私の時間は、あまりに余っている。

夜が好きになったのは。
夜更かしが得意になったのは。
夜型人間になったのは。
全て、あのせいだ。

「…最悪」
まさか、そんな言葉で一日が始まるとは。私もびっくりなんですけど。
重い瞼をがんばって上げると、そこには明るい世界が広がっていた。
なんでだろうか。今日は、あの日と瓜二つじゃないか。いや、それくらいあの日が、いつも通りの朝だったということか。
私が、みんなの世界と一つ違う所で生活するようになったのは、あの日からだ。
「おはよう、藍詩(あいし)。今日はやけに眠そうだけど、何があったの?」
「おはよ。…ちょっと、というか、最悪な夢を見た」
「さ、最悪って…」
お母さんは、大変ね、という顔で私を見た。私も、大変です、という顔をした。ダラダラとした沈黙が自然と流れた。
お母さんが、「よくわからないけどがんばって」と言って会社に行ったので、うん、と返しながら背中を見つめた。
適当にスマホから音楽を流し、なんとなく憂鬱感が薄れたかなと思う頃には、もう朝食を食べ終えていた。
カバンを持ち、身なりの最終確認をすると、きっちりキマったリボンに微笑んだ。
電車に揺られながらスマホをいじる。電車の中に、女子高生は私しかいない。大人達も、スマホに没頭してくれてるおかげで、誰も私のことなんか気にしないのだ。
保健室の戸を開けて、私の「学校」が始まった。
「おはようございます、(はら)先生」
「おはよう、小野(おの)さん」
原先生がすっきりとした顔でいるのに対し、私がどんよりとしているため、いつもの倍、原先生がまぶしい。
「憂鬱そうだねぇ、小野さん。目の下、クマできてるよ」
「最悪な夢見たんです」
「なんか、小野さんって結構そういうことあるよね。先生は、やっぱり夜更かしが良くないんだと思いますけど」
「そうじゃない。本当にそれだけは、違うから…」
でも、保健室の先生のいうことだから、やっぱりそうなのだろうか。でも、夜のせいじゃないはずだ。きっと。
「さっ、朝の準備して、早く勉強しなさい」
「はい…」
保健室登校が始まって、5年が経とうとしている。中一からで、今高二だから…と考えると、やはり早い。
原先生は会ってまだ二年だけだけれど、すごく話しやすくて優しい先生だ。26歳、若いし。
そして、時には私の教師にもなってくれる。私にとって、保健室は教室なのだ。
いくら学校が嫌だとはいえ、ちゃんと勉強しとかなきゃ、将来影響あるもんね。原先生がそう言った。