翌日の早朝――私は爆睡していた。
「ヒメナ、起きて!! 早く!!」
「むにゃ……ほえ~、このマシュマロ美味しい~……」
「変な所触ってないで、早く起きてよぉ!!」
お腹を出して寝ていた私は、アリアに揺らされて起こされる。
私はいつも落ち着いているアリアの慌てる様子を見て、何事かと思い体を起こした。
「どうしたの、アリア!? このマシュマロより美味しい物見つけたの!?」
「これはマシュマロじゃなくて私の胸だよ!! 寝ぼけてないで付いてきて!!」
ご飯じゃないなら何だろう。
それにしてもあの柔らかい弾力はアリアの胸だったか……日々成長してるなぁ……。
くんかくんか。
アリアの胸を揉んだ左手からは、とっても良い匂いがした。
間接的にアリアの匂いを嗅いだことで寝ぼけた頭を起こした私は、家の外に出るアリアの後を追った。
「ほらっ! 見て!!」
「ほぇっ!?」
植木鉢に摘んだ一輪の黄色い花。
昨日まで枯れていた黄色い花は、その花びらを私達に見せつけるかのように咲き誇っている。
「ね、元気になったでしょ?」
私達が騒いでいたせいで目が覚めたのか、ルーナが後を追ってきていた。
枯れていた花が元気になっていて、ルーナも嬉しそうだ。
「「うんっ!!」」
エミリー先生もララも殺された。
私達も今何とか食べれてはいるけど、決して良い生活はしていない。
それでもきっと、悪いことばかりじゃない。
枯れた花が咲いたように、人だって傷ついても立ち上がれるんだ。
名前も種類も知らない、ただの黄色い花が私とアリアに教えてくれた。
そんな時――。
「コイツらです! 昨日盗みを働き、私達に暴行を働いたヤツらは!!」
「……あ!!」
昨日ブレアが最後に倒した衛兵が、誰かを引き連れ私達を指差していた。
その様子を見た私とアリアに緊張が走る。
昨日私達がしたことに怒って、探しに来たんだ……!!
どうしよう……!!
「そうか、案内ご苦労。君はここまででいいよ」
「しかし……!!」
「子供に負ける衛兵なんて足手纏いだって言ってるんだけど、分からないかい?」
「……っ……はっ!! 失礼致しました!!」
衛兵が慌てて去っていき、残された一人を観察する。
黄色でウェーブがかった髪をキザになびかせる整った顔の男は、レイピアを腰に帯剣しており、左手には円形の盾を装備している。
白を中心とした綺麗な制服の左胸についている紫狼のワッペンは、どこか私達に威圧感を与えた。
「……あなたはどちら様でしょう?」
ルーナが代表して前に出てロランの黄色の瞳を見据える。
状況を分かってはいないが、緊張している私達の様子を見て何となく察したのだろう。
「僕は王国軍紫狼騎士団団長、ロラン・エレクトリシテ。以後お見知りおきを」
「王国軍騎士団……団長!?」
何でそんな偉い人が私達を……!?
悪いことはしたけど、騎士団団長なんて人が関わらなそうな小さな犯罪だけなのに……!!
――あ、でも衛兵の人倒しちゃったんだ……。
だからこの人が、私達を捕まえに来たってこと……?
「君達か。スラム街に違法滞在し、数々の盗みを働いているという悪い子達は」
「……えっと……それは……そのぉ……」
ほえぇ……どうしよう!!
可愛い子ぶったりしたら逃げられないかな!?
居た堪れなくなった私がどう言い逃れしようか考えていると、ロランは黄色の瞳でアリアを見据えた。
「先の衛兵から聞いたけど、君は歌の魔法を使うらしいね。それも味方を強くさせるなんて……実に珍しい」
「!? ……それ……は……」
アリアは下を向き、言い淀む。
私達はその歌を使って犯罪をしたんだから、後ろめたいに決まってるよね……。
「そう警戒しないでくれないかい? 何も取って食おうって訳じゃない。昨日の君達がしたこととは別件で、僕はここに来たのだから」
別件……ってことは、私達は捕まらないの?
「えと……じゃあ何で騎士団の団長さんなんて偉い人が私達の所にわざわざ来たんですか?」
「君にはこれから僕のために歌ってもらう。紫狼騎士団の一員としてね」
「「アリアを騎士団に!?」」
勧誘……!?
王国の騎士は傭兵や兵士と違って、とっても高給だってエミリー先生が言ってた。
高給取りな代わりに騎士になるのも凄い大変で、特に女の子がなるのは本当に難しいらしいのに……アリア凄いや!!
