不思議だ。生きているときは、こんな些細な一言ですら気恥ずかしくて言えなかったのに、今ではポンポンと出てくる言葉の数々。
せめて一度くらい、生きている間に伝えておけばよかった。
言わなくてもわかってくれるだろうと、梨歩に甘えて伝える努力すらしていなかったんだ。
回りくどい方法で好意を伝えるのが美学だと思いこんでいたのかもしれない。結局それは怠慢でしかなかった。
「あ、そうだ。プレゼント、ありがとう」
梨歩は俺の描いた彼女の似顔絵を見せながら言った。
『ああ。無事に手元に届いたみたいでよかったよ』
気の利いた一言が思い浮かばなくて、いつも無難にやり過ごしてしまう俺の悪癖を梨歩はどこまで理解してくれているのだろう。
「あたし、こんなに綺麗だった?」
「綺麗だよ。すごく」
普段なら絶対に言わない台詞を簡単に言えてしまうのは……人間を卒業した者の特殊能力の一つだろうか。
「まったく……お見舞いの一言もないから、死んでるんじゃないかって思ってたら……」
それが普通の反応だよな。
『ごめん。本当に死んでしまって』
ついまともに返してしまう。
「冗談でも笑えないよ、それ」
梨歩は素直だ。一方の俺ときたら、冗談すら言える余裕もなくて。
『ごめん。さすがにシャレにもならないよな』
情けない。
まずい、さっきよりも体が透けてきた。
そろそろ限界か。
『梨歩、もう時間がないから手短に言うよ』
「え?」
本来ならありえない時間。会えること自体が奇跡なわけで、この先どんなに願ったところで叶うはずはない。
それが束の間の夢だったとしても、俺はもう後悔したくなかった。
『今を、生きろ』
俺は梨歩を見据えて言った。
梨歩には、生きていてほしい。俺の切なる願いは、すべてそこにあった。
『夢は必ず叶う。諦めない限り』
「涼ちゃん……」
『もうそばにいてやれないのは心残りだけど。俺はいつも、梨歩の夢のこと……応援してるから』
「あたしの、夢……」
『歌手になるんだろ?』
「……うん」
『なれるよ、梨歩なら』
俺は梨歩の髪に触れる。もう以前のように直接触れることはできない。その体温を感じることもできない。
残酷な現実を目の当たりにしながらも、幸せだと思える梨歩との時間。
「あたし……生きる」
『ああ』
「叶えたい夢があるんだもの。だから、あたしまだ……」
言いかけて、少し言い淀む彼女。梨歩が何て言おうとしたかはわかる。何故言い淀んだかも。
だからこそ、俺は伝えたい。
『俺の分まで、生きて』
今となっては、託すことしかできない。
短すぎた俺の生涯でも、梨歩のこれから先の未来の道標になれるなら本望だ。
『心のままに生き……て』
ああ、もうこれ以上は無理のようだ。俺の透き通った身体が徐々に消えていく。
「涼ちゃん!」
光の粒子を撒き散らすように、俺は消滅していく。
この意識すら、あと数秒で潰えるのだろうか。
もう少しだけ。
せめてこれだけは言わせてほしい。
『梨歩に出逢えて……良かっ……た……』
「涼ちゃん! 涼ちゃん!」
次第に遠ざかっていく梨歩の声。
もう二度と会えなくなると思うと……
自分の運命を呪いたくなる。
でも、それほどまでに夢中になれる恋をした。
梨歩に出逢えた。
それだけで俺は、色めいた幸せな夢の続きを描こうと思えるようになった。
梨歩。
君という夢を描いて生きた俺は、紛れもなく幸せだった。
特別だった。
ありがとう。
俺はもう消えてなくなるけど。
この先どうなるかなんてわからないけど。
忘れない。
忘れたくない。
忘れられたくない。
だから、贈るよ。
俺からの、最初で最後のエールを。
この世で一番美しい春の景色を見せてくれた君へ。
