一拍空けて陽の言いたいことが分かった。

私も幼馴染の一人。
なのに陽は今まで言った気持ちを全員に言わず、私に個別で話した。
他にも個別で話していたとしても同じことをわざわざ別で話す必要はない。
ということは陽は私にだけ話したとみていいだろう。

でも、なんで?
そこが頭の回転を早くしてもわからない。

「今から言うこと、槭を傷つけるかもしれない」

アルバムを見ているから陽の表情は分からない。
ただ、声で話すか話さないか悩んでいるのが伺えた。

「いいよ」

傷つくのが怖くない訳では無いけれど、陽の"傷つけるかもしれない"はいい意味で信用できない。
陽が私を傷つけたことなんてホントに数えられるくらいだろう。
だから、大丈夫だと思った。

「……俺、槭は皆と少し違うなって思ってる」

クラスアルバムのページを捲っていた手は止められた。

"ああ、やっぱり"と思った。
私は、皆の持つ優しさを受けてばかりだ。
陽にだってそれはわかるだろう。

「槭は皆とは違うけど、皆にないものを持ってるよ」
「え?」
「俺が思うに槭は……"見守る優しさ"かな。昔からズカズカいくというよりも一歩離れたところから皆を見ているっていうか。そんな槭を里緒奈達が引き寄せてたみたいな。今も変わらない。体育祭の時の先輩の件も強く責めるわけでもないし、先輩のこと気遣ってた」

陽はアルバムを閉じて、私を見る。

「信じらんない?」
「……だって、私そんな人じゃない」
「自分のことって意外とわからないだろ」

さっき、保育園のアルバムで陽が自分のことを可愛くないと言っていたのとまったく同じだ。
否定できない……。

「自分の思っているよりも周りから見られてるもんだよ」
「けど、周りから見た私が本当に本来の私であるか確かめる術はないんじゃないかな」

外から見た私が本当の私なのか。
それとも、偽った私がいいように捉えられているのか。
確かめようがない。

暗い考えを発すると陽は聞いた。

「槭は先輩の件、なんで許したんだ?」
「……生きていれば、それだけ多くの人と関わる。そんな中で人を傷つけてしまうことは一度はあるだろうから……その一度を糧にしてくれるようなら一瞬の苦しみを耐えただけの価値はあるかと思って」
「それだよ」

キョトンとしてしまう。
何が『それだよ』なのか全くわからない。

「自分に嫌なことしてきて、しかも、もうこの先関わらないかもしれない人間が生きる糧にするならって自分の味わった辛苦を無視して許すってそうできることじゃない。嘘ついてるにしては自分を犠牲にしすぎ。そんなことして誰のためになるんだよって感じだ」

言われてみればそうだ。
陽には昔から私を知られているからわざわざあの場であんなことしても意味を持たない。
二人の先輩に恩を売ったことでそれが返ってくる可能性も低い。
私にとって苦痛を耐えて、何の見返りもない状態じゃないか。
マイナスでしかない。

私はあの場で本当の私として彼女たちを許した。
そう考えるのが妥当な気がする。