私がヤマトタケル様に追いついたのは常陸国辺りでした。白い花が咲き誇っている野での再会でした。ヤマトタケル様は驚いたような呆れたようなお顔を浮かべられた後、にっこり笑って抱きしめて下さったのです。
私もヤマトタケル様も、胡服のあちこちをボロボロにしていましたが、元気に再会できたことを、二人でこれでもかと喜びあったのです。
そして、その時、私はヤマトタケル様に出会えたことで緊張の糸が切れお腹が俄然空いてしまったのです。近くの里に住むという二人の老人にヤマトタケル様が近くで何か捕れるものはないか、と尋ねますと「このあたりの野に群れる鹿の数と申したら大変なもの。ひとつ狩りをなさってはいかがか」と教えてくれました。するともう一人が「いやあ、このあたりは海のさちこそ豊か。漁をなさるといい」と負けずにおっしゃいました。
「……どうする?」「どうしましょう」
「ではとりくらべをしよう、オトタチバナ。我は野に狩りへ、そなたは海へ漁に出てくれ。どちらが沢山とれるか競おう!」
「望むところです!」
「フフ、そなた、ここにくるまでの旅路で強くなられたな」
「そうですか?」おてんばと、軽蔑されたのかと思い眉を下げる私にヤマトタケル様は笑って「そういうところが、また途方もなくうつくしいのだ」と仰られました。
とりくらべの結果はおそれながら私の勝ちでした。沢山の海の幸をヤマトタケル様と分け合い、お腹を満たしました。
その後は、近くの浜辺で丸い黒石を拾って遊び、船に乗って島々をめぐり、波のまになびく藻に見とれて過ごしました。私の人生の中で最も幸せな時間でした。
それから常陸国を出て歩きに歩き、私たちは相模国に入りました。国に入るなり、住民の蝦夷の長がヤマトタケル様に泣きついてきました。
「この相模野の中に大きな沼があり、その沼に恐ろしい神が住んでおります。お力をもちまして平らげていただけませんか」
「そうか。それは放っておけぬ。よし、任せなさい」
「ありがとうございます、ありがとうございます。問題の沼はこの先に……」
しかし私達がどれだけ歩こうとも、そのような沼はありませんでした。草が生い茂るばかり。
「ヤマトタケル様、もしや、私達ははかられ」
私がそう声を上げたときでした。前方、後方から激しい火の手が上がったのです。生い茂る草にあっという間に引火し、燃え広がりました。私達は火の檻の中です。
「かかったな、大和国の者共はまこと愚かなり!」
蝦夷は声を上げて勝ち誇ったように笑っていました。
「く……っ!危ない、オトタチバナ!!」
ヤマトタケル様は私を火の手から庇いながら、何か打開策は無いかと策を講じていらっしゃいました。そうだ!と顔をあげられ、ヤマトタケル様はヤマトヒメ様に貰ったという袋を開けられました。中には火打ち石が入っていたのです。私とヤマトタケル様はしめた!と顔を見合わせました。
「私がこれで迎え火をお打ちいたします!ヤマトタケル様はどうかその剣で、草を薙ぎ払って下さいませ!」
「分かった、そちらも頼んだぞ!」
「はい!」
みるみる内に火は蝦夷の方へひろがっていきました。焦る蝦夷にヤマトタケル様は斬撃をおやりになり、完全に鎮火した時には、その屍も骨を残すのみでした。
「流石ヤマトタケル様です」
「いや、これはそなたとこの剣、そしてこれを授けてくださった叔母上の先見に助けられたのだ」
「その剣も、ヤマトヒメ様から?」
「うむ。神代、スサノオノミコトが退治した八岐の大蛇の尾からあらわれアマテラスオオミカミに献上した天叢雲剣だとおっしゃった。だが、我にとっては神々がどうこうよりも、草を薙ぎいでくれた剣――草薙剣だ」