今日もいつも通り夕方に起床するつもりだった。しかし、目が覚めたのは11時32分。

 1年ぶりに午前中に起きた。自室を出て、階段を降りる間にも家の中が明るいことに気がついてしまう。

 普段は、オレンジの夕陽が差し込んでいるのに、今は視界を晴らすほどの鮮明な光。

 階段を一段ずつ降りて、リビングへと続く扉に手をかける。

 「・・・お、おはよう」

 お昼ご飯の準備をしていたのだろうか。エプロンを腰に巻いた母が、私を見ている。

 その目には驚きが隠せていなかった。数回目をパチパチと瞬きさせ、しまいには頬をつねる始末。

 「ひ、陽菜?」

 「そうだよ」

 「ど、どうしたの・・・」

 「ちょっと目が覚めちゃって・・・お母さん、今までごめんね。心配かけてばかりいて、ほんとごめん」

 「謝ることなんて何一つないわよ」

 「でも・・・」

 「いいのよ。それにこうして、久しぶりに陽菜の顔を見たけれど、元気そうだしね。何かあったの? あなたを変えるような出来事が」

 「うん。あったよ」

 「そう・・・それは良かったわね」

 「お母さん。一つだけお願いがあるの」

 「ん?」

 「私さ・・・」

 フライパンの上で焼かれるベーコンの音でかき消される私の声。それでも、私の声は母には届いていたらしい。

 母の目から大粒の涙がこぼれ落ち、頬を綺麗に伝っていた。

 その姿を見て、私まで貰い泣きしてしまったのは言うまでもない。

 心の底を支配していた闇が浄化されたように、私の心は清らかで綺麗なものへと再び生まれ変わろうとしていた。