ロランの魔法で身体が痺れ、地に伏せる私、ブレア、エマ、ルーナの四人。
アリアの魔法、【狂戦士の歌】の反動で私達の体内のマナは枯渇しかけており、身体は悲鳴を上げている。
「くそぅ……!!」
エミリー先生が昔、マナが体から全部無くなったら死ぬって言ってた……。
この痺れがとれたとしても……こんな身体じゃもう、闘えない……。
「僕が必要なのは歌姫だけだ、他は全員殺す」
「……ほぇ……」
ロランは右手に持つレイピアを、私へと向けた。
「ヒメナ……!! お願いします、やめて下さい!!」
……殺される……!!
アリアが叫び、私は死の恐怖から目を強く瞑る。
そんな私をよそに、ロランは殺すという言葉とは裏腹に、手に持つレイピアを手元へと下げた。
「――つもりだったけど、気が変わった。誰か一人だけ生かしてあげようかな。その一人と歌姫以外は全員殺すね」
どういうつもり……?
ロランの強さは肌で感じた。
アリアの【狂戦士の歌】で強化されてても傷一つつけられなかったんだから、今の私達じゃロランは絶対に倒せない。
私達全員を殺してアリアを連れていくことなんて簡単なはずなのに……何で……?
「さぁ、誰かいないかい? 私だけは生かして欲しいと、そう思っている子は。いないのなら全員殺すよ」
私は……皆が死んで、自分だけ生きるのなんて絶対出来ない!!
死ぬのは嫌だけど、こんなヤツに屈するのはもっと嫌だ!!
『強くなれ、ヒメナ。アリアだけは何に代えても守るんだ』
『頼んだよ。あんたになら任せられる』
負けん気と共に死を覚悟した私を止めるかのように、何故かエミリー先生の死に際の言葉が頭をよぎった。
そうだ……私はエミリー先生とアリアを守るって約束したんだ……。
私が死んだら、アリアはどうなっちゃうの……?
誰も生かされないで全員死んじゃったら……アリアは誰が守るの……?
私の覚悟が――大きく揺らぐ。
ロランみたいなヤツに屈したくない……皆が死んで自分だけが助かるなんてありえない……。
でもアリアが生きているなら……私は死ねない……。
だって孤児院を出る時に、強くなって……アリアを守るって決めたんだもん……。
エミリー先生と約束したんだもん……!!
だから……だから私は……!!
「……わ――」
私が生き延びようと呟きかけた、その時――。
「……メラニーは死にたくないの……」
後方でベラの後ろに隠れていたメラニーが、気付けばロランの前に出ていた。
「おい……嘘だろ……?」
「……メラ……ニー……?」
今までずっと一緒に生きてきた他の仲間が死んでも、自分だけ生かして欲しい。
私もしようとした裏切りにも見えるその行為を、普段から主張をほとんどしないメラニーがそんなことをするとは誰も思っていなかった。
「……皆……ごめんなさい……でも、メラニー怖いの……」
私達に後ろめたいからか、メラニーは背を向けて語る。
「……エミリー先生が死んだ時も……ララが死んだ時も……メラニーは悲しいって気持ちより……メラニーは死にたくないって……そんな気持ちで溢れたの……だから……皆に恨まれても……メラニーは生きたいの……」
メラニーはずっと怖かったんだろう。
私達は気付いてあげられなかった。
自分のことで一杯一杯で、毎日生きるのに必死で。
「……メラニーは自分が一番可愛いの……」
そう言って振り返ったメラニーは、苦しそうに瞳を涙で溢れさせていた。
長い黒髪で顔を隠して、臆病で、大人しくて、いつも俯いてボソボソ話すメラニーの本心。
嘘偽りなく話してくれた自己愛に、誰も何も言えなかった。
メラニーを可愛がっていたベラやエマも、メラニーの心境を知らなかったみたいで何も言わない。
当然、私もショックだ。
でも、メラニーが自分だけ生かして欲しいと言ったからじゃない。
私達はメラニーのことを何も知らなかったし、今まで知ろうともしなかったからだ。
メラニーが生きたいなら、そうした方が良い。
私はそうとさえ思ってしまった。
「他にはいないかい? 自分だけ生きたいという子は」
ロランの問いに答える者はおらず、静寂が流れる。
皆私と考えが同じなのかな……?
