「お上品で綺麗な人なんだね〜」
「そうだね……って、俺のことそんな風に思ってたの?」
「あ、バレた?」
てへへと笑ってみせるも、ジト目で見ている。
女顔なの、気にしてるのかな。でも、そういう凪くんこそ人のこと言えないんだからね!
「まぁいいや。それより、ここにも何か描くの?」
「うん。でも、まだ何描くか決めてない」
次に彼が指を差したのは、曾祖母の隣の真っ白な部分。
このノートは市販の日記帳とは違い、枠を作ったり、行を多くしたりと、自分の思うままに作ることができる。
私の場合、毎回線を何本も引くのが面倒だったので、枠までは作らず。結果、絵を描く部分が多くなってしまった。
1つだけ描くほうが楽っちゃ楽。反面、手を抜くと目立ちやすい。
毎日何個もネタを考えるのは大変だけど、複数だとサイズも小さくなり、多少適当に描いても誤魔化せる。他の宿題もあるから、あまり時間をかけたくないんだ。
「……そういえば、まだ凪くんは描いてなかったよね」
過去の絵を振り返って、ふと気づいた。会うのは3回目なのに、下半分に記しただけで絵は描いていない。
意図を読み取った彼がゆっくりと顔を向ける。
「お願い! ざっくりでいいからスケッチさせて!」
ノートを持ったまま手を合わせた。
本当は写真を撮りたいけど、嫌がることはしたくないから。だからせめて、似顔絵だけでも……。
「いいよ」
「えっ」
懇願する私とは対照的なあっさりした返事が来て、思わず拍子抜けした。
「本当に? いいの?」
「うん。その代わり、2割増しでかっこよく描いてね」
「ありがとう!」
リュックサックからペンケースを出し、ノートの余白に鉛筆を走らせた。
ふふっ、描くのは上半身だけなのに、お行儀よく足を揃えてる。
「何笑ってるの」
「足揃えてるの、なんか可愛いなぁって」
「可愛い⁉ かっこよく描いてって言ったよね⁉」
「描いてる! 描いてるからじっとして!」
宥めるも、口がへの字に。
冗談のつもりが、こんなにムキになるなんて。さっきも睨まれたし、もしかしたらコンプレックス持ちなのかもしれない。
上品さはそのまま、凛々しさを足して描いた。
◇
1時間後。雲間から太陽が出てきたので、そろそろ戻ることに。
「わがまま言ってごめんね。かっこよく描いてくれてありがとう」
「ううん! こちらこそ、協力してくれてありがとう!」
横並びで海岸を歩く。
時刻は5時過ぎ。夕食の時間帯なのもあってか、誰もおらず、海岸には私達だけの声が響いている。
恋愛経験が乏しい私にとって、異性と2人きりってだけでドキドキが止まらない。
対する凪くんは……。
「にしても、すごく静かだよね。一緒にヤッホーって叫んでみる?」
「なっ……!」
いたずらっ子みたいな笑顔を向けられ、ボンッと顔の熱が上がる。
智とは違った嫌味のないからかい方。
慣れてるんだろうなぁ。初めて会った時から全然態度変わってないもん。2歳差だけど、人生経験は私の倍以上あったりして。
「ねぇ、ひいおばあちゃんいるって言ってたよね? いくつなの?」
「98。今年で99なんだって」
階段を登りながら答えた。
若くして母親になった曾祖母。今何歳なのか気になって祖父に尋ねたら、なんと100歳間近だった。
「お元気だね。俺のところにもひいじいちゃんがいてさ、92歳なんだよ。お祝いはするの?」
「ううん。もうしたからしないんだって」
その瞬間、真っ先に百寿が思い浮かんで。『お祝いしようよ!』と提案したのだけど、今年の頭に祝っちゃってたらしい。
高齢者が多い現代でも、百寿を迎える人はそうそういない。せっかくみんな集まってるし、祝ってあげたいな。
「92なら、近いのは卒寿祝いだっけ。凪くんはお祝いした?」
「ええー、どうだったっけ……」
参考にしようと他所の家のお祝い事情を尋ねたら、頭を捻り始めた。
眉間に深いシワが寄っている。遥か昔の話じゃないのに、そこまで顔しかめる?
「多分贈り物はしたと思うんだけど……」
「曖昧だなぁ。覚えてないの?」
「祝い事とかは大体親がやってたから。そもそも、ひいじいちゃんとは長い間会ってなかったからあまり記憶にないんだよ。年齢もこっちに来るまでは知らなかったし」
そう返されて、すんなり納得する。
関わりが少なかったのなら、そりゃ記憶に薄いか。私も今日まで年齢知らなかったし。
「でも、こないだ誕生日プレゼントはあげたよ」
「何あげたの?」
「バナナ。元はお土産として渡すつもりだったんだけど、誕生日を迎えてたって聞いて。その場でリボンの絵を描いて贈った」
「その場で⁉ すごいね!」
即席のプレゼントをあげたという凪くん。絵が得意な彼だからこそ作ることができた、オシャレなプレゼント。
バナナアートは難しそうだけど、絵を贈るのはいいかもしれない。
「まぁ、部屋を飾りつけるとかの大々的なことはしなくても、好きな食べ物を贈るとか、心がこもっていれば大丈夫だと思うよ」
向かい合わせになり、顔を合わせる。
お茶目さが消えた優しい笑顔。まるで私の心を読み取ったかのようだった。
「ありがとう。好きな物、探ってみる!」
「良かった。報告待ってるね」
「了解ですっ!」
右手を上げて敬礼ポーズ。明日も同じ時間に会う約束をして帰路に就いた。
「そうだね……って、俺のことそんな風に思ってたの?」
「あ、バレた?」
てへへと笑ってみせるも、ジト目で見ている。
女顔なの、気にしてるのかな。でも、そういう凪くんこそ人のこと言えないんだからね!
