「その他でも隣を歩いてないような感覚?がしてた。勉強も運動も人並み以上の努力をしてたのはそういうこともあってヤバいなって危機感を覚えたから始めた」

体育祭の日に陽の言っていた努力の始まりは私の抱く感覚と似たものだった。
皆と一緒の場所にいられないという似た感覚。

でも、決定的に違うことが一つある。
私は陽のようにどうにかしようと動けなかった。
動きたくなかった理由は有れど過去の私達を私まで置いていったら、いずれ消えていってしまう気がした。

「とにかく頑張って、気抜いても追い抜かれないぐらいには保っていようって。だけど、頑張って今に全力でいると何か凄く大きくて大切なものを置いていってる感じがした」

陽は保育園のアルバムの最後のページ、幼馴染全員での最後の集合写真を見ていた。

「いつだったか、何となくアルバムを開いてしっくりきた。俺が忘れかけていたのはこういう日々の思い出だって。その中でも保育園時代は大きい存在なんだ」

陽は保育園のアルバムを閉じて、次は小学校のクラスアルバムを手に取る。

「物心ついた頃からそばにいる幼馴染の皆が好きだ。いなくなるって話聞いてる度に悲しくなってた」
「陽が?」
「俺だって悲しむって。高雅がいなくなるときだって号泣したって言ったじゃん。涙もろいんだよ、俺」

クラスアルバムの写真の中でやけに幼い陽の泣き顔。
陽が言うには高雅が引っ越した年の担任教師が小学六年生でも担任になり、面白がって載せたとか。

あはは、と笑うけどその声に悲しみが混ざっているのは高雅がいなくなる瞬間を思い出してなのか、高雅が帰ってしまったからなのか。
つられて笑うこともできない。

「皆って駄目なことは駄目だって、凄いことは凄いって小さいことでもちゃんと言うじゃん。厳しくも、相手に刺さる言葉でも、自分と相手の関係が壊れる心配を無視して言ってくれる。それって相手を想ってないとできない。皆がお互いを想って言葉を発する。"想う優しさ"を持ってる」
「想う優しさ……」
「凄いと思ったって、駄目なことをしていたって大層なことじゃなければ別にわざわざ言う必要もない。それでも言葉をくれる。思ってなきゃそんな面倒なことする奴ほとんどいない」

皆がそんな優しさを持っている。
それぞれの個性を認めて想い合ってる。

「俺は頑張ってるときに無意識で皆の持つ優しさに支えられてきたんだと思う」

あったかい皆が大好きで、どこにも行ってほしくなかった。
皆に背中を預けていたかった。

でも、リオナの言葉があって皆にも近づかないほうがいいと思ったんだ。
縛りたくは、なかった。

「こんなことをなんで槭に話すと思う?」