君という夢を描いて


☆
「へへ。悪りぃね、兄チャン」
「どうだか」
 梨歩と付き合うことになった直後に、こいつと出くわすなんて。ついてないな。

 しょうがないので、部屋に上げた。
「なあ、あの子誰やねん」
「見ての通りやわ」
「マジか。やるな、柴ヤン」
 冷やかしに来たのだろうか。まあ、想定内ではあるが。実際に来られると結構しんどい。
「いつから付き合(お)うとるん?」
「今日からやけど」
「ホンマか! できたてホヤホヤっちゅうことか! 今後が楽しみやなぁ」
「頼むからそっとしといてくれん?」
「ああ、もちろんそのつもりや」
「ならいいけど」
「もしな、その子が柴ヤンちにお泊りしに来ることがあったらいつでも相談乗るで」
「何の相談だよ」
「へへ、夜に決まっとるがな」
「は?」
「柴ヤンはサクラン坊ちゃんやろうから、交際初記念日にこれやるわ」
「何だよ」
「男のたしなみや。女の子は大事にせなあかんで」
ラブグッズを常に持ち歩くようなヤバいヤツ、と思っていたが、森嶋は意外と貞操観念がしっかりしているようだ。
「恥ずかしがることやないで。大事なことや。もし流れでそういうことになっても、雰囲気を壊さず女の子の身体もちゃんと守る。そのために欠かせんアイテムは常に常備する。これが色男の常識や」

 森嶋はモテる。一見チャラいが、好きになった相手には一途に尽くすし、実際に高校時代から付き合っている彼女がいる。地元の関西の看護大学に通っているらしく、遠距離恋愛ながらまめに連絡をしたり定期的に会いに行くなど真面目な一面もある。
「それはどうも」
「いいか、柴ヤン。縁あって付き合うことになったんや。どんな事があっても、彼女は泣かせたらあかん。守ったらな。今は男やからとか女やからっていう時代やないかもしれん。それでもな、男がやったほうがいいと思ったら、進んで引き受けるのが男や。引くことも大事や言う人いるけどな、今は引きすぎなやつが多いねん。引くのは断られてからや。そこははき違えたらあかん。大抵はやってほしくて待っとるもんやからな」
 やけに熱弁する森嶋。
「まあ、柴ヤンはどっちかって言うとリードされる側やな。主導権は彼女やろ。それに合わせるのが柴ヤン。そんな図式が浮かぶわ」

 鋭いな。そんなことまで見抜くとは、だてに恋愛していない経験者だからこその洞察か。
「俺は彼女が満足してくれればそれでいいから」
「そう来ると思ったわ。でもな、気をつけなあかんで」
「何を?」
「何でもかんでも相手任せはあかん。丸投げはダサいし、何より相手に失礼や。決めるところははっきり決めな。それも、ちゃんと相手の話も加味した上でな。自分の意見も交えて伝えなあかんで。コミュニケーション不足で別れるカップルホンマ多いからな」
「はあ、なるほど」
「で、今度いつ会うん?」
「さあ」
「次の約束もせんと帰ってきたんか?」
「だって、次いつ会えるかなんて約束できんし」
「アホか! とりあえず何か予定入れんねん。今度の土曜に映画行こかとか。無理ならじゃあ次はここでって。調整は後でいくらでもできんねんから、何でもいいんや。そのやりとりの積み重ねがコミュニケーションやねん。それを面倒がっとったら恋愛はできん」
「じゃあ、相手が面倒くさがりの場合は?」
「ワシはそういうのを面倒くさがる相手とは合わんから、そもそも付き合わん」
「ああ、そうかい」
 そんなこんなで夜通し続いた男同士の恋バナ。
「なあ、その子どこで出会(でお)うたん?」
「大学前のマスド」
「ああ、ほんでドーナツ食っとったんか。よし、今度連れてけや」
「だから何でそうなる」
「ダチならいっぺん挨拶せなあかんやろ」
「そっとしとくって言ったばかりやん」
「何言うとる。挨拶は別やがな。挨拶もせんアホがどこにおるか」

☆