【原文】
人は、かたち、ありさまのすぐれたらんこそ、あらまほしかるべけれ。しなかたちこそ生れつきたらめ、心はなどか、賢きより賢きにも、移さば移らざらん。
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【現代版訳】
――教室にて。
「サクラってさ、ちょー可愛いよね」
「性格最悪だけどね」
「イワトさんってさ、めっちゃいい人だよね。宿題見せてくれるし」
「そだね。美人じゃないけどね」
サクラ→美少女だけど性格ブス
イワトさん→ブスだけど性格美人
モテるのは……。
「そういやサクラ、また新しい彼氏できたんだってね」
「「…………」」
「……やっぱ、外見って大事ってことだよね」
「それな」
「世知辛いなぁ……化けるしかないか」
「あのね、リリカ。化粧だって限度がある。今さら骨格は変えられないのよ!」
「じゃあどうすれば!! こうなったら整形……」
「心を磨け、心を! ブスが気にならないくらいに!」
「それはそれでちょっと複雑……」
――本鈴。
「次数学だ」
「だる〜」
※見た目より心を磨け。
【原文】
よろづにいみじくとも、色好まざらん男は、いとさうざうしく、玉の巵の底なき心地ぞすべき。
露霜にしほたれて、所さだめずまどひ歩き、親のいさめ、世のそしりをつつむに心のいとまなく、あふさきるさに思ひ乱れ、さるはひとり寢がちに、まどろむ夜なきこそをかしけれ。
さりとて、ひたすらたはれたる方にはあらで、女にたやすからず思はれんこそ、あらまほしかるべき業なれ。
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【現代版訳】
――放課後、マックにて。
「あたしの今カレさぁ、ちょータイプの顔なんだけど」
「うん」
「なんか、あたしのことぜんぜんキョーミないっぽいのよね? あたしから告ったから仕方ないのかもしれないけどさ……」
「ちなみにどういうときそう思うの?」
「これまでのデートぜんぶ私から誘ってるし、一緒にいるのに手も繋いできてくんないし。しかも会計は割り勘」
「やば。いくら好みの顔でもそれはムリだわ」
「でしょ? 別れようと思う」
※恋に重要なのは顔面よりときめきである。
【原文】
あだし野の露消ゆる時なく、鳥部山の煙立ちさらでのみ住み果つる習ひならば、いかに物の哀れもなからん。
世は定めなきこそいみじけれ。
命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。
かげろふの夕を待ち、夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし。
つくづくと一年を暮らす程だにも、こよなうのどけしや。飽かず、惜しと思はば、千年を過すとも、一夜の夢の心地こそせめ。
住みはてぬ世に、醜きすがたを待ちえて、何かはせん。命長ければ辱多し。
長くとも四十に足らぬほどにて死なんこそ、目安かるべけれ。
そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、人に出でまじらはん事を思ひ、夕の日に子孫を愛して、榮行く末を見んまでの命をあらまし、ひたすら世を貪る心のみ深く、物のあはれも知らずなりゆくなん、あさましき。
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【現代版訳】
――教室にて。
――ミーンミンミンミン(蝉の声)
「あー課題やってねー……」
「またぁ? 仕方ないなぁ。あたしの写す?」
「ダル〜。あ〜早く夏休みにならないかなぁ。……てか、さっきから蝉うざいんだけど。あいつらなんなん」
「……一週間の命よ。鳴かせてやれよ」
「いや、一週間じゃないでしょ。あいつらうじゃうじゃいすぎて一週間じゃ絶対静かにならないじゃん! いっそ絶滅してしまえ」
「こらこら」
――ミーンミンミンミン……(蝉の声)
「一週間かぁ……可哀想に。生まれてすぐ死亡じゃん」
「それな」
「そもそもうちらって蝉より長生きだけど、蝉ほど一生懸命生きてないよね」
「ほう?」
「見直したわ、蝉。あたしも蝉のように一生懸命生きるわ」
「はいはい。グダグダ言ってないで、早く写しなー。授業始まっちゃうよ」
「うげっ……昨日の課題ってこんなにあったの。そもそもなんで人間ってこんな勉強ばっかすんのかなぁ」
「働かないと食べていけないからでしょー」
「クソ……なんてことだ。人間、食べなくても生きていけたらいいのに! というか、働かなくてよくなれば勉強しなくて済むし、万事解決じゃない!?」
「蝉のいい話どこいったんだよ」
「やばい、あたし天才だ!」
「食べなくていいなら、たしかに働かなくてもいいけど……でも、そうしたらあんた、マジで生きてる価値ないクズだよ? 酸素返せって感じ」(←真顔)
「…………勉強します」
「よろしい」
――本鈴。
「次なんだっけ」
「数学〜」
※千年生きれば満足かって話。
【原文】
