私とブレアの闘いは長引いていた。
 闘気や闘技では私が勝り、地の理と魔技でブレアが勝るため、一進一退の攻防となっている。

「魔技【アイスニードル】!!」

 ブレアが金槌で地面を叩き、凍った床から白氷の大きなつららが生えてくる。

「闘技【旋風脚】!!」

 そのつららを、私は義手の右手を軸に反転して駒のように回り、両脚で叩き割った。
 
「魔技【アイススパイク】!!」

 続け様に小さいつららを空中に生み出し、金槌で打ち飛ばしてきたため、

「闘技【連弾】!!」

 二本指の貫手による連続攻撃で全て破壊した。

「ちぇっ!!」

 ブレアにとっては、事前に用意していた有利な地形。
 にも関わらず、私が地形に対応しつつあるのが気に入らないのだろう。
 大きく舌打ちをする。

「りゃああぁぁ!!」

 ダメージを受けない私が気に入らないのか、ブレアは金槌を振りかぶりながら接近して来た。
 余程私が嫌いなのか、ギザ歯を剥き出しにして獣のような顔をしている。

 私は攻めてきたブレアを見て、軸足とする左足から地面に【衝波】を放った。
 氷を破壊し左足を白氷に根付くように埋め、右足を後ろに滑らし半身で構え、固定する。

「ふっ」

 ブレアの私を頭から叩き潰すように縦に振ってきた金槌に、左手で触れて【衝波】を放って受け流すと、金槌は私の真横の床を叩きつけた。

「破っ!!」

 隙が出来たブレアの側頭部に右足で蹴りを入れる。

「がっ!?」

 吹き飛んだブレアが勢いよく壁に体を打ち付けると、壁の氷が崩れてはじけ飛んだ。

「ふぅ……」

 中距離戦でダメージを負わせられないなら、ブレアは焦れて寄ってくるだろうって思ってた。
 触れられたら凍らせられるリスクはあるけど、近距離戦は私の庭だ。
 私に分があるし、滑る床にも慣れてきた。

「ぐぎ……てめぇなんかに……」

 壁に埋まったブレアが、壁から抜け出す。
 痛いのを我慢して跪きながらも、敵意を剥き出しに私を睨んできた。

「てめぇなんかに……あたいが負けっかよ!!」

 ブレアは魔法具の金槌に埋められた魔石にマナを込める。
 すると金槌の頭の片側の口が変形し、射出口のようなものが現れた。

「ぅおらああぁぁ!!」

 射出口から勢いよく火が噴き出し、その勢いでブレアの体を軸としてコマのように回転しながら滑って来る。
 超加速させた金槌を私にぶつける気だろう。

 ブレアはバカだ。
 大バカだ。
 まだ、わかってないんだもん。

「ブレア、あんたは私に勝てないよ」

「あぁ!?」

 私達はブレアとは背負っているモノが違う。
 私とアリアは、王国の平和と未来を望んで頑張っている。
 冥土隊の皆の想いを、背負って。
 ブレアはそんな私達とは違う道を選んだんだ。


「自分だけのための力なんて、そんなもんだからよ!!」


 私はブレアのとんでもない勢いで振るわれた金槌と、真正面から打ち合うことを選んだ。
 ブレアの間違いを証明するために。
 全力で闘気を纏い、回転させた四本指の貫手【螺旋手】で。

「らああぁぁ!!」
「破ああぁぁ!!」

 私達の闘気が激しくぶつかり合った衝撃で、ブレアの魔技によって覆われた大広間の白氷は砕け散る。

 金槌の面と素手の指の点での打ち合い。
 通常であれば、どう考えても私の左手の指は全てへし折れるだろう。

 だけど、私は負けられない!!
 死んだ冥土隊の皆や、アリアのためにも!!
 こんな所で負けて、死ぬ訳にはいかないんだ!!

「ああああぁぁ!!」

 更に丹田からマナを引き出し、闘気へと変える。
 その闘気を指先に集める。
 そんなイメージで。

「な、何なんだよ!? てめぇは!! 何でそこまで――」

 ブレアがそこまで喋ると、魔法具の金槌にヒビが入り――砕けて飛散した。

「くそがあぁぁ!!」

 ブレアは私を凍らせるためか、イタチの最後っ屁のように手を伸ばして触りにくる。
 私は義手でマナを込めたブレアの手を弾いた。

「あんたいっぺん、頭冷やしな。自分の魔法でね」

 最後の手段をも絶った私は、ブレアの下腹部の丹田へ向けて【発勁】を放つ。

「ぉぶっ……」

 丹田のマナを乱されたブレアはその場で倒れ込んだ。

「私だって強さを追い求めてるよ。だけど、あんたの求める強さには絶対負けない自信がある。孤独な強さなんて何の意味もないんだ」

 倒れ込んだブレアに私はそう言い放つ。
 聞こえたのか聞こえてないのかは、分からないけど。

 呼吸をして、大気のマナを吸い込む。
 一呼吸入れた後、気合いを入れた。

「よしっ、行かないと!」

 倒れたブレアを残して大広間を後にすると、謁見の間にはすぐに着く。

「静かだ……」

 ロランと皇帝の闘いは終わってるのかな?
 ロランが勝っていれば皇帝は死んでるんだろうけど、もし皇帝が勝っていれば、私が皇帝を討たなきゃいけない。

 私は意を決して、閉まっている扉を開ける。
 そこでは――。

「やぁ、遅かったね」

 ロランが玉座に座り、皇帝は床に伏していた。

「……勝ったの?」

「うん、殺したよ」

 皇帝をよく見ると、おでこに穴が開いている。
 貫通しているようだ。
 頭をレイピアで貫かれたんだろう。

「じゃあ、終わったんだ……」

 皇帝が死んだんだ……戦争が終わるってことでいいんだよね……。
 皇帝の死を帝国に伝えて、それで終わるはずだよね……。
 もう、闘わなくていいんだよね。
 アリアを危険に晒さなくて、いいんだよね。

「いや、終わってないよ」

 何で?
 ……そっか、アッシュか。
 四帝の最後の一人、アッシュを倒さないといけないんだった。


「僕は帝国の第一皇子トネール・アルプトラウム。皇帝が死んだから、その座をもらい受けたよ」


「……ほぇ?」

「このままじゃ、戦争が終わってしまう。それでは痺れない……だろう?」

 何言ってんの……ロラン。
 第一皇子ってどういうこと……?
 皇帝を殺したから、自分が皇帝になるってこと?

「……つまり、どういうこと?」

「次期皇帝の僕を殺さないと、戦争は終わらないってことだよ。ヒメナちゃん」

 ロランはレイピアを抜き、困惑する私に戦闘を仕掛けてきたんだ――。