季節は初夏を迎えた。
昇りゆく太陽にルネは目を細めて家の裏へまわった。
花壇や菜園では鮮やかな緑が日の光を受けて眩しいばかりだった。
「今日採れそうなのは……」
すると赤く熟れた果実が視界に飛び込んできた。
そのとき、視界にさっと白い靄がおりてルネはとっさに目を瞑った。
何度かまばたきをくり返したが、それは網膜に焼きつくように離れなかった。

「野菜は採れましたか?」
ジョンが入ってきたルネに声をかけたが、その言葉は届かなかった、
まっすぐに食卓まで行き、置いてあった新聞を手に取るとルネは愕然とした。
「読めない」



「視力に関係する部分が炎症を起こしていますね」
病院での検査のあと医師はルネにこう説明した。
「治るんですか?」
その問いに医師は少し黙ったあと、言葉を選ぶように口を開いた。
「君の症状の場合は一度治ったとしても再発することが多いんです。だから定期診察を怠らないようにしてください」
一呼吸置いて医師は説明を続けた。
「それで治療ですが、これは片目ずつしかできません。君の場合、左は右に比べて軽症ですので左から行っていこうと思います。左の視力を優先させましょう」
「それはつまり?」
「右目の完治は諦めてください」