ブレアだけはギザ歯を食いしばってるけど、皆呆然としてて何も言わないや……。
「それじゃ、殺してしまおうかな」
ロランがメラニーの肩を抱くと、怯えたのか体をビクッと震わせる。
メラニーの髪に隠れた眼は見開き、私達の目線はメラニーの胸へと集まった。
何故なら――。
「君を」
メラニーの胸からは、まるで土から木の芽が出てくる様にレイピアの切先が生えていたからだ。
「……ぁ……」
音もなくレイピアが引き抜かれ、着ていたオンボロの服は血でじんわり濡れていく。
さっきのメラニーの体の震えは怯えたからじゃない……?
胸を貫かれた……から……?
「「メラニー!!」」
真っ先に状況を理解した、ベラとエマが叫ぶ。
心臓を貫かれたメラニーの元へと駆けたベラは、崩れ落ちる身体を支えた。
「メラニー……!!」
嘘……メラニー……?
だって誰か一人は生かすって……メラニーを生かすってことじゃないの……?
心臓を貫かれたメラニーは、涙を流すベラの腕の中で苦しそうにしている。
その命の灯火は今にも消えそうなくらい儚い。
風前の灯火だ。
「……ごめ……んね……メラニーは……ずっと辛かったの……」
「メラニー……!! 喋らないでぇ……!!」
メラニーは口から血を流しながら、苦しそうに話す。
「……皆はどんどん前に進んでいくのに……メラニーの気持ちは……エミリー先生がいた孤児院に残ったままなの……」
きっとメラニーは自分から皆が離れていった気がしてたんだろう。
メラニーの気持ちだけを置いてけぼりにして……。
――だけど、私達だって無理矢理にでも前に進むしかなかったんだ。
私とアリアが育てている枯れた黄色い花がまた咲いたように、私達だって疲れても立ち上がらないといけなかったんだ。
ただただ、枯れるのは嫌だったから……。
そんな私達の気持ちにメラニーは付いて来れなかったんだ。
「……メラニー……死にたく……な……」
メラニーはそこまで言うと、ベラの腕に全体重を預けた。
長い前髪がなびいて、メラニーがいつも隠していた顔が見える。
その顔は、まるで悪夢にうなされているような顔だった。
「メラ……二ぃ……?」
ベラがメラニーを揺らして起こそうとしてるけど、当然起きない。
悪夢にうなされているような顔だけど、寝ている訳じゃない。
心臓を貫かれたメラニーが、もう起きるはずがないんだ。
「間引きは終わった。残りを連れて行く。捕らえて」
メラニーを殺したロランが振り返りながら、合図を出すかのように左手を上げた途端――どこからともなくロラン同様純白の制服に身を包んだ集団が現れ、慣れた手付きで私達を捕らえていく。
「離せっ!! クソ共が!!」
地に伏せたままのブレアは、すぐさま白い集団の一人に抱えられた。
メラニーの死を目前にし、動揺するアリアや私達も続々と拘束されていく。
「……あ……」
白い集団の一人に抱えられているアリアが、私達が住み着いていた空き家の方に手を伸ばしながら呻き声にも似た声を上げたのを聴いて、私も白い集団に抱えられながら振り返る。
私とアリアが育てていた一輪の黄色い花の植木鉢が、白い集団の一人の足に当たり、倒れてしまっていた。
植木鉢から土と共に投げ出された黄色い花は、白い集団に踏み潰される。
咲き誇っていた黄色い花は、茎が折れ、花を散らし、メラニー同様地面へと倒れた。
枯れてしまって、頑張って咲いたのに、また踏み潰される。
まるで、今の私達の心を表してる様だった。
倒れたメラニーと黄色い花をスラムに残して、私達はロランに連れ去られたんだ――。
アリアの魔法、【狂戦士の歌】の反動で私達の体内のマナは枯渇しかけており、身体は悲鳴を上げている。
「くそぅ……!!」
エミリー先生が昔、マナが体から全部無くなったら死ぬって言ってた……。
この痺れがとれたとしても……こんな身体じゃもう、闘えない……。
「僕が必要なのは歌姫だけだ、他は全員殺す」
「……ほぇ……」
ロランは右手に持つレイピアを、私へと向けた。
「ヒメナ……!! お願いします、やめて下さい!!」
……殺される……!!
