私と夕矢は毎晩話していて、変わらずにいる。
小さく前に進もうとしている私に向けられる夕矢の瞳は、最初からずっと優しいままだ。
こはるや原先生にも「最近どう?」と夕矢のことを訊かれる時があり、私の身の周りの人達はみんな夕矢のことを知っている。
ふと、進級式が始まる五分前のチャイムが鳴り、私は体育館へと走った。
「よかった、ま、間に合った…!」
「藍詩ちゃん、それ結構ギリギリじゃない…?」
こういった集会の時は、クラスのみんなが私に「なんでいるの?」と疑問を抱いて集中が途切れてしまうと悪いので、私はいつも体育館の奥の方に原先生と座っている。
先生の話している声はよく響いてくるので、しっかりと聞こえる。
私はそのいつもの定位置に座って、みんなの背中をざっと見た。
最近短くなってきた校長先生の話が、前までとは違い潔く終わったので、なんだかこちらもいい気分だった。
いよいよ新任式だ。どんな先生が来るだろうか。
今年は、なんとなく若そうな見た目の先生が三人、並んで立っていた。
一人目の挨拶はとても可愛い声の女の先生で、人気が出そうだな、と思った。
ただ、その次。
『みなさんはじめまして。一年C組の副担任になりました、三和夕矢です。教師となって初めての学校なので緊張していますが、少しでもみなさんの力になれるよう頑張ります。よろしくお願いします』
…ん?
…みわ、ゆうや?
そんなわけないだろう。だって、夕矢は教師諦めたって言ってたし。ないない。
マイク越しの声だけど、別に似てなかったし。身なりだってどこにでもいるような身なりだし。
そう自分に言い聞かせるけれど、それに反発するように野次が飛ぶ。
「え、イケメンじゃね?」
「声可愛いっていうか良いっていうかさ、声優?透き通ってんだけど」
「申し訳ないけどあの先生に習いたかった」
「一年羨ましぃー」
これは違う…でしょ。きっと。
そのことが頭にこびりついていたせいで、その後の話など聞いている余裕なんてなかった。
「はー終わった!新任式、今年すごいよかったっていうか、若い人いて嬉しかったな」
「…そうだ、ね…」
藍詩ちゃん何かあったの?と訊かれたので、あった、と返した。
保健室行って、原先生に言おう…。隣にいたのに、さっきは驚きすぎて言えなかったから…。
「原先生…」
ん?と短く返される。
「…おとなりさんが、いるかも…」
え?と言われたので、状況を説明する。
すると、原先生は首を傾げた。
「んー、小野さんの話聞いてる限りは、なさそうだけどなぁ。でも年齢的にあり得る事だから、別に私的には可能性はあると思う」
原先生に言われたら、絶対いる気がする。終わった。
「試しに、放課後一年C組覗きに行ってみれば?いなかったら職員室とか」
「うん…。うわぁ、やばい。もしいたらどうしよう…」
ただ挨拶すればいいんじゃん、と原先生は言うけれど、状況が理解できない。
そのまま時間は過ぎていき、もう下校時刻となってしまった。