「そっか……」
「うん。槭は皆の持ってない優しさを持ってる。俺はそんな槭が……」

陽は続けず、深呼吸した。

「どうしたの?」
「いや、こっちの問題」

そう返す陽を待っていると体の向きを変えて、私達は向かい合わせになった。

「槭」

真剣な顔で、私の右手を握ってくる。
一気に右手に熱が集中するのが分かった。

「俺は……槭が好きなんだ」

動きを止めて陽を凝視する。
生きていた中で一番、大怪我をしたよりも、祖父母の愛犬が亡くなったよりも驚いた。

「え……?」

皆が好きだと言った陽の顔とはまた違う。

「嘘じゃない……恋愛的な意味で、槭が好きだ」

嘘でも、皆に抱いている"好き"とも違う。
陽の真剣な目は、言葉は真っすぐだと分かる。

鳥肌が立った。
こういった好意を向けられたことがなかったから。

「槭、俺と付き合ってほしい」
「っ……わ、私…………」
「無理に答えなくていいよ」

言葉に詰まる私を制して陽は笑った。

「今返事が欲しいわけじゃないから。ゆっくり考えてもらえればそれだけで嬉しい」

私の中にある嬉しさと小さな怯え。

陽に対する気持ちが何であるか、考えないよう努めていた。
今はっきりと自覚する。

私は……陽が好きなんだって。

陽は何度も私を支えてくれた。
今日、里緒奈と私を隣の席にするよう仕向けていたことも知っている。
日常でも連絡先を交換してからは私が家に帰ったことを毎日確認するついでに短い会話を交わしてくれている。
そのおかげもあって陽や家族以外とまともに話せない私は久しぶりに会った皆とも以前と同じくらい自然と話せた。
スマホをあまり見ない私には追いつけない流行の話をされたときも流れるように会話に入って助けてくれた。

何より、私が陽の体育祭で先輩に色んなことを真正面から言えたのは紛れもなく陽があそこにいてくれたからだった。
話を聞いて、先輩を刺激するかもしれない、状況を悪化させる言葉を言っていたのに止めなかった。
私のしたいようにさせてくれた。
今思えばあの時から私は陽に惹かれ始めていたのかもしれない。

他にも色んなところで陽の"見えにくい優しさ"が密かに私を支えてくれていた。

まだ器の底に淡く溜まっていたものがどんどん嵩を増して濃く見えてくる。

自分自身の気持ちに気がついたのはつい最近、冬休みに入る日。
あの時からはっきり理解していた。
幼馴染よりも強い気持ちを知らないはずがない。

それでも考えないようにしていたのは、そういう関係になった時、もしも関係が壊れた時、断った後。
陽とはどうなるのかを考えずにはいられなかったから。

現実はゲームみたいに戻れない。
「Yes」も「No」も言えるのは一度きり。

流暢に話せるようになっても一瞬で精神的な部分が治るわけじゃないんだ。
今躓いていることも邪魔にならないようにと自分を殺していた時も同じ。
関係を変えていくのも、先を想像して足が竦む癖も治らない。

「あ、の」

慣れていなくても好きだと言ってもらえるのは素直に嬉しい。
陽なら尚更だ。