あれから、私の中でのポワンの見方は百八十度変わった。
ポワンの闘気を目の当たりにしてなければ、ポワンに修行をつけてもらったとしても、強くなれるか半信半疑だったと思う。
ポワンの強さを肌で感じてからは、ポワンに修行をつけてもらえば確実に強くなれるという確信があった。
「さて……魔法を持たぬお主がどう闘うか……じゃが、魔法や魔技を見たことはあるか?」
ポワンの言葉を一語一句聞き逃さないように、真剣に聞く。
そんな私を近くの岩に座るルグレは、頬杖をしながら楽しそうに見ていた。
「うん、あるよ。歌で誰かに干渉したり、炎を剣に纏わせたり、相手に電流を流したり出来るんだよね?」
アッシュやロランも使ってたし、アリアの歌魔法は一番身近で見てたもん。
「さよう。魔法は使い手固有のモノで、魔技というのは、魔法を応用したオリジナルの技といったところなのじゃ。魔法自体の性質が誰かと同じであっても、魔技が被ることはあまりない。使い手の工夫がなされておるからのう」
なるほどねー。
同じ火の魔法を持ってたとしても、魔技は自分で開発するから、また違った感じになるってことか。
「攻撃はオリジナルであることが重要……相手に行動が読まれにくいからの。魔法という個性を持たぬお主は、戦闘する者の大多数が使える闘気のみで闘うしかないないのじゃ」
つまり、闘いにおいてかなり不利ってことだよね……私はただでさえ右手がないし……。
「闘気を纏うのじゃ、ヒメナ」
「……うん?」
「はよせんかい」
言われるがままに闘気を纏うと、ポワンは近づいて来て私の胸に優しく手を置いた。
ポワンって……変な趣味でもあるのかな?
「死ぬでないぞ」
「ほぇ?」
不吉なことを言いながら微笑んだポワンは――。
【衝波】
手の平にマナを集め、私の体に闘気を放った。
「わああぁぁ!?」
私の体は吹き飛ばされ、地面にぶつかり跳ね上がる。
それを何度も繰り返し、木にぶつかって勢いを止めた私は、鼻血を垂らしていた。
一瞬、気が緩みそうになった。
闘気を纏ってなきゃ……死んでたかもしんない。
「ヒメナ、大丈夫!? 師匠、やりすぎですよ!!」
ルグレがポワンに吹き飛ばされ、呆然とする私の所まで走ってきて、鼻血を拭ってくれる。
続いてポワンが申し訳なさそうに、歩いてきた。
「いやーっ、死ぬほど手加減したんじゃがのう」
何今の……?
私……ポワンの闘気に吹き飛ばされたの……?
「【闘技】じゃ」
「闘……技?」
ポワンは私の前に立つと、自慢気に腕を組んで胸を張っている。
「闘技とは、闘気を使った戦闘技術なのじゃ。闘気を使える者が訓練すれば誰でも使うことはできるが、習得するための修練が容易くないのと、近頃は兵がすぐ実戦投入されることが多いからか、魔法や魔技に熱心になる者が多いからのぉ。達人の域に立つ者はほぼおらん」
ポワンは現状を憂いていた。
闘技には特別な想いがあるのかな?
「闘気と闘技を極めることが出来れば、武器なんぞいらんし、王国の騎士団長なんぞはイチコロじゃて。闘技を開発すればオリジナルにもなるしの」
魔法を持ってる人にも対抗できるってこと……?
確かにポワンくらいの強さがあれば、魔法なんて関係なさそう……。
「しかし、先に言った通り修練は容易くない。闘気は奥が深いのじゃ。まずはマナと闘気が何たるかを知れ」
私は立ってポワンに向き直る。
「はいっ!!」
ポワンに頑張って付いていけば、きっと強くなれる。
ハンデは大きいけど、絶対に私は強くなるんだっ!!
