ブーンという音で目が覚める。



目を開ければ、真横に巨大な蚊が飛んでいた。



「チッ、アネキのやつ、また変な薬盛りやがった。」



値段がかなり落ちてきた『タイニュー』という薬。


最近アネキが自腹を叩いて買ったらしく、毎日のようにオレに薬を盛ってくる。



ったく、弟だからって舐めやがって。



これでも精神年齢の方はオレの方が年上だってのに。



どうやら弟のオレの方が身長が高いことに嫉妬したらしく、朝起きれば体が縮んでいる。



よく出来たもので、ついでに服も縮んでいる。



そんなのオレに言われてもなぁ。



オレたちを産んだのは親な訳だし?



そんなことを悶々と考えていると、身体がムズムズしてきた。



身体が元のサイズに戻る予兆だ。



人の体とは凄いもので、初めは身悶えしそうだったこの感覚も今ではなんてことない。



「おい、アネキ!また薬盛っただろ!」



「、、、、、、」



アネキの部屋って防音なのか?この声量でまだ寝ていられるとは、人間じゃないのかもしれない。



「おい!いい加減にしろ!入るぞ!」



この前発売された『お手軽!ピッキングキット(悪用しないでね)』を披露して、アネキの部屋に入る。



「起きろ!オレは最悪の目覚めだってのに自分だけ呑気に寝るなよっ!」



肩を揺さぶっても、起きる気配は無し。諦めてメシを食うことにする。



今日の朝メシは、っと。



耳の後ろをタップして今日のメニューを確認する。



「おー死神の肉団子スープとか鬼の焼き金棒とかが良さそうだな。確かアネキは魔女の白髪パイが好きだったよな。」



ったく、機械類はどんどん発展してるのに食に関しては退化してる気しかしねぇ。



昔は鳥肉とかピッグミートみたいなやつもあったらしいけど、最近はクソみたいな死神肉とかばっかだ。



鳥インフルエンザとかなんとかのせいでオレの人生台無しだ。



そんなことを考えていると、ガチャっというリビングのドアが開く音がしてアネキが入ってきた。


いや、違う。


アネキではない。



今日の朝メシ、頼む手間が減って助かったぜ。



明日からはもう、薬に悩まされる心配もねぇ。



「じゃーな、『アネキ』。」



そう言ってひと思いに『アネキ』を狩った。



今日の朝メシはいつもの何倍も美味い。



なんせ、あのアネキのダシが効いてるんだから。



「ん、上出来。」



そう言ってスープの具を食うオレの目にはしっかりと、アネキの目玉に刻まれた『死神』マークが映っていた。