同じ心ならん人としめやかに物語して、をかしき事も、世のはかなき事も、うらなく言ひ慰なぐさまんこそうれしかるべきに、さる人あるまじければ、つゆ違たがはざらんと向ひゐたらんは、たゞひとりある心地やせん。
たがひに言はんほどの事をば、「げに」と聞くかひあるものから、いさゝか違ふ所もあらん人こそ、「我はさやは思ふ」など争ひ憎み、「さるから、さぞ」ともうち語らはば、つれづれ慰まめと思へど、げには、少し、かこつ方も我と等しからざらん人は、大方おほかたのよしなし事言はんほどこそあらめ、まめやかの心の友には、はるかに隔へだたる所のありぬべきぞ、わびしきや。
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【現代版訳】
――放課後、自宅にて。
「……ただいまぁ」
「おかえり。あらリリカ。なんか元気ないわね。学校でなんかあった?」
「……アカネと喧嘩しちゃった」
「あら珍しい。どうして?」
「価値観の相違というか」
「……ずいぶん難しい言葉使うのね」
「あーぁ。こんなことならうんうんって適当に頷いてればよかったのかなぁ……」
「あら。そんな付き合い方じゃきっと、そのうち上辺だけの付き合いで疎遠になっちゃうわよ?」
「でも、本音でぶつかって喧嘩してたら元も子もないじゃん」
「そんなことないわよ。喧嘩してもあなたたち、なんだかんだすぐ仲直りしてるじゃない! 本音を言い合える友達がいるって、とても恵まれてることなのよ。一生かけたって出会えないことのほうが多いもの」
「……そうなの?」
「そうよ。ママにはそういう友達がいないから羨ましいわ」
「えっ、ママだって友達たくさんいるじゃん。ママ友会とかよく行ってるし」
「でもねぇ……本当のことを言うと、相手の顔色伺ったり、当たり障りのないことしか話してないのよ、お互いに」
「それは、どうして?」
「大人になればなるほど、人数が増えれば増えるほど、本音を言えば、ズレが生じるものだからね。争いを避けた付き合いをすればするほど、寂しくなるものなのよ」
「そっかぁ……」
「気の合う友達のことは、大切にしなさいね」
「……アカネに電話してくる!」
※本当に分かり合えるひとと出会える可能性はとても少ない。どれだけたくさんのひとに囲まれていても、うわべの付き合いではひとりぼっちのような気がしてくるものだ。
【原文】
ほむる人そしる人、共に世にとどまらず
伝え聞かん人、又又すみやかに去るべし
誰おか恥じ、誰にか知られんことを願はん
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【現代版訳】
――教室にて。
「おやリリカ、どしたの」
「なんか私、最近隣のクラスの奴らに悪口言われてるみたい……」
「ふーん。でも、そんなことで落ち込むなんて珍しいじゃん。明るさだけが取り柄なのに」
「ひどい! あたしだって悪口言われたら落ち込むよ!!」
「うーん……でもさぁ、リリカはその子たちと仲良くしたいの?」
「え? いや、そういうわけじゃないけど……」
「ならべつに嫌われてもよくない?」
「まぁ……」
「そもそも卒業したら絶対会わないだろうし。仲良くしたい子たちじゃないなら、そんな子たちに好かれなくても、べつによくない?」
「……たしかに」
「まわりだって他人のことそんな気にしないよ! 変な噂流されたってすぐ落ち着くって。だから気にすんな」
「アカネ〜!! マジで好き」
「知ってる」
――本鈴。
「次って」
「リリカがきらいな数学」
「チィッ!」
※悪口を言われたら恥ずかしいし悔しいけれど、言ったひとも聞いたひともすぐに死ぬから気にしなくてよし。
【原文】
大事を思ひ立たん人は、去り難く、心にかゝらん事の本意を遂げずして、さながら捨つべきなり。「しばし。この事果てて」、「同じくは、かの事沙汰しおきて」、「しかしかの事、人の嘲りやあらん。行末難なくしたゝめまうけて」、「年来もあればこそあれ、その事待たん、程あらじ。物騒がしからぬやうに」など思はんには、え去らぬ事のみいとゞ重なりて、事の尽くる限りもなく、思ひ立つ日もあるべからず。おほやう、人を見るに、少し心あるきはは、皆、このあらましにてぞ一期は過ぐめる。
近き火などに逃ぐる人は、「しばし」とや言ふ。身を助けんとすれば、恥をも顧みず、財をも捨てて遁れ去るぞかし。命は人を待つものかは。無常の来る事は、水火の攻むるよりも速かに、遁れ難きものを、その時、老いたる親、いときなき子、君の恩、人の情、捨て難しとて捨てざらんや。
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【現代版訳】
――教室、授業中。
「草野、おまえまた宿題忘れたんだって!? 今週で何度目だ? ちゃんと反省してるのか!?」
「先生! 私は先生に言いたいことがあります!」
「なんだ?」
「昨日の夜、実はうちの家が火事になりまして」
「な、なんだって!? 大丈夫だったのか!?」
「身ひとつで家を出たので。でも、急いでたから部屋の中に私の大切なものや大切な宿題を置き去りにしたままで……」
「いや、宿題なんてどうだっていい! 草野が無事だったならそれでいいんだ! 頭ごなしに怒鳴って悪かったな」