「私が……騎士団に……?」
アリアの歌魔法が特異なモノだということには、フローラを中心に検証をしている内に何となく気付いていた。
人を治癒できる魔法だけでもレアなのに、アリアの歌魔法が出来ることはそれだけじゃない。
団長が直々に勧誘に来るなんて、やっぱり凄い魔法だったんだ。
「それって……私だけですか……?」
「そうだよ、君以外に用は無いからね。これからもここに住めばいいし、盗みを働こうが何しようが僕の知ったことじゃない」
私達はどうでもいいのかぁ……そりゃそうだよね……必要なのはアリアの歌なんだもんね……。
「もう犯罪に手を染める必要もないし、まともな生活を送れる。こういっちゃ何だが、君みたいなレアモノは高く売れるだろうし、危険も多い。騎士団にいれば安全だよ」
確かに優しいアリアに犯罪に加担させ続けるのも嫌だし、アリアだけでもちゃんとした生活を送れるならその方が絶対良い。
私達と離れることになっても……私が守らなくても……騎士団にいた方が安全に決まってるよね……。
「……有難いお誘いですが、お断りします」
「ほぇ!? アリア断っちゃうの!?」
アリア何で!?
勿体無いよ!!
私は嬉しいし、安心したけど!!
「私、ヒメナや皆と離れたくないんです。例え高給だとしても、安全だとしても、名誉だとしても、私の幸せはそこにはありませんから」
ロランさんは驚いているのか、目を見開いている。
断られるなんて思ってもいなかったんだろう。
「本当にいいの、アリア!? 騎士だよ、騎士!!」
「ヒメナだって、私と同じ立場なら同じことするでしょ?」
そう言ったアリアは私の左手をギュッと握ってくる。
離れない――そんな意思が伝わってきた。
確かに私だって、自分だけ騎士になれるとしてもなんないや。
だって皆と……アリアと離れたくないもん。
「……うんっ!」
私も気付けば、アリアに握られた手を強く握り返していた。
アリアと離れない――そんな意思を伝えるために。
私達はこれからもずっと一緒だ。
私がアリアを守れば良いんだから。
「――申し訳ありませんが、アリアがこう申していますので、お引き取り下さい。わざわざこんな所まで、ありがとうございました」
ルーナは困りつつも嬉しそうな不思議な顔で、ロランさんに頭を下げる。
ルーナもアリアが断ってくれて嬉しかったのかな?
「何を勘違いしているのかわからないけど、僕のために歌ってもらうと言ったのは任意じゃない。強制だよ」
私達がアリアの決断に喜んでいると、ロランさんは不敵に笑いながら帯剣していたレイピアを抜き、私達に歩み寄って来る。
どういうこと……何で剣を抜いたの……?
任意じゃなくて強制……?
何をしてもアリアを連れて行くってこと……?
私達は悪いことをしたから、捕まるなら話は分かるけど……この人が言ってることはおかしいよ!!
「それでも……嫌だと言ったら……?」
恐る恐るルーナが問うた、その刹那――これが答えだと言わんばかりにロランの身体から闘気が溢れ出す。
「これなら勘が鈍そうな君達でも分かるかな?」
あまりの闘気の圧に、私は目を凝らしてロランのマナ量を見る。
こいつのマナ量……エミリー先生やアッシュやカニバルクラスだ……!!
ってことは……実力もそれに近いかもしれない……!!
レイピアを抜き闘気を纏った。
私達を斬ってでも、アリアを連れて行く。
それが答えということなんだろう。
何でエミリー先生以外の大人って皆こうなの……?
私達から力付くで大切なものを奪っていく……。
そんな力に……屈したくない!!
負けてたまるもんか!!
そんな私の想いが、体内のマナを闘気へと変え――。
「あんたなんかにアリアを絶対渡すもんかっ!!」
感情のまま、ロランへ向けて直線的に飛び込んだ。
「わああぁぁ!!」
私が雄叫びを上げて、不敵に笑うロランに全力で左の拳を放とうとした瞬間、私の左頬が円盾で殴られる。
「ぎっ……!!」
「ヒメナ!!」
盾によって弾かれた私は、闘気を纏ったルーナの元へと飛んでいき、受け止められた。
「ヒメナ!! 大丈夫!?」
「……ぅ……うん……」
盾で弾かれただけなのに、体ごと吹っ飛ばされた……私一人の力じゃ……絶対に勝てない……!!
