昨夜は、陽菜とかなり長い時間を過ごした。約束の1週間が今日で終わりを迎えてしまう。

 1週間は、長いようで過ごしてみるとあっという間だった。

 それも、僕らは夜の間だけしか時間を共有できないからかもしれないが、それでも彼女と過ごす時間は1時間にも感じられなかった。

 体感では数十分ほど。

 今日で最後の仕事。基本的に陽菜と会っていない昼間は、死神としての職務を全うしている。

 先ほど、3カ月間担当として見守っていた10歳の女の子の最後を見届けてきた。

 正直、心地の良い仕事ではないが、僕らがいないと彼らは正しい道へと進むことができずに、この世に悪霊という形で残されてしまう。

 それだけは何としてでも避けなければならない。

 一度悪霊になってしまえば、自分自身をコントロールできなくなるほど、人間の暗い感情だけを抱えてしまう。

 嫉妬、憎悪、怒りといった感情に支配され、生きている者へ干渉してしまいかねない。

 例え、大切な人だろうと関係なく向けられる矛先は、自分でも制御することができないくらい残酷なのだ。

 皆にはそうはなってほしくはない。だから、僕自身この世を去った後、自ら死神という職務になろうと懇願した。

 もちろん、そのまま成仏して数年後に生まれ変わるのも良かったが、僕には一つだけ気になることがあった。

 それが、陽菜だった。彼女の現在を知るために僕は、死神となったのだ。

 不純な動機かもしれないが、後悔はしていない。

 今日消える命でも、僕は明日を生きる彼女の架け橋になれればそれでいい。

 「空を飛ぶのも今日で最後か・・・」

 初めは慣れなかった浮遊も、今ではすっかり馴染んでしまった。

 心残りがあるとするなら、この美しい日常の景色を目にすることができなくなってしまうこと。

 同じ景色でも日々違ったものに見える。光加減、天気、人の数。どれをとっても同じ日など存在しない。

 それに、自由に空を飛んで街を見下ろすことができる者などそうそういない。

 唯一の特権だった。

 「さてと、夜も更けてきたし、そろそろ行きますか」

 迷わず一直線に飛んでゆく。この1週間で何度も向かった場所。

 彼女と会う時以外にもこっそりと様子を見に行ったのは、彼女には内緒にしなくてはいけないが...

 月明かりが、街中を照らし夜の訪れを感じさせる。

 夜空に浮かぶ綺麗な満月が、川の水面に綺麗に反射して波に揺られていた。

 彼女も見ているだろうか、満点の星空の中心に存在感を露わにしているまん丸のお月様を。