全てを隣で見ていた私でなくとも、その白鳥はヤマトタケル様であると皆が分かるのです。それは不思議なことでありましたが、何故かそれがさも普通のことであるように思えました。大和国へ飛んだ白鳥は天皇のおわす宮に少しの間たたずみ、執務に勤しむ天皇をジッと見ていたのですがその内、情報の早い大和国にヤマトタケル様の薨去の報せが入りました。全ての伝達事項よりも、その情報は最優先で共有され、オオタラシヒコオシロワケノミコトの耳にもそれが伝わったとき、そうか……。と目を伏せ、忙しなく動いていた手先を止められました。私は天皇のお近くにそっと寄り表情を見ていましたが、すうっと一筋の涙がこぼれたのを確かに見ました。ヤマトタケル様を死地へ向かわせたのは紛れもなく天皇なのですが、その涙にどれだけの御子様への思いがこもっているのか、私には図り得ないと思いました。天皇であり父であり、皇子であり子である。きっと、お二人にしか……いいえ、御自分でも分からない感情がおありでしょう。その頬を伝う光が天窓から覗いておられた私の愛しい白鳥に見えたかは分かりません。ですがそのとき、白鳥はずっと背負っていた憂いを精算したかのように、高く遠く舞い上がったのでございます。その羽ばたきには天津神の坐す国、高天原に届かんとする勢いが御座いました。
その羽撃く音が聞こえたのか、オオタラシヒコオシロワケノミコトは天窓の方をぱっと見上げられました。そしてぽつりと「……オウス」と呟かれたのです。
ヤマトタケル様薨去の報せは大和国から少し遅れ伊勢国にも入りました。私と愛しい白鳥の姿もそのとき伊勢国にありました。報せをきいたヤマトヒメ様はその場で膝をつかれ、裾を濡らされましたが、少しして、はたと私の方を見られたのです。その目は確かに、神たる私を捉えていたのです。
「……ヤマトタケル、あなたは本当に、とても良いヒメに出会えたのですね」
その言葉に、私はどれだけ救われたことでしょう。考えれば、ヤマトヒメ様は伊勢神宮の斎宮。神と交信する力をお持ちのお方。現し世にその身をおきながら神の存在を感じ取るなど、彼女にとって造作もないに違いありません。
その時、バサバサと再び白鳥が飛び上がる音が聞こえました。私も追って空へのぼります。私はこの国とヤマトタケル様が好きで良かったと思います。心の底から、そう思います。前を往く白鳥と、遠ざかっていく国へ、オトタチバナより愛を込めて。
その羽撃く音が聞こえたのか、オオタラシヒコオシロワケノミコトは天窓の方をぱっと見上げられました。そしてぽつりと「……オウス」と呟かれたのです。
ヤマトタケル様薨去の報せは大和国から少し遅れ伊勢国にも入りました。私と愛しい白鳥の姿もそのとき伊勢国にありました。報せをきいたヤマトヒメ様はその場で膝をつかれ、裾を濡らされましたが、少しして、はたと私の方を見られたのです。その目は確かに、神たる私を捉えていたのです。
「……ヤマトタケル、あなたは本当に、とても良いヒメに出会えたのですね」
その言葉に、私はどれだけ救われたことでしょう。考えれば、ヤマトヒメ様は伊勢神宮の斎宮。神と交信する力をお持ちのお方。現し世にその身をおきながら神の存在を感じ取るなど、彼女にとって造作もないに違いありません。
その時、バサバサと再び白鳥が飛び上がる音が聞こえました。私も追って空へのぼります。私はこの国とヤマトタケル様が好きで良かったと思います。心の底から、そう思います。前を往く白鳥と、遠ざかっていく国へ、オトタチバナより愛を込めて。