「何だよ、朝っぱらからうっせぇな!!」
「皆!!」
ブレアを始めとした家の中にいた五人が騒ぎで起きたのか、慌てて外へと出てくる。
戦闘のブレアの頭は寝ぐせでボサボサだ。
「まだこんなにいたのか。まるでゴキブリだね」
「皆……気を付けて!! こいつ騎士団の団長で、アリアを連れてく気だ!!」
「あんだとぉ!? どういうことだ!?」
あーもうっ!
説明が雑だったせいか、ブレアが全然わかってないや。
もっとちゃんと説明しないと。
「アリアの歌魔法が特別なのに気付いて、無理矢理騎士団にアリアを入れる気なの!!」
「あにぃ!? どういうことだ!?」
ブレアはまだ状況をわかっていないみたい。
私の説明が悪かったのかな……?
「……だからメラニーは嫌だったの……犯罪とかするのは……いつかこんな風になるって分かってたから……」
「メラニーちゃん、ごめんねぇ。さて……どうしましょう?」
「纏まって逃げても追われるだろうし、アリアが狙いならウチら全員が散って逃げてもアリアを追うだろうさ。面倒だねぇ」
「たっはっはー!! 騎士団団長ってのがホントならボクらが逃げ切れる訳ないよねーっ!!」
メラニーとベラとエマとフローラは状況を察してくれた。
やっぱりブレアが特別アホなんだ。
「逃げる!? 捕まる!? 冗談じゃねぇや!! 良く分かんねぇけど、あたいは闘うぜ!! また奪われるつもりかよ、お前らは!?」
逃げるという言葉を聞き、負けず嫌いのブレアはロランに敵意を向けて闘気を纏う。
そしてロランに向けて、まるで獣のようにギザ歯をむき出しにして特攻していった。
だけど……ブレアの言う通りだ。
毎日大変だけど、毎日心を痛めてるけど、それでも私達は必死に生きてるんだ!!
「ブレア!! 私も闘う!!」
アリアを渡すなんてありえない!!
これ以上失ってたまるもんか!!
「もうっ……何でこうなるのよ!!」
私とルーナも闘気を纏って、ブレアの後に続く。
「大人しく連いて来てくれれば、楽だったのにね」
その言葉とは裏腹にロランが微笑む中、メラニーはいつもより儚げに呟いた。
「……だから……だからメラニーは嫌だったのに……」
この時の……ううん、半年前に孤児院が襲われてからのメラニーの心の内は、私達は誰も知らなかったんだ。
「ヒメナ、起きて!! 早く!!」
「むにゃ……ほえ~、このマシュマロ美味しい~……」
「変な所触ってないで、早く起きてよぉ!!」
お腹を出して寝ていた私は、アリアに揺らされて起こされる。
私はいつも落ち着いているアリアの慌てる様子を見て、何事かと思い体を起こした。
「どうしたの、アリア!? このマシュマロより美味しい物見つけたの!?」
「これはマシュマロじゃなくて私の胸だよ!! 寝ぼけてないで付いてきて!!」
ご飯じゃないなら何だろう。
それにしてもあの柔らかい弾力はアリアの胸だったか……日々成長してるなぁ……。
くんかくんか。
アリアの胸を揉んだ左手からは、とっても良い匂いがした。
間接的にアリアの匂いを嗅いだことで寝ぼけた頭を起こした私は、家の外に出るアリアの後を追った。
「ほらっ! 見て!!」
「ほぇっ!?」
植木鉢に摘んだ一輪の黄色い花。
昨日まで枯れていた黄色い花は、その花びらを私達に見せつけるかのように咲き誇っている。
「ね、元気になったでしょ?」
私達が騒いでいたせいで目が覚めたのか、ルーナが後を追ってきていた。
枯れていた花が元気になっていて、ルーナも嬉しそうだ。
「「うんっ!!」」
エミリー先生もララも殺された。
私達も今何とか食べれてはいるけど、決して良い生活はしていない。
それでもきっと、悪いことばかりじゃない。
枯れた花が咲いたように、人だって傷ついても立ち上がれるんだ。
名前も種類も知らない、ただの黄色い花が私とアリアに教えてくれた。
そんな時――。
「コイツらです! 昨日盗みを働き、私達に暴行を働いたヤツらは!!」
「……あ!!」
昨日ブレアが最後に倒した衛兵が、誰かを引き連れ私達を指差していた。
その様子を見た私とアリアに緊張が走る。
昨日私達がしたことに怒って、探しに来たんだ……!!
どうしよう……!!
