彼女は何を願ったのだろう。たった今、僕らの目の前で流れ星が空に浮かぶ星々を導くように流れていった。
隣にいる陽菜は、流れ星を目にしたというのにどこか悲しげな表情のまま。
もしかすると、僕が彼女についている嘘がバレてしまったのではないかと不安になる。
僕が彼女についた嘘。それは...
「あ、また流れ星だ」
「本当だ。僕ら運いいね。もしかしたら、何かいいことあるのかもしれないね」
決してそんなことはないのに、僕は希望を捨てきれない。
希望を捨ててしまった時こそ、人は腐ってしまうのだから。
彼女が、現在生きる希望を失っているように。
僕は、これから彼女の生きる希望を取り戻さなければならない。
だが、その前に真実を話すことが大前提。嘘はいつか必ずバレる。
遠くの大海原から押し寄せてくる海風が、彼女の髪を靡かせる。きっと、彼女には海の磯臭い香りが鼻を掠めているのだろう。
どんな匂いだったのかすら、忘れてしまった。磯臭い香りだったということだけは覚えているが...
僕には時間が残っていないことが、徐々に記憶と共に失われつつある。
辛うじて、彼女との思い出はぼんやりとは覚えているが、些細な出来事のほとんどはもう思い出せない。
きっとあと数日も経てば、陽菜と過ごした数年間の思い出も闇へと蝕まれていくだろう。
その前に僕は伝えなければならない。彼女が、これからも生き続けるための希望を...そして、僕を忘れないでほしいということを。
どうやって切り出せばいいのだろう。これから、彼女へ話すことは大きく裏切ってしまうことになる。
いい意味でも悪い意味でも、彼女を失望させることに間違いはない。
下唇に前歯をグッと押しつけるが、痛みが伝わらない。どんなに強く噛んでも血は出ない。
今だけは、痛みが欲しかった。痛みに頼りたくなるほど、彼女に事実を伝えるのが怖い。
気づかれないように、彼女の手を握るように手を添える。
フワッとした安心感に包まれ、僕は覚悟を決める。
力を入れていた前歯の力を抜き、真実を彼女へと伝えるために口を開く。
「陽菜」
「ん?」
こちらを見透かすような目で見つめる陽菜。スーッと深呼吸をし、心の乱れを取り戻そうと必死になる。
僕の緊張が伝染したのか、陽菜の顔色も曇り始めた。
うっすらとした厚みのない唇がきゅっと結ばれ、目が乾燥してしまいそうなくらい開ききっている。
誰が見ても不安そうな顔。そんな彼女に僕は...
「余命1週間なのは、陽菜じゃない。僕なんだ・・・」
僕の寿命が1日短くなる。あと数日で僕は彼女に何を残せるだろうか。
彼女がこれから1人で生きていけるように、もう一度陽の下を歩けるように。
「なんで・・・」
僕の耳に届いた声は、漣を打ち消してしまうくらい鮮明に聞こえた。
悲痛な思いが込められた痛く、苦しくなるような彼女の叫びだった。
隣にいる陽菜は、流れ星を目にしたというのにどこか悲しげな表情のまま。
もしかすると、僕が彼女についている嘘がバレてしまったのではないかと不安になる。
僕が彼女についた嘘。それは...
「あ、また流れ星だ」
「本当だ。僕ら運いいね。もしかしたら、何かいいことあるのかもしれないね」
決してそんなことはないのに、僕は希望を捨てきれない。
希望を捨ててしまった時こそ、人は腐ってしまうのだから。
彼女が、現在生きる希望を失っているように。
僕は、これから彼女の生きる希望を取り戻さなければならない。
だが、その前に真実を話すことが大前提。嘘はいつか必ずバレる。
遠くの大海原から押し寄せてくる海風が、彼女の髪を靡かせる。きっと、彼女には海の磯臭い香りが鼻を掠めているのだろう。
どんな匂いだったのかすら、忘れてしまった。磯臭い香りだったということだけは覚えているが...
僕には時間が残っていないことが、徐々に記憶と共に失われつつある。
辛うじて、彼女との思い出はぼんやりとは覚えているが、些細な出来事のほとんどはもう思い出せない。
きっとあと数日も経てば、陽菜と過ごした数年間の思い出も闇へと蝕まれていくだろう。
その前に僕は伝えなければならない。彼女が、これからも生き続けるための希望を...そして、僕を忘れないでほしいということを。
どうやって切り出せばいいのだろう。これから、彼女へ話すことは大きく裏切ってしまうことになる。
いい意味でも悪い意味でも、彼女を失望させることに間違いはない。
下唇に前歯をグッと押しつけるが、痛みが伝わらない。どんなに強く噛んでも血は出ない。
今だけは、痛みが欲しかった。痛みに頼りたくなるほど、彼女に事実を伝えるのが怖い。
気づかれないように、彼女の手を握るように手を添える。
フワッとした安心感に包まれ、僕は覚悟を決める。
力を入れていた前歯の力を抜き、真実を彼女へと伝えるために口を開く。
「陽菜」
「ん?」
こちらを見透かすような目で見つめる陽菜。スーッと深呼吸をし、心の乱れを取り戻そうと必死になる。
僕の緊張が伝染したのか、陽菜の顔色も曇り始めた。
うっすらとした厚みのない唇がきゅっと結ばれ、目が乾燥してしまいそうなくらい開ききっている。
誰が見ても不安そうな顔。そんな彼女に僕は...
「余命1週間なのは、陽菜じゃない。僕なんだ・・・」
僕の寿命が1日短くなる。あと数日で僕は彼女に何を残せるだろうか。
彼女がこれから1人で生きていけるように、もう一度陽の下を歩けるように。
「なんで・・・」
僕の耳に届いた声は、漣を打ち消してしまうくらい鮮明に聞こえた。
悲痛な思いが込められた痛く、苦しくなるような彼女の叫びだった。