*****
その日の修練を終えた夜――。
私とルグレは晩御飯を食べ終え、片づけをしていた。
ポワンは自分の鍛錬のため、どこかに出払っている。
「はぁーあ……マナの制御って難しいんだなぁ……全然出来なかったや……」
「闘技はマナと闘気の制御は不可欠だからね。闘気を纏うだけとは訳が違うから、仕方ないよ。俺も習得するまで時間がかかったし、意識しないと出来ないしさ」
そう言ったルグレはマナを手に集めたりして、自由に動かしていた。
私が出来ないことをポワンの弟子という同じ立場のルグレは、簡単にやってのける。
「ちぇー、見せつけるようにやっちゃってさー」
「え? 俺のマナが見えるの?」
「うん、見えるよ」
ルグレは不思議そうに私を見てくる。
「感じることは俺でもそれなりに出来るけど、見ることが出来るって人は聞いたことないや。魔法を使えないことといい本当にヒメナって不思議だね」
「もー、それは言わないでよー」
「あはは、ごめんごめん」
ぶー垂れながら左手だけで片付けるをする私を見て、ルグレは気遣うように私が持つ食器を横から奪い取った。
「ヒメナが右手が無いから大変だし、修行で疲れてるだろ? 俺がやるから、休んでてよ」
「ほぇ? でも……」
「いいからいいから、俺は慣れてるしね」
私は男の子に優しくされることに慣れてないんだけど。
ルグレって本当に優しいな……イケメンだし。
「ルグレはさ、何でポワンに弟子入りしたの?」
「ん? 何でって理由ってこと?」
「うん、どんな理由があったのかなって」
ルグレの優しい性格は、闘いに向いてない。
魔物を倒す時も謝ってたし。
優しいから、他人じゃなくて自分を傷つけそう。
それでも強くなりたかったってことは、何か理由があるのかなって思ったんだ。
「……父上の間違いを正すため……かな?」
「お父さんの間違い? どんな?」
ルグレは少し押し黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「父上は……色んな人を傷つけて、平然としているんだ……それが俺には許せない」
「お父さんと闘うために強くなりたいってこと? 何かそれって……悲しいね」
本当の両親がいない私には良く分からないけど、親子で争うなんて何か嫌だな。
だけどルグレのお父さんが人を傷つけるような人だったら、仕方ないのかな……?
「ヒメナはさ、師匠と闘おうと思うかい?」
ポワンと闘う……?
ありえないって!!
絶対瞬殺されちゃうよ!!
私は首を勢いよく横に振る。
「そうだよね、俺もそう。だから俺も師匠みたいな圧倒的な力が欲しいんだ」
んーと……?
どういうことだろ。
「師匠のような圧倒的な力が俺にあれば、闘わずしても父上を止められる。そう思わない?」
……確かに、ルグレの言う通りだ。
ポワンくらい強ければ、闘わずして人の過ちを正せたりできるだろう。
私だってポワンとは何があっても闘いたくないって思ったんだから。
闘うための力が欲しいんじゃなくて、闘わないための力が欲しいなんて、やっぱりルグレは優しいんだ。
「師匠に弟子入りしてから強くなったつもりだけど、強くなればなるほど師匠が遠く離れていく。どれだけ修練をつめばあんなに強くなれるのか……俺は師匠程強くなれるのか……正直不安なんだけどね」
ポワンは強い。
本人が言う通り、多分世界一。
そんな強さが目標として明確に目の前にあると、否が応でも自分のちっぽけさを思い知らされるのだろう。
だけど、きっと――。
「大丈夫だよ。ルグレの優しさが、ポワンみたいにルグレを強くしてくれるよ。絶対」
確証はないけど、何でかそう思えた。
アッシュやカニバルやロランみたいな人間じゃなくて、ルグレみたいな人が強くなるべきだ。
私のそういう願いも込められている。
「ルグレより弱い私が言っても説得力ないけどさ! あはは……」
弱い私が、強くなれるなんて言って恥ずかしくなっちゃった。
私は情けなくも、誤魔化すように笑った。
「そんなことないよ。ありがとう、ヒメナ」
ルグレはそんな私に感謝するように、優しく微笑む。
誤魔化しても、本気で言ったと分かっていたのか、ルグレはちゃんと受け取ってくれていた。
そんなルグレの笑顔を見て、私の胸はキュッと締め付けられるように苦しくなる。
ほぇ……?
胸が何か変だ。
変だけど嫌な感じじゃない……何だこりゃ……?
