人気ミュージシャン・カルマのマネージャーになってだいぶ経つ。彼のプライベートは謎に包まれている。ミステリアスすぎるがゆえ、実は女遊びが激しいとか熱愛中の恋人がいるとか根も葉もない噂が立つことも多く、マネージャーとしては気が休まる日はない。
先日、カルマが新曲を出した。恋人の死を歌った悲しい内容の歌だ。その物語性は多くの人の胸を打ち、オリコン一位をとった。快挙を成し遂げ、歌番組に出演してきたカルマを車で家まで送っている。
しかし、変な時間の収録だったためか渋滞にはまってしまった。実は最近、カルマと地元が近いことを知った。カルマは私より少し年下で、出身高校も異なるため地元で会ったことはなかったが、親近感がわいた。
「来週、雪降るんですって。東京ってちょっとした雪ですぐ電車止まって嫌にならない?」
「最近電車使わないからなあ。でも、雪に慣れてない感じはあるよね」
北海道出身の我々からすれば、都民は雪に対して軟弱だ。カルマの新曲は冬を舞台としているが、熱狂している都民は正しく雪景色を想像できているのだろうか。しばらく天気の話をするが、渋滞は一向に解消されない。
地元の話をする気にはなれなかった。地元の短大を卒業してすぐ、そのまま地元で就職した。しかし、噂話やコネ社会が鬱陶しくなって就職二年目に退職して上京した。同期に幹部候補生がいた上に、身内を含め誰も彼もゴシップで盛り上がっていてうんざりしていた。要するに地元が嫌いだった。もう何年も地元には帰っていない。カルマも地元が好きではないのかもしれない。
話題は天気からカルマの新曲へと移行していく。私はお決まりの質問をした。
「今回の曲にはヒロインのモデルがいるの?」
インタビューでもよく聞かれている。「さあね」「内緒」「秘密」様々な言葉でいつもカルマは躱している。沈黙を埋めるための他愛のない会話だ。
「伊勢谷さんには話してもいいかな」
しかし、今日はいつもと様子が違った。ふうっとため息をついた。
「全部実話だよ。事実をそのまま歌にした。昔、恋人が殺されたんだ」
――愛する人を殺された
そのセンセーショナルな歌い出しが日本中で話題になった。続きの歌詞を頭の中で思い出しながら、彼の言葉に耳を傾ける。
「俺の恋人は、殺し屋に殺されたんだ」
車は一向に動かない。この閉ざされた場所でカルマはとつとつと昔のことを語りだした。
先日、カルマが新曲を出した。恋人の死を歌った悲しい内容の歌だ。その物語性は多くの人の胸を打ち、オリコン一位をとった。快挙を成し遂げ、歌番組に出演してきたカルマを車で家まで送っている。
しかし、変な時間の収録だったためか渋滞にはまってしまった。実は最近、カルマと地元が近いことを知った。カルマは私より少し年下で、出身高校も異なるため地元で会ったことはなかったが、親近感がわいた。
「来週、雪降るんですって。東京ってちょっとした雪ですぐ電車止まって嫌にならない?」
「最近電車使わないからなあ。でも、雪に慣れてない感じはあるよね」
北海道出身の我々からすれば、都民は雪に対して軟弱だ。カルマの新曲は冬を舞台としているが、熱狂している都民は正しく雪景色を想像できているのだろうか。しばらく天気の話をするが、渋滞は一向に解消されない。
地元の話をする気にはなれなかった。地元の短大を卒業してすぐ、そのまま地元で就職した。しかし、噂話やコネ社会が鬱陶しくなって就職二年目に退職して上京した。同期に幹部候補生がいた上に、身内を含め誰も彼もゴシップで盛り上がっていてうんざりしていた。要するに地元が嫌いだった。もう何年も地元には帰っていない。カルマも地元が好きではないのかもしれない。
話題は天気からカルマの新曲へと移行していく。私はお決まりの質問をした。
「今回の曲にはヒロインのモデルがいるの?」
インタビューでもよく聞かれている。「さあね」「内緒」「秘密」様々な言葉でいつもカルマは躱している。沈黙を埋めるための他愛のない会話だ。
「伊勢谷さんには話してもいいかな」
しかし、今日はいつもと様子が違った。ふうっとため息をついた。
「全部実話だよ。事実をそのまま歌にした。昔、恋人が殺されたんだ」
――愛する人を殺された
そのセンセーショナルな歌い出しが日本中で話題になった。続きの歌詞を頭の中で思い出しながら、彼の言葉に耳を傾ける。
「俺の恋人は、殺し屋に殺されたんだ」
車は一向に動かない。この閉ざされた場所でカルマはとつとつと昔のことを語りだした。