変わらず同じ事を淡々とするだけの毎日に不安だけが積もり続けていた。

一時、その不安を忘れさせてくれる物語はだんだん私の中で大きくなる。

図書館に行けない日。
物語に触れられない日。
私は凄く虚ろな人形のようだった。

こんな日が続くことは幸せだけれど、同じことばかりする日々じゃダメなんだ。

ちゃんと、しなきゃ……。

思うのに、私の手はまだ物語を手放さない。

縋ってしまう。
手を伸ばしてしまう。
現実を忘れられる世界へ。

逃げてるのはわかってる。

わかってるのに今日も私は図書館に、物語に触れに来てしまった。

「"世界の終わり"」

引き寄せられるように手に取った本のタイトルを読み上げる。

終わったら、楽だろうな。

私だけじゃなくて、皆いなくなる。
一番、物事の解決に等しい答えだと思った。

ちょうど読み終わった本を返却したところなので次はこの本を読もうと私の定位置へ座る。

当たり前だが、今日中に読みきることはできず貸し出しをお願いした。

ただ思ったよりも人が多く、特に貸し出し返却をする受付辺りは気を抜けば誰かとぶつかってしまうほど。

貸し出し手続きを終えて受付から入口方向は足を向ける。

「凄い人……」

誰にも聞こえない小さな声で呟くと、バランスを崩して倒れそうになった。
どうにか持ちこたえたものの人にはぶつかってしまう。

「す、すみません」
「いえ、こちらこそすみません。人が多いので気をつけて歩いてくださいね」

声は男性と言うよりも男の子と言うべきか。

だが、失礼とは思いながら顔を上げられずに詫びの言葉だけを口にした。

「はい。お気遣いありがとうございます」

感謝の言葉も添えてその場を去ろうとお辞儀をして方向転換をしようとする。

ぶつかってしまった男の子の声がやけに響いて聞こえた。

「……ねぇ」

右足を一歩踏み出した状態で固まる。

一瞬自分にかけられたものではないと思った。
名前を呼ぶわけでもなく『ねぇ』の呼びかける一言だけ。
自分に向けられていると思う方が不思議と感じる状況下。

私は後ろを振り向くことなく進もうと一歩踏み出した。
そこで自分に向けられていたと確信づける一言が発せられる。