「…私、みんなと違うんです。悪い意味で」
「みんなと、ちがう」
夕矢さんは、少しだけ驚いたようだったけれど、ちゃんと私が話すことを待ってくれていた。
「簡単に言うと、保健室登校なんです」
「…」
普段は人にこのことを言うと、なんで?どうして?と、向こうから理由を聞きたがるのに。
夕矢さんは、ただ私の言葉を受け止めてくれる。
「理由、なんだと思いますか?」
「えっ…言いづらいけど…」
さぁ、なんて言うかな?
「…いじめ、とか…」
「実は、そこまで行ってはないんだよな」
「そうなの?」
…いつか、夕矢さんに打ち明ける日が来るかもしれない。
「ただのトラウマだよ。いつになっても消えないトラウマ。…小学、5年生の時かな。そこから、いつも自分にフタ被せてます」
このトラウマを、夕矢さんに打ち明けたら。
どう思うのだろう。
「…だけど、中学生の時から、夜が私の心の支えになってた」
「だから、毎晩ベランダで夜を過ごしてるんだ」
夕矢さんは、そういうことか、という顔をした。
「そうです。…最近は、おとなりさんのせいで壊されつつありますけど」
「えっ!?やっぱり邪魔になってる?」
冗談です、大丈夫ですと笑うと、夕矢さんはほっとしたような表情になった。コロコロ変わる表情がおもしろい。
やっぱりこの人、おもしろいな。
夕矢さんと話していると、嫌なことを思い出してしまっても、すぐ浄化される。
自分でこらえた痛みを、少しも感じない。
「…僕、なんか少しだけ安心しちゃいました」
「え、安心?なんで?」
夕矢さんの顔は、優しく微笑んでいた。
「僕も、ちょっとトラウマ、というか、あまり思い出したくないことがあるから…。なんか、それで少しだけ、孤独感があったんです。だけど、僕より年下の学生さんでも、同じように悩んでて…。勝手に救われて、ちょっと気が楽になりました。藍詩さんの相談に乗れるほどの人間じゃないけど、僕もいつか、力になれればいいなって」
夕矢さんにも、トラウマがあるんだ。
なのに、私のことを見守ってくれている。
どうして、そんなに「優しい」を貫き通せるの?
私が、できなかったこと。
「…今でも、充分救われてます。私だって。…私も、いつか夕矢さんの話を聞いてあげられるような人になれたらいいです」
私はそう言った。
まだ私は、優しい笑顔が似合うような女の子にはなれないから、少しだけ微笑んでみせただけだけれど。