「頑張らないとね、俺達」
「うっ……うんっ、頑張って強くなろう!!」
そんな胸の痛みをルグレに知られるのは何か嫌で、私はまたもや誤魔化した。
今度はちゃんと誤魔化せたみたい。
ポワンの闘気を目の当たりにしてなければ、ポワンに修行をつけてもらったとしても、強くなれるか半信半疑だったと思う。
ポワンの強さを肌で感じてからは、ポワンに修行をつけてもらえば確実に強くなれるという確信があった。
「さて……魔法を持たぬお主がどう闘うか……じゃが、魔法や魔技を見たことはあるか?」
ポワンの言葉を一語一句聞き逃さないように、真剣に聞く。
そんな私を近くの岩に座るルグレは、頬杖をしながら楽しそうに見ていた。
「うん、あるよ。歌で誰かに干渉したり、炎を剣に纏わせたり、相手に電流を流したり出来るんだよね?」
アッシュやロランも使ってたし、アリアの歌魔法は一番身近で見てたもん。
「さよう。魔法は使い手固有のモノで、魔技というのは、魔法を応用したオリジナルの技といったところなのじゃ。魔法自体の性質が誰かと同じであっても、魔技が被ることはあまりない。使い手の工夫がなされておるからのう」
なるほどねー。
同じ火の魔法を持ってたとしても、魔技は自分で開発するから、また違った感じになるってことか。
「攻撃はオリジナルであることが重要……相手に行動が読まれにくいからの。魔法という個性を持たぬお主は、戦闘する者の大多数が使える闘気のみで闘うしかないないのじゃ」
つまり、闘いにおいてかなり不利ってことだよね……私はただでさえ右手がないし……。
「闘気を纏うのじゃ、ヒメナ」
「……うん?」
「はよせんかい」
言われるがままに闘気を纏うと、ポワンは近づいて来て私の胸に優しく手を置いた。
ポワンって……変な趣味でもあるのかな?
「死ぬでないぞ」
「ほぇ?」
不吉なことを言いながら微笑んだポワンは――。
【衝波】
手の平にマナを集め、私の体に闘気を放った。
「わああぁぁ!?」
私の体は吹き飛ばされ、地面にぶつかり跳ね上がる。
それを何度も繰り返し、木にぶつかって勢いを止めた私は、鼻血を垂らしていた。
一瞬、気が緩みそうになった。
闘気を纏ってなきゃ……死んでたかもしんない。
「ヒメナ、大丈夫!? 師匠、やりすぎですよ!!」
ルグレがポワンに吹き飛ばされ、呆然とする私の所まで走ってきて、鼻血を拭ってくれる。
続いてポワンが申し訳なさそうに、歩いてきた。
「いやーっ、死ぬほど手加減したんじゃがのう」
何今の……?
私……ポワンの闘気に吹き飛ばされたの……?
「【闘技】じゃ」
「闘……技?」
ポワンは私の前に立つと、自慢気に腕を組んで胸を張っている。
「闘技とは、闘気を使った戦闘技術なのじゃ。闘気を使える者が訓練すれば誰でも使うことはできるが、習得するための修練が容易くないのと、近頃は兵がすぐ実戦投入されることが多いからか、魔法や魔技に熱心になる者が多いからのぉ。達人の域に立つ者はほぼおらん」
ポワンは現状を憂いていた。
闘技には特別な想いがあるのかな?
「闘気と闘技を極めることが出来れば、武器なんぞいらんし、王国の騎士団長なんぞはイチコロじゃて。闘技を開発すればオリジナルにもなるしの」
魔法を持ってる人にも対抗できるってこと……?
確かにポワンくらいの強さがあれば、魔法なんて関係なさそう……。
「しかし、先に言った通り修練は容易くない。闘気は奥が深いのじゃ。まずはマナと闘気が何たるかを知れ」
私は立ってポワンに向き直る。
「はいっ!!」
ポワンに頑張って付いていけば、きっと強くなれる。
ハンデは大きいけど、絶対に私は強くなるんだっ!!
