君という夢を描いて

(梨歩に、何て言おう……)
 言えば心配かけるかもしれない。梨歩は持病があるし、あまりショッキングなことは言いたくない。それが原因で、梨歩の病が悪化してしまうかもと思うと、安易に切り出せずにいた。
 ほんの数日間の帰省のはずが、こんなことになるとは思いもしなかった。

 そうこうしているうちに、梨歩からLINEが。

〈お疲れ〜! 帰省生活楽しんでる?〉

 ああ、楽しんでいたよ。だとワケありみたいに聞こえるか。何て返そうか。
 とりあえず、〈楽しんでるよ。地元の連れと飲んでた〉と返す。

 その直後、梨歩から電話が。
「うわッ」

 まずい。しかもビデオ通話だ。
 とりあえず出よう。
〈あ、涼ちゃん。元気〜?〉
 相変わらず元気のいい声だ。
「ああ、まあ元気かな」
〈何それ、ホントに元気なの?〉
「え、元気そうに見えない?」
〈うん、見えなーい〉
「マジか」
〈あっははははは〉
「からかった?」
〈正解ー! 正解者には何もなし!〉
「何だそれ」
〈あっははははは。そうだ、あたし来月ストリートライブやるの〉
「え、そうなんや」
〈芹山の花見公園前でね。涼ちゃんも良かったら見に来てね〉
「あ、ああ。行けたら……いいな」
〈もう! そこは行けたらじゃなくて、行くって言わなきゃダメでしょ〉
「あ、ああ。ごめん、つい」
〈しょうがないな。じゃあ特別に一曲歌ってあげるよ〉
「え、今から?」
〈うん。えーっと、何から歌おうかな〉
「何からって……一曲じゃないの?」
〈ああ、それね。うん、一曲は一曲なんだけど。一曲とは限らないこともあるかな〉
「へえ。その場のノリみたいな?」
〈そうそう、そんな感じ!〉
「ほぉ」
〈あっははは! 誰かさんの口癖移ったみたいだわ〉
「え? 俺?」
〈俺以外にいなくない? ウケる! あっはははは!〉
「いや、探せば他にもいると思うけど」
〈あっははは! 悪いけど、あたしそんな暇じゃないんだわ。涼ちゃんだけで十分〉
「ああ、そうですか」
〈そうだよ、じゃあ歌うね〉
「あ……」
 俺の反応を待たずして、梨歩は歌い始めた。


〈晴れ渡る〜 空に〜 爽やかに香る〜 甘酸っぱい恋の〜 香りに似ている〜〉

 透き通った可愛らしい声は、地声のままの梨歩そのもので違和感なく聴き入る事ができた。どこか懐かしいフレーズだ。

〈汗ばむ日も〜 君さえいれば〜 年中無休のデオドラント〜〉

 え、まさか。

 この歌は……。


〈あなたと私の〜思い出の河川敷〜〉

 もうオチが想像ついてしまった。



〈WA・KI・SHU〜〉



 やっぱりそう来たか。

「脇シューかよ」
〈大正解〜! 正解者には、何もなし!〉
「ここまで期待通りのオチになると、これはこれで面白いけど。内輪向けやね、この歌」
〈そうだよ。涼ちゃんのために作ったんだから〉
「まさか、ストリートで歌わないよね?」
〈さあ? 涼ちゃんが来たら考えるわ〉
「いや、俺めっちゃ恥ずいやん」
〈そう? じゃあ歌おうかな?〉
「話聞いてた?」
〈うん〉
「絶対楽しんでるな」
〈楽しい方がいいじゃん。盛り上がるし〉
「脇シューで盛り上がるとは思えないけど」
〈だから、そこはセンスだって。あたしのセンス舐めんなさんな〉
 離れていても、こんなにも身近に感じるのは梨歩のおかげであることは間違いない。
〈じゃあ、そろそろ切るね〉
「ああ、おやすみ」
〈ありがとう。じゃあまたね〉
 梨歩との通話を終え、俺は可動式ベッドを倒す。
「はあ……」

 梨歩との会話は楽しい。ずっと話していたい。

 飽き知らず、とでも言えば伝わるだろうか。

 梨歩との何気ない会話は、終わりのない旋律のようだ。次から次へと新しいメロディーとなって、溢れんばかりに流れてくる。
 いつでも新鮮だけど、どこか懐かしくて。

 例えばもし、前世の記憶があるとするのなら、前世は家族や友達だったのだろうか。

 それとも、恋人?

 不確かなことは信じない主義だが、梨歩と出会ってからはその可能性も信じてもいいと思えた。自分が誰かと恋をするという世界線が見えず、それほどまでに俺の人生は“恋愛”とはほど遠いもので他人事以外の何物でもなかった。

 恋をすると、世界が変わる。

 んなアホな、と聞き流していた過去の俺。


 恋とはもっと神聖で崇高な感情だと思っていたけど、俺が気づかなかっただけで、意外と日常の中にそのチャンスは点在していたのかもしれない。