【原文】

同じ心ならん人としめやかに物語して、をかしき事も、世のはかなき事も、うらなく言ひ慰なぐさまんこそうれしかるべきに、さる人あるまじければ、つゆ違たがはざらんと向ひゐたらんは、たゞひとりある心地やせん。

 たがひに言はんほどの事をば、「げに」と聞くかひあるものから、いさゝか違ふ所もあらん人こそ、「我はさやは思ふ」など争ひ憎み、「さるから、さぞ」ともうち語らはば、つれづれ慰まめと思へど、げには、少し、かこつ方も我と等しからざらん人は、大方おほかたのよしなし事言はんほどこそあらめ、まめやかの心の友には、はるかに隔へだたる所のありぬべきぞ、わびしきや。

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【現代版訳】

 ――放課後、自宅にて。

「……ただいまぁ」
「おかえり。あらリリカ。なんか元気ないわね。学校でなんかあった?」
「……アカネと喧嘩しちゃった」
「あら珍しい。どうして?」
「価値観の相違というか」
「……ずいぶん難しい言葉使うのね」
「あーぁ。こんなことならうんうんって適当に頷いてればよかったのかなぁ……」
「あら。そんな付き合い方じゃきっと、そのうち上辺だけの付き合いで疎遠になっちゃうわよ?」
「でも、本音でぶつかって喧嘩してたら元も子もないじゃん」
「そんなことないわよ。喧嘩してもあなたたち、なんだかんだすぐ仲直りしてるじゃない! 本音を言い合える友達がいるって、とても恵まれてることなのよ。一生かけたって出会えないことのほうが多いもの」
「……そうなの?」
「そうよ。ママにはそういう友達がいないから羨ましいわ」
「えっ、ママだって友達たくさんいるじゃん。ママ友会とかよく行ってるし」
「でもねぇ……本当のことを言うと、相手の顔色伺ったり、当たり障りのないことしか話してないのよ、お互いに」
「それは、どうして?」
「大人になればなるほど、人数が増えれば増えるほど、本音を言えば、ズレが生じるものだからね。争いを避けた付き合いをすればするほど、寂しくなるものなのよ」
「そっかぁ……」
「気の合う友達のことは、大切にしなさいね」
「……アカネに電話してくる!」

 ※本当に分かり合えるひとと出会える可能性はとても少ない。どれだけたくさんのひとに囲まれていても、うわべの付き合いではひとりぼっちのような気がしてくるものだ。