それからは部屋を出られない生活が続いた。
外に出たくてもここには見張りがいる。
部屋の中には常に一人、時雨を監視する常駐者がいて、下手な行動を起こそうもんなら報告する勢いだ。突然連れて来られ、何もできないまま時間だけが過ぎていく生活に時雨は焦る一方。
(今頃…白夜様は無事だろうか)
会いたい。
だがその瞬間、あの日言われた言葉が蘇ってくる。
『君はもう要らなかったりして(笑)』
あの人が誰だったかは分からないけど、言われた言葉はダイレクトに胸に響いたまま。信じたくなんてない。仕事の関係で妖都に来ても白夜様が一緒にいてくれる時間はあまりにもないに等しく、心はいつも寂しかった。
徹夜さんと並んで部屋を出ていく後ろ姿。
だけど鬼頭家の花嫁として。
我儘を言って困らせる人間にはなりたくない。
当主である深夜の容態を知ってから、白夜も言わないだけでかなり負担がかかっている。それを察していた時雨にとって、今は自分の気持ちを優先させるより、落ち着くタイミングがちゃんと訪れるまでは機会を伺えと冷静に言い聞かせていた途中だったのだ。
「どちらに行かれるのですか?」
立ち上った時雨に監視役が声をかける。
ドア付近に立つこの男。
ここに来てからよく時雨の部屋で監視役を担うことが多い。
ガタイのいい大型長身、太い眉と無愛想な顔が特徴的な彼は、知らない人から見れば何処かの暴走族にいる親玉か⁈と勘違いしてしまうぐらいに威圧感があった。
「少し外の空気を吸いたいんです」
「なりません」
「でももうこの部屋に閉じ込められて三日です。そろそろ私も限界です」
「なりません。時雨お嬢様を外に出すことは主より固く禁じられています」
彼の言う主とは壱都さんを指すのだろうか。
確かに彼は自分を藤家の当主だと話していた。
それと同時に時雨を御神の子であると。
この家から出すことはできないと。
だがそれだけではあまりにも情報が足りなすぎる。
彼には悪いが、今は鬼頭家や白夜の方が心配で気が気でない。なんとか外に出て手がかりだけでもと思うも、厳重な監視を前にどうすることもできない。
「お願いです。私には帰らないといけない場所があるのです。彼が…白夜様が待ってるんです」
「なりません」
「っ、、」
それだけ言えば、彼は無愛想に口を閉じてしまう。
時雨と話す気はさらさらないようだ。
困った時雨は俯いて再度ソファーに腰かけた。
逃げられない。
そうして過ごしていればドアをノックする音が聞こえた。
「や、元気にしてるかい?」
「…壱都さん」
「来るのが遅れてすまないね。なかなか仕事が片付かなくてさ」
壱都が入室してくれば、監視役を担う彼が頭を下げた。
「ボス」
「荒丸、少し席を外してくれ」
「はい」
あれだけ時雨の声には耳を傾けなかった彼が壱都の一言ですんなり退室してしまう。それを見届け、部屋には壱都と時雨の二人だけとなってしまえば、壱都が目の前のソファーに同じく腰を下ろす。
「ここでの生活は慣れたかな?」
「いいえちっとも」
「はっはっは、素直だね。まあそうか、君を連れて来てから詳しい説明もなしにここに閉じ込めているし。君がそこまで怒るのも無理はない」
「お願いします、壱都さん。私には帰る場所があるんです。もうここに来て三日。その間、外にも出れず息が詰まる思いです」
ここでは一日に三回、決まった時間に食事が運ばれてくる。
着ていた服は誘拐された日に取り上げられ、用意された着物に着替えさせられてしまった。目が覚めた時、既に青龍も腕にはおらず、未だ何処に行ったか不明。嫌でも用意された規則正しい生活の中、屋敷にいる使用人は時雨を「お嬢様」と呼べば距離を置くような感覚に居心地が悪かった。
「それもそうだね。丁度いいや。実は君に会わせたい人がいてさ」
「会わせたい人?」
「僕の義父。時間が空いたら連れて来るよう頼まれているんだよ」
「それって…」
「美椿さんの実の父君。君のおじい様にあたる人だよ」
「!!」
私の、、、祖父。
そんな人が自分に会いたがっている。
時雨は少しばかり不安になるも壱都に言われるがまま部屋を出る。
大きな洋館の中、初めてあの部屋から出たのもあってかキョロキョロと辺りを見渡してしまう。壱都はクスリと笑えば、そんな時雨がちゃんと着いてきているか振り返ると確認した。今日の服装はあの時と同じ袴姿だ。
