?」
「アッシュ・フラム……まぁ、昔私が世話してやった小僧だ」
「その度はお世話になり申した。剣帝の貴女が王国に亡命した後、炎帝として四帝入りをしましてな」
アッシュさんは、エミリー先生に丁寧に一礼してるけど……どこか挑発的だ。
「ハッ、偉そうに。で、私に剣を向けてどういった了見だ?」
「私に貴女の討伐とアンファングを堕とす命が出ましてな。四帝の一人だった貴女は、古いとは言え帝国軍の情報を持っている。これからボースハイト王国とは戦争となるのに、そんな危険分子をこれ以上野放しにしてはおけませんのでね。下手な騎士では討伐は出来ない。かと言ってこのまま野放しにも出来ない。面倒な存在なのですよ、貴女は」
何の話……?
難しくて良く分からないけど、この人は先生を嫌ってるんだ……。
それに帝国の人間ってことは……街を燃やしたのはこの人……?
「私はあんたらの情報を王国を売るつもりはない。この孤児院で、子供たちと平穏に過ごしたいだけだ。見逃してくれないか?」
「そんな道理がまかり通らぬことは、貴女が一番おわかりでしょう?」
「……なんてことはない、言ってみただけだ。あんたも四帝を名乗るなんて、ずいぶん偉くなったもんだな。初めて会った時は、戦場で足震わせてた小僧が」
「貴女の命をもって、此度の戦争の口火が開く。光栄に思うが良い」
剣を構えて笑ってる……エミリー先生のことを斬る気だ。
街を燃やしたみたいに……。
「炎帝アッシュ・フラム、参る!!」
「青二才が! 生意気に啖呵切ってんなよ!!」
二人はマナを闘気に変え、剣をぶつけ合った。
力強い闘気の衝突は、近くにいた私とアリアを吹き飛ばす。
「わぁ!?」
「きゃあ!?」
ブレアの闘気とは訳が違う……比べ物にならない……。
先生の全力ってこんな凄かったんだ……。
だけど……アッシュっておじさんの闘気は強くて、燃えるように……熱い。
「ヒメナ、孤児院に行って皆で逃げよう!?」
「え!? でも、先生が……」
「エミリー先生なら大丈夫!! だって先生強いんだもん!!」
アリアの言う通り、先生は間違いなく強い。
盗賊が孤児院を襲って来た時もあっさり全員捕まえてたし、街の人に依頼されて三メートルを超える熊の魔物を素手で殴り倒してた。
それでも、嫌な予感が止まんない。
先生は何で、普段絶対使わない剣を取ったんだろう……。
アッシュっておじさんに先生は勝てるの……?
アリアは私の手を取り、私達は闘う二人を残して孤児院へと走った――。
ベッドに入り、眠りにつこうとする私達。
落ち着きがないブレアが、いつまでもベッドに入らないでウロウロとしていた。
「こぉら、ブレア!! とっとと寝ろって言ってんだろ!!」
「うびぃ!? ごべんなざいーっ!!」
エミリー先生に見つかり、拳骨を頭に喰らうブレア。
ブレアはあまりの痛さに、泣きながらベッドへと潜り込んだ。
ブレアじゃなかったら死んでるかもしんない。
だって、タンコブで掛け布団が盛り上がっちゃってるもん。
「しししっ、ざまぁ」
「人の不幸を笑っちゃダメだよ、ヒメナ」
私がブレアが痛い目を見たことに笑うと、同じ掛け布団に仲良くくるまっているアリアに怒られる。
明日のご飯は何だろう?
また固いパンと具がないシチューだろうな。
明日はブレアにアリアのパン取られないようにしないと。
そんなことを考えながら私は眠りについた――。
*****
エミリーは孤児院の子供達が眠りについたことを確認すると、自室の椅子に座り買い出しに行った時に聞いた風の噂を思い出す。
「帝国との戦争が、遂に始まる……か」
ボースハイト王国の端に位置し、アルプトラオム帝国と近い街は、その噂で持ちきりであった。
中には王都へと逃げるため、荷を纏めている者もいた。
「やはり帝国は……十年前と変わらないままか……」
溜息をつきながら、自室の窓から満月を見上げるエミリー。
満月を見て、月明かりを遮る何かに気付いた。
「あれは……? まさか!?」
満月の光を遮っていたのは、煙。
天まで上り、月を隠すほど煙が上がるということは、それ程大きい火元とエミリーは予想した。
エミリーは現役時代から使っていた、自身の巨体をも超える大剣を手に取り、闘気で自身の身体を強化し駆け出す。
その速度は、馬をも優に超えていた。
エミリーは乱雑な音を孤児院に一瞬響かせた後、火元を確認するため孤児院を出て行くのであった――。
*****
一瞬だけ聞こえた巨体が動いたかのような足音で、私は目覚めた。
他の皆は気付いてなくて、グッスリ寝てる。
「……ほぇ? 何……?」
「……ん? ヒメナどうしたの……?」
私が体を起こしたことで、同じ掛け布団にくるまっていた、アリアを起こしちゃった。
「マナの流れ……これってエミリー先生の……? 外に行ったのかな?」
「マナの流れ……? よくそんなのわかるね。私全然わかんないや」
何となく感じたり、目を凝らしたらちょっと見えるだけだけどね。
でも、こんな夜更けに外に何の用だろう?
