「私を置いてどこに行く気なの?」

 部屋を出て行こうとした私はアリアに問い詰められる。
 アリアは自分を置いてこうとした私を怒ってるようにも見えた。

「ほぇ? どこって……えーと……」

 やっば……見つかっちゃった。
 私はアフェクシーにアリアを連れて行く気はない。
 一人で行って、一人で決着をつけるつもりだったのに……どうしよう。
 日を改めようかな……?

「拳帝ポワンの所でしょ。違う?」

「!! 何で分かったの!?」

「ヒメナのことだから、責任を感じて一人で決着をつけに行くんじゃないかと思った」

「…………」

 さっきの寝息は寝たふりだったんだ。
 全部見透かされてた。

「ヒメナ、私も連れて行って」

「でも、これは……私の闘いなの」

 ポワンと闘おうと決めたことは、ほとんど私怨に近い。
 私に関わる人達を殺したポワンが許せないし、このまま放っておけばまた私の周りで何をしでかすか分からないからだ。
 ポワンが何で私に固執するのかは分からないけど……。
 そんな闘いにアリアを巻き込むわけにはいかないよ。

「ヒメナ、私の手を握って」

「ほぇ?」

 私は左手を差し出して、アリアの手を握る。


「ヒメナ、ずっと私の側にいてね」


 私達が何年も前、戦争に巻き込まれる前にした約束――アリアはそれを死地に向かおうとする私に投げかけてくる。

「……ずるいよ、アリア」

「黙って出てこうとしたヒメナよりはずるくないよ」

 そう言って、アリアは笑った。

 アリアには敵わないや。
 今も昔もずっと。
 私より私のことを分かってる。


「アリアも私に愛想つかさないでよ」


 こうして私達は、二人でアフェクシーで待つポワンの元に向かうことに決めた。


*****


 それからの旅は長くも楽しいものだった。
 二人で歩いて、時には馬車に乗せてもらって、アリアの体に無理をさせないように、ゆっくりと進む。
 私が背負って、闘気を纏って走るなんてことはしない。

 途中の町で困っている人を助けたり、魔物を退治したり、美味しい物を食べたり、観光をしたり、これから生死を賭けた闘いをするとは思えないような旅をしていた。

 ポワンは基本的には時間に疎い。
 自分が長く生きてるからだって本人は言ってた。
 今回は時間の指定とかもなかったから、別にゆっくりでも良いんだ。

 そうして、ニか月程かけて私達はアフェクシーに辿り着いた。

「ここがアフェクシー……? 誰もいないね」

「私が修行を終える一年前に滅んじゃった村だから」

 そう、私とルグレが守れなかった村。
 私達の甘さで滅んだ村だ。

「拳帝ポワンは?」

「きっと……あそこだよ」

 私は【探魔】を使う。
 やっぱりポワンは予想通りの場所にいた。

「行こう、アリア」

 私とルグレとヴェデレさんで作ったアフェクシーの人達の慰霊碑。
 ポワンはその上に雑に座っていた。
 まるで、慰霊碑はただの粗雑な椅子かのように。

「来たか、小娘」

「……待った?」

「何百年も生きるワシにとっては、さしたる時ではないのじゃ」

 ポワンは慰霊碑から飛び降りる。

「して、お主がここに来たということは戦争は王国が勝ったのかの?」

「どっちも勝ってないよ。休戦協定が結ばれたの」

「ぬ? 皇帝のズィークは何をしておる?」

「皇帝は死んだよ。今帝国を仕切ってるのはアッシュだもん」

 ポワンは疑問を抱いたのか、頭の上にクエスチョンマークを出す。

「ぬぬ? 炎帝が休戦協定を飲んだだと? 解せん話じゃ。ヤツは王国に少なからず私怨を持っていたはず」

「ポワンが知る必要はないよ」

 私は戦闘をしかけるために、闘気を纏った。


「だって、ここで死ぬんだから」


「甘さを捨てた良い目じゃ。多少なり苦労した甲斐があったの。じゃが――」

 ポワンも呼応するかのように闘気を纏う。

「それしきの闘気でワシをどうにか出来ると思ってか?」

 とてつもない闘気。
 私達が建てた慰霊碑も吹き飛びそうな程の勢いで、周囲の木々は倒れる。
 アリアも吹き飛ばされそうになり、私が支えた。

「こ……こんな人にヒメナは一人で闘おうとしてたの……?」

「そうだよ。ポワンが冥土隊の皆を殺した。それに、ポワンは拳帝だ」

 抱いた肩から震えが伝わってくる、
 アリアは怯えきっていた。
 異形のエミリー先生を超える闘気……それにまだ、おそらく全力じゃない。

「さよう。ワシを殺さぬ限り戦争は終わらぬかもしれぬな。腑抜けた炎帝を殺し、帝国と王国を再び戦争させることだって出来んこともないぞ」

 戦争をまたする……!?
 冗談じゃないよ、そんなの!!
 せっかく平和が訪れたのに……!!

 ポワンは人差し指を立てて、チョイチョイっと手招きをしてきた。

「来い。遊んでやるのじゃ」

「倒すよ、世界最強!!」

 私はポワンの挑発に乗り、手招きに誘われてるかのようにポワンに突っ込んだ――。