外に出たくてもここには見張りがいる。
部屋の中には常に一人、時雨を監視する常駐者がいて、下手な行動を起こそうもんなら報告する勢いだ。突然連れて来られ、何もできないまま時間だけが過ぎていく生活に時雨は焦る一方。
(今頃…白夜様は無事だろうか)
会いたい。
だがその瞬間、あの日言われた言葉が蘇ってくる。
『君はもう要らなかったりして(笑)』
あの人が誰だったかは分からないけど、言われた言葉はダイレクトに胸に響いたまま。信じたくなんてない。仕事の関係で妖都に来ても白夜様が一緒にいてくれる時間はあまりにもないに等しく、心はいつも寂しかった。
徹夜さんと並んで部屋を出ていく後ろ姿。
だけど鬼頭家の花嫁として。
我儘を言って困らせる人間にはなりたくない。
当主である深夜の容態を知ってから、白夜も言わないだけでかなり負担がかかっている。それを察していた時雨にとって、今は自分の気持ちを優先させるより、落ち着くタイミングがちゃんと訪れるまでは機会を伺えと冷静に言い聞かせていた途中だったのだ。
「どちらに行かれるのですか?」
立ち上った時雨に監視役が声をかける。
ドア付近に立つこの男。
ここに来てからよく時雨の部屋で監視役を担うことが多い。
ガタイのいい大型長身、太い眉と無愛想な顔が特徴的な彼は、知らない人から見れば何処かの暴走族にいる親玉か⁈と勘違いしてしまうぐらいに威圧感があった。
「少し外の空気を吸いたいんです」
「なりません」
「でももうこの部屋に閉じ込められて三日です。そろそろ私も限界です」
「なりません。時雨お嬢様を外に出すことは主より固く禁じられています」
彼の言う主とは壱都さんを指すのだろうか。
確かに彼は自分を藤家の当主だと話していた。
それと同時に時雨を御神の子であると。
この家から出すことはできないと。
だがそれだけではあまりにも情報が足りなすぎる。
彼には悪いが、今は鬼頭家や白夜の方が心配で気が気でない。なんとか外に出て手がかりだけでもと思うも、厳重な監視を前にどうすることもできない。
「お願いです。私には帰らないといけない場所があるのです。彼が…白夜様が待ってるんです」
「なりません」
「っ、、」
それだけ言えば、彼は無愛想に口を閉じてしまう。
時雨と話す気はさらさらないようだ。
困った時雨は俯いて再度ソファーに腰かけた。
逃げられない。
そうして過ごしていればドアをノックする音が聞こえた。
「や、元気にしてるかい?」
「…壱都さん」
「来るのが遅れてすまないね。なかなか仕事が片付かなくてさ」
壱都が入室してくれば、監視役を担う彼が頭を下げた。
「ボス」
「荒丸、少し席を外してくれ」
「はい」
あれだけ時雨の声には耳を傾けなかった彼が壱都の一言ですんなり退室してしまう。それを見届け、部屋には壱都と時雨の二人だけとなってしまえば、壱都が目の前のソファーに同じく腰を下ろす。
「ここでの生活は慣れたかな?」
「いいえちっとも」
「はっはっは、素直だね。まあそうか、君を連れて来てから詳しい説明もなしにここに閉じ込めているし。君がそこまで怒るのも無理はない」
「お願いします、壱都さん。私には帰る場所があるんです。もうここに来て三日。その間、外にも出れず息が詰まる思いです」
ここでは一日に三回、決まった時間に食事が運ばれてくる。
着ていた服は誘拐された日に取り上げられ、用意された着物に着替えさせられてしまった。目が覚めた時、既に青龍も腕にはおらず、未だ何処に行ったか不明。嫌でも用意された規則正しい生活の中、屋敷にいる使用人は時雨を「お嬢様」と呼べば距離を置くような感覚に居心地が悪かった。
「それもそうだね。丁度いいや。実は君に会わせたい人がいてさ」
「会わせたい人?」
「僕の義父。時間が空いたら連れて来るよう頼まれているんだよ」
「それって…」
「美椿さんの実の父君。君のおじい様にあたる人だよ」
「!!」
私の、、、祖父。
そんな人が自分に会いたがっている。
時雨は少しばかり不安になるも壱都に言われるがまま部屋を出る。
大きな洋館の中、初めてあの部屋から出たのもあってかキョロキョロと辺りを見渡してしまう。壱都はクスリと笑えば、そんな時雨がちゃんと着いてきているか振り返ると確認した。今日の服装はあの時と同じ袴姿だ。