「行ってみよ!」
「ダメだよ、ヒメナ! 寝ないと怒られちゃうよ!?」
私がベッドから飛び降りると、アリアも私を止めるためにベッドから降りて、走る私に付いて来る。
トコトコ走るアリアは可愛いなぁ。
孤児院から出て外を見渡すと、大きな煙が空まで上がっていた。
「何あれ……?」
「街の方角……?」
私達は異変を感じて、アンファング全体を見渡せるいつものお気に入りのお花畑へと向かう。
走っている内に、大剣を担ぐエミリー先生が立っているのが見えてきた。
何で先生は剣なんて持ってるんだろう?
「エミリー先生!! 何か煙が上がってるよ!?」
私達はエミリー先生の隣に並ぶ。
街が見渡せる私とアリアのお気に入りの場所――。
「アンファングの街が……燃えてる?」
そこから見える景色はいつもの綺麗な景色とは違い、街全体が燃えていて赤く光ってる。
ここまで色々なモノが焼ける、焦げ臭い匂いが漂ってきた。
アンファングから沢山の人のマナが見える……。
街の人達が、喧嘩してるの……?
「ヒメナ、アリア。急いで孤児院に戻って皆を連れて逃げろ。アンファングはもう駄目だ」
「え? 逃げるって何から? どこに行けば良いの?」
街がもう駄目って……燃えてるから?
エミリー先生は何言ってるんだろう?
「どこだっていい!! 安全な街……王都へ向かえ!! 間違っても帝国領には行くなよ!!」
「王都って……遠いんでしょ!? 何でそんな所行くの!?」
「それは――」
アリアの質問にエミリー先生が答えようとした時、燃えるようなマナを背後に感じて、私の体が恐怖で石のように固まった。
触れるモノ全てを焼き尽くす――そう感じさせる程の禍々しいマナ……怖い……。
そのマナを体内に宿した人物は、エミリー先生に向けて飛びかかり、剣を振りかぶっていた。
「ちぃっ!!」
突如剣を振われた先生も、大剣で応戦する。
「ほぇっ!?」
「きゃっ!?」
私とアリアが何が起きているのか理解できない中、交錯した互いの剣は火花を散らし、辺り一面を照らす。
「破っ!!」
襲い掛かって来た人を力づくで吹き飛ばした先生は、私達を庇うように前に立った。
燃えるようなマナの主が受け身を取って立ち上がったことで、ようやく私はその人を観察できた。
オールバックにした長い白髪をなびかせたおじさんは、剣で斬られた傷跡が残る顔から四十歳ぐらい。
帝国の騎士なのだろうか、帝国の紋章が刻まれた漆黒の鎧を身に纏い、漆黒の炎の様に波打ったフランベルジュという剣を持っていた。
「お久しぶりですな。元帝国軍、剣帝エミリー・シュヴェールト様」
「アッシュ……!!」
先生とアッシュっておじさんは知り合いなのか、挨拶を交わした……けど、二人の体内を巡るマナの流れから、二人は喧嘩腰に見える。
どっちも体から溢れそうな位大きいマナ……。
それにアッシュっておじさんのマナは、沸々と燃えてて何だか熱い……。
「先生……この人は……?」
「アッシュ・フラム……まぁ、昔私が世話してやった小僧だ」
「その度はお世話になり申した。剣帝の貴女が王国に亡命した後、炎帝として四帝入りをしましてな」
アッシュさんは、エミリー先生に丁寧に一礼してるけど……どこか挑発的だ。
「ハッ、偉そうに。で、私に剣を向けてどういった了見だ?」
「私に貴女の討伐とアンファングを堕とす命が出ましてな。四帝の一人だった貴女は、古いとは言え帝国軍の情報を持っている。これからボースハイト王国とは戦争となるのに、そんな危険分子をこれ以上野放しにしてはおけませんのでね。下手な騎士では討伐は出来ない。かと言ってこのまま野放しにも出来ない。面倒な存在なのですよ、貴女は」
何の話……?
難しくて良く分からないけど、この人は先生を嫌ってるんだ……。
それに帝国の人間ってことは……街を燃やしたのはこの人……?
「私はあんたらの情報を王国を売るつもりはない。この孤児院で、子供たちと平穏に過ごしたいだけだ。見逃してくれないか?」
「そんな道理がまかり通らぬことは、貴女が一番おわかりでしょう?」
「……なんてことはない、言ってみただけだ。あんたも四帝を名乗るなんて、ずいぶん偉くなったもんだな。初めて会った時は、戦場で足震わせてた小僧が」
「貴女の命をもって、此度の戦争の口火が開く。光栄に思うが良い」
剣を構えて笑ってる……エミリー先生のことを斬る気だ。
街を燃やしたみたいに……。
「炎帝アッシュ・フラム、参る!!」
「青二才が! 生意気に啖呵切ってんなよ!!」
二人はマナを闘気に変え、剣をぶつけ合った。
力強い闘気の衝突は、近くにいた私とアリアを吹き飛ばす。
「わぁ!?」
「きゃあ!?」
ブレアの闘気とは訳が違う……比べ物にならない……。
先生の全力ってこんな凄かったんだ……。
だけど……アッシュっておじさんの闘気は強くて、燃えるように……熱い。
「ヒメナ、孤児院に行って皆で逃げよう!?」
「え!? でも、先生が……」
「エミリー先生なら大丈夫!! だって先生強いんだもん!!」
アリアの言う通り、先生は間違いなく強い。
盗賊が孤児院を襲って来た時もあっさり全員捕まえてたし、街の人に依頼されて三メートルを超える熊の魔物を素手で殴り倒してた。
それでも、嫌な予感が止まんない。
先生は何で、普段絶対使わない剣を取ったんだろう……。
アッシュっておじさんに先生は勝てるの……?
アリアは私の手を取り、私達は闘う二人を残して孤児院へと走った――。