「いえ、いいんです。でも私、燃え上がる炎の前では、宿題なんてどうだっていいんだって気付きました……。火の手は荷造りなんて待ってくれませんからね!」
「先生、騙されないでください。リリカの家うちの向かいですけど、火事になんてなってないし、コイツただ宿題やってこなかっただけですから」
「草野、あとで職員室に来い」
「…………チェッ」
※たとえばもし今、隣の家から突然火が出たら、どうしますか。
【原文】
寸陰惜しむ人なし。これ、よく知れるか、愚かなるか。愚かにして怠おこたる人のために言はば、一銭軽かろしと言へども、これを重ぬれば、貧しき人を富とめる人となす。されば、商人あの、一銭を惜しむ心、切せつなり。刹那覚えずといへども、これを運びて止まざれば、命を終ふる期ご、忽に至る。
されば、道人は、遠く日月にちぐわつをしむべからず。たゞ今の一念、空しく過ぐる事を惜をしむべし。もし、人来きたりて、我が命、明日は必ず失はるべしと告げ知らせたらんに、今日の暮るゝ間、何事をか頼たのみ、何事をか営まん。我等が生ける今日の日、何なんぞ、その時節に異ことならん。一日のうちに、飲食おんじき・便利・睡眠・言語・行歩、止む事を得え/ずして、多くの時を失うしなふ。その余りの暇幾ばくならぬうちに、無益むやくの事をなし、無益の事を言ひ、無益の事を思惟しゆいして時を移すのみならず、日を消し、月を亘わたりて、一生を送る、尤もつとも愚おろかなり。
謝霊運しやれいうんは、法華の筆受なりしかども、心、常に風雲の思を観くわんぜしかば恵遠ゑをん、百蓮の交まじりを許さざりき。暫くもこれなき時は、死人に同じ。光陰何のためにか惜しむとならば、内に思慮なく、外に世事なくして、止まん人は止み、修せん人は修せよとなり。
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【現代版訳】
――朝、教室にて。
「ねえねえ、もし明日死ぬとしたらどーする?」
「急になに?」
「急じゃないわ!! 明日死なない保証なんてない! そう気付いたのよ! 明日の朝事故に遭うかもしれないし、隕石落ちてくるかもしれないし!」
「そうだね……? じゃあリリカはなにするの?」
「とりあえず、今からテーマパークに行って、美味しいもの食べまくるよ!!」
「学校サボって?」
「そうだよ! 明日死ぬんだから勉強なんてする意味ないでしょ!?」
「……それが、今日の課題を忘れた言い訳?」
「ウン」
――本鈴。
「さて。勉強しましょ〜」
※もし今余命一日だと言われたら、あなたはなにをしますか。昨日と同じ行動ができますか。
【原文】
そのことに候。目くるめき、枝危うきほどは、おのれがおそれはんべればもうさず、あやまちは、やすき所になりて、必ず仕ることに候。
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【現代版訳】
――放課後、階段にて。
「まったく、山田(古典教諭)ってばほんと人使い荒い! こんな大っきい年表ふたつも持たせるなんて!」
「そうは言っても、このくらい教科委員に頼むのは当たり前のことでしょ〜」
「鬼!!」
――本鈴。
「あっ、チャイム鳴ったよ! ほら、リリカ授業始まっちゃう! 急いで!」
「待って待って!」
「あ、階段気を付けてよ」
「分かってる分かってる……ってわぁ!?」
「ほら、言わんこっちゃない!」
「もう一段あるなんて思わなかった〜! あぶね〜!!」
※気の緩みはこういうときに出てくるもの。みなさん、最後の一段気をつけて。
【原文】
雅房の大納言は、才賢く、よき人にて、大将にもなさばやと思しける比、院の近習なる人、「たゞ今、あさましき事を見み侍りつ」と申されければ、「何事ぞ」と問はせ給ひけるに、「雅房卿、鷹に飼はんとて、生きたる犬の足を斬きり侍りつるを、中墻の穴より見侍りつ」と申されけるに、うとましく、憎く思おぼしめして、日来ひごろの御気色も違たがひ、昇進もし給はざりけり。さばかりの人、鷹を持もたれたりけるは思はずなれど、犬の足は跡なき事なり。虚言は不便なれども、かゝる事を聞かせ給ひて、憎ませ給ひける君の御心は、いと尊たふとき事なり。
大方、生ける物を殺し、傷いため、闘たたかはしめて、遊び楽しまん人は、畜生残害の類なり。万の鳥獣、小さき虫までも、心をとめて有様を見るに、子を思ひ、親をなつかしくし、夫婦を伴ひ、嫉、怒り、欲多く、身を愛し、命を惜しめること、偏へに愚痴ぐちなる故ゆゑに、人よりもまさりて甚はなはだし。彼に苦しみを与へ、命を奪はん事、いかでかいたましからざらん。
すべて、一切の有情を見て、慈悲の心なからんは、人倫にあらず。
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【現代版訳】
――昼休み。
「最近、この辺で小学校のうさぎが殺される事件が起きてるんだって」
「えー最悪! うちうさぎ飼ってるからそういうの絶対許せないんだけど! 頭おかしいんじゃないの」
「間違いなくクズだね! 早く捕まりますよーに!」
※生き物の命を大切にしない者は、人間ではない。クズ。