アリアが叫び、私は死の恐怖から目を強く瞑る。
そんな私をよそに、ロランは殺すという言葉とは裏腹に、手に持つレイピアを手元へと下げた。
「――つもりだったけど、気が変わった。誰か一人だけ生かしてあげようかな。その一人と歌姫以外は全員殺すね」
どういうつもり……?
ロランの強さは肌で感じた。
アリアの【狂戦士の歌】で強化されてても傷一つつけられなかったんだから、今の私達じゃロランは絶対に倒せない。
私達全員を殺してアリアを連れていくことなんて簡単なはずなのに……何で……?
「さぁ、誰かいないかい? 私だけは生かして欲しいと、そう思っている子は。いないのなら全員殺すよ」
私は……皆が死んで、自分だけ生きるのなんて絶対出来ない!!
死ぬのは嫌だけど、こんなヤツに屈するのはもっと嫌だ!!
『強くなれ、ヒメナ。アリアだけは何に代えても守るんだ』
『頼んだよ。あんたになら任せられる』
負けん気と共に死を覚悟した私を止めるかのように、何故かエミリー先生の死に際の言葉が頭をよぎった。
そうだ……私はエミリー先生とアリアを守るって約束したんだ……。
私が死んだら、アリアはどうなっちゃうの……?
誰も生かされないで全員死んじゃったら……アリアは誰が守るの……?
私の覚悟が――大きく揺らぐ。
ロランみたいなヤツに屈したくない……皆が死んで自分だけが助かるなんてありえない……。
でもアリアが生きているなら……私は死ねない……。
だって孤児院を出る時に、強くなって……アリアを守るって決めたんだもん……。
エミリー先生と約束したんだもん……!!
だから……だから私は……!!
「……わ――」
私が生き延びようと呟きかけた、その時――。
「……メラニーは死にたくないの……」
後方でベラの後ろに隠れていたメラニーが、気付けばロランの前に出ていた。
「おい……嘘だろ……?」
「……メラ……ニー……?」
今までずっと一緒に生きてきた他の仲間が死んでも、自分だけ生かして欲しい。
私もしようとした裏切りにも見えるその行為を、普段から主張をほとんどしないメラニーがそんなことをするとは誰も思っていなかった。
「……皆……ごめんなさい……でも、メラニー怖いの……」
私達に後ろめたいからか、メラニーは背を向けて語る。
「……エミリー先生が死んだ時も……ララが死んだ時も……メラニーは悲しいって気持ちより……メラニーは死にたくないって……そんな気持ちで溢れたの……だから……皆に恨まれても……メラニーは生きたいの……」
メラニーはずっと怖かったんだろう。
私達は気付いてあげられなかった。
自分のことで一杯一杯で、毎日生きるのに必死で。
「……メラニーは自分が一番可愛いの……」
そう言って振り返ったメラニーは、苦しそうに瞳を涙で溢れさせていた。
長い黒髪で顔を隠して、臆病で、大人しくて、いつも俯いてボソボソ話すメラニーの本心。
嘘偽りなく話してくれた自己愛に、誰も何も言えなかった。
メラニーを可愛がっていたベラやエマも、メラニーの心境を知らなかったみたいで何も言わない。
当然、私もショックだ。
でも、メラニーが自分だけ生かして欲しいと言ったからじゃない。
私達はメラニーのことを何も知らなかったし、今まで知ろうともしなかったからだ。
メラニーが生きたいなら、そうした方が良い。
私はそうとさえ思ってしまった。
「他にはいないかい? 自分だけ生きたいという子は」
ロランの問いに答える者はおらず、静寂が流れる。
皆私と考えが同じなのかな……?
