皆へ向かって振っていた手が急に重く、部屋が一気に冷えていくみたいに思える。
まだ出ていったばかりなのに自我のあるはずのない空気ですら皆がいなくなったことを憂いているようだ。

「槭、何時くらいまでいる?」
「えっと、陽の話が終わったら帰る」
「わかった。てか、ちゃんと話せてんな。里緒奈のおかげ?」
「あ……」

思わず口を抑える。

言われるまで、本当に気がつかなかった。

確かに里緒奈の影響は大きい。
きっと彼女の気持ちを確認できて、皆との会話の楽しさもあって自然に喋れるようになったんだ。
話すこと自体恐れていたというのに言われるまで気がつかなかったということは、それだけ充実した時間だったんだろう。

「里緒奈に会って、皆と話してたら自然と」
「ふーん……」

何故か不貞腐れたような顔をする陽が可愛いなんて思うのは、陽に失礼かな。

「それで、話は?」

そう言う私を置いて陽は「ちょっと待ってて」と二階に上がっていき、アルバムを持って戻ってきた。

「なんでアルバム?」
「んー話に必要だから」

首を傾げる。
思い出話でもしたいのかな。

持ってきたのは保育園と小学校のアルバム。
勿論、私の家にも同じものがある。

陽は保育園のアルバムを開いた。
一ページ目には陽の生年月日と卒園式間近に一人ずつ撮った写真。
陽は相変わらずお日様みたいな笑顔だ。

「俺さ、ほんとたまに、二年に一回くらいの頻度でアルバム見返すんだけど自分がすごく幼く感じられるんだ。ほら、この行事食が出た時の写真なんて誰よりもうまそうに食べてる」
「確かに。可愛いね」
「可愛いのか?」

自分のことだと分からないんだろう。

私は"男の子の陽ですらこんなに可愛いのに私は可愛くないなぁ"って落ち込むこともあった。
周りからも『槭は背が高くて大人っぽいね』と言われていたし、可愛くなろうともしなかったな。