寝ていたので立つと頭が重く感じてしまい、フラフラとリビングへ向かう。

「槭、卵粥でいい?」
「うん。少し味が濃いのがいい」

私用のコップに麦茶を注いでテーブルに置いてくれる。

「ネギ入れるからね」
「お母さん。私、もうネギ嫌いじゃないって。ピーマンだって嫌な顔しないで食べれるようになってるでしょ」
「未だに取り皿に分けなきゃ食べないのに」
「食べてるもん。お母さんが見てないだけ」

こうしていると中学生というより小学生に戻ったようで普段よりも子どもでいていいと、将来を深く考えることもなくいられる。

ただただ体を休めることに集中するだけでいい。
ずっと体も精神も楽だ。

「はい。好きみたいだからネギたっぷりにしておいた」
「嫌いではないけど好きでも無い、だよ。いただきます」

保育園児の頃、食に貪欲だった私は何も言わずにがっついてよく大人に怒られてたな。

特にお母さんやおばあちゃんは礼儀に少し厳しい

お皿は持って食べる。
箸、お皿はちゃんとした持ち方をする。
私やおばあちゃんの家は座卓なので座るときは正座か胡坐。
膝を立てるような座り方は禁止。

他にも色々と言われた。

全てが本当に正式なマナーなのかは知らないが、教えられたことは当たり前として無意識でも行えるくらいには身についている。

ネギのたっぷり入った卵粥は程良くしょっぱい。
トロっとしたご飯と卵、シャキシャキのネギの旨味が口に広がって失っていた食欲も戻ってきたと感じる。

「熱出した時の卵粥っていつもより美味しいよね」

「卵粥、美味しいよ」という意味を込めた遠回しの言い方をしてついでに同意を求める言い方を加え、何も考えていない風を装う。

私は美味しいと直球で言うために多少の勇気と覚悟を持たないと言えないのだ。

「卵はね、熱の時に摂った方がいい水分と免疫力高めてくれる必須アミノ酸が含まれてるんだよ。だから、熱出した時は卵粥用意するでしょ?」
「確かに。卵有能」

お母さんは物知りでもある。
栄養バランスと体調を踏まえて面倒くさいとは言いながらもよく考えながら料理を作ってくれている。

「食べ終わったらお皿はシンクに置いといて」
「ん」

短すぎる返事を聞き取ると洗濯物を干すため、ベランダへ出ていった。

背中を追いかけると空は青が薄くなり、地平線近くが淡い橙色が見えている。

その日はベッドで安静にしていた。
気付かぬうちに寝ていることもあり、何度も保育園での日々を夢に見た。