ブレアだけはギザ歯を食いしばってるけど、皆呆然としてて何も言わないや……。
「それじゃ、殺してしまおうかな」
ロランがメラニーの肩を抱くと、怯えたのか体をビクッと震わせる。
メラニーの髪に隠れた眼は見開き、私達の目線はメラニーの胸へと集まった。
何故なら――。
「君を」
メラニーの胸からは、まるで土から木の芽が出てくる様にレイピアの切先が生えていたからだ。
「……ぁ……」
音もなくレイピアが引き抜かれ、着ていたオンボロの服は血でじんわり濡れていく。
さっきのメラニーの体の震えは怯えたからじゃない……?
胸を貫かれた……から……?
「「メラニー!!」」
真っ先に状況を理解した、ベラとエマが叫ぶ。
心臓を貫かれたメラニーの元へと駆けたベラは、崩れ落ちる身体を支えた。
「メラニー……!!」
嘘……メラニー……?
だって誰か一人は生かすって……メラニーを生かすってことじゃないの……?
心臓を貫かれたメラニーは、涙を流すベラの腕の中で苦しそうにしている。
その命の灯火は今にも消えそうなくらい儚い。
風前の灯火だ。
「……ごめ……んね……メラニーは……ずっと辛かったの……」
「メラニー……!! 喋らないでぇ……!!」
メラニーは口から血を流しながら、苦しそうに話す。
「……皆はどんどん前に進んでいくのに……メラニーの気持ちは……エミリー先生がいた孤児院に残ったままなの……」
きっとメラニーは自分から皆が離れていった気がしてたんだろう。
メラニーの気持ちだけを置いてけぼりにして……。
――だけど、私達だって無理矢理にでも前に進むしかなかったんだ。
私とアリアが育てている枯れた黄色い花がまた咲いたように、私達だって疲れても立ち上がらないといけなかったんだ。
ただただ、枯れるのは嫌だったから……。
そんな私達の気持ちにメラニーは付いて来れなかったんだ。
「……メラニー……死にたく……な……」
メラニーはそこまで言うと、ベラの腕に全体重を預けた。
長い前髪がなびいて、メラニーがいつも隠していた顔が見える。
その顔は、まるで悪夢にうなされているような顔だった。
「メラ……二ぃ……?」
ベラがメラニーを揺らして起こそうとしてるけど、当然起きない。
悪夢にうなされているような顔だけど、寝ている訳じゃない。
心臓を貫かれたメラニーが、もう起きるはずがないんだ。
「間引きは終わった。残りを連れて行く。捕らえて」
メラニーを殺したロランが振り返りながら、合図を出すかのように左手を上げた途端――どこからともなくロラン同様純白の制服に身を包んだ集団が現れ、慣れた手付きで私達を捕らえていく。
「離せっ!! クソ共が!!」
地に伏せたままのブレアは、すぐさま白い集団の一人に抱えられた。
メラニーの死を目前にし、動揺するアリアや私達も続々と拘束されていく。
「……あ……」
白い集団の一人に抱えられているアリアが、私達が住み着いていた空き家の方に手を伸ばしながら呻き声にも似た声を上げたのを聴いて、私も白い集団に抱えられながら振り返る。
私とアリアが育てていた一輪の黄色い花の植木鉢が、白い集団の一人の足に当たり、倒れてしまっていた。
植木鉢から土と共に投げ出された黄色い花は、白い集団に踏み潰される。
咲き誇っていた黄色い花は、茎が折れ、花を散らし、メラニー同様地面へと倒れた。
枯れてしまって、頑張って咲いたのに、また踏み潰される。
まるで、今の私達の心を表してる様だった。
倒れたメラニーと黄色い花をスラムに残して、私達はロランに連れ去られたんだ――。