「まぁいいや。それより、ここにも何か描くの?」
「うん。でも、まだ何描くか決めてない」
次に彼が指を差したのは、曾祖母の隣の真っ白な部分。
このノートは市販の日記帳とは違い、枠を作ったり、行を多くしたりと、自分の思うままに作ることができる。
私の場合、毎回線を何本も引くのが面倒だったので、枠までは作らず。結果、絵を描く部分が多くなってしまった。
1つだけ描くほうが楽っちゃ楽。反面、手を抜くと目立ちやすい。
毎日何個もネタを考えるのは大変だけど、複数だとサイズも小さくなり、多少適当に描いても誤魔化せる。他の宿題もあるから、あまり時間をかけたくないんだ。
「……そういえば、まだ凪くんは描いてなかったよね」
過去の絵を振り返って、ふと気づいた。会うのは3回目なのに、下半分に記しただけで絵は描いていない。
意図を読み取った彼がゆっくりと顔を向ける。
「お願い! ざっくりでいいからスケッチさせて!」
ノートを持ったまま手を合わせた。
本当は写真を撮りたいけど、嫌がることはしたくないから。だからせめて、似顔絵だけでも……。
「いいよ」
「えっ」
懇願する私とは対照的なあっさりした返事が来て、思わず拍子抜けした。
「本当に? いいの?」
「うん。その代わり、2割増しでかっこよく描いてね」
「ありがとう!」
リュックサックからペンケースを出し、ノートの余白に鉛筆を走らせた。
ふふっ、描くのは上半身だけなのに、お行儀よく足を揃えてる。
「何笑ってるの」
「足揃えてるの、なんか可愛いなぁって」
「可愛い⁉ かっこよく描いてって言ったよね⁉」
「描いてる! 描いてるからじっとして!」
宥めるも、口がへの字に。
冗談のつもりが、こんなにムキになるなんて。さっきも睨まれたし、もしかしたらコンプレックス持ちなのかもしれない。
上品さはそのまま、凛々しさを足して描いた。
◇
1時間後。雲間から太陽が出てきたので、そろそろ戻ることに。
「わがまま言ってごめんね。かっこよく描いてくれてありがとう」
「ううん! こちらこそ、協力してくれてありがとう!」
横並びで海岸を歩く。
時刻は5時過ぎ。夕食の時間帯なのもあってか、誰もおらず、海岸には私達だけの声が響いている。
恋愛経験が乏しい私にとって、異性と2人きりってだけでドキドキが止まらない。
対する凪くんは……。
「にしても、すごく静かだよね。一緒にヤッホーって叫んでみる?」
「なっ……!」
いたずらっ子みたいな笑顔を向けられ、ボンッと顔の熱が上がる。
智とは違った嫌味のないからかい方。
慣れてるんだろうなぁ。初めて会った時から全然態度変わってないもん。2歳差だけど、人生経験は私の倍以上あったりして。
「ねぇ、ひいおばあちゃんいるって言ってたよね? いくつなの?」
「98。今年で99なんだって」
階段を登りながら答えた。
若くして母親になった曾祖母。今何歳なのか気になって祖父に尋ねたら、なんと100歳間近だった。
「お元気だね。俺のところにもひいじいちゃんがいてさ、92歳なんだよ。お祝いはするの?」
「ううん。もうしたからしないんだって」
その瞬間、真っ先に百寿が思い浮かんで。『お祝いしようよ!』と提案したのだけど、今年の頭に祝っちゃってたらしい。
高齢者が多い現代でも、百寿を迎える人はそうそういない。せっかくみんな集まってるし、祝ってあげたいな。
「92なら、近いのは卒寿祝いだっけ。凪くんはお祝いした?」
「ええー、どうだったっけ……」
参考にしようと他所の家のお祝い事情を尋ねたら、頭を捻り始めた。
眉間に深いシワが寄っている。遥か昔の話じゃないのに、そこまで顔しかめる?
「多分贈り物はしたと思うんだけど……」
「曖昧だなぁ。覚えてないの?」
「祝い事とかは大体親がやってたから。そもそも、ひいじいちゃんとは長い間会ってなかったからあまり記憶にないんだよ。年齢もこっちに来るまでは知らなかったし」
そう返されて、すんなり納得する。
関わりが少なかったのなら、そりゃ記憶に薄いか。私も今日まで年齢知らなかったし。
「でも、こないだ誕生日プレゼントはあげたよ」
「何あげたの?」
「バナナ。元はお土産として渡すつもりだったんだけど、誕生日を迎えてたって聞いて。その場でリボンの絵を描いて贈った」
「その場で⁉ すごいね!」
即席のプレゼントをあげたという凪くん。絵が得意な彼だからこそ作ることができた、オシャレなプレゼント。
バナナアートは難しそうだけど、絵を贈るのはいいかもしれない。
「まぁ、部屋を飾りつけるとかの大々的なことはしなくても、好きな食べ物を贈るとか、心がこもっていれば大丈夫だと思うよ」
向かい合わせになり、顔を合わせる。
お茶目さが消えた優しい笑顔。まるで私の心を読み取ったかのようだった。
「ありがとう。好きな物、探ってみる!」
「良かった。報告待ってるね」
「了解ですっ!」
右手を上げて敬礼ポーズ。明日も同じ時間に会う約束をして帰路に就いた。