君という夢を描いて

 森嶋、何だかんだでよく気にかけてくれていたな。
こういう面倒見の良さが、こいつの魅力なんだろうな。

「落ちついとれるか! お前がおらんようになったらあの子はどうなるねん! 初めて本気で好きになった子なんやろ? そんな大事な子をこれ以上に悲しませるようなことするんか! あの子を置いて死ねるんか!」

 もう、彼らの声しか聴こえない。涙声の、時折裏返った森嶋の声がやけに沁みる。


 俺だって、死にたくない。今すぐにでも、梨歩に会いに行きたい。這ってでも。


「……、……」

 身体のあちこちが痛い。吐きそうなくらいの痛みなのに、全く力が入らない。声すらも出せないなんて。


 これは、夢?


 どうか、夢であってほしい。


 でも、彼女と過ごした時間だけは……間違いなく現実だ。
失いたくない。

 たとえ時が遡ろうと。

 記憶が消え失せようと。

 その時間だけは、守り抜きたい。




 森嶋の言う通りだ。

 梨歩を置いて死ねるわけがない。


 でも、今回ばかりは、俺の意思ではどうにもできないんだ。



 悲しいのは、お前だけじゃない。



 俺だって悲しい。


 できれば死にたくない。


 死ぬような歳でもないからな。


 俺は早くに両親を亡くしたけど、父さんも母さんも、こんなふうに死んでいったのだろうか。



 命が終わる時は、双方が悲しみに暮れる。

 まさかこの歳で見送られる側になるとは思いもしなかったけど。


「心肺停止です!」

 ああ、急に周りが騒がしくなったな。

 ついに来たか。

 俺、もうこのまま死ぬんだな。

 まだ、死にたくないな……。





「涼平!!」

「柴ヤン!!」


 いろんな人の声が聞こえる。


 ごちゃまぜになっていて誰の声かはわからないが。


――涼ちゃん

 懐かしい声。



 ほんの一瞬だったが、梨歩の声が聞こえた。


 慌ただしく動く機械音や、姉貴と友人らの慟哭。その中でも梨歩の声だけが、何故か鮮明だった。


(梨歩……)

「午後8時7分――」

「嫌ああ! 涼平、涼平――!!」

「柴……ヤン……嘘やろ?」

「シバ……何で、何でお前が……」


 遠ざかる意識。



 走馬灯。



 もう何も感じない。



 あんなに痛くて仕方なかった身体中の痛みから解放された瞬間。



 俺は人生の終焉を迎えたのだと悟った。




(ついに、終わったんだな)