*****
その日の修練を終えた夜――。
私とルグレは晩御飯を食べ終え、片づけをしていた。
ポワンは自分の鍛錬のため、どこかに出払っている。
「はぁーあ……マナの制御って難しいんだなぁ……全然出来なかったや……」
「闘技はマナと闘気の制御は不可欠だからね。闘気を纏うだけとは訳が違うから、仕方ないよ。俺も習得するまで時間がかかったし、意識しないと出来ないしさ」
そう言ったルグレはマナを手に集めたりして、自由に動かしていた。
私が出来ないことをポワンの弟子という同じ立場のルグレは、簡単にやってのける。
「ちぇー、見せつけるようにやっちゃってさー」
「え? 俺のマナが見えるの?」
「うん、見えるよ」
ルグレは不思議そうに私を見てくる。
「感じることは俺でもそれなりに出来るけど、見ることが出来るって人は聞いたことないや。魔法を使えないことといい本当にヒメナって不思議だね」
「もー、それは言わないでよー」
「あはは、ごめんごめん」
ぶー垂れながら左手だけで片付けるをする私を見て、ルグレは気遣うように私が持つ食器を横から奪い取った。
「ヒメナが右手が無いから大変だし、修行で疲れてるだろ? 俺がやるから、休んでてよ」
「ほぇ? でも……」
「いいからいいから、俺は慣れてるしね」
私は男の子に優しくされることに慣れてないんだけど。
ルグレって本当に優しいな……イケメンだし。
「ルグレはさ、何でポワンに弟子入りしたの?」
「ん? 何でって理由ってこと?」
「うん、どんな理由があったのかなって」
ルグレの優しい性格は、闘いに向いてない。
魔物を倒す時も謝ってたし。
優しいから、他人じゃなくて自分を傷つけそう。
それでも強くなりたかったってことは、何か理由があるのかなって思ったんだ。
「……父上の間違いを正すため……かな?」
「お父さんの間違い? どんな?」
ルグレは少し押し黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「父上は……色んな人を傷つけて、平然としているんだ……それが俺には許せない」
「お父さんと闘うために強くなりたいってこと? 何かそれって……悲しいね」
本当の両親がいない私には良く分からないけど、親子で争うなんて何か嫌だな。
だけどルグレのお父さんが人を傷つけるような人だったら、仕方ないのかな……?
「ヒメナはさ、師匠と闘おうと思うかい?」
ポワンと闘う……?
ありえないって!!
絶対瞬殺されちゃうよ!!
私は首を勢いよく横に振る。
「そうだよね、俺もそう。だから俺も師匠みたいな圧倒的な力が欲しいんだ」
んーと……?
どういうことだろ。
「師匠のような圧倒的な力が俺にあれば、闘わずしても父上を止められる。そう思わない?」
……確かに、ルグレの言う通りだ。
ポワンくらい強ければ、闘わずして人の過ちを正せたりできるだろう。
私だってポワンとは何があっても闘いたくないって思ったんだから。
闘うための力が欲しいんじゃなくて、闘わないための力が欲しいなんて、やっぱりルグレは優しいんだ。
「師匠に弟子入りしてから強くなったつもりだけど、強くなればなるほど師匠が遠く離れていく。どれだけ修練をつめばあんなに強くなれるのか……俺は師匠程強くなれるのか……正直不安なんだけどね」
ポワンは強い。
本人が言う通り、多分世界一。
そんな強さが目標として明確に目の前にあると、否が応でも自分のちっぽけさを思い知らされるのだろう。
だけど、きっと――。
「大丈夫だよ。ルグレの優しさが、ポワンみたいにルグレを強くしてくれるよ。絶対」
確証はないけど、何でかそう思えた。
アッシュやカニバルやロランみたいな人間じゃなくて、ルグレみたいな人が強くなるべきだ。
私のそういう願いも込められている。
「ルグレより弱い私が言っても説得力ないけどさ! あはは……」
弱い私が、強くなれるなんて言って恥ずかしくなっちゃった。
私は情けなくも、誤魔化すように笑った。
「そんなことないよ。ありがとう、ヒメナ」
ルグレはそんな私に感謝するように、優しく微笑む。
誤魔化しても、本気で言ったと分かっていたのか、ルグレはちゃんと受け取ってくれていた。
そんなルグレの笑顔を見て、私の胸はキュッと締め付けられるように苦しくなる。
ほぇ……?
胸が何か変だ。
変だけど嫌な感じじゃない……何だこりゃ……?
「頑張らないとね、俺達」
「うっ……うんっ、頑張って強くなろう!!」
そんな胸の痛みをルグレに知られるのは何か嫌で、私はまたもや誤魔化した。
今度はちゃんと誤魔化せたみたい。