Especially for you――
せめて一度くらい、生きている間に伝えておけばよかった。
言わなくてもわかってくれるだろうと、梨歩に甘えて伝える努力すらしていなかったんだ。
回りくどい方法で好意を伝えるのが美学だと思いこんでいたのかもしれない。結局それは怠慢でしかなかった。
「あ、そうだ。プレゼント、ありがとう」
梨歩は俺の描いた彼女の似顔絵を見せながら言った。
『ああ。無事に手元に届いたみたいでよかったよ』
気の利いた一言が思い浮かばなくて、いつも無難にやり過ごしてしまう俺の悪癖を梨歩はどこまで理解してくれているのだろう。
「あたし、こんなに綺麗だった?」
「綺麗だよ。すごく」
普段なら絶対に言わない台詞を簡単に言えてしまうのは……人間を卒業した者の特殊能力の一つだろうか。
「まったく……お見舞いの一言もないから、死んでるんじゃないかって思ってたら……」
それが普通の反応だよな。
『ごめん。本当に死んでしまって』
ついまともに返してしまう。
「冗談でも笑えないよ、それ」
梨歩は素直だ。一方の俺ときたら、冗談すら言える余裕もなくて。
『ごめん。さすがにシャレにもならないよな』
情けない。
まずい、さっきよりも体が透けてきた。
そろそろ限界か。
『梨歩、もう時間がないから手短に言うよ』
「え?」
本来ならありえない時間。会えること自体が奇跡なわけで、この先どんなに願ったところで叶うはずはない。
それが束の間の夢だったとしても、俺はもう後悔したくなかった。
『今を、生きろ』
俺は梨歩を見据えて言った。
梨歩には、生きていてほしい。俺の切なる願いは、すべてそこにあった。
『夢は必ず叶う。諦めない限り』
「涼ちゃん……」
『もうそばにいてやれないのは心残りだけど。俺はいつも、梨歩の夢のこと……応援してるから』
「あたしの、夢……」
『歌手になるんだろ?』
「……うん」
『なれるよ、梨歩なら』
俺は梨歩の髪に触れる。もう以前のように直接触れることはできない。その体温を感じることもできない。
残酷な現実を目の当たりにしながらも、幸せだと思える梨歩との時間。
「あたし……生きる」
『ああ』
「叶えたい夢があるんだもの。だから、あたしまだ……」
言いかけて、少し言い淀む彼女。梨歩が何て言おうとしたかはわかる。何故言い淀んだかも。
だからこそ、俺は伝えたい。
『俺の分まで、生きて』
今となっては、託すことしかできない。
短すぎた俺の生涯でも、梨歩のこれから先の未来の道標になれるなら本望だ。
『心のままに生き……て』
ああ、もうこれ以上は無理のようだ。俺の透き通った身体が徐々に消えていく。
「涼ちゃん!」
光の粒子を撒き散らすように、俺は消滅していく。
この意識すら、あと数秒で潰えるのだろうか。
もう少しだけ。
せめてこれだけは言わせてほしい。
『梨歩に出逢えて……良かっ……た……』
「涼ちゃん! 涼ちゃん!」
次第に遠ざかっていく梨歩の声。
もう二度と会えなくなると思うと……
自分の運命を呪いたくなる。
でも、それほどまでに夢中になれる恋をした。
梨歩に出逢えた。
それだけで俺は、色めいた幸せな夢の続きを描こうと思えるようになった。
梨歩。
君という夢を描いて生きた俺は、紛れもなく幸せだった。
特別だった。
ありがとう。
俺はもう消えてなくなるけど。
この先どうなるかなんてわからないけど。
忘れない。
忘れたくない。
忘れられたくない。
だから、贈るよ。
俺からの、最初で最後のエールを。
この世で一番美しい春の景色を見せてくれた君へ。
Especially for you――