「そうか、案内ご苦労。君はここまででいいよ」
「しかし……!!」
「子供に負ける衛兵なんて足手纏いだって言ってるんだけど、分からないかい?」
「……っ……はっ!! 失礼致しました!!」
衛兵が慌てて去っていき、残された一人を観察する。
黄色でウェーブがかった髪をキザになびかせる整った顔の男は、レイピアを腰に帯剣しており、左手には円形の盾を装備している。
白を中心とした綺麗な制服の左胸についている紫狼のワッペンは、どこか私達に威圧感を与えた。
「……あなたはどちら様でしょう?」
ルーナが代表して前に出てロランの黄色の瞳を見据える。
状況を分かってはいないが、緊張している私達の様子を見て何となく察したのだろう。
「僕は王国軍紫狼騎士団団長、ロラン・エレクトリシテ。以後お見知りおきを」
「王国軍騎士団……団長!?」
何でそんな偉い人が私達を……!?
悪いことはしたけど、騎士団団長なんて人が関わらなそうな小さな犯罪だけなのに……!!
――あ、でも衛兵の人倒しちゃったんだ……。
だからこの人が、私達を捕まえに来たってこと……?
「君達か。スラム街に違法滞在し、数々の盗みを働いているという悪い子達は」
「……えっと……それは……そのぉ……」
ほえぇ……どうしよう!!
可愛い子ぶったりしたら逃げられないかな!?
居た堪れなくなった私がどう言い逃れしようか考えていると、ロランは黄色の瞳でアリアを見据えた。
「先の衛兵から聞いたけど、君は歌の魔法を使うらしいね。それも味方を強くさせるなんて……実に珍しい」
「!? ……それ……は……」
アリアは下を向き、言い淀む。
私達はその歌を使って犯罪をしたんだから、後ろめたいに決まってるよね……。
「そう警戒しないでくれないかい? 何も取って食おうって訳じゃない。昨日の君達がしたこととは別件で、僕はここに来たのだから」
別件……ってことは、私達は捕まらないの?
「えと……じゃあ何で騎士団の団長さんなんて偉い人が私達の所にわざわざ来たんですか?」
「君にはこれから僕のために歌ってもらう。紫狼騎士団の一員としてね」
「「アリアを騎士団に!?」」
勧誘……!?
王国の騎士は傭兵や兵士と違って、とっても高給だってエミリー先生が言ってた。
高給取りな代わりに騎士になるのも凄い大変で、特に女の子がなるのは本当に難しいらしいのに……アリア凄いや!!
「私が……騎士団に……?」
アリアの歌魔法が特異なモノだということには、フローラを中心に検証をしている内に何となく気付いていた。
人を治癒できる魔法だけでもレアなのに、アリアの歌魔法が出来ることはそれだけじゃない。
団長が直々に勧誘に来るなんて、やっぱり凄い魔法だったんだ。
「それって……私だけですか……?」
「そうだよ、君以外に用は無いからね。これからもここに住めばいいし、盗みを働こうが何しようが僕の知ったことじゃない」
私達はどうでもいいのかぁ……そりゃそうだよね……必要なのはアリアの歌なんだもんね……。
「もう犯罪に手を染める必要もないし、まともな生活を送れる。こういっちゃ何だが、君みたいなレアモノは高く売れるだろうし、危険も多い。騎士団にいれば安全だよ」
確かに優しいアリアに犯罪に加担させ続けるのも嫌だし、アリアだけでもちゃんとした生活を送れるならその方が絶対良い。
私達と離れることになっても……私が守らなくても……騎士団にいた方が安全に決まってるよね……。
「……有難いお誘いですが、お断りします」
「ほぇ!? アリア断っちゃうの!?」
アリア何で!?
勿体無いよ!!
私は嬉しいし、安心したけど!!
「私、ヒメナや皆と離れたくないんです。例え高給だとしても、安全だとしても、名誉だとしても、私の幸せはそこにはありませんから」
ロランさんは驚いているのか、目を見開いている。
断られるなんて思ってもいなかったんだろう。
「本当にいいの、アリア!? 騎士だよ、騎士!!」
「ヒメナだって、私と同じ立場なら同じことするでしょ?」
そう言ったアリアは私の左手をギュッと握ってくる。
離れない――そんな意思が伝わってきた。
確かに私だって、自分だけ騎士になれるとしてもなんないや。
だって皆と……アリアと離れたくないもん。
「……うんっ!」
私も気付けば、アリアに握られた手を強く握り返していた。
アリアと離れない――そんな意思を伝えるために。
私達はこれからもずっと一緒だ。
私がアリアを守れば良いんだから。
「――申し訳ありませんが、アリアがこう申していますので、お引き取り下さい。わざわざこんな所まで、ありがとうございました」
ルーナは困りつつも嬉しそうな不思議な顔で、ロランさんに頭を下げる。
ルーナもアリアが断ってくれて嬉しかったのかな?
「何を勘違いしているのかわからないけど、僕のために歌ってもらうと言ったのは任意じゃない。強制だよ」
私達がアリアの決断に喜んでいると、ロランさんは不敵に笑いながら帯剣していたレイピアを抜き、私達に歩み寄って来る。
どういうこと……何で剣を抜いたの……?
任意じゃなくて強制……?
何をしてもアリアを連れて行くってこと……?
私達は悪いことをしたから、捕まるなら話は分かるけど……この人が言ってることはおかしいよ!!
「それでも……嫌だと言ったら……?」
恐る恐るルーナが問うた、その刹那――これが答えだと言わんばかりにロランの身体から闘気が溢れ出す。
「これなら勘が鈍そうな君達でも分かるかな?」
あまりの闘気の圧に、私は目を凝らしてロランのマナ量を見る。
こいつのマナ量……エミリー先生やアッシュやカニバルクラスだ……!!
ってことは……実力もそれに近いかもしれない……!!
レイピアを抜き闘気を纏った。
私達を斬ってでも、アリアを連れて行く。
それが答えということなんだろう。
何でエミリー先生以外の大人って皆こうなの……?
私達から力付くで大切なものを奪っていく……。
そんな力に……屈したくない!!
負けてたまるもんか!!
そんな私の想いが、体内のマナを闘気へと変え――。
「あんたなんかにアリアを絶対渡すもんかっ!!」
感情のまま、ロランへ向けて直線的に飛び込んだ。
「わああぁぁ!!」
私が雄叫びを上げて、不敵に笑うロランに全力で左の拳を放とうとした瞬間、私の左頬が円盾で殴られる。
「ぎっ……!!」
「ヒメナ!!」
盾によって弾かれた私は、闘気を纏ったルーナの元へと飛んでいき、受け止められた。
「ヒメナ!! 大丈夫!?」
「……ぅ……うん……」
盾で弾かれただけなのに、体ごと吹っ飛ばされた……私一人の力じゃ……絶対に勝てない……!!
「何だよ、朝っぱらからうっせぇな!!」
「皆!!」
ブレアを始めとした家の中にいた五人が騒ぎで起きたのか、慌てて外へと出てくる。
戦闘のブレアの頭は寝ぐせでボサボサだ。
「まだこんなにいたのか。まるでゴキブリだね」
「皆……気を付けて!! こいつ騎士団の団長で、アリアを連れてく気だ!!」
「あんだとぉ!? どういうことだ!?」
あーもうっ!
説明が雑だったせいか、ブレアが全然わかってないや。
もっとちゃんと説明しないと。
「アリアの歌魔法が特別なのに気付いて、無理矢理騎士団にアリアを入れる気なの!!」
「あにぃ!? どういうことだ!?」
ブレアはまだ状況をわかっていないみたい。
私の説明が悪かったのかな……?
「……だからメラニーは嫌だったの……犯罪とかするのは……いつかこんな風になるって分かってたから……」
「メラニーちゃん、ごめんねぇ。さて……どうしましょう?」
「纏まって逃げても追われるだろうし、アリアが狙いならウチら全員が散って逃げてもアリアを追うだろうさ。面倒だねぇ」
「たっはっはー!! 騎士団団長ってのがホントならボクらが逃げ切れる訳ないよねーっ!!」
メラニーとベラとエマとフローラは状況を察してくれた。
やっぱりブレアが特別アホなんだ。
「逃げる!? 捕まる!? 冗談じゃねぇや!! 良く分かんねぇけど、あたいは闘うぜ!! また奪われるつもりかよ、お前らは!?」
逃げるという言葉を聞き、負けず嫌いのブレアはロランに敵意を向けて闘気を纏う。
そしてロランに向けて、まるで獣のようにギザ歯をむき出しにして特攻していった。
だけど……ブレアの言う通りだ。
毎日大変だけど、毎日心を痛めてるけど、それでも私達は必死に生きてるんだ!!
「ブレア!! 私も闘う!!」
アリアを渡すなんてありえない!!
これ以上失ってたまるもんか!!
「もうっ……何でこうなるのよ!!」
私とルーナも闘気を纏って、ブレアの後に続く。
「大人しく連いて来てくれれば、楽だったのにね」
その言葉とは裏腹にロランが微笑む中、メラニーはいつもより儚げに呟いた。
「……だから……だからメラニーは嫌だったのに……」
この時の……ううん、半年前に孤児院が襲われてからのメラニーの心の内は、私達は